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ACT:13  ターゲット・オブ・スズキタロウ その四

探索がメインではないつもりで書いているので、そちらはまたいつか別の話で。

とりあえず長らくお待たせしました。

最新話です。

 シャッテン海窟の入り口に降り立って最初に目に入ったのは、いきなり五つに分かれた道だった。

「……最深到達深度が十三メートルと言うのも頷けるような気がしてきた」

「奇遇ね、カナ。私は果たして無事に入り口まで帰ってくることが出来るのか心配になってきたわ……」

「なんだよぅ、叶っちも弥生も。マーレのガイドをもっと充てにすれば大丈夫とか思うでしょ?」

「が、頑張ります!」

 女性陣の半数がいきなり不安に襲われるスタート地点へと、伴に降り立つ群体〝スズキタロウ〟はただただ無言でありまする。

 いきなりここまで多数に道が枝分かれしていると、探索する方は堪ったものではない。マッピングや各種調査の手間を考えるとはっきり言って面倒くさい。しかも〝星鳴り〟の影響で本来のアバターの感知機能よりも遥かに制限されている現状なので、プレイヤーは恐ろしく神経を使う探索になるだろう。まず、どこに進むべきなのかわからないしね。

「マーレ。早速で悪いけれど頼むよ」

「了解。皆はとりあえずどういった道を行きたいの?」

 マーレのこの疑問にはキタちゃんが答えた。

「とにかく安全を優先して、生き物の反応が少ない道でいいんじゃないか?」

「そうだな。探索に神経を使いそうな分、ここの生物群との争いは出来るだけ避けた方が良さそうだ」

 ローの補足も聞いたマーレが一行の一番前へと進み出た。両腕を軽く広げ、瞼を降ろしゆっくりと息を吸い込む。そして吐き出すと同時に彼女の口から聞こえたのは、よく反響する澄んだ声。〝エコー・ソング〟だ。その反響を利用して自分たちの眼には届かない地形や生物の存在の情報などを収集する、エウロパ水棲人種〝セイレーン〟の探索技能である。彼女たちはおれ達地球人にはない感覚器官を持っており、地球人よりも多くの波長を聞くことが出来る。分かりやすく言えばイルカと同じような能力を持っているのだ。

 三十秒ほど細く澄んだ吐息が反響する。マーレが口を閉じてもその音はしばらく海窟内を反響しておれ達の耳に返る。その間誰も話さず物音ひとつ立てない。おれ達には聞こえない音の情報をマーレがセイレーン特有の感覚器官で捉えるために、ただ静かに待つのだ。やがて、

「……左から二番目は最も奥まで枝分かれせずに続いている道だけれど、いろんな生物がひしめいているからどんなベテランの人たちでも避けたほうがいいだろうね。

 一番生物の反応が少なかったのは一番右。だけど進む先は三つに更に枝分かれしてる。その先は更にその分岐地点で探らないと正確なことはわからないけれど多分三つとも行き止まり。

 残るは一番左と右から二番目だけど……」

 そこでマーレが言いよどむのでおれ達六人は皆で顔を見合わせて、代表して羽場下が聞いた。

「けど……?」

「一番左は生物の反応が一つだけなんだけど、返ってきた音からしてかなり大型。多分秘境の主クラス」

「ぬっ……!」

 羽場下が絶句する。

 秘境の主クラスとは地球外生命体にサポートセンターが付けたランクの一つである。上から順に〝主〟〝徘徊者〟〝潜伏者〟〝襲撃者〟の四ランク。それぞれの場所での生物ピラミッド順なのだがそれは大体身体の大きさとも準拠しているため、返ってきた音から生物の大きさを割り出したマーレはそう判断したのだろう。

 〝主〟はピラミッドの頂点に君臨する生物だ。大体肉食が多いので遭遇すれば十中八九戦闘になる。そして負ける。地球の生き物とは比べ物にならない地球外生物群の中でも群を抜いて恐ろしい奴らなのだ。

