ACT:14 ターゲット・オブ・スズキタロウ FINAL
お待たせです。
この場を借りて、新しくお気に入り登録してくれた人と、お気に入りユーザー登録してくださった人に感謝を。ありがとうございます!
正直期待にこたえられるか不安な、このイベントのファイナルです。頑張りました。
どーぞ!
すぐ傍の岩肌が、誰の目から見ても明らかに揺れる。
まるで地震のようなこの振動がただの音であることを知っているおれは、アバターでよかったとつくづく思う。
人はどれだけ科学を進歩させても、自然を切り拓いても、あらゆるメカニズムを解き明かしても結局自然と同等になることはないのだろう。
「――ねぇ、今何メートル地点まで来たか分かる!?」
「――さっきの広場が深度五メートルだったよ!!」
「――距離なら歩いたけど、深さとなるとまた別だからな!!」
あまりの轟音のため大声で叫ぶように話さなければ意思の疎通が出来ん。やはり厄介だな〝星鳴り〟。プロテクトツールが無ければこの音も無駄に収集しようとしてその莫大なエネルギーをもろに受けて内部から吹き飛ぶことだろう。弊害としてはそのとの情報もシャットダウンしてしまうことだが。
っと、鳴りやんだな。
「てか、ちょっと疑問に思ったことがあるんだけど」
「ほほう。言ってみろ、タロー」
偉そうだな、ロー。
「いや、マーレが〝エコー・ソング〟で封じられたアバターの機能の代わりに情報を集めてくれるのはわかるんだけどさ、それだけ音に敏感なら〝星鳴り〟のダメージもおれ達よりもでかいんじゃないのか?」
緩やかな傾斜どころか、傾いているのかも実感できない道を歩く。ここまで傾斜が緩やかすぎると、奥深くまで辿り着くのはかなりの時間を要するだろう。事実〝シャッテン海窟〟に入ってから一時間ほどは経とうとしているのに、未だに十メートルも潜っていない。
予想をはるかに上回る広大さを誇るエウロパの秘境を延々と歩いていると、いろんなことを考えてしまう。広大さに反して生物は少なく、最初の方の遭遇以来見ていないし、他の参加者にしても枝分かれが多すぎるこの場所では出会う確立などたかが知れてる。
そんな状況で〝星鳴り〟が起こり、先ほどの疑問が生まれたわけだ。
「まぁ私達セイレーンは地球人よりも聴覚が優れている……と言われているけれどそれは正しい見解じゃないんだよね」
「じゃあマーレも私達と同程度の聴力ってこと?」
「それもちょっと違うんだよ、ナツミン。正確には私達の〝聴覚器官〟が地球人よりも優れているの。私達は音の取捨選択が出来るんだな、これが」
ま、まじか。スゲーな〝セイレーン〟……。
指を立て、顎を上向けながら得意げに語るマーレ。
「〝星鳴り〟はね〝微震音〟と〝本震音〟に分けられるんだけど注意すべきは〝本音〟なの。わたしたちは地球人の可聴域外の音である〝微震音〟を聴くことによって〝星鳴り〟の前兆を認識してるの。それを聴いたら〝本震音〟をシャットアウトすればいい」
流石、地球では現象として確認されていない〝星鳴り〟のなる星に生まれた種族なだけはある。感心、感心。
「……ん?」
「どうしたの、キタちゃん?」
疑問の声を漏らしたキタちゃんに上代が問いただす。先ほどの女子三人の大立ち回りから勢いのままにあだ名で呼ばれるようになったため、慣れないキタちゃんは顔をだらければいいのか顰めればいいのか、わからないようで形容しがたい表情になった。ブサイクだぞ。
「いや、マーレさ」
「なーに、とんがり?」
「……お前らここで鳴る音は〝海の禍音〟と呼んで恐れてるって言ってなかったか? それなら〝星鳴り〟とは別の音が鳴っていることか?」
「……いまいちよくわかんないよ。相変わらずバカだな、とんがりは」
「俺か!? 今のは俺か!?」
話が進まないので残りの皆で「まあまあ」と宥めてやった。感謝しろよ?
