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~23.本拠地突入、そして世界戦?~

「…しまった!」

冥族領へと足を踏み入れてからすぐ、俺はある過ちに気が付いた。

「…都市部への道ちゃんと聞いておけばよかった!」

よく考えたらウィンには南西の方角しか聞いてなかった。

ここまではほとんど平地だったけど、ここから先がそうだとは限らない。

もし山や建物とかにぶつかったら分からなくなりそうだ。

それになるべくフィジレスに見つからないようにしなければいけない…できれば隠れながら移動したいところだ。

かといってあんな風に通信を切っちゃったし…うん、無理だ。

今かけたらウィンが心配するだろうし…それにめちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか!

「まいったな…とりあえず考えながら行くか。」

とりあえず時間がない。走りながら方法を考えるか。

などと思いながら走っているとすぐに一際大きな看板を見つけた。

気になったので一旦足を止めて書かれている内容を見た。

そこにはカラフルな色で『ようこそ冥領(めいりょう)へ!』と大きく書かれ、その大部分には大陸の絵が描かれていた。これはラッキーだ。

よくみると町や村の地名やそこまでの距離が書かれている。さらに横には無料配布とも思われる小さな雑誌まである。なんという親切設計だ。

「なになに……『冥領ウォーカー』…だと?」

なんか駅前とかパーキングエリアにありそうな雑誌だな…

しかし小さいながらもページ数がかなりあって結構分厚い。中には地域の名産品やお勧めスポットまで分かりやすく書かれてあった。冥族の領地って観光地なのかな。

…けど、なんというか…「歩いて結構かかるよ!」とか「朝から夕方くらいまでかな?」とか距離感アバウトすぎるだろ冥族の皆さん。

まあ楽しそうな雰囲気は伝わるんだけどな。冥族ってリムみたいにみんな陽気な性格なのかな?そんな風に思い裏面をみると著者が書いてあった。

「編集超リムリス…?お前が書いたのかよ!」

俺はついその場で大声で叫んでしまった。

リム、おまえなにやってるんだよ…しかも漢字間違ってるし。いろんな意味で超越してるぞ。

…ま、まあともかくこれは助かった。これを持っていけば都市部までいける…かな。

なぜか著者を見てから信憑性が薄れた気がするが…気にしないことにしよう。

それでも一応一部もらうと胸ポケットに入れて走り出した。


その後もなるべく止まらずに走り続け気が付けば領地にはいってから2、3時間が経過した。

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

二つの山を越えるたあたりで一度腰を下ろした。

いくら身体能力が高くなったとはいえさすがに疲れた。思わず俺はその場で座りこんだ。

少し休んだけどあまり回復した気がしないな…そりゃかなりの距離をスピード落とさずに走ったから当然か。

その体勢のままおもむろに空を見上げた。日は暗くなり始めているが周囲が見えないほどではない。

「…どうやらリムの地図はあってたみたいだな。」

空を見ていた視線をゆっくりと横に向けた。

その視線の先には…ハムアンレイスに似た城壁が広がっている。その先には緩やかな丘があり美しい町並みが広がっている。さらにその丘の上には漆黒の城が聳え立つ。遠目からでも造形美となんともいえない迫力を感じる…まるで漫画などに出るドラキュラが住む城というイメージだ。

