~22.暴走族、俺~
次回は6/20 21:00投稿確定です
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窓から飛び降りてから数分後、俺は激しい衝撃音とともにハムアンレイスの郊外へと着地した。
「思いのほか簡単に出られたな。」
服に付いた砂埃を軽く叩いて落としながら俺は振り返った。
城を出てから建物の屋上を飛び移り、城壁を飛び越えたのだけどなにも抵抗を受けなかったな。普通なら防衛機能とか起動してもおかしくないんだけど。
近くには門番である魔巧人形がこちらを見つめている。
あいつらも治してもらったのか、よかったな。
返事をしないと分かっていながらも手を振ってその場を後にした。
「おっと、忘れてた…」
走ろうと思ったところで魔法石を指で叩きウィンに繋がるように念じた。
『トウヤ?』
「おお、繋がった。元気か?」
『元気か?…じゃないわよ!いきなり飛び降りたと思ったらすごい速さでどっか行っちゃうし…ぶっ壊しに行くって言うし、一体どうしたのよ?』
「わりぃ。説明は後でちゃんとするから。それでちょっと聞きたいんだけど、冥族の都市部ってここからどっち?」
『えっ?ちょっと待って…ん~っとそこからなら南西の方向ね。』
「南西だな…こっちか!」
俺はなんとなく南西っぽく感じた方向へ一気に走り出した。
『そっちじゃないわ!えっとそこからもっと左よ。』
「おっと間違えたか…」
俺は左方向へ軌道を修正した。走るペースをなるべく落とさないように移動したつもりだったが振り向くと、地面にはブレーキ痕がくっきりと残っていた…ドリフトでもしたみたいだな。
「こっちでいいのか?」
『ええ。そっちで合っているわ。』
「ありがとな。それじゃ!」
俺はウィンとの会話を一方的に切ると一気にスピードを上げた。
景色が流れるようにめまぐるしく変わっていく。今は前方の景色しかはっきり見えない。
…どれくらいの速度が出ているのだろうか、正直考えたくない。
岩でもぶつかったら一発であの世に行くんじゃないか?
とにかく俺はそんなことにならないように周囲に注意しながら走り続けた。
『…ねぇトウヤ。』
ハムアンレイスが見えなくなってからしばらく経過した後、再びウィンから電話が入った。
何回か無視してたし、今は平地だから少しくらい出ても大丈夫だろう。
「ん、ウィン。どうした?」
『どうした…じゃないわよ!どういうことか説明してくれるっていったじゃない!』。
「そうだけど…ちょっと待て。このスピードで話したら舌噛むって!」
『…なに言ってるの?声に出さなくても会話できるじゃない。』
「…あ。」
そうだった、すっかり忘れていた。
いつも携帯電話で話している所為か声に出していた。
ということは俺、周りから変なやつって思われてた?これは恥ずかしい!
『もしかしてそれで出なかったの?』
「ごめん。」
『はぁ~…』
耳からウィンの長いため息が聞こえた。まあそりゃ呆れるよな。
でもちょっとイラッとしたぞ…。
『まあいいわ。それじゃ説明して』
「わかった。詳しく説明すると…俺が都市部に行ってフィジレスをぶっ壊してくるってことだ。」
『全然詳しくないわ!簡単にまとめすぎよ!』
「そっか。じゃあ、俺が冥族の都市部に行ってフィジレスをぶっ壊して…」
『冥族って言葉しか増えてないわよ!しかもそこは詳しく言わなくても分かるわよ!』
「ふむ。では、俺が走って…」
『そこも分かるわよ!説明する気あるの?』
「…ごめん、あんまりない。」
『トウヤ!』
仕返しとばかりにからかうとウィンは怒って大きな声を上げた。
うん、やっぱりウィン面白い。
「ごめん。ついウィンと話してるとからかいたくなって…な。」
『…ルヴィア。あとでトウヤにアルテ…』
「ちょっ!そ、それは死ぬ…ダメ、ゼッタイ。」
『ならちゃんと説明してよね。』
「はい…」
っく、まさかカウンターが来るとは…やるじゃないかウィン。
「難しいことは俺にはわからないけど、さっき言ってたとおり流星が行われるのは最速でも明日なんだよな?」
『…ええ。さっきわたしに連絡が来たわ…明朝に作戦を開始すると正式に発表があったわ。もちろんわたし達の種族もルヴィアを含めた警備隊が現地へ出発したところね。』
「やはりルヴィアはそっちにいったか。」
彼女は類まれな遠距離魔技「アルテミス」を持っているのだから当然だ。
