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(2)
翌朝から本格的に使用人としての仕事が始まった。
まずはテラスに置かれたテーブルと椅子を拭くところからだ。これは割と簡単で、使用人の仕事をしたことのない私でも問題無くこなすことが出来た。
近くで見ていたリッキー先輩からは少々拭き残しの注意が入ったけれど、それだけだった。
「じゃあ次は草むしりだな」
私の隣でリッキー先輩が腕まくりをした。
「リッキー先輩も草むしりの仕事をするのですか? 草むしりは新人の仕事なのですよね?」
「教育係としてお前が大事な花の苗を抜かないように監視しなきゃならねえけど、ただ監視してるだけじゃ俺の無駄遣いだろ」
俺の無駄遣い。すごい言葉だ。
しかしその通りではあると思う。体格の良いリッキー先輩の業務時間を新人の監視にだけ使うのは、あまりにももったいない。
「なるほど。それでリッキー先輩も草むしりをするのですね。本当は別の仕事があっただろうに、僕のためにお手数をおかけします」
「本当だよ。こんな時期に新人教育を任されるとは思わなかったぜ」
不満たらたらな様子を見せつつも、リッキー先輩はさっそく雑草を抜き始めた。
慌てて私も地面に屈んで雑草を抜き始める。確実に雑草であることを確認して、草を掴んで、引っ張る。
「あっ、違えよ! 根っこから抜かねえとすぐにまた伸びるだろ。俺の見本を見てなかったのかよ」
速攻でリッキー先輩からの注意が入った。
確かに私の抜いた雑草には根っこが付いていない。抜いたと言うよりも千切ったと言った方が適切かもしれない。
「リッキー先輩のように抜きたかったのですが、上手く出来なくて……」
「力任せに引っ張るから途中で千切れるんだ。そうじゃなくて、こうやって根元に近い部分を掴んで、根っこがついてくるようにまっすぐ引っ張る」
リッキー先輩が抜いた雑草は、綺麗に根っこから抜けていた。
「わあ、根っこがついてきました! すごいです!」
思わず拍手をすると、リッキー先輩はまんざらでもない様子だった。
「このくらい楽勝だっての。ほら、お前もやってみろよ」
「ええと、根元を掴んで、まっすぐ上に、根っこがついてくるように……あっ、出来ました!」
リッキー先輩に言われた注意事項を口にしながら雑草を抜くと、さっきとは違い、抜いた雑草には根っこがしっかりと付いてきた。
「上手いもんだ。やれば出来るじゃねえか!」
私の抜いた雑草を見たリッキー先輩が、土の付いた手で私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「あっ、ちょっと!? 土の付いた手で頭を触らないでくださいよ!?」
「細かいことを気にするなって。どうせこの後も草むしりで汚れるんだから。ほら、早く抜かねえと日が暮れるぞ」
「が、頑張ります」
私はまた次の雑草に手を伸ばすと、えいっとまっすぐ上に向かって引っこ抜いた。
しばらく草むしりを続けていると、一人の男が近付いてきた。手には大きなハサミを持っている。
昨日使用人のことは紹介してもらったけれど、その中にこの人はいなかったような気がする……自信は無いけれど。でも、たぶんいなかった。
「よっ、リッキー。こいつが例の新人か?」
男がリッキー先輩に気安い調子で話しかけた。使用人ではないものの、この人は不審者ではなくこの屋敷で雇われている人なのだろう。
「初めまして。僕はジェフと申します」
この屋敷で働いている全員が私よりも先輩だ。そのため促されるよりも先に立ち上がって頭を下げた。
「礼儀正しいなあ。だけど俺はただの庭師だから、気を張らなくてもいいぜ」
「庭師さん?」
庭師と名乗った男は、持っているハサミを自慢げに顔の前に掲げた。
「俺は庭師のフレッド。植物のことなら俺にお任せ!」
「よろしくお願いします」
「同じ庭で働く者同士、仲良くしようぜ」
そう言って歯を見せながら笑ったフレッドさんは、笑顔のまま私に尋ねた。
「ところでリッキーはどうだ? 優しく指導してもらえてるか?」
「えっと、優しく……」
「優しいだろ!?」
私が答える前にリッキー先輩が怒鳴った。
そんな風に私の答えを遮らなくても、優しく指導してもらっている、と言おうと思っていたのに。
「優しいよな!? なあ!?」
「は、はい。優しく指導をして頂いています」
私が慌ててそう言うと、フレッドさんが豪快に笑った。
「あっははは。仲良くやってるようで何よりだ」
「今の、仲が良いように見えましたか……?」
「おい、ジェフ!」
私たちのやりとりを見たフレッドさんは、より楽しそうに笑いながら、リッキー先輩の背中を叩いた。
「リッキーは弟がいるからか、ものすごく面倒見が良いんだ。乱雑な性格のせいで誤解されやすいけど、困ったことがあったら彼を頼りなよ」
「フレッド、お前なあ。そうやって俺に面倒ごとを押し付けるのはやめろよな!?」
「面倒ごと……」
確かに新人教育は面倒ごとかもしれない。私が来なければリッキー先輩は自分の仕事をこなすだけで良かったのに、今はこうして私と一緒に新人がやる草むしりを行なう羽目になっている。
だんだん申し訳ない気持ちになってきた。
「あーあ。新人教育を面倒ごととか言うから、新人が落ち込んじゃってるぞ」
「フレッドが言わせたんだろ!?」
フレッドさんは私の元へとやって来ると、リッキー先輩に聞こえないようにこっそり耳打ちをした。
「気にするなよ。リッキーは新人教育っていう面倒ごとが大好きだからな」
リッキー先輩を見ると、私を落ち込ませた責任を感じているのか、そわそわとしている。
新人を落ち込ませたなんて、そんなことをいちいち気にする必要は無いのに。
大柄な割に細かいことを気にするリッキー先輩を見て、思わず吹き出してしまった。
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