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ACT:11  ターゲット・オブ・スズキタロウ その二

大変長らくお待たせしました。

そういえば一度だけジャンル別「SF」の週間ランキングにこの作品がありました。


ありがとうございました。また載れるといいですね! 祝! 総合50Pt!

 木星第二衛星「エウロパ」。そこは地球外移民プロジェクトによるテラフォーミングにより、火星に次ぐ「水の惑星」と化した星である。

 つまり、何が言いたいのかと言うと……

「海だな」

「あぁ、海だよな」

「そうだな。海で間違いないな」

 おれ達チーム・スズキタロウはどこを見渡しても、蒼一色に染まる光景に呑まれていた。いや、蒼一色に見える光景に混じって武骨に感じられる岩が突き出している。

「あれさぁ、どう見ても井戸にしか見えないんだけど……」

「だが、あんな凹凸がハッキリとした人工物なんて無いだろうし、やっぱり自然の物なんだろうと思うよ、ロー。タローはどう思う?」

「……思い浮かぶのは、有名な某土管工のオッサンだな。赤と緑の」

「……オレ達まだ高校生なんだから……」

 遅まきながら、こんにちは。イッツ・ミー・ス~ズ~キ~。

 昼休みに任務を失敗したおれ達は、休み時間一杯を軟禁されながら食事するという本来の予定とは、あまりにも掛け離れた時間を過ごす羽目になった。

 そしてそのままコネクト・インを強要され、エウロパ内の最近発見されたという「シャッテン海窟」の前に居る。

 さて、シャッテン海窟がどういった場所なのかはまだ詳しくは解明されていない。故に、ここを探索し、より大きな成果を持ち帰るという勝負が成り立つわけだが……。

 海窟と言うだけあって海に存在する洞窟のようなもので、先ほどのローの言葉からもわかるとおり、空に向かって穴を晒した地下潜行型の洞窟だ。入り口の半径は目測でおよそ二メートル。現在公式に記録されている到達深度は地下十三メートル。今のところは特に際立った情報は何も収集されておらず、これから本格的な調査が始められる場所である。

「俺さぁ、探索とかいうとアレ、思い出すんだけど……」

「あー、火星の海底都市〝竜宮城〟か?」

「そうそう。あそこの入り口もさ、こんな感じの潜行型だったじゃん。最悪なのはあそこで初めて俺達目を付けられたんだよね……」

「……キングダムのトップスリー、その一角。〝月の射撃神話〟な」

「……あの女とは二度と闘りたくない……。しかも〝竜宮城〟は火星人の巣窟だったしよ」

 地球外移民プロジェクトによるテラフォーミングのおかげ(?)で生物の進化が凄まじくなったことは、周知の事実だ。そして人類がちょくちょくそれを手助けしたことで、通常では考えられないほど短期間で高度な進化を遂げた。

 そう。「人類」という種族に、新たな分類が必要になったほどに。

 地球の人類は俗に「ヒューマン」。これはただの英語なので誰だって人間だとわかる。

 そして火星の人間は「マーマン」。これもすぐに想像が付くだろう。火星はここ、エウロパと同じように、水に満ち溢れた惑星だ。当然進化する生物の身体も水を考慮した環境に適応することとなった。火星の知的生命である「マーマン」も例外ではない。

 ぱっと見の身体的特徴は、おれ達「ヒューマン」と特に変わりない二足歩行で手足の数も同じだ。ただ、肌の至る所に水圧に耐えるためだと考えられている鱗のような「外殻」と水中での移動のために必要なヒレを手足の指の間に、そしてなんと尻尾が生えたように「尾びれ」を有した、何世紀か前に中高生向けのメディアで登場したような「竜人」のような外見をしている。

 そして「竜宮城」とはその「マーマン」が海底に築いた巨大都市。今は意志の疎通も出来ており友好な種族であるが、おれ達があの場所を訪れた時は、中々にデンジャラスな都市だった。

「……文化的な特徴からして戦闘民族なんだよな、マーマン……。過酷な水中という環境下で生き残るためにはその戦闘能力も必要だったんだろうけど……」

 ローの呟きにうんうんとキタちゃんが乗る。

「あれは、俺達もアバターの破損を覚悟したよな。俺達、探索は主な活動じゃなかったのに、あの女に無理やり連れてかれて……海底都市ではほぼ全住人と大立ち回り。なんであんなことになったんだっけ?」

「おれ達のアバタータイプがあまりにもユーザーが少なすぎたために、あの女が未確認の生物と勘違いして襲い掛かってきたのが始まりだ……。最終的な逃げ道があの入口しかなくて、飛び込んだ先は戦闘民族の巨大都市。決して連れていかれたわけじゃないぞ、キタちゃん?」