「ふぅ~……。いや同じ現象ならわざわざ違う名称を使うことはないだろう? ただ現地の呼び方があるのか、それとも根本的に違う問題があるのか……後者ならマーレ達セイレーンは音を聞き分けられるってことだよな?」
……言われてみると、そうだ。
二つの呼称。現地の呼び方があるのならそれでいい。
だけど、もしセイレーンが音を聞き分けることが出来て〝星鳴り〟と〝海の禍音〟を区別しているのならば? それはこのシャッテン海窟におれたちが思っていた問題とは別の問題が同時に存在することになる。
何よりも発見されたというより、急に出現したというセイレーン達の証言。
そして、おれの中で不安が大きく膨れ上がった。ここに入る前の嫌な予感。思いもしなかった好イベントがあったため鳴りを潜めていた「それ」が存在感を示し始める。
「〝星鳴り〟と〝海の禍音〟は別物だよ。多分ね声の大きな生き物でもいるんじゃないかってのが集落の長の考え」
返ってきた、答えは。
おれの〝予感〟を〝確信〟に、変えた。
「……マーレ、一つだけいいか?」
「ん~? なに?」
ごくりとつばを飲み込む。
周りを見ると、かつて月のある場所で見たのと同じようなものが目に入る。入り口からあったのでそんなものなのだと気にしなかったが、今になって大きな危険がエウロパに存在する可能性のあることに思い当たった。
「その〝海の禍音〟は例えるならどんな音をしてるんだ?」
「え? えっとね、ものすごい大きな音だからとても不吉に聞こえるんだけれど、何かをすするような音かな」
「ロー! サポートセンターに連絡だ! 危険度SSS級!! 〝ロードメイカー〟か〝月の射撃神話〟、それか〝龍皇〟の派遣を要請しろ!」
「タ、タロー君……?」
羽場下がおれの様子に驚いているが、それどころじゃないんだ。ごめん。
「……どうしたんだよ、タロー? 何かあったにしても説明がないと皆わかんないぞ?」
「気づかねぇのかよっ! 壁にある規則正しい穴の列を見ろ! 〝足跡〟だ!」
おれの慌て振りに顔をしかめていたキタちゃんが、ローと顔を見合わせてから壁を見る。
一秒、首を傾げながら見る。
二秒、何か記憶に引っかかったのか眉をしかめた。
三秒、気づいた。大きく目を見開く。
その時、前方から参加者の集団が現れた。見た目からして最初のお立ち台で見た校長だ。どうやら教師陣のパーティらしい。
「……どうやら残りは我々〝魔法使いの夜会〟だけのようですね」
「ふぉふぉふぉ。まだまだ子どもに負けるわしらじゃないわい」
羽場下はまだ不安そうに俺を見て、上代は目を細めて壁の穴を見ている。
対応するのはそれでもマイペースな南野と、何も感じ取っていないマーレ。
あっちはイベントのノリで陽気に語りかけてくるが、あまりに深刻な事態であることに気づいたおれたち三人の〝スズキタロウ〟は固まったまま動けない。なぜなら、
「先生たち、生徒相手に大人げないぞ~! ロー君たちの待遇については今朝職員室で決めたじゃんかよ~!」
「それはそれ。これはこれなのだよ、南野」
「そうだ。大人として譲れないものが、確かにあるんだ」
「これ以上教え子に追い抜かれるのは我慢ならないんだ!」
普通であればそんなバカな遣り取りにツッコみをいれたりして楽しめただろう発言をする、先生たちの背後。
「……セクハラ発言ですよね? あれ。いい年してあんなことを言っているから未だに足踏みして魔法使いになっちゃうんですよ」
『ぐはっ!』
「マーレは何のことかわかるの?」
「え? ナツミン、わかんないの……?」
仄かに揺らめく〝朱〟は火の玉のように、徐々に大きくなって。
「我々は、魔法使いを卒業したいだけなんだ……」
「そろそろ、順番を譲ってくれないだろうか?」
「い、いい大人が泣いちゃダメだよ、先生!! なんのことかよくわかんないけどきっといいことあるよ!」
そこまで自分たちが入れなかったバカ騒ぎを傍観していたが、これ以上はマズイ。
まず動いたのはロー。南野の頭の上から手振りで先生の背後を指差した。
「?」
南野とマーレが促され、ローの仕草に気づいた羽場下と上代も「それ」を見た。
「――ッ」
「……何、あれ……?」
「……嘘」
「……冗談、きついな。あんなの見たことない」
女子四人が、息を呑む。
次に動いたのは、キタちゃん。
「全員、今すぐここを出ろっ!!」
おれ達七人は一斉に身を翻した。ごめんよ、先生……! でも先生たちは「それ」を見ていないから、何故コネクト・アウトしたのかわからないだろうし、トラウマにもならないと思うから許してほしい。先生たちに注意を促す時間すら、無かった。
完全に後ろを向く寸前。「それ」が先生たちのアバターを貫き、噛み砕いて、粉々にするのが見えた。
くそっ! 最悪だ!
「〝星喰い〟っ……!!」
『ジュルルルウルルルウルルルルウルルウウルル!!』
先程の〝星鳴り〟とは明らかに違う、気味の悪い鳴き声が背後から海窟中に響き渡った。
●×●×●×●×
〝星喰い〟。
サポートセンターが付けたランクは〝主〟を超え、一般には公開されていない(公表すると惑星開拓反対派が増長するため、一般に公開されている最高ランク〝主〟で留めている)〝神〟クラス。
体長は推定で三十~四五メートル。
蛇のような体に、朱の単眼。そして身体の側面にびっしりと生えたムカデのごとき節足。
平たい口腔の奥に鋭い牙が敷き詰められ、人間でいう頬に当たる部分からクワガタのような牙がある。
艶のない、光を反射することもないその漆黒の鱗はまさに不吉の象徴だろう。
主食は〝星〟である。星のエネルギーをすする「奇星獣」。〝星喰い〟が活動を開始すると掘った土が盛り上がるため、天然の土管のような〝入り口〟が出来上がる。
その生態はほとんどが闇の中であり、どのような成長過程を辿るのか、そもそもどのようにして誕生するのかも不明である。
かつて一度だけ月で発見されたのが、人と〝星喰い〟の初接触だった。
全部で八体。これが二年前、月で確認された〝星喰い〟である。発見された場所の周囲およそ半径一〇キロは中心部に近づくにつれて、荒野になっていたという。
人型、魔物型アバターを問わず有力なプレイヤーに加え任意参加のプレイヤーで構成された一万五千の討伐部隊が組まれ、七日七晩戦闘が行われた。
結果は。
標的〝星喰い〟の死体は八体。
人側の残りはわずか三一人。
人はこの出来事でやっと、地球外生命体の危険度を正しく実感した。
直接星を喰う害獣。今までの常識では考えられない生物の進化だった。しかし人の活動が地球に留まらなかったように、動物の活動も単一の惑星に留まらないのかもしれないというのが、人類の見解。
星を喰う以上、食べ終わり滅んだ惑星を捨て新しい餌を探す能力、つまり宇宙空間での活動手段も持っているだろうとのことだった。
だから。
エウロパで〝星喰い〟が出現してもそれはありえないことではないことだったのかもしれない。
●×●×●×●×
「ちょ、ちょっと!? 何あれ! 何あれ!?」
気持ちはわかるが、パニックはよしてくれ羽場下。胸に抱かれたおれはその力の入りように破裂しそうです……結構大きいんだね(何が、とは言わないよ!)。
「タロー! こんな時に、貴様っ!」
「万死に値するぞ!」
「黙れ! お前らも同じようなもんだろう!」
おれ達のアバターがデフォルメされているのが仇になってしまったのだ。手足が短いのです。手足が、短いんですっ……!