これは予想通り…こちらに好都合な展開だ。
「これで彼女に聞けば正確な開始時間が分かる。」
『タイムリミット?』
「ああ。俺はこの状況を打開する方法は一つしか思い浮かばなかった…要するに冥族がフィジレスによって操られている事を証明すればいいんだろ?なら俺が流星が開始される前にあいつの言ったとおり、インヴァース伯爵を操っているフィジレスを倒せばいい。」
『それじゃ駄目よ。成功したとしても世界に伝える手段がないわ。』
「そこでウィン。俺が都市部に着いたらこっちに来てくれ。」
『どうやって…あ、もしかしてリム?』
「そういうこと。瞬間移動はその領地の出身者がいれば移動できる。それならウィンとリムがいれば来れるはずだ。そしてその逆もできるのだから…」
『つまりリムと一緒に都市部に行って、フィジレスを壊した後インヴァース伯爵をハムアンレイスに連れてって話をすればいいのね!』
「そうだ。すくなくとも流星は実行されずに済む。」
『…かなり無謀な賭けね…』
「そうだな…俺もかなり厳しいだと思う。」
そう。これが成功する確率は低い。
まず都市部にたどり着けるか分からない。
リムがフィジレスに見つからないように移動して3日かかった道のりだ。
おそらく冥族の領地までは数時間かからないでいける。
しかし領地に入ったらおそらくフィジレスの攻撃を受けるだろう。
しかもそれをうまく回避したとしても都市部にはおよそ人口の半分のフィジレスが待ち構えている。
仮にハムアンレイスと同じ人口だとしても数千人は居るだろう。
そんなのが同時にきたら勝てるわけがない。こっちは一撃もらったら終了だ。
成功させるためには、明朝までになるべくフィジレスに見つからずインヴァース伯爵の元へ行き、迅速にフィジレスを破壊して帰還しなければならない…無謀といわれても仕方ない。
『でもそれしかないし、そもそもなんとかなる可能性があること自体が奇跡ね。』
「…ああ。でもやるしかない。」
『…そうね。』
そう返事したウィンの声は暗かった。
心配性の彼女のことだ。多分ウィンは俺に言いたいのだろう…「そんな無謀なことは辞めろ」と。
だがそれを口にすることは出来ない。
他にも方法があるのかもしれないが、それを模索するほどの時間がない。
偶然…冥族出身のリムがそばにいて都市部に移動することが出来るし、魔技が効かずに速く動ける俺がいる。こんな状況普通ありえないのだ。
そう。彼女が話したとおり無謀でも方法があることが奇跡だ。
「大丈夫。」
俺はウィンに出来る限り優しく声をかけた。
「自分が召喚した勇者を信じろ。それにウィンは王女としてやることがあるだろう?」
『ええ…でも、』
「なら俺からの連絡をリムと一緒に待っていてくれ。ちゃんと手伝ってもらうぞ。」
ウィンがなにかを言う前に俺はわざとらしく続く言葉を打ち消した。
「それに帰ったら…」
『俺をここに呼んだ理由を話せ…でしょ?』
「…ああ。」
俺の言葉の続きを読まれてしまった。でもウィンの声は少しばかり明るくなった。これなら大丈夫。あとはリムが持ち前の明るさでなんとかしてくれるだろう。
「…っと、そろそろ領地に入るみたいだな。」
俺の視界に矢印を模した看板が映った。そこには「冥族領」と書かれている。
「それじゃ都市部についたら連絡するよ。」
『うん、待ってるから。』
そういうとウィンの方から通信をきった。その行為から俺のことを信頼してくれているのが分かってすごく嬉しい。
「さて、ここから本番だ。」
そういって前方を見つめる。目に見えないが嫌な空気が漂っているように感じる。
人影や視線は感じない、このまま一気に突入できそうだ。
「…今度は逃げないぞ。」
俺は空を見上げ、翠奈の顔を思い浮かべた。昔とは違うが一度逃げた状況となんとなく似ている。これを越えられたら一度会いに行こう。
そう思いうかべて、いつもの癖で心を落ち着かせる…これも最初に始めたのは翠奈だったな。
「……よしっ。」
俺は剣を左手に持ち、体勢を低くして臨戦態勢を取る。
横目で見る太陽は傾き始めている。タイムリミットは半日くらいだろうか。
「いくぞ!」
俺は声をあげて自分を奮い立たせると、地面を強く蹴りフィジレスが溢れている冥族領へと駆け出した。
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