……『冥領ウォーカー』によるとあれはヴァリアント城というらしい。ライトアップされるとさらに美しく見えてムードも抜群!彼女と一度来るべし!…だって今は関係ないか。

城があるってことは…そう、ここは冥族の都市部「ダルクンイーズ」。ここにインヴァース・ハドイース伯爵がいる。

夜遅くなると思っていたけど…予定よりも早く着いたな。

すぐにでも城へと向かいたいのだが先程から感じている違和感が俺の足を止める。

「…おかしい。」

その違和感は、次第に焦燥感へと変わっていく。

「うまくいき過ぎている…」

ここまで来る間いくつか町や村を通り過ぎたがフィジレスと対峙しなかったのだ。

それだけだとうまく避けられたように見え、自分の作戦でいえば完璧といえる結果だ。

…が、そうではないのだ。

「どうしてフィジレスがどこにもいないんだ…?」

そう。実際にはフィジレスを一度も目撃していないのだ。

リムの話ではフィジレスの多くは都市部に集中しているが各地にも結構な数がいるらしい。

そうでなければとっくに冥族は他種族の領地へ避難できていただろう。

「…もしかして都市部に集結しているのか?」

そうだったらかなりまずいな。全員と戦っていたら確実に間に合わない。

というかそんな大人数を相手にしたら間違いなく死ぬな、うん。

一騎当千とか無双とかそんなゲームみたいな状況にならなきゃいいけど。

「さて、いくとするか。」

悪いこと考えても始まらない。俺は地面に手をついて重い腰をあげて前を見据えた。

…そういえばウィンに連絡するんだったな。思い出した俺はネックレスを握った。

「まあ、状況を確認してからでもいいか。」

…それに二人を危険な目にあわせたくないしな。

手にした魔法石をゆっくりと離した。

目指すはヴァリアント城にいるインヴァース伯爵。

さあ行くぞ、俺の物語はまだ始まったばかりだぜ!

俺は気合入れて地面を蹴り都市部「ダルクンイーズ」へと足を踏み入れた。


「「え?」」

ダルクンイーズに入ると同時に俺とフィジレスはすぐに遭遇しお互いに声をあげた。

まあそれは覚悟していたからいい。…まあいいんだけどさ…でも、

「なんで初めて遭うのがおまえなんだよ!」

「なんでこんなに早く来るんだ勇者!」

…そう。初めて遭遇したのはラスボス、インヴァース伯爵であった。

だがその姿は正装ではなく何故かガテン系の格好をして木材を抱えている。その姿に伯爵という威厳はなかった…しかもなぜか似合ってる。というかなんだこの状況?

あまりの展開につい敬語忘れ…まあいいか、フィジレスだし。

「…なにしてるんだよ。」

俺はひとまず伯爵に質問することにした。

「見れば分かるだろう?会場の準備だ!」

「か、会場…?」

「わからないのか?ここは我と勇者が戦うための闘技場だ!そこで世界聖戦を行うのだ!」

「やらねぇよ!」

「えっ、やらないの?…前座として冥族王者統一戦もやろうと思ったのに…」

「それじゃタイトルマッチじゃねぇかよ!」

…一体なにを考えているんだこの伯爵。

「そんなことしてる場合じゃねぇだろ!」

「そんなことしてる場合なんだよ!なぁみんな。」

伯爵が後ろを向いて声をかけると、一斉に大きななおたけびがあがった。

聞こえてきた声の種類は様々でまるで動物園にでも来た様な感じだ。

よく見るとその予想にたがわぬ像や虎といった大型の哺乳類や、鷹や梟などの鳥類、中には人間もいるなどその姿に統一感はないが、全員が身体の一部から怪しげに光る黄金色の宝石をしていた。

「遠方からこんな短時間で来れるとはさすが勇者。すまないが会場が出来るまで待っててくれ。」

伯爵はそう言いながら俺の肩をたたくと、颯爽と現場に戻っていった。

俺はその様子を唖然としながら見送ることしか出来なかった。

(…はっ!そんなことしてる場合じゃない。この状況なんとかしないと!)

少しして我に返ると、すぐさまどうすればいいか考えることにした。

幸い相手は会場を作っているのに忙しく、俺に襲ってかかってくる心配はない。

現段階までは予定よりも事が運んでいる。というのも実際はいくら隠れて向かうとはいえ何度かフィジレスと交戦するのは逃れられないと思っていたからなのだが…

(つーかこんな理由でフィジレスが居なかったのかよ!)

確かにこんな大掛かりな会場を作ってたら大人数必要だけどよ…ついさっきまで罠とか思って焦ってた俺の気持ちを返してほしい。

しかも、なんか会場の周りに屋台とかまで作ってるし…本当に一大イベントにでもするつもりか。まあ、鳥類もいるから普通よりも運搬とかは楽そうだけど。

(でもフィジレスに乗っ取られると原型に戻るんだな)

昨夜リムから聞いた話だと冥族は人族とは違って多くは動物の姿をしているらしい。

人とまったく違う姿をしているのは冥族だけらしく、その所為で変化の魔技(レソナ)が必要になり長い年月を経て得意な魔技(レソナ)になったらしい。

やはりフィジレスは乗っ取った者の源炉(フィジ)を利用することはできるがそのものが使える魔技(レソナ)が使えるわけではないよう。そうでなければ会場の準備を手作業でなんてやらないだろう…って、あれ?