 〝徘徊者〟は〝主〟程ではないが注意すべき生物。その名の通り我が物顔で自分たちの生息地域を徘徊する生物である。それは天敵が少ないことを意味している。中型の肉食獣や大型の草食獣が大抵ここに分類される。

 〝潜伏者〟は中型~小型の草食獣、小型の肉食獣が分類される。ここは常に自然に紛れて活動する生物群。

 最後に〝襲撃者〟は虫などを主食とする極小の肉食獣や知能が著しく低い肉食獣。彼らはテリトリーに侵入されると、己の生物ピラミッドの最底辺の本能からか追い詰められた獣特有の凶暴さで襲い掛かってくる。因みに何故草食獣がピラミッドの最底辺ではないかと言うと彼らは肉食獣よりも知能が発達している傾向が強く、同じ大きさの肉食獣が一対一なら周りの地形などを利用した罠にかけて場合によっては絶命にまで至らしてしまうからだ。あと極小とか虫が主食とか言っているけれど、忘れちゃならない。こいつら地球外生命体なので普通に二~三メートルであっても〝襲撃者〟クラスだったりするのだ。地球外移民プロジェクトの困難さが察してもらえるだろう。

「どうやら反応からして幾つかのパーティーは戦闘をした形跡があるわ」

「そんなこともわかるの?」

「ナツミン、アバターは壊れたら残骸が残るでしょう? その反響音が結構多く返ってきたわ」

「……それって既に脱落者出てるってことじゃん」

 ローの言うとおりだ。どうやら一番左は最も避けるべき道に決定だな。

「で、残る右から二番目はどうなんだ?」

 おれがマーレにそう尋ねる。マーレはこちらを向いて何か逡巡するように……いや何か腑に落ちないというような感じだな。

「う~ん……なんかよくわからないんだけど、多くのプレイヤーが奥の方で待機してるのかな? 待ち伏せじゃないよね? このイベントって一応探索深度を競うモノでしょ?」

 ごめん……どう考えても待ち伏せとしか思えない。このイベントの名前からして、主だった顔ぶれたちのターゲットは「スズキタロウ」ですので……。いや、ここでこんなイベントを行うことに奴らにとってどんなメリットがあったのだろうか? しかしプレイヤーならばそう大きな問題でもないだろう。

「じゃあ私達が選ぶ道は右側の二つの内、どちらかということね」

「シンプルに枝分かれが少なく、緊急時に脱出が容易な右から二番目でいいんじゃないか? 最初に上代が提案したように、素直に到達深度だけを今回は重視してその他細かい部分はまた機会があるときか、俺達じゃない他のプレイヤーが探索するだろうさ」

 キタちゃんがそう締めくくり、おれ達のパーティーの最初の採るべき進路が決まる。先頭を上代とキタちゃん、その後ろに南野、ロー、マーレ、最後尾に羽場下とおれと言う順番で緩やかに降る道へと踏み出した。


 ●×●×●×●×


 蝙蝠のような皮膜による翼をはためかせる音がする。本来ならば光の差し込まぬこの海窟では何も見えないが、アバターの機能には暗視機能も含まれる。まぁ今は普通に明かりをつけて進んでるんだけどね。そのおれの視界に映るのは一メートルには少し満たないだろう、紫色の体毛、目が退化して鼻と口しか見当たらない顔、そして口から延びる鋭い針のような管。ランク〝襲撃者〟の生き物が十匹は居るだろう。鋭い鉤爪で天井にところどころ隆起する岩を掴んで逆さ吊りにこちらに体を向けている。

 先に進んだ奴らの戦闘の痕跡が見当たらないあたり、うちの学校の奴らも無駄な接触は避けられるほどの腕は持っていたらしい。

「どうしようか? 私達もできるだけ接触は避けて進んだ方がいいのかな?」

 羽場下がそう提案してくるが、おれ達の考えは少し違った。

「いや、駆逐していこう。見た感じ、あれ害獣指定されているやつだから放っておくと後々現地の人たちに襲い掛かる可能性も出てくるよ」

 おれ達魔物型アバターには人型アバターの討伐と似たような活動の一環として駆逐というものがある。サポートセンターが至急討伐の必要があると判断した生物以外にも、数多く繁殖し安全の確保に至るまでの駆除が必要だと判断した生物群だ。特徴として討伐指定は〝主〟や〝徘徊者〟が多いのに対して害獣指定は〝潜伏者〟や〝襲撃者〟ランクの生物が殆どだ。