 ローも思い出したように語る。

「そうそう。だからもう戦うしか打開する術が無かったんだよ! 挙句の果てにあのインストールウエポンを使う羽目に……」

 その言葉におれ達三人はそろって俯いた。あれは黒歴史と言ってもいいだろう。ローの言った「あのインストールウエポン」なるものは、おれ達が持つ物の中でも最強クラスの恩恵をアバターに与えるんだが、その起動条件があまりに非道い。

「……二度と〝覚醒〟は使うまい……」

「あっ! 居た! お~い、鈴木君、鈴北君、珠洲君!」

 そんなときに、おれ達を呼ぶ声が聞こえたので三人揃って声の方へと振り向いた。おれ達を呼んだ張本人たちも三人連れのようでこちらへと小走りでやってくる。

「あ、羽場下達じゃん……」

「今、思い出したけど昼は連絡もせずに放ったらかしにしちゃってたよね……」

「言われてみれば……怒ってるかな?」

 せっかくのお誘いを無断でキャンセルしてしまったので心配するおれ達であったが、それはどうやら杞憂のようだということがこの後の羽場下たちとの会話でわかった。

「鈴木君たち昼休みは大丈夫だった?」

「今回はこちらにも非があったかもね。普通に生活していると自分たちが良く悪くも校内で注目されていることを忘れてしまうね」

 まぁ、まさかこんな事態になるとは誰も思わないでしょう……。

「とにかく無事でよかったよねぇ。キミら、このイベントでいい結果を残さないと今後の学校生活に大きな支障が出ちゃうんでしょ?」

 南野が聞いてくる。どうでもいいけどこの娘、いつも「にへらっ」とした表情なのでこちらも緊張感が削がれる。

「いや、支障どころじゃないでしょ。自由に扱う権利って奴隷みたいじゃん。今の世の中でそんなことがまかり通ることがおかしいよね」

「そこはうちの学校だからねぇ」

 南野さん、そこは許容してしまったらいけないところですよ?

 羽場下たち三人はこのイベントにかなり力を入れ込んでいるのか、アバターの装備も中々に整えてきている。

 前回の月での課外実習の時は、羽場下は見学状態だったので人型である以外どのようなアバタータイプなのかは詳しくわからなかった。

 今回の羽場下の格好は身軽さを重視したもので、黒の半袖のインナーの上に肩までのシャツ、ホットバンツの下は脚全体をタイツのような黒の防護布が覆い、ブーツを履いている。腰に二本の短剣とウエストポーチ、背中には鉈にも見える武骨な片手剣。驚いた、レンジャー系だということは「万能型」だ。

「羽場下は結構評価高いのかもね……」

 キタちゃんの言うことはおれも思ったことだ。万能型は古参のプレイヤーが好むスタイルで、特に決まった装備を持たない。あらゆる状況を想定した道具をその都度変更しながら探索するスタイルだ。デメリットとしてはアバターには特にシステム的な補助が無いこと、携帯性を重視した装備を持ち歩くプレイヤーがほとんどなため、プレイヤー自身にかなりの技能が無ければ決定力に欠ける。メリットはその装備の多様性から探索・討伐・調査・保護活動まで多岐にわたって活躍できることだ。

 羽場下が万能型であるということは、装備自体に決定力が欠けていても己の技能で補えるという自信があるということである。

 上代の格好はハイネックの長袖の上にゆったりとした、単衣をイメージした上着を羽織って、下半身はふくらはぎまでを覆う、スカート状の衣類を穿いている。色気を感じさせるスリットの入ったものでその下にはストッキングとロングブーツ。しかしそれらよりも強烈な存在感を放つものが、腰に一振り。あれは、え~、日本刀ですね。

 俗に言う「特化型」のアバターだ。専用装備しか持たないので戦闘以外では中々結果を出せないが、戦闘になれば圧倒的な成果を叩きだす。

「……攻撃特化型ですよ? 怒らせたら死にますからね、キタちゃんさん?」

「……なぜ俺に振るのか是非聞かせてほしいんだが。ローさん」

 かつて隆盛を極めたオンラインゲームのジョブのような恰好をしたアバターの中でも、「侍」「騎士」「弓兵・銃士」などを想い起こさせるアバターを操るプレイヤーは、主に討伐を生業としているというのが地球外移民プロジェクト参加者の共通認識である。彼らのアバターはシステム的に「動作最適化システム」を実装し、専用装備が充実している。

 個人でサポートセンターが危険種認定をした地球外生物を狩る彼らの戦闘力は、プレイヤーの中でも頭一つ抜けている。

 つまり上代のプレイヤーとしての戦闘能力はいつ称号持ちになってもおかしくないだろうと考えられる。判断材料は戦闘能力だけではないのだけれど