俺はここで一つおかしなことに気づいた。

(…そういえば何で伯爵は人間のままなんだ?)

たしか伯爵もリムと同じ冥竜種。もしフィジレスに乗っ取られているのなら竜になっていないとおかしい。しかし今はガテン系もとい人間の姿をしている。

それによくよく考えると伯爵だけが言葉を話せるのも不思議だ…もしかして。

(伯爵はフィジレスに乗っ取られていない…?)

だとしたら合点がいくのだが…伯爵も腕にフィジレスと思われる黄金色の宝石が装飾されたブレスレットを身につけている。

それにそうだった場合、色々わからなくなる。

特に今朝の発言だ。なんで今になって世界を敵に回すようなことを言ったのだろうか。

もし本当に世界を支配したいのなら3年前に一斉に動けばよかった。それなら他種族に被害が出て流星(スターダスト)などの対策を考えられる前に支配できただろう。なんで今になって、それもフィジレスを滅ぼすかもしれない「勇者」という存在が出てきてから宣戦布告するなんて…もしかして何か意図があるのか。

まだ分からないことが多いが猶予は残されていない。この間にもタイムリミットは迫ってくる。

(仕方ない…鎌を掛けるか)

俺は意を決して伯爵の元へ向かった。

「なあ伯爵。どのくらいで会場が完成するんだ?」

「おっと焦るな勇者よ。メインのリングは出来たが他はまだまだ途中なのだ。あと2日もすれば会場が完成する、それまで待とうではないか。」

「…それだと間に合わないぞ。」

「間に合わないだと?」

「ああ、そうなると俺はこの世界からいなくなる。そういう契約なんだ。」

俺はわざと嘘の情報を伯爵に伝えた…このあとの反応で分かるかもしれない。

すると伯爵は驚いた様子で俺の肩を掴んだ。

「それでは困る!それでは意味がなくなるではないか!」

「意味がない?」

「え、ああ…せっかくの会場が台無しになるじゃないか!こんなにみんなが頑張っているというのに!」

伯爵は困ったといわんばかりに頭をかきむしっている。

…どうやらうまく掛かってくれたようだ。

「だから伯爵、今からやろう。幸いリングはできているんだろ?」

「うむ……」

俺はそう提案すると、伯爵は腕を組んで考えているようだ。

「でもディティールがまだ気に入らんのだが…」

「魔技(レソナ)で変えればいいだろう?」

「それは、まあそうなんだが…手作りでいきたいんだがな…」

「そんな拘らなくていいから!」

「しかし…」

「なら、そのままでいいだろ!」

「う、うむ。…まあいいだろう。時間がないなら致し方ない。やめるか…ちくしょう…」

俺の勢いに押されたのか伯爵は肩を落として色々諦めたようだ。

…でもそんな苦渋に満ちた表情しなくてもいいんじゃないか。

「みなのもの。急だが今から我と勇者のナイトマッチを行う!今すぐに作業を中断し、離れたまえ。」

伯爵が大きな声で指示をすると、一斉に作業を中断し逃げるようにその場から離れていった。

先日の戦いから考えると、この世界における戦闘は魔技(レソナ)がある所為で広範囲に影響が及ぶ…当然の配慮だろう。

しばらくして残ったのは魔法石を持った大型の鳥類が数羽、上空にいるだけである。

おそらく映像や音声を撮るためだろう…世界聖戦とか言ってるくらいだからな。

ってあれ?伯爵もいなくなってる。周囲を見渡したが見かけなかった。

どこにいったんだろうと思っていると

「ふはははは…待たせたな勇者よ!」

どこからか伯爵の声が大きく響きわたった。俺はその声の主を探すとリングの上に人影があることに気が付いた。い、いつの間にそんな場所へ?しかも衣装が変わっているし。

その姿はタキシードに似た服に黒いロングマントを羽織っている…まるで吸血鬼だ。

「ふっ…どうした、怖気づいたのか?」

その様子を呆然と見ていた俺に、伯爵は嘲笑しながら憎まれ口を叩いた。