「殲滅戦?」

 一歩前に踏み出して、さらっと勇ましいことをおっしゃる先頭の上代さん……ヤダ、格好いい……。

「タロー?」

「殲滅で行こう。サポートセンターにあの生物の映像を転送して情報と駆逐許可、キタちゃん?」

「おう。今返事が来たよ。名称は〝ブラッド・バット〟。あの口から延びる管で他の生物の体液を吸い尽くすD級害獣。討伐許可、〝シャッテン海窟〟限定で殲滅許可も下りたぞ」

 いくら害獣指定と言ってもやりすぎると自然のバランスを崩すことになる。地球でも同じように狼を狩り尽くして、天敵のいなくなったシカなどが増加し農作物に被害が出るなど人の生活にも影響が出ているのだ。同じ轍を踏まないようにいくら害獣と言っても不必要な〝虐殺〟を抑える役割も担っている、サポートセンター。何から何まで大変だね、全く。

 その時、涼やかな音が耳に入った。

 上代が腰に佩いていた太刀を抜き放っている。人型アバターのプレイヤーがこのプロジェクトに求める要素の一つ、ファンタジー世界の住人の格好よさの再現がそこにはあった。

 正眼に構えて、摺り足で害獣たちの前へとなんの気負いもなく進む。

 上代の接近に気が付いたブラット・バットの群れが甲高い鳴き声とともに彼女へと殺到する。上代のすぐ後ろに控えていたキタちゃんが咄嗟に一歩踏み込んだ――。

 おれの眼に銀光が翻る。

『グシュッ!』

 歪な鳴き声とともに地へと堕ちる、身体が幾つかに分断された地球外生物たちを捉えることが出来た。キタちゃんが目と口を大きく開けて呆けている。凄まじい戦闘能力だ。

 剣道で言う面から入り、小手、逆胴など、アバターの超人的身体能力を実現させる動作最適化システムを活かした連続打ち込み。

 呆けたままで反応のできないキタちゃんの脇を生き残りの四匹が抜けてくる。キタちゃん、今のお前は見事に役立たずです……。

 そいつらを迎え撃つのは第二の役立たずと化しているローを頭に乗せた南野だ。勢いよく前に飛び出した彼女は、両手を胸の前に構えている。そして南野と四匹が接触すると見えた時、南野が右拳を起点に右、左、右とコンビネーションで応戦する。

 パパパパン!

 子気味良い音。

 喀血して南野の脇を高度を下げながら通り抜け、墜落する蝙蝠。南野のアバターが備える波動システムによる衝撃で体内をズタズタにされているのだろう。

「おぉ……」

 おれもそのあまりの見事且つ短時間の戦闘に感嘆の息を溢してしまった。おれが第三の役立たずとなるのを待ち構えていたかのように今まで天井に張り付いたままだった最後の一匹が俺の直上から垂直に襲い掛かる。

 しまった! 身長が低いから常に頭上は気にしているのにこんな時に限って!

 言ってて悲しくなるよ……見下ろされる経験しかしたことのないおれの警戒心をすり抜けるとは、地球外生物ながら見事!

 などと、どうでもいいことを取り留めもなく考えているとおれの体がボトリと落ちる。羽場下がいつの間にかおれから手を離していた。

 頭上を見上げる羽場下を更に見上げるおれ。羽場下が背中に吊った鉈にも似た――余談だが聞いてみたところ〝呉鉤(ごこう)〟と呼ばれる山刀(ブッシュナイフ)だそうだ――その幅広の刃物を抜く。彼女のアバターは上代や南野のアバターとは違いシステム的な特徴は備えていない。

 羽場下が、勝気に微笑んだ。羽場下と関わってまだ間もないがいろんな表情をする人だと思う。その羽場下が右手に持った刃物を力の限り突き立て、海窟内に大きな金属音が鳴り響く。