そのため人型アバターに抱かれて移動する方が断然速い。一番前にマーレ、次にキタちゃんを小脇に抱えた上代、
「ちょ、ロー君!! 私の視界塞いでる!」
そして頭をローにしがみ付かれた南野、俺を胸に抱く羽場下と続き最後方には、
『ジュルルルウウウウジュルウウルウウウルウルウジュルル!』
まさに、エイリアン。
この状況で、パニックになりながらもこんな会話を躱せるおれ達の度胸は、据わっているというよりもおかしいのかもしれない。でも、おれ達がこんな軽口を叩いているおかげで羽場下たちも絶望に至ることなく逃走に専念してくれたので、オッケーとしておこう。
「それよか、ロー。サポートセンターに連絡は?」
「おう、ちょうど返信が来たな。増援は〝月の射撃神話〟だな。他の奴らは……」
そう言ってクエストカードの画面をこちらに向けてきた。そこにはメールの内容が表示されており、
『新魔王様に期待。by〝ロードメイカー〟』
『めんどくさい。by〝龍皇〟』
あいつら……。信用されているのか、ふざけているのか。いや多分両方だろうな。旧知の間柄というのは、惑星規模の危機を前にしても遠慮が無いらしい。恨むぞ……。
「……タロー、お前の嫌な予感はまた当たったな……嫌どころか究極の災難だったが」
「……うるせいやい。とりあえずサポートセンターは成りたてながらも魔王様に一任ってわけか」
「そこまで投げやりな組織だったけ? サポートセンター。一応最強装備を持ち出しておいたのは正解だったな、とりあえず」
だね。かつて万単位で掃討作戦を組んだ生物を相手に三人って……(泣)。
「ま、一匹だけだろ? それに見た感じ二年前の奴よりも〝成長過程〟は初期だろうし何とかなるでしょ」
二年前の奴は、多頭だったりしたもんね。あれはもう月を見捨ててしまおうかという意見まで出たバケモノだ。そう何度も出現された暁には太陽系が滅んでしまう。
寧ろ今ここで遭遇できたことに喜ぼう……そう思わないとやってられないとかじゃないんだからねっ! 早期発見で脅威を取り除くことが出来るからなんだぞ!
……ホントですよ。
「キミ達は大物なのか、呑気なのかよくわからないね……」
上代は呆れてますね。
「でも、キミ達がそんな態度なら何とかなるんだとそう思えるね!」
あざーず! 南野さん。
「それで? どうするの?」
「落ち着いてるね、羽場「叶」……」
あんれ~? おれが言うのもなんだけど、今はこだわるところ?
「折角、仲良くなれたのだからこの窮地も利用すれば、もっと仲良くなれるよ私達」
この状況で、そのセリフ、首を傾げて微笑むこの表情。芯がしっかりしたお人ですこと。だからこそ、好みなんだろう。
いいね。これくらいのお得はあってもいいだろう。やる気が出てきましたよ!
「じゃあ、叶」
「はい」
さん付けで呼ぼうと思ったが、それも他人行儀っぽい気がしたのでこの機会に呼び捨ててみた。
「まずはシャッテン海窟を出なければならない。ここは〝星喰い〟の巣だからね。そして出たら半径一キロの人払いをお願いしたい……これは三人でやってくれ」
「私と、弥生と夏海だね?」
「そう、おれ達三人は奴をここで討伐する。これでも一応〝魔王〟だからね。惑星の環境を根本から破壊するあいつは、環境の保護を目的とするおれ達魔物型アバターのプレイヤーの管轄に含めてもいいだろうし。
あと、マーレ」
「はいはーい」
しゅびっと右手を挙げるマーレ。そんな元気と明るさが保てるなら、マーレもこの状況にそれまでの不安を抱いていないのかもしれない。
「フェルゼン・ヴァルトに戻って、集落のセイレーンたちを避難誘導するのがお前の役割だ。おそらくあそこまで戦闘の余波は届かないだろうけれど、念のためにな」
「おっけー! まぁゼリー達に任せとけば大丈夫でしょ? 初めて会った時も、フェルゼン・ヴァルトにあった問題を簡単に解決してくれたし」
「……その信頼には応えなきゃな」
これからのことを決めているといつの間にか白い明かりが指す場所が前方に見えて来た。どうやら入り口まで戻ってこれたようだ。帰りは道を記録していたことと、叶達のアバターがその機能を全開に走ったためあっという間だった。
一気にそこまで到達する。頭上を見上げれば青い、地球とは違うエウロパの空。
一瞬の停滞もなく叶達が跳ぶ。マーレもその綿水浮き輪を活かした〝泳ぎ〟で急上昇。飛び出た瞬間、上代が叫んだ。
「今すぐここから離れてっ!」
既に響く音が〝星鳴り〟とは違うことに気づいていたのだろう。いつでも対応できるように、未だ外に居た立灯のような放送委員や既に外まで出ていた参加者達が身構えていた。多分教師である堂前の指示だろう。さすが〝審判〟を自称するだけのことはある!
