~21.フラグって気がついたらたくさん立つね。とくに死亡…~
「…ん。」
まぶしい光を感じて俺はゆっくりと目を開けた。
光が射している方向を見ると、結構高い位置に太陽がある。日が昇ってから結構時間が経っている様だ。
一旦、目を閉じて自分の体の調子を確認する…うん、思っていたほど疲労を感じないな。
緊張してどうなるかと思ったがどうやら最低限の睡眠がとれたようだ。
再び目を開くと俺は上体を起こして体を伸ばそうとしたのだが、
「ん?」
そこで左手に違和感があることに気が付いた。
その先には布団の中で丸くなって寝ているリムがいた。まだ起きておらず、むにゃむにゃと聞き取れない寝言を口ずさみながら気持ちよさそうにしている。
どうやら寝ている間に腕は解放されたようだが、手は握られたままだった。
(まあ、安心して眠れたようだな)
その姿を見て頭を撫でようと手を伸ばした。
しかしその瞬間、背中に氷のように冷たく殺意に満ちた視線を感じた。それもふたつ。
まずい、嫌な予感しかしない!
俺はゆっくりと伸ばしかけた手を引っ込めて、ロボットのようにカクカクした動きで恐る恐る視線を感じる方へ振り向いた。
「おはようトウヤ。」
そこには満面の笑みでこちらを見ているウィンの姿があった。
なんだろう…表情は笑顔なのになんともいえない威圧感を感じる…
「オ、オハヨウゴザイマス。」
俺はその様子に完全に圧倒され、挨拶が棒読みになってしまった。
しかしウィンはそれを聞いても何も言わずに笑顔のままだ。
…こ、怖すぎる!人生の中でこれほどの恐怖はほとんど経験がないぞ。
「…リムと仲がいいのね。トウヤ?」
「ま、まあ悪くはない…かな?」
「そうわよね、リムを助けたのトウヤだものね。…それでもまさか一緒に寝るくらいだとは思わなかったわ。」
やばい、威圧感が増した。フィジレスとは比べ物にならない程だ。
このままじゃ確実に俺の人生が終わる!なんとかしないと。
「それは、俺にとってリムは妹みたいな感じで…それで寂しそうにしてたから…な。」
うっ、全然うまく説明出来ない…俺の語彙力が壊滅的にないことが非常に憎らしい。
「ふ~ん…そうなんだ。」
俺の弁解を聞いてウィンは目を細めた。その仕草からあまり信用されていないことが分かる。ですよね…そりゃ、あんな説明じゃ納得できるわけないよね。
…あきらめるか。せめて生きて帰りたいなぁ…。
「はぁ、まあいいわ。」
「えっ?」
ウィンのため息とともに出た言葉を聞き、つい間抜けな声が漏れてしまった。
あんな説明でわかってくれたのか?いや、それはありえない。
わけが分からない俺は呆然とウィンの顔を見ることしかできなかった。
その顔がおかしかったらしくウィンは笑った。先程の威圧感の笑顔じゃなく普通に笑ってくれた。
「ふふっ、大丈夫よ。ちょっとからかっただけだから。多分リムからお願いされたんでしょう?」
「あ、ああ…」
「なのに、あんなに必死になって…ふふっ。」
先程の俺の様子を思い出したのか、再びウィンは笑った。なんとか手で口元をおさえているが隠しきれていない。
それをみた瞬間、全身の力が抜けた。
よかった…ウィンに誤解されずに済んだ。…本当によかった。
「…でも、リムが羨ましいわね。」
「ん?」
「なんでもないわ!なんでも。」
何でかしら知らないがウィンの顔がほんのり赤くなっている。まあいいか。
「と、とりあえずリムを起こしましょう。」
「そうだな。ほらリム、朝だ起きろ。」
俺は少し強めに身体をゆすった。しかしリムは全然起きる気配ががない。それどころか再び抱きついて頬ずりしてきた。
ちょっ、マジで今はマズい!今じゃなくてもあんまり好ましくないけど。
振り向くと案の定ウィンの笑顔が引きつっていた。
「だぁ!抱きつくな。起きろリム!」
俺は慌てて腕を解き、リムの両肩を持ち大きく揺らした。
「ん~…まだ眠いよ~。昨日一緒に寝たの遅かったじゃん~。」
「寝起き一番に誤解を招くようなことを言うな!俺の死亡フラグが立っちまうだろ!」
「誤解…?フラグ…?なに言ってるのトウ。」
「ふぁ~」と可愛い声をあげながら大きく伸びをして、目をこすりながらリムは目を覚ました。
「おはよ~トウ。」
「……。」
「トウ?」
「お、おはようリム。」
とびっきりの笑顔で朝の挨拶をしてきたリムに見惚れて挨拶を返すのが遅れてしまった。
改めて見るとリムは可愛いな。小動物っぽいし甘えん坊だし…こんな子の隣でよく眠れたな。疲れてなかったら間違いなく無理だったろう。
「…トウヤ、リム。昨日遅くまでなにしてたのかしら?」
「あ…」
ウィンの背筋の凍る言葉に我に返った…ごめん、ウィンのほうを振り返る勇気がないです。
「おっはよ~ウィンちゃん!」
「お、おはよ…」
この冷たい空気をまったく気にしないリムの陽気な挨拶にウィンも思わず戸惑った様子で挨拶を返した。
「えっとね、えっとね。昨日はトウが一緒に寝てくれたんだよ!何も言わずに一緒にいてくれて、優しくて、気持ちよく眠れたんだよ!」
「そ、そう。よかったねリム。」
「うん!」
嬉しそうに笑顔で話すリムの姿にウィンは優しい表情になった。
す、すげぇリム!この状況を一瞬で打開した。
リムの笑顔はまるで太陽のように皆を温かい気持ちにさせるんだな。
本当にこの太陽みたい…ってあれ?