『ギッ!?』

 光届かぬ場所に生息するブラット・バットは目が退化し聴覚器官が発達している。その特性を逆手に取った羽場下は、突進の勢いの鈍った蝙蝠へと次の行動へと移った。

 両手をウエストポーチへ、抜き出すのは指に挟んだ計六本のナイフ。それらがブラット・バットへと殺到。再び天井へと縫い付けた。

「流石ね、カナ」

「何言ってるの。弥生が一番退けているじゃない」

「いやいや、叶っちはアバターに何のシステム補助もないんだからやっぱりすごいよ。不良に絡まれたときはチワワみたいに震える様がかわいかったのに……」

「う、うるさいなぁ! そんなことを言うなら夏海なんて部活は柔道なのに投げ技とかよりも打撃技で戦った方が強いってどういうことよ!? 毎回のことだけどあっきれた!」

「それは夏海の家はお父さんが開祖の、サポートセンターがプレイヤーに推薦する近代実践武術本山だから……一人娘の腕は推して知るべしでしょう、カナ?」

 そんな地球産の少女たちの圧倒的な実力に驚いたのはここエウロパ産の少女マーレである。

「み、皆さんすごいです! ブラット・バットの群れをこんな短時間でやっつけちゃうなんて! はぁ~。地球の人はやっぱりすごいな~」

 さて、少女たちの活気とは別に〝緊急スズキタロウ首脳会談〟は大荒れである。

『キタちゃん、お前先頭に居ながらあそこまで呆けるとはプレイヤーとしてどうかと思うぞ』

『そう言うローだって南野の頭の上で傍観してただけじゃん!』

『まぁ落ち着け。役立たず~ズ。今回はおれも含めて皆行動するどころか、羽場下たちに見惚れてしまった。次回同じ轍を踏まないためには原因を探り対処する必要がある。さぁお前ら……原因は?』

『上代さんに痺れる憧れる』

『南野が元気ハツラツ』

『羽場下のカッコ良さに乾杯』

 所詮、魔王認定とはいっても高校生の男子の思考の域を出ないおれ達である。美少女と言ってもいい彼女たちが颯爽と戦うさまは正にヴァルキリー。映像を保存していなかったのが悔やまれる。

 と、そこで今まで大いに騒いでいた羽場下たちが話をやめ周囲を見渡した。なんだろう? 安全の確認でもしているのか。

「あなた達の命を奪ったことは、詫びましょう」

 上代が、

「でも、私達人間も未来ためにこの星を拓いていかなくちゃいけない」

 南野が、

「テラフォーミングが原因で生まれ、また私達の手で駆除されるなんて身勝手だけれど」

 羽場下が、

『だから身勝手ついでに、どうか安らかに眠れることを祈ります。これが人という傲慢な種の業なれば。せめていつかこの星を、あなた達の生命(いのち)が不当に脅かされることの無いものにすることを約束しましょう』

 瞑目した。

 その言葉はサポートセンターが人型アバターを使うプレイヤーへと、惑星開拓を始めるにあたって初めに教える心構えだ。多くの地球外生物を討伐や駆除という形で葬ることになる彼らに、ゲーム感覚で〝生命〟を奪うことを戒めるために。娯楽の要素もあるとは言ってもこの星の生物たちにとっては一生涯を奪われるのだ。

大切なのはその覚悟を背負うこと。

 これは歴とした現実なのだから。

 人と生物。己の未来を賭けた闘争の、その後に。冒しがたい静謐な時間が存在した。

「……オレあの言葉を戦闘後に言ってるプレイヤーって初めて見た」

「俺もだ、ロー。俺達はこれを現実世界のものであることを忘れちゃならない。そんなことを改めて思い知ったよ」

「だな。娯楽小説などではゲームの世界に閉じ込められるとかよくあったけど、おれ達は身の安全を確保したうえで故郷ではない星を拓いている。加害者はおれ達地球人。分をわきまえることも大切なんだな」