そして行動も速かった。それを聞いた瞬間全員がアバターの機能をフルに急速離脱する。同時におれ達もシャッテン海窟入り口前に着地。
「みなみ……おほんっ! な、夏海!」
おお!? ローが顔を真っ赤にして一世一代の勇気を振り絞っておれのように南野との急速接近を図った。お前の心臓は砂上の楼閣なんだから、死ぬなよ? これから戦闘なのに。
「オレを思いっきり頭上に!」
「よし来た! 気を付けてね、ロー君!!」
ローがその身を躍らせる。
「あああぁぁぁぁぁぁぁ~~……」
フェードアウトとともに。いや、高くね? 星になりそうな勢いですけど。
「……あの、上代さん?」
「あら、キタちゃんは二人と違って名前で呼んでくれないのね?」
「……弥生……」
「なに?」
「……なんで俺を刀の上に乗せたうえに、振りかぶってんの?」
「それは、あなたも行くからでしょう?」
上代がキタちゃんに向かって、空を指差した。うん、確かに落下する時間を使って準備するつもりだったんだけど、あれを見たらね? あそこまでの高度はいらないからね?
「あ、俺ここで降ろしてもら」
「行ってらっしゃい」
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ~~……」
「じゃ、タロー君」
うん、もう悟ってる。
過去にロケットで宇宙を目指した偉人たちは、本当にスゴイと思いました。
●×●×●×●×
遥かと言ってもいいだろう眼下、上から見るとぽっかりと暗い穴を曝け出すシャッテン海窟はなるほど、惑星に開けられた虫食いみたいだ。
そこに朱の明かりがぼんやりと現れた。同じく降下中のローが呟く。
「来たな。久しぶりだなぁ、アバターの戦闘機能を全開放するの」
「だろうよ。奇しくも二年前の〝星喰い〟が最後だ。その前は竜宮城だったな」
「〝月の射撃神話〟な。もう来てんのかね? あいつ。どうでもいいけど、ローは咄嗟の判断、ナイスだったな」
何がというと、南野に高空へと己を投げさせたことである。おれ達のアバターの戦闘機能を解放するためにはある動作が必要なんだが、それがね……。
「ふざけてあんな設定にしなければよかったよな」
「今更悔やんでも遅いだろ。ここまで来たらやるしかない。弥生たちが見ていないことを祈ろう」
「完全においでなすったようだぜ、ロー、キタちゃん」
おれ達の居る高さにまで届くその鳴き声が、たまらなく不快だ。
のたうちながら、姿を現した〝星喰い〟を確認しておれ達も覚悟を決める。「あれ」を見られたくないとか言っている場合じゃなかった。でも最後までおれ達らしさは貫いて行こうと思うので、戦闘開始前の最後の遣り取りはこれでいいのだろう。
「おれ達が二年前からなんて言われてるか、知ってるか?」
「いや?」
「なんて言われてるんだ?」
おれはにやりと笑いながら、さも不本意だと(実際不本意なんだが)いうように器用に眉尻を下げる。
「シリアスブレイカーだってよ」
「…………」
「…………」
いつもより長い沈黙が、遥か高空で生まれた。ほんとに真面目な空気が似合わないおれ達だね。
●×●×●×●×
遠目に見てもその大きさがわかる。
「大丈夫かな、タロー君たち……」
ああやって明るいノリで送り出したのに、離れて観察できるようになると〝星喰い〟とタロー君たちが呼んでいた生物の異様さが良くわかる。
今までもいろんな地球外生命体を見てきたけれど、あんな一見して危険どころか絶望的なまでの生き物としての違いを見せつけられると恐ろしくなる。
「……地球外移民プロジェクトはさ、人類の希望だと思ってたんだ。そりゃ危険な生物や未知の自然があるけれど、それでもアバターで本当に冒険しながら幾つもの惑星を渡り歩いてると、自分たちが歴史に残る大事業を担ってるんだって思えるから」
夏海の真面目な口調は珍しい。
「でも、あんなの見てしまったら私達は間違っていたのかもしれないって思っちゃった。だってあれもテラフォーミングの果てに誕生した生き物なんでしょ? だったら私達人間が産み出しちゃったのと同義じゃない。それがいろんな惑星を滅ぼす可能性を持っているなんて、私達人は新天地を求めるどころか、故郷すらも滅ぼしてしまうのかって」
夏海の言うことはわかる。自分たちのために良かれと思ってやったことが、破滅を引き起こす可能性を孕んでいるんだから、マイナスの方向に考えてしまうこともある。
「それは違うわよ、夏海」
「弥生?」
「どんなことだって、リスクのないことはないわ。そのリスクを恐れていたら何も変えることはできない。過去に地球環境の悪化と引き換えに文明を発達させたように、今は途轍もない危険な生物を産んでしまっても、人の活動範囲を広げる時代なんでしょう。
あなた言ったわね? 地球外移民プロジェクトは希望だって。ちょっとくさいセリフだけれど、影の無い世界では光という概念は生まれないの。同じように絶望という可能性があるからこそ私達は希望を見出した。だったら?」