俺はなんとなく空にある太陽をみたら、一瞬光った。まるで刃物が照らされて輝いたような…。
というかなんで太陽をずっと見ていられるんだ?普通目が痛くなるよな。
目を凝らしてみると、それは太陽ではなくそれに似た光だった。
しかも最近見たことがある色だ。
「まじかよ…あれアルテミスじゃん!」
ちょっとちょっと!なにしているのかなルヴィアさん。
そういえば殺気は二つ感じてたな。もうひとつはあなたでしたか…。
仲良く話す二人に悟られないように魔法石を使ってルヴィアに連絡をした。
『おはようございます燈矢様。遺言ならお聞きしますよ。』
「そうだな、俺の骨は海に…っておい!開口一番殺す気かよ。」
『はい!』
「うわぁ…すごくいい返事。」
『それはわたくしの悲願ですので…感慨深いですね』
「しみじみ言うなよ!本当っぽいじゃないか!」
『本当ですので』
「…頼むから冗談にしてくれ…」
寝起きの所為かな?なんか冷たい汗が止まらない。
なんかアルテミスの光がすごく強くない?…これ、防げる気がしないけど。
『まあ今回はリム様の意思ですし、ウィン様が許されたようなので許しましょう』
「ふぅ…よかった。」
『……ちっ』
「今舌打ちしたよね?悔しがったよね?」
『そんなことございません。わたくしは私情をはさみませんから。』
…絶対嘘だ。逆に私情をはさんでいる時しか見たことないぞ。
『え?…すいません。燈矢様、連絡が入りましたので一旦切ります。』
「了解、またな。」
ルヴィアとの通信が途切れると同時にアルテミスの光も消えた。
これで完全に死亡フラグを回避できたようだ。
俺はゆっくりと立ち上がると二人に挨拶をして顔を洗いに洗面台へ向かった。
「ふぅ…」
冷水で顔を洗いタオルで拭いているとき、ふと自分の顔が鏡に映った。
「妹、…か。」
その鏡に手を伸ばしながら俺は小さくつぶやいた。
昨晩リムと一緒に居たからか、自然と妹のことを考えてしまう。
俺と瓜二つである双子の妹、「蒼井翠奈」のことを。
いつも隣にいた俺のよき理解者でライバルだった彼女は今どうしているだろうか。
そんな事を考える資格を俺は持っていないが。
「…だから鏡は嫌いなんだよ。」
俺は自分の顔を見るのは嫌いだ。嫌でもあのことを思い出してしまう。
俺が逃げた所為で右肩と夢を失い、翠奈の人生を失わせてしまったあの日を。
「いや、今考えるのはやめよう。」
俺はこれ以上考えるのを止めた。正直に言ってどうしたらいいかわからない。
でも、もしかしたらここで何かきっかけを見つけられるかもしれない。
今度は逃げずに向かうことで彼女とも向き合えると信じて、この異世界で何が出来るか考えていこう。
「よしっ、がんばるか!」
両手で頬を叩き気合を入れてドアに手をかけた。
「ちょっとトウヤ!大変、こっちに来て!」
いきなりウィンが慌てた様子で声をあげた。
その声を聞くとすぐに勢いよくドアを開け、駆けつけるとウィンとリムの顔から血の気が引いているのがわかった。酷く動揺しているようだ。
「なにがあったんだ?」
そういうとウィンは震えながら指をさした。その先には昨日見たテレビがついている。
そのまま画面を見るとそこには一人の男性が映っている。
年齢は初老前くらいだろうか。大人びた雰囲気に威厳のようなものを感じる。バーにいるダンディーなマスターみたいな感じに近い。
彼が一体なんなのだろうか?