 こんな大切なことを心に刻んでくれるとは、この〝ターゲット・オブ・スズキタロウ〟も捨てたものじゃなかったな。既に散って行ったブラット・バットたちの冥福を祈り、その命を安らぎある場へと導くような羽場下たちの姿は、より一層とヴァルキリーをおれ達の脳裏へと思い起こさせた。

 こちらに振り向いた彼女たちの顔は、今までで一番きれいに見えた。


 ●×●×●×●×


 そんな風にしんみりとした空気も経験しながら進み、おれ達は少し開けた円形の場所に出た。そこにはマーレが事前に〝エコー・ソング〟で探った通り、数人のプレイヤーが待ち受けていた。

「来たか、モブ風情。名前も碌に覚えられていないくせに現地人も含めた女子たちとパーティを組むとはますます許せんな……」

「あんたたちが起こした騒動のおかげで自分たちの恋が叶わないことだと思い知る……イケメンは共有財産にするべきだわ」

「あら、共有財産とは私達のような選ばれた人間が楽しむためのものを指すのよ。その頑張りが私達の娯楽となる〝スズキタロウ〟のように、ね」

「ふっ。女性が悲しむ顔を引き起こすことは罪だね、キミ達。そんな今回の騒動を起こした身の程知らずを裁くために一肌脱ぐことにしたよ」

 最初に口を開いたのはおれ達から見て一番右に居る〝マスター・オブ・ジェントルマン〟氷室 礼二。

 その隣にいる〝オン・ザ・ボーダーライン〟中山津 紫穂。

 そしておなじみ〝リミットブレイク・ビューティフル〟鬼怒川 茜。

 最後の気障ったらしい男は〝ナチュラル・ボーン・ナイスガイ〟元川 輝樹。

「……いや、なんでこんなところで待ち伏せなんかしてるんだよ、お前ら? このイベントのルールじゃ勝利するには誰よりも奥深くまで探索しなきゃいけないんだぜ?」

 おれの当然の疑問に返ってきたのはこれまた予想通りの答えだった。

「イベント名が〝ターゲット・オブ・スズキタロウ〟なんだ。俺たちが狙うのは当然お前らしかない。それに探索は他のメンバーに任せている」

「そこの紳士を気取るバカが言ったように、あなた達への嫌がらせしか眼中にないの。まぁ〝魔法使いの夜会〟は全力であなた達の勝利を阻止するために真っ先に奥へと行ったけど。教え子への嫉妬心もあそこまで行くと、脱帽よね……」

 嫌がらせって言っちゃったよ! それに全力で阻止って! 少し女子と仲良くする男子生徒にそこまで行動するって、ほんとに教師か!? ダン〇ルドアァ……。

「あら、世の中に溢れる一般市民風情が私の〝所有物〟に手を出すの? これだから〝魔法使い〟予備軍は……」

「……だから妬むんだろ」

「そうよ! これでも必死に理想を追い求めてるの!」

 鬼怒川の言葉に氷室と中山津が言い返す。どうでもいいけどいくら〝群体〟扱いで鍛えられた度量と宇宙のごとき広い心を持つおれ達もうんざりしてきた。

「ふむ。とりあえずボクたちはそれぞれキミたちを狙う必要があるというわけだね。申し訳ないんだけど男には一切の容赦をしない性質でね。ここでその貧相な魔物型アバターは破損ペナルティを受けてもらおう」

 元川が腰の長剣を、これまた無駄にカッコよく抜き放つ。どんな動作も画になるイケメンめぇ……。おれ達と同じ視線を氷室が向けている。同類だな。

「お前らと仲良くする気はない」

 へこむ……。中山津はうっとりしているがあれのどこがいいんだろう?