不自然な箇所で言葉を切る弥生の意図が分かった。夏海の好きな言葉を引き出そうとしてる。こうやって鋭く意見を言えるのはさすが弥生だな、って思うよ。
「――GO AHEAD!」
いつもの明るい笑顔を、一瞬見開いた目の後に咲かせて夏海が言う。
「そうだね。マーレのように惑星が違う、遥か彼方の住人とだって友達になれる世界があることを知っているんだから、ここで止まるのは嫌だよ。やっぱりいつだって最高を感じていたいから」
だから、人はこの惑星開拓に誰もが熱心なんだろう。新たな発見があって、新しい出会いがあって、新しい危険が溢れて、新しい悪事すら露わになるけれどそれが道を、いや未知を拓くことなんだろうと思うから。
そんないつもは考えもしない真面目な、後から思い返すと気恥ずかしい思考の隙を突くように背後から女性の声が聞こえた。
「あらあらまあまあ。聞いた、レイラ? 今の高校生はとてもロマンチシズムな考えを持ってるわよ? いいわぁ、羨ましいわぁ」
「……褒めてることが伝わらないのはあなたの賛辞の欠点よね、弓奈。あぁ、ごめんなさい、貶してるわけじゃないのよ。寧ろ絶賛してるのよ。私もあなた達の言葉には思うところがあったわ。心に残る、いい言葉」
一人は人型アバターだ。茶色の髪の毛は肩甲骨ほどまで、服装は厚手の緑色に染められたローブを羽織っている。その下は水色のシャツ、ゆったりとしたズボンと足のブーツは民族衣装のようだなと思った。
もう一人は地球人ではなかった。整った顔だけを見るならば普通の人なんだけど、首から蒼の鱗が現れている。何よりその尻尾は火星系水陸両棲人種〝マーマン〟の特徴だ。肩から露わになる両手も蒼の鱗が覆っていて、彼女の着る火星特有の服装はとてもよく似合う。
「えっと……?」
「あぁ、ごめんなさい。いきなり話しかけられても戸惑いますね。
私はレイラといいます。火星の都市、竜宮城で領主の――あぁ、ごめんなさい。地球の方には〝龍皇〟と言った方が分かりやすいですね。その妻です」
「では、続きましてお姉さんが自己紹介しちゃいましょう。
星繰 弓奈。お姉さんなんだけど夫もいるし娘もいるんだけど――え? 美容の秘訣?」
「聞いてないわよ。あぁ、ごめんなさい。戸惑うわよね。弓奈早くしなさいな」
「え? もう終わったんだけど……あ、そういえば〝月の射撃神話〟って言った方がわかりやすいかな?」
どこか独特の雰囲気を持つ女性と、しきりに謝罪の言葉が口に出る火星の女性。もちろん会ったことなどなかったから声を掛けられて驚いた。でも名前を聞いてもっと驚いた。
星繰 弓奈。本人も〝月の射撃神話〟と名乗った通り、月での活躍から知られる世界的なプレイヤーだ。所属するのは「キングダム」。そのサブリーダーで夫はリーダーである〝ロードメイカー〟という、名実ともに女性のトッププレイヤー。
そしてレイラ。この人もとても有名だ。惑星開拓は何も地球人だけの活動ではないので、現地人の人も参加している。地球人とは違い環境に適した、また私達よりも強靭な肉体を持つ彼らはアバターでなくとも地球人プレイヤーと同等以上の活躍をすることもある。
そんな異星人プレイヤーでもとても有名な、サポートセンター火星支部長〝龍皇〟の妻となればまた良く知っている。支部長補佐の役に就く〝龍妃〟とはこの人のことだから。
「あの……応援に来てくれたんですか!?」
太郎君たちが応援要請しただけで有名な、それこそトップクラスの人が二人も本当に来てくれるってことは、それくらい危険なことなんだ……。
「あぁ、ごめんなさい。不安にならなくても大丈夫です。聞いた話だと今回の〝星喰い〟は二年前に比べると、同じ〝神〟ランクでも明文化するならば、最上級と最下級くらいの差はあるとのことですし。それに……」
「それに〝あの子たち〟が三人がかりで、しかもアバターの能力を全開方でしょ? 一応要請されたから来ただけで私達はそれほど心配していないのよ」
レイラさんと弓奈さんが一切の不安も無しに言う。二年前を知っている人だから今回の状況に私達ほど危険を感じていないのか、それとも太郎君たちが信頼されているのか。そこまでを脳内で考えた時、疑問に思う。
「……あの、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ん~、そこまで堅苦しいとお姉さん、悲しいな。それで何かな?」
弥生の質問に弓奈さんは調子を崩さず応じる。その何も心配することなどないと態度で語るような弓奈さんの言葉に甘えることにしたのか、丁寧ではあるけれど先ほどよりも親密さを表に出した口調で問いかけた。
「弓奈さんたちは、あそこの鈴木君たち三人と顔見知りなんですか?」
その質問を受けた二人のトッププレイヤーは顔を見合わせてから、笑い出した!
な、何があったんだろう?