不思議に思っていると、アナウンサーが「再び会見の模様をお伝えします」といい、映像が最初から流れた。
「諸君、久しぶりだなぁ。冥族のインヴァース・ハドイースだ。」
ほう、このダンディーさんは冥族らしい。確かにリムに似た角が生えている。
「今回、人族のお嬢さんが勇者召喚なるものをしたらしいが…クククッ。まったくの無駄だ、くだらない。」
ウィンの発言を一蹴する彼は不気味な笑みをうかべている。
「ならその希望を打ち砕いてあげよう。そうだなぁ…勇者を血祭りにあげ、それを開戦の合図としようか……この世界を侵略する戦争のな!」
自分の言葉に酔いしれるように高らかに宣言した。
「私達は逃げも隠れもしない。都市で勇者を待つとしよう。一週間待っても来ないようなら、総出でまず人族から滅ぼしに行く…なあに、どちらにしても全員滅ぼすがな!では、その日までさようなら諸君。せいぜい震えて待つがよい。」
そう言うと急にテレビの画面が消えた。どうやらウィンが消したようだ。
「なんだあのおっさんは…ナルシストか?」
「…違うわ。あの方は冥族の代表、冥竜種インヴァース・ハドイース伯爵よ。おそらくはフィジレスに操られているわ。」
「だ、代表…冥竜種?って、マジで…?ラスボスじゃねぇか!」
俺はその事実に驚きを隠せなかった。
「どうしていきなりこんな声明を?」
「…やられたわ。一気にチェックメイトね。」
「どういうことだ?」
苦渋の表情をしているウィンの様子に俺はいまいち状況を理解していない。
「あれは勇者の名前を利用しているけど、事実上の宣戦布告よ。」
「それは分かるのだけど。俺たちが来るまで待つと…」
「冥族は待つかもしれないけど他の種族が待たないわ!あんなはっきりとした宣戦布告をされたら殲滅の理由ができる。自種族の防衛のためっていうね。それをわたし達人族で抑えられるわけがないわ。」
「!そうか。そうしたら他の種族は…」
「ええ。すでに動いているでしょう。元々殲滅する準備はしていたのだから、早くて明日には流星を実行できるわね。」
「そうしたらもう逃れられない。」
「少なくとも冥族の領地は火の海になるでしょうね。」
「なんということだ…」
そうなったらは冥族を救うことはまず不可能。
それだけではなく下手に手を出せば人族も殲滅対象になるだろう。そしたら冥族を見捨てて逃げるしかなくなる。
思わずその状況に目を背けたくなり下を向いた。解決策はみつからず絶望の空気が漂い、そのまま沈黙の時間だけが流れる。
「みんな、ありがとう。」
その沈黙を破ったのはリムである。俺とウィンは思わずリムを見た。
「ここまで色々考えてくれてありがとう。ウィンちゃんはあたしが来る前からずっと考えててくれてすごく嬉しかった。それに応じてくれたトウもすごく優しくて…」
「「リム…」」
「あはは…しょうがないよね。」
そういって見せたリムの笑顔は輝きを失っていた。それもそのはず、目から涙が溢れて頬を伝っていたのだから。
「…もう逃げたくないな。」
俺がそうつぶやくと頭をフル回転して考え始めた。
(なにか方法があるはずだ…)
今までのことを考える。絶対になんとか出来る材料があるはずだ。
考えていると先程のウィンの発言で引っかかることができた。
「ウィン。流星はなんで明日になるんだ?」
「えっ?それは移動手段がないからよ。」
「瞬間移動の魔技じゃ駄目なのか?」
「個人では自分の領地内でしか使えないのよ。まあ集団だとその中に出身者がいればできるけど。今回は荷物とかも運ばないといけないから瞬間移動じゃなくて転移という魔技になるとおもうけど、それもその領地の都市部だけしか移動できなくてさらにその領地の代表の許可がないと使用できないのよ。」
「つまり冥族の代表の許可がないから直接は無理って事か。」
「ええ。一番近い種族の領地へ移動したとしてもそこから徒歩だから一日は最低かかるわ。」
「なるほど…。」
それを聞いてひとつの可能性が見えた。だがそれだけじゃ足りない。
「リム。ここから冥族の都市まで歩いたらどれくらいかかるんだ?」
「ん~っと、あたしが来たときは大体3日くらいだよ。」
涙をぬぐいながらもリムは答えてくれた。
「なるほど…なんとか間に合うな…」
ああ、一つ思いついた…でも、これかなりギリギリだな。
でも可能性があるだけましか…やるしかないな。それにもう逃げないって決めたから。
「ま、間に合うって?」
ウィンとリムは怪訝そうにこちらを見ている。
俺は返事をせず「大丈夫、大丈夫」といって身支度を整え始める。服装はあの時勇者として着ていた服ではなく制服姿だ。腰に剣をつけ、準備OK。
「じゃ、ナビよろしく。」
最後に魔法石をついたネックレスをつけると俺は二人にそう告げて窓の前に立った。
「ちょ、ちょっと!どこ行くのよ!」
出て行こうとする俺に慌ててウィンは声をかけた。それに対して俺は笑顔でこう告げた。
「ちょっとフィジレスぶっ壊してくるわ!」
「「はっ?」」
驚く二人を尻目に、俺は勢いよく窓から飛び降りた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は投稿時間がかなり遅くなってしまい申し訳ございませんでした。
今後、確定時間には必ず投稿します。
次回は6/16 21:00を予定しています。
今後もよろしくお願いいたします