なんかあの人があの格好で言うと似合うなとか思いつつ俺はその場から飛び上がり、リングの中央へと着地した。

「ほぉ?いい足を持っているようだな。」

その動作に伯爵は感心したように声を漏らした。

「まるでカモシカのようだ。」

「…なんかそれ、褒める方向違くないか?」

俺は立ち上がるとまっすぐに伯爵を見据えた。先程までの姿からは想像できないほどに気品のよさを感じる。本当に別人じゃないよな?

それに周囲にはオーラのようなものを感じる。おそらく潜在能力を意味しているのだろうが、どれだけの魔技(レソナ)が使えるのか底が見えないな。…マジで勘弁してほしい。

「ではルールを説明しよう。時間は無制限。相手が戦闘不能になるまでだ。ギブアップは認めん。」

「…ああ、それでいい。」

なんとか冷静を装って返事を返したのだが…内心はヒヤヒヤしていた。

(デスマッチかよ…マジで鬼畜だな。)

ギブアップなどすることはないが…どうあがいても気絶なんぞで決着がつくはずがないよな。まあ俺が負けるときは俺の命はなくなるだろう。いや、そればかりか俺が生きていた痕跡が無くなるだろう…文字通り跡形も無く。

(…でもフィジレス全員を相手にするよりはマシかな)

俺は無理やり自分を納得させて、剣を左手でゆるやかに持ち、下段に構え左肩を前に重心を低く構えた。

その姿を見た伯爵の顔からは笑みが消えた。どうやらかなりの強者と判断したのだろう。あちらもスイッチを切り替えたな…まったく死闘は免れないじゃないか。

心の中でため息をつきながら意識を相手に集中する。

伯爵もすでに魔技(レソナ)を展開していた。両の手のひらの上にはバスケットボールほどの真紅の火球が漂っている…なんつう密度だ。以前見た火球よりもかなり小さいが熱量が尋常じゃないぞ…この距離に居るのに熱くてしかたない。やる気満々だなってあれ?

俺は伯爵の顔を見るとその考えを捨てた。その魔技(レソナ)とは裏腹に表情からはなぜか冷めたものを感じた…一体どういうことだ?

(……頼んだぞ勇者。)

「!」

今、伯爵の口から信じられない言葉が聞こえた。かすかにだけど間違いなくそう聞こえた。

…やっぱりそういうことなのか?

「さあ、聖戦開始だ。いくぞ!」

開始を宣言するかのように大きな声をあげると、早速両手にある火球を俺を目掛けて投げつけた。

ぐっ…。近づいてくるだけでなんつう熱さだ。

そういえば火球の威力や熱量は本人の能力によるって言っていたな…そう考えると相当な強さだな。まあそりゃ冥族の最上位、というか代表だもんな…ちくしょう。

普通に剣を振るだけじゃ斬れそうにないな…。

俺は意識を剣に集中させ、呼吸を落ち着かせる。そして剣と自分の呼吸を同調させた瞬間、斬撃を放った。

すると俺に命中するはずだった火球は俺をすり抜けたようにそのまま俺の後方へ飛び続けた。

そして剣を振り払い元の構えに戻すと、火球は見事に真っ二つに割れてはるか後方で爆発した。

「すごい…さすがだな勇者。」

「そりゃどうも…」

素直に感動している伯爵を尻目に俺は思わず剣を見つめた。

…以前の火球とは全然ちがう。これを連発されるのはかなりきっついな、集中力を切らさないようにしないと。

「これで確信した。やはりそうだったか。」

俺は小さくつぶやくと再び構えた。こうなってくるとどうしたらいいか分からないな…どうしよう。

「では、次いくぞ!」

すでに次の火球を持った伯爵が、こちらに向かって飛び込んできた。

「…ああ!」

俺はそう言いながら、右手で胸に着けたネックレスを握り締めた。



いつも読んでいただきありがとうございます。

次回の投稿は6/24 21:00の予定です。

次回からバトルに入ります!よろしくお願いします

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