~36.コマンドなんて最後的に「たたかう」しか選べないんだよねぇ…~
お待たせいたしました。
今回は真剣な部分しかなかったのが辛かったです(苦笑)
次回はチートクラスに主人公には動いてもらう予定です
8/2追記
大変お待たせいたしました。
8/3 21:00に次話を投稿いたします。
まず俺の元へたどり着いたのは狼達だ。
俺の周りを素早くとり囲み、うなり声を上げて睨みつけている。
なるほど。相手の逃げ道を奪い、一斉に攻撃を仕掛けるつもりか。
集団で狩りをするのに長けている種族だ、ここまでの動きに隙が無い。
俺は狼達を警戒しながら周囲の様子を窺った。
狼達を除いたフィジレスは一歩引いた距離から俺を見ている。
どうやら俺の能力を見極めるつもりらしい。
…しかしこの動き、レフィストの指示だろうな。
先程とは違い、真剣な顔をしてこちらを見ている。
こっちの動きを見逃さないつもりだ…うかつにこっちの手の内を見せられないな。
そんなことを考えているうちに、狼達との距離が狭まっていた。
向こうは準備万端のようだ。
「とにかく切り抜けないとな。」
俺はそうぼやくと、ゆっくりと剣を抜いてゆっくりと構えた。
すると俺を警戒するように狼達が2,3歩後ずさりをした。
それもほんの一瞬。数匹の狼達は意を決したように四方から飛び掛かってきた。
俺は狼達と交錯する寸前で勢いよく上へ飛び上がった。
狼達からしたら急に対象が消えたように見えたのだろう。
慌てて牙や爪を引っ込めて俺が居た場所へと着地した。
俺は数メートル後方へ着地するとわざとらしく剣で床を数回叩いた。
その音に反応した狼達は再び俺に標準を合わせて駆け出した。
…が、数歩したところで足が止まると狼達は次々に倒れはじめた。
「なんだと!」
レフィストは信じられないといった様子で声をあげだ。
「いつの間にか魔技を使ったのか?いや、そんな素振りはなかった…」
どうやら狼達が倒れた理由を考えているらしく、一瞬俺から目を逸らした。
俺はその隙に床を蹴り一気にレフィストとの距離を詰めようと構えた。
しかしその直後、俺の目の前はいくつもの火球で埋め尽くされていた。
急遽飛び方向を上に変えて避け、俺に向かってきた火球は全て斬り伏せた。
結局伯爵との距離はほとんど詰められないまま地面に着地する羽目となってしまった。
「想像以上の速さだ…予備動作もないとは驚愕する。なるほどインヴァースたちを倒せたわけだ。」
鋭い眼光を俺に向けながらレフィストはそっとつぶやいた。
…厳密には倒してはいないんだがな。
俺は心の中でツッコミしながら内心では冷や汗をかいていた。
先程の攻撃と今のレフィストの発言から考えるに…この状況は非常にマズい。
というのも今の攻撃はレフィストが考えている隙をついたはずだ。
伯爵が言う通りレフィストが都市部のフィジレスを操っているのならば普通レフィストが認知してから各フィジレスに指示をして攻撃をしてくるはずだ。
今は考えていて見ていなかったから俺の攻撃に気づき迎撃が遅くなるはず…それこそ一度レフィストと衝突してもおかしくない。
だが、今の攻撃は明らかに俺の攻撃を予測して火球を放った。
それを意味するところは…レフィストはフィジレスの行動だけでなく視覚を共有しているということだ。
これだけフィジレスの眼があると隙なんてつけるはずが無い。
だとすると、レフィストを破壊…はおろか攻撃するにはフィジレスを倒すしかない。
…でも、獣に魔道士に竜を同時に相手にするなんてぶっちゃけやってられない、というか戦いたくない。
もしコマンドに「逃げる」があったら間違いなく押す。絶対、押す!