「あぁ、ごめんなさい。そう、知り合いだね。とても気心の知れた、本音を隠さず話せる大切な友です」
「そうね~。だからこそあの子たちのことはよく知っているし」
知っているという降りでなんでだろうか、ちょっと「むっ」としてしまった。それは弥生と夏海も同様だったらしく、弓奈さんは「あらあらまあまあ」とにやけ顔を右手を口元に挙げ隠してしまった。思わず赤面する。
「で、でもただの高校生ですよ? そんな三人にサポートセンターだって任せられるんですか?」
「大丈夫よぅ。あの子たちが魔王指定なのは知ってる?」
「知ってますけど……それはごく最近のことですよね? それにそれは密猟犯を捕まえたからって……」
過去に見たニュースの内容を思い出しながら告げる。
「あぁ、あれは面白かったね。A、B、Cって! いつまで経っても、どこまで行っても微妙な扱いを受けるのは変わらないって皆で笑ってたわぁ」
「大体あの子たちは不満に思ったりしてるけれど、半分は自分たちに原因があることに思い至っていないところが、また残念なところなのよね……」
レイラさんが困ったわと溜息。言われてみると、どこかちぐはぐなんだけど、それを言っちゃうと身もふたもないような……。
「でも、魔王指定は偶然なんかじゃない。寧ろ遅すぎたくらい。そもそも二年前の活躍を考えたら私達のように今頃サポートセンターからいろんな雑務を受けたり、直接雇われたりしてるはずなのに」
と、すこし顔を引き締める弓奈さんに続いてレイラさんも語る。内容はどちらも愚痴だったけど。
「そうね。大体いつもそうなのよ、あの子たち。面倒事に対する予感はもう予知よね。あの時も報酬につられずに、それを素直に受け取っちゃうとなんかめんどくさそうだって言ってその後の対応は私達に丸投げ。正当な扱いを受けたいっていつも言っていたのに、そのチャンズをそれだけの理由で手放すのだから、いざとなったらしっぺ返しくらい受ければいいのよ……あぁ、ごめんなさい。
とにかくいつもの姿とか見てると想像もつかないけれど、サポートセンターはふざけた理由〝だけ〟で魔王の名を与えたりしないの」
でも、ふざけてもいるんだ……。
「見ればわかるわ。二年前、月における対〝星喰い〟戦。六日目にやっと現れた彼らこそが、最後の二体――おそらくオスとメスの、その他六体の親だったのだろうけれど、惑星開拓事業の歴史上最も強大な危険生物を直接仕留めたんだから」
『――え?』
呆けてしまっても仕方がないと思う。一体どこまで己の自慢をひた隠しにしてるんだろう、太郎君。その事実を少し話すだけで、あっという間に学校中で知らない人は居なくなるだろうに……。
「まぁそれまでの戦闘である程度弱っていたこともあるけれど。それよりも聞いてくれる!? あの子たち最初から参加しなかった理由が、自分たちの持つ最強のインストールウエポンを解放する条件。それを大勢にみられるのが嫌だからって、こちらの残りが百人を切るまで応援に来なかったのよ!? 信じられる!?」
「でも、実際あれを見たときは皆あの子たちの正気を疑って、動きを止めてしまったわ。それで五人がやられてる事実を思えば……彼らの気持ちもよくわかる」
「……はぁ~。まぁね。どこか憎めないしね。だからあの時もあんな大事な場面でやってくれたものだとあとから皆で説教して、笑ったもんだわ。
――久しぶりね、彼らのあの姿は。二年ぶりに見せてもらいましょう〝シリアスブレイカー〟」
「やっとのことで魔王を名乗れるようになった。私達からすれば遅すぎるけれど魔王の初仕事をちゃんと見せてもらいましょう。あの子たちのいいところはどんな深刻な状況でも、空気を和らげることが出来ること。それはこの惑星開拓には一番大切な物かもしれないわ。
だからあなた達もよく見ていて」
そしてレイラさんと弓奈さんが私達の方へ向いて言う。
「あれが、どんな困難も、あらゆる危機も、誰もが俯く絶望もただの笑い話に変えてしまう真の魔王。形を表す言葉はいらない。飾り立てる言葉はいらない」
太郎君たちの称号は他の称号者達とは違い形容詞や修飾詞で区別されていない。ただA、B、Cとあとからとって付けられただけで……。
ただ、魔王。それは――
「区別する必要なんてなかった。誰もがただ魔王と呼ぶだけでそれが誰を指すのかわかるから。あとからとって付けたのは彼らのための区別。
A、B、C。最初期の魔物型アバター、まさに始原の魔王とも言うべきプレイヤーは今までも、これからもあの子たちだけでしょう」
その顔は正に友人を誇る、弓奈さんの不敵な表情。
同じく友を信じて疑わない、レイラさんのたおやかな表情。
空を見上げる二人につられて私達も視線をはるか彼方へ。そこには黒い点のように太郎君たちが見えた。
と、弓奈さんが立体スクリーンを私達の前に展開してくれる。そこにはあの〝星喰い〟と今から戦端を開こうとしている三人の姿がハッキリと映る。
「じゃあ、私達は観戦と行きましょうか」
「あぁ、ごめんなさい。不安に思ってたところ不謹慎だと思うかもしれないけれど、万が一にも危険はないでしょうからあなた達も大船に乗ったつもりで観ましょう」
レイラさんが横に一歩ずれて場所を開けてくれる。
いつの間にか近づいてきたのだろう、避難していた〝ターゲット・オブ・スズキタロウ〟の関係者たちだ。
「え~ポップコーンいかがっすか~?」
「さあさあ張った張った! オッズは今のところ……」
皆が本当に観戦気分になっているあたり、私達の高校には大物が多いのかもしれない。とにかく、このイベントもいよいよ最終局面だということはハッキリとした。
●×●×●×●×
『さぁ~って! なんだか予想外の展開になってきたこのイベントですけれど、実況は引き続き、この私! 立灯 怜と!!』
『解説は私、堂前が』
『この二人でお送りしまっす! 解説の堂前先生! この事態は一体どういうことなんでしょうか? 私、未だによく状況がつかめていません!』
『良いでしょう。同じようにまだ事態を把握していない生徒も多いでしょうから、疑問に答えるのも教師の役目です。
まず今回の舞台となったシャッテン海窟ですが、どうやら実行委員会の入手した情報に誤りがあったようです。最近発見された秘境ではなく、最近出現した魔境だということですね。たったこれだけで状況は変わってきます』
『どういうことでしょう? どっちにしろ探索することになるのですから違いはないのでは?』
『確かにそう思うのでしょうが、心構えの問題です。秘境となれば未知の危険性が潜んでいるのは当たり前、それなりの準備と覚悟を持って臨みます。
しかし魔境となればそれに加えて、既知の危険も考慮しなければなりません』