「顔」

 面食いですね、わかります。将来ヒモに取りつかれないように老婆心ながら祈っておこう。

 どうやら鬼怒川を除く三人はここでおれ達を痛めつけ身の程を弁えさせることで、今までのように群衆に埋もれたモブ達に更に埋もれた〝スズキタロウ〟に戻れと言うことらしい。目立たないどころか認識すらされていなかった超ぽっと出のおれ達に嫉妬心やいら立ちを抱くんだろう。元川は少し違うが。

 鬼怒川は単におれ達の頑張りを娯楽として捉えているようだ。手元に置いて無理難題を言いつけられる未来が幻視された……嫌だ。こんな学校生活……。

「ただの逆恨みじゃん!!」

「だからどうした!!(血涙)」

「私達以下のモブだったくせに、恵まれちゃって! 私だってイケメンで品行方正で(中略)パーフェクトな男といちゃいちゃしたいっ!!(心の叫び)」

「私達は違うわよ? ただ楽しませてほしいだけなの」

「女性がキミ達を悪だというのなら、悪。女性の言葉は絶対だからね」

 彼らの後ろからそれぞれの派閥であろう集団がぞろぞろと出てきた。普通、ここまでする? 皆他人の幸福に対してとってもシビアなんですね……。

「タロー、ここまで来たら闘るしかないぜ?」

「ローの言うとおりだよ。幸い装備は整えてきてるし……」

「……仕方ない、か。だからこんな形で目立ちたくなかったんだよ」

 おれ達も向かってくる相手に身構えて戦闘をする意志を固めた瞬間、

「え?」

「あれ?」

「お?」

 間抜けな声とともに先頭の三人のプレイヤーがアバターを破壊されて強制的にコネクト・アウトされた。

「……言いたいことは、それだけ?」

「は、羽場下さん……?」

 おれの声が聞こえていないかのように、一歩前へと出る。上代と南野も続いた。

「私達が鈴木君たちに近づいたことが不満? そんなに不可解? そう思うなら私達に直接聞きに来ればいい。鈴木君たちに手を出すなんてどこまで性根が曲がってるのあなた達」

 いつもの羽場下では絶対に見られない表情と、絶対に聞くことの無いだろう辛辣な言葉だった。後ろ姿からして怒気が見えるような迫力です……。

「あなた達は恵まれた立場だから私達の気持ちはわからないでしょう? 悔しいけれど敵わないと思うようなことはある? 誰かに憧れる気持ちは?」

「中山津さんだっけ。一つ言わしてもらうけれど、その気持ちを抱くなと言ってるんじゃないの。ただそう思うなら他人を蹴落とす努力じゃなくて自分を磨く努力をしたらどう?

 少なくとも今あなた達が〝スズキタロウ〟と言って見下している鈴木君たちは現実にめげずにちゃんと努力してるわよ?」

「勉強はできるわけでもないし、スポーツだってある程度できるけれど部活にも入っていないじゃない。そりゃあ、彼らに当たるのは筋違いでしょうけれど……」

「どうして俺じゃなくてあいつが……そう思うような人間にしか見えない。そうじゃないと言うなら何か納得できる実力を見してくれよ。認識すらしていない奴に、先を越されるっていう屈辱は相当なものなんだからな」

 うん。自分で言うのもなんだけどおれがあいつらの立場でも同じような行動に出ていた自信がある。だからおれ達もただのバカ騒ぎだと思っていたんだが、どうやら羽場下はそう思っていなかったらしく大層ご立腹だった。

「少し前に学校で話題になった魔王認定者。彼ら三人がそうよ。誰かにここまで大きな評価を貰えるほどの活躍をしたことある人はいる? 勉強でもスポーツでもいいわ」

 ざわめきとともに決まり悪げに目を逸らす〝紳士〟と〝淑女〟。

「そしてあなた達もよ、鬼怒川さんに元川君。自分たちが優秀だからって他人を見下すことが許されることなんてないの」

 羽場下が背中の武器を抜き放つ。

 上代が腰の刀を構える。

 南野が両手を胸に持ち上げる。

「あなた達、勘違いしてるようだから言っておくけれど」

 そしておれ達は、短い人生の中でも最もうれしい言葉を聞くことになる。

「このイベントで標的を〝スズキタロウ〟に定めているのはあなた達だけじゃない」

 氷室が、中山津が、鬼怒川が、元川が、この場にいる誰もが羽場下の言葉を固唾を呑んで聞いていた。


「私達も仲良くなるために〝スズキタロウ〟に目標を定めてる」


「おれ、もう死んでもいい?」

「タロー死ぬなっ! オレ達の青春はこれからだぞっ!!」

「そうだっ! 俺達の悲願はまだこの先だろう!?」

 流石に誰も予想していなかった羽場下のセリフに沸き立つ海窟。おれ達もここまで好印象を抱かれたのは家族や〝スズキタロウ〟以外ではなかったので、嬉しさのあまり脱力してしまう。