まあどうせ押したとしても逃げられない、かまわりこまれるだろう…よく考えたらすでにまわりこまれていたな。
「ならばその自慢の速度を奪わせてもらおうか。」
俺が考え事をしているとレフィストが不気味な笑みを浮かべながら指を鳴らした。
その瞬間、俺の周囲の空気がなにか暗く歪んだものへと変化しているのを感じた。
…この空気は以前に感じたことがある。
「ふふふ。この『回帰領域』の中ではそう動けないだろう?」
顔をしかめている俺をみて嬉しかったのか挑発してきた。
「…これは魔技か。」
「そうだ。『回帰領域』は周囲の魔技…いや源炉を全て始源に戻す魔技。この宝石を媒介にすることで発動することができるのだ。」
「…魔技を失われては勝ち目はほとんどないな。」
「そうだ。魔技が使えない人間どもに勝ち目はない。」
そう話すレフィストの顔は確信に満ちている。
まあそうだろう、あんな凶悪な魔技が自分の意思で発動できる。
少なくともレフィストの影響下にあるフィジレスは全員使える。
これだけの人数で発動すればどんなに強い魔技…おそらく流星もやがて全て始源に戻されて不発に終わるだろう。
接近戦ではそもそも動けなくなる…反則的な魔技だなこれ。
(今レフィストを倒さないとまずい!)
俺は剣を再び構え戦闘態勢に入ったがそれを予知していたのか、すでに俺に向かって火球が放たれていた。
これは避けきれないと判断した俺はその場から動かずに、連続で斬撃を放ち全てを切り捨てる。
だがそれも想定していたのだろう。今度は剣撃の合間を縫って肉食獣が襲い掛かってきていた。
「くっ!」
今度は全ての敵を斬ることはできず、攻撃を受け流すのが精一杯だった。その際何度かきわどい攻撃もあり、俺の服の一部は切り裂かれてしまった。
やはりこの量に加えて統率が取れているのはかなり厄介だ。今の状態だったら間違いなくやられる。
俺は流れる汗をぬぐう余裕がなく、頬をつたっていた。
「トウヤ、貴様は一対一の勝負では強い。がさすがにこの数相手では無理だろう?」
すでにレフィストは勝利を確信したのか玉座にゆったりと座り、こちらを見下ろしている。
「たしかに…このままだとまずいな。」
一歩も動けない状況でこの量を相手にするのはまず無理だ。
しかもその後ろには竜などの大型のフィジレスが控えている。
これはすごいな…生きて現実世界に戻れるのかな?
「しかし…この回帰領域の中であれほどの動きができるとは素晴らしい。どうだろう、我と契約して世界の破壊者にならないか?」
「…レフィスト、ひとつ聞きたい。」
「なんだ?」
「なんでお前達はこの世界を支配しようとしているんだ?」
「この世界を破壊するためだ。ほかに理由はない。」
「破壊する…?支配しようとか征服するとかないのか?」
「ない。破壊することだけが我らの全て。」
「そんな、おかしいだろう!破壊することが全てだなんて…」
「おかしい?そんなこと考えたこともない。考えようとも思わない。」
「思わない…?」
「この知能はより多くを破壊するために。この身体はより破壊を効率よくするために。この心はより破壊を邁進するために存在している。他のものは不必要だ。」
「……。」
「だから我らは破壊する。人、建物、大地、空…そして我ら自身。この世界全てを消滅させるまで我らは破壊し続ける。そのために我らは生まれた。」
そう語るレフィストの眼は揺らぐことはなく、今話した内容が真実であることを物語っていた。
彼らは生まれながらに全てを破壊することを義務付けられ、破壊の限りを尽くす。
…そして最期は自らをも破壊しなければならない。
そこには満足とか達成感とかの感情も一切ない。そもそもそのことに疑問すら思わない。
いや、思えないんだ…そうプログラムされているかのように。
なんとかならないのだろうか?
そう問いただすが答えは無常なものしか出てこない。
…俺に出来ることはたった一つしかないようだ。
「…すまない。」
「すまない…だと?なぜ謝る?」
「レフィスト、お前には考える知能がある。時間があれば破壊しかできないという呪縛から救える手立てがあったかもしれない。」
俺は震える手を抑えるため剣を強く握り締めた。
「だが今の俺にはお前達を破壊することしか出来ない。ずっと恨んでくれて構わない。」
「破壊する?この状況でそんな大口が叩くとは身の程知らずにも程がある。」
俺の言葉にレフィストは怒りに身を震わせている。
「もういい。交渉は決裂だ…お前を倒しその身体だけ使わせてもらう。」
そう告げると同時に一斉にフィジレスが俺に向けて走り出す。
あるものは火球、あるものは爪や牙、あるものは炎の息を俺に向けて放った。
「…せめて来世ではよき人生を。」
俺は自分の左拳を胸の中心に置き目をつぶり、置いた左拳で胸を二回叩いて眼目を開ける…俺は意識を切り替えた。