『――既知の危険、ですか?』
『そう。突然今までとは違う地形が現れるという現象の原因に、咄嗟に思いつくのはおそらく三つ。
一つ、自然現象である場合。それは未だに地球以外の惑星でそれほどの地殻変動は確認されていませんが、それでも私達は母星でそれを知っています。その恐ろしさも。
二つ、人為的な場合。それは犯罪の可能性すら考慮される。地形すら変える技術など数が限られる。何が目的なのかわからない以上一般人の手に負えるのかもわからない。
三つ、これが最も恐ろしい。地球外生命体による生命活動のただの余波。皆さんも目の前で目撃してお分かりかと思いますが、彼らの中にはただ生きるだけで大きな影響を惑星に与える種も存在するのです。
そんな種を多少ながらも既に私たち人は把握しています。そんな可能性があったんですねぇ』
『あったんですねぇってあんた……。とりあえず事態はその三つ目であったわけですね。そして現れたのがなんと〝星喰い〟! 二年前の〝月面ヤマタノオロチ討伐〟の危険種であったわけですが……はっきり言ってあの三人に任せて大丈夫なんでしょうか?』
『はいは~い! その心配についてはお姉さんがスバッと払拭しちゃうよ! 特別ゲストとして乱入します。星繰 弓奈です!』
『……特別ゲストストッパーのレイラです』
『お、おおぅ……。なんてカオス……』
『気にしない気にしない! さて、キミ達は魔物型アバターの特徴であるインストールウエポンに、いわゆる上位型というものが存在することは知っているかね?』
『上位型ですか? そんな区分があるんですか』
『あぁ、ごめんなさい。サポートセンターが正式に区別しているものではなく、プレイヤー達がそう呼称するに至る、誰が見ても圧倒的な能力を誇るものです。
特徴としてはアバターの姿が変わる。発動条件が必要になる。圧倒的でありながら、周囲の自然を破壊しないための一点集中型の攻撃力に特化した能力。それらを踏まえた自作プログラムのこと言うの』
『じ、自作ですかっ!?』
『そうよ~。人型アバターの神器と同じようなものね。そして彼らの上位型は私達が知る中でも強力な物。だから〝星喰い〟が相手でも心配いらないいらない!
唯一心配があるとすれば……』
『あるとすれば……』
『その起動条件が、ひどい』
『ひど……? ん? なんか妙な音が聞こえます』
『はじまったようね。
あぁ、ごめんなさい。先に謝っておくわ。今から始まるのは、何があっても、いついかなる時でも、必要な儀式。避けて通ることは許されない』
『いや、あの、どういう……?』
●×●×●×●×
「お前たちを生み出した、所業を成した人として責を負おう」
ローがまず初めの一句を言う。
「我らが科学の果てに生まれた汝らが、惑星に牙剥くならば応えよう」
キタちゃんが続く。
「我らは惑星を守るもの。自然の摂理を狂わせた咎を背負いし魔物なり」
そしておれが続く。海窟で叶たちが言ったように魔物型アバターのプレイヤーにも心構えの言葉がある。叶たちに倣って言ってみるのもいいと思ったんだ。
『だから許しは請わない。しかし約束しよう。我らが業のその果てに、汝らという命があったという証は遺すと。然らば疾く滅びるがいい。惑星は汝らの存在を許容できぬ。その身勝手さを貫き通す我らこそが――魔王なり』
それはあまりに傲慢な、人からの死刑宣告。
自然を守るために、勝手に自然を造り上げた者たちが、その果てに――どのような生態であれ――誕生した命を認めずに滅ぼすという身勝手な振る舞い。
まさに暴虐を振るう中世の王か。それはそうだ。
過酷な自然に怯まず、勇敢な意思で切り拓く。己が都合で人のために自然を駆逐しながらも突き進む先駆者たち。故に勇者。
過酷な自然の守護者でありながら、己が都合で自然の摂理を超えた秩序を振るう、過酷な環境に君臨する人工の王者。故に魔王。
だからこそ、今この場で出現した〝星喰い〟は人のテラフォーミングの果てに産まれながらも、人に存在を否定された生物だ。いまからその身勝手に殺される生物に、おれ達もプレイヤーとしての誇りを以て。
〝魔王〟として振る舞おう!
「……格好いいところ悪いんだけど、誰からやる?」
「……」
「……」
困ったことに、まだ準備が済んでいないんですね。いまから〝星喰い〟を討伐できるためにおれ達の持つ最強のインストールウエポンを使わなきゃならないんだが、起動プロセスがなぁ……。
「いや、悪かった。覚悟を決めよう。皆で一緒に」
「……そうだな。おれ達はいつも三人だったし」
「今回も三人で当たって砕けよう」
不吉な言葉を言うんでない! キタちゃん!
とりあえず始める。始まりの言葉はいつだって憂鬱に。
三人揃って左手で造ったチョキを、その指の間から左目で遠くを見通すように掲げる。
同時に流れるBGM。非常にポップなメロディーに合わせ、人外の容貌が三つ不気味に――もともとデフォルメされているため不気味というより気味悪い――笑顔を煌めかせて。
『いらりん☆レボリュ~ション!』
おれ達の身体を虹色のリボンが包み込んだ。その後に現れるのは光り輝く、元の人間の姿ですっぽんぽんの――大事なところはより光が強く見えません!――姿。再びリボンに包まれる。そしてそのリボンも解ければ今までとは違うアバターの姿。
最後の宣言。
『颯爽登場! 銀河微少年!!』
微は〝微妙〟の微です……。
●×●×●×●×
因みに彼らの眼下では、放送部のインタビューに十人中九人はこう答えたという。
「無駄に明るい笑顔がこの状況にイラッ☆とした」
「意外に逞しい体つきにイラッ☆とした」
また彼らの友人を自称する二名は、
「あれはただのアホだね」
「解放される能力が強力な分、余計イラッ☆とくる……」
と述べ、後の霧ケ峰高校史においてもっともイラッ☆ときたランキング一位に輝くことを彼らは知らない……。
●×●×●×●×
『システム〝通天角〟をインストール。アバターの形状を再構築します』
『システム〝烏魔〟をインストール。アバターの形状を再構築します』
『システム〝粘金〟をインストール。アバターの形状を再構築します』
公共の場で全裸になるという恥辱を乗り越えて今おれ達は、ひとつ大人になった……。
「とりあえず、先に逝くぜ」
字が違うぞ、キタちゃん。そのキタちゃんは今までのゴブリンとは違い、大きさこそは変わらないが白い外骨格と頭にある大きな一本角という、鎧を着こんだような姿になっている。そして宣言通り、その角を眼下の〝星喰い〟に向け、
「天を通すという名なのに、地上に向けて突進する日が来ようとは……」
その体にある隙間から取り込んだ空気を推進力に一気に突っ込んだ!