「少なくとも今まで会ったどんな男子よりも、あなた達よりも鈴木君たちの方が魅力的。一緒に居ると楽しい。だからもっと仲良くなりたい。これで納得してもらえる? 出来ないって言うなら相手になるわ」

 羽場下が一歩踏み出した。

「その性根叩きなおしてあげる」

「う、うわあぁぁぁん!」

 〝紳士〟が悔しさのあまり、泣きながら突撃してきて、

「恵まれているスズキタロウが羨ましい……!」

 〝淑女〟が羨望を噛みしめてそれに続き、

「私達の性根を叩きなおすですって……!?」

 〝令嬢〟がプライドを刺激され怒気も露わに、

「キミ達ほどの美少女を彼らのような輩に取られたくはないんだっ!」

 〝貴公子〟が嫉妬を滲ませて武器を構える。

 こうして〝ターゲット・オブ・スズキタロウ〟でそれぞれの思惑をぶつけ合う状況へと事態は推移した。モブと美少女、その組み合わせが納得できない霧ケ峰高校によるバカ騒ぎの終焉は近づいていた。


 ●×●×●×●×


「……終わった?」

「あ~、つかれたっ!」

「久しぶりに大暴れしたから、すっきりしたね」

 たった三人の女性プレイヤーの前に死屍累々と転がる多くのアバター。

「全く。納得できないって理由でここまでの騒ぎを起こすなんて。校内の派閥は知っていたけどここまでバカだとは思わなかったわ。交友関係にまで口出ししないでほしいよ」

 羽場下たちがいつものように会話しているが、おれ達は後ろで固まっている。声を出すことすらも出来ないくらい緊張しているのだ。

『タロー……。あそこまで圧倒的ってどう思う?』

『ここまで好印象なことは身に余る光栄、だけど……』

『ちょっと、怒らせたらどうなるかっていうのを目の当たりにしたよね……』

 そうなのだ。羽場下たちを助けようと思っていた当初の予想を裏切って彼女たちは圧倒的なまでに相手を叩きのめした。見る人が見れば凛々しいその姿はしかし、ある種の恐怖も抱かせるもので……

「さて、鈴木君?」

「はひっ!?」

「さっきも言ったけれど、私達鈴木君たちともっと仲良くなりたいんだ。あ~、ちょっと思い出したら恥ずかしくなってきた……。とにかくっ!!」

「うおっ!?」

 いきなりの大声に驚いた。顔が真っ赤だよ、羽場下。

「前に不良に助けられた時から意識しだして、月の課外実習で一緒に行動してみて気が合うのかなって思った。もっと仲良くなりたいなって思った。だから……」

 羽場下が右手を差し出してきた。

「これから、よろしくっ!」

「あ、うん。よろしく? 羽場下」

「……()でもいいんだよ? タロー(・・・)?」

 急にイタズラっぽい顔になってそう言うんだから堪らない。おれの心臓がどくんと脈打つのがわかる。

「邪魔者も居なくなったし探索を続けようか? キタちゃん(・・・・・)?」

「仲良くなるってことの第一歩は呼び方だよね、ロー君」

「いや南野は最初からそう呼んでたじゃん」

「だから、夏海(・・)って呼んでね?」

 このイベントでターゲットされたおれ達は間違いなくこの瞬間羽場下たちに撃ち抜かれたんだと思う。

 ハートを、ね。


次回でこのイベントを終わらせられるか、不安になってきた。


感想や誤字報告など待っています。今後ともよろしくお願いします!

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