●10
自室に戻ると同時に、リッキー先輩が興味津々な様子で私に詰め寄ってきた。
「ルーカス様からの呼び出しは何だったんだ!? 叱られたのか!?」
リッキー先輩に待ってくれと合図を出しながら部屋のドアを閉め、ベッドに座る。
「特に叱られはしなかったですよ。雑談をしただけです」
「なーんだ。心配して損した」
私の返事を聞いたリッキー先輩は、一気に身体中の力を抜いてベッドに倒れ込んだ。
「心配をしてくれていたのですか?」
「そりゃあな。新入りが粗相をしたら教育係の俺も叱られるからな。監督不行き届きだって」
ベッドの上で転がりながらリッキー先輩が言った。体格の良いリッキー先輩は、少し転がっただけですぐにベッドから落ちそうになっている。
「そういうことですか。大丈夫です、リッキー先輩が怒られるようなことは何も無かったので」
他の使用人にエマに注意しろと言われたことをルーカス様に勘付かれてしまったけれど、具体的にリッキー先輩の名前を出したわけではないから問題は無いだろう。
新入りの私が接するのはほとんど教育係のリッキー先輩だけだから、忠告をしてくると思われる人物もリッキー先輩だけだけれど、まあ問題は無いだろう。
「急に雇われたのも変だと思ってたんだが、お前はルーカス様と親しいのか? ルーカス様の知り合いって話だったが」
リッキー先輩が目を瞑って眠る体勢になりながら質問をしてきた。
私も会話をしながら寝支度をする。
「僕自身は親しくありません。会ったのもこれが初めてです。ただ共通の知り合いがいるだけです」
「共通の知り合いって誰だ?」
「ジゼル・オルコットという令嬢です」
「ジゼル…………エマお嬢様の文通相手か」
リッキー先輩は数秒考えた後、該当の人物に辿り着いたらしい。
「ジゼルのことを知っているのですか?」
「この屋敷じゃ有名だからな。ジゼル嬢からの手紙が届いた日はエマお嬢様の機嫌が良いんだ。毎日手紙が届けばいいのにってよく侍女がぼやいてるぞ」
ふと視線を感じて振り返ると、リッキー先輩がいつの間にか目を開けて、私のことをじっと眺めていた。
「なるほどな。ジゼル嬢の知り合いか」
「どうかしたのですか?」
「ジゼル嬢の知り合いだからお前はすぐに雇われたのか、って思っただけだ。ルーカス様はエマお嬢様に甘いからな。納得した」
「リッキー先輩から見ても、やっぱりルーカス様はエマお嬢様に甘いのですか?」
「激甘も激甘だ。ルーカス様的にはエマお嬢様のワガママを叱ってるつもりらしいが、あんなのは叱ったうちに入らねえよ。羽で肌を撫でるような叱り方だ」
一体どれだけ優しい叱り方なのだろう。そんな風に言われると見たくなってくる。
「よし、お前が急に雇われた謎も解けたところで、俺は寝るぞ。お前も早く寝ろよ。使用人の朝は早いからな」
「おやすみなさい」
リッキー先輩に習って私ももう眠ることにした。
疲れが溜まっていたからか、初めて使う固いベッドだというのに、私は泥のように眠ってしまった。