まさに隕石。一瞬にして目標を貫通し、その先の地面が音と伴に爆裂する。
『グジュッ!? グジュルラララァァァアラァァ!』
苦悶にのたうつ〝星喰い〟だが、容赦なくローが追撃する。
「さて、この穴があったら入りたい衝動をどうしてくれよう……」
その顔は長い鼻の代わりに黒いくちばしが付き出ている。背にある翼も光を呑み込むような黒。それは俗に言う烏天狗の姿だ。そんなローの周りに黒い靄が立ち込める。
疑似細菌型ナノマシン。それが集まってできたものだ。その能力は『分解』。あらゆる有機物を分解することにより自立駆動する科学の細菌を烏天狗が操る。
それをキタちゃんが空けた、腹の穴へと送り込んだ。
瞬間、今までのたうちまわっていた〝星喰い〟が動きを止めて倒れ伏す。すでにその身の中はボロボロだろう。内臓が今も現在進行で喰われている。
『――グジュジュウウウルウルルルルゥゥゥッゥゥ!』
しかし流石は〝神〟クラスだろう。その長大な身を躍らせて未だ宙に居るローとおれをその口で呑み込もうとする!
ローは飛んで躱すがおれは飛べない。しかし心配はしていない。たったあれだけの活躍で満足じゃないだろう、キタちゃん!
ずぼっ、という音と伴におれの横を白い砲弾が翔けていく。砲弾は正に天を衝く角を体現しながら、軌道上の邪魔者を無慈悲に貫いて行った。
『――』
最早何も唸ることなく地に伏す〝星喰い〟。
同時におれが地面に着地した。おれの姿は他の二人と違い特に変わっていない。強いて挙げるなら、すこし金色に輝いていることくらいだ。
液体金属であるこのアバターの特性を最大限に活かした、形状変化を常とした超合金の鋼。これがいまのおれの身体だ。右腕を振り上げる。
「許しは請わない。ただ科学の果てに産まれたその歪な進化については同情するよ。でも、だからこそ人はそこからは目を背けたい。この惑星開拓がここまで大規模な物ならなおさらだ。深刻な問題は、何の心配もなく今回もただ〝おれ達が意味も分からず全裸になった〟という笑い話で終わらせるさ」
ただ振り降ろした。
そして結果を見ることなく背を向ける。目の前にはローとキタちゃんが待っていた。
おれ達はその姿を元に戻しながら、歩く。
「なぁ気づいてたか? オレ達大型スクリーンで観戦されてたぜ……」
「俺達は今度から群体じゃなく変態になるのか……」
「それだけは回避するために努力しよう……今回もただ戦うだけなのになんで全裸になったんだという説教なんだろうよ……」
そんな諦めの境地のおれ達は一度振り返る。すると――
ザァッっと〝星喰い〟とその後方にあったシャッテン海窟の入り口が粉になった。
「……お前どんだけ細切れにしてんの、タロー?」
「……あいつが現れなければこんな展開じゃなく、もっとウフフキャハハな探索だったんだろうから、これくらいの八つ当たりはいいだろう?」
「相変わらず、人間性もちっさいな。とりあえず俺達の真面目な戦闘について説教をされる前にふざけていなかったことをどう説明しようか考えようぜ?」
インストールウエポンの設定はふざけてたんだけどね! 深刻な状況であんな言葉聞かされたら誰だってイラッ☆とするわ!
そんなおれ達を。
「タロー君、無事!?」
「いい体してたね、ロー君!」
「……ちょっとあとで話があるわ、キタちゃん」
何の誤解もなく「いや、俺だけ説教コースじゃね!?」迎えてくれる叶たちと。
その後ろで、いろいろと説明してくれただろう旧知の二人、説明を受け素直に歓声を上げてくれている同じ学校の生徒たちが、
『お帰りっ!』
人生で初めて家族以外にその挨拶を贈ってくれた。
驚きのあまり三人立ち止まり顔を見合わせたが、返す言葉は決まってる。
『ただいま!』
まだ少しの誤解はあるだろうけれど、今のようにいい方向に受け入れてもらえたのなら今回の「ターゲット・オブ・スズキタロウ」も良い出来事だったのかもしれない。
因みに〝星喰い〟退治の功績に本来の商品をおれ達が貰うことになったが、おれたちは既に魔王なのでこれはあとで叶たちにでもあげよう。
え? どうしてそんなことがもうわかるかって? 少し遠くに横断幕でそんな文字を見せつける無粋な放送部がいるからね。まずはあいつを引きずり落としておこう。
そう思い三人揃って走る。手厚い歓迎は受けるだろうが、そういうのも初めてなので楽しみだ。お返しに今回のイベントを煽ってくれた実行委員会をとっちめてやろう。
これにてこのイベントは終了です。長々と申し訳ありませんでした。
とりあえず楽しんでもらえたなら、うれしいです。
ご意見・ご感想、誤字脱字の報告など待っています。今後ともよろしくお願いします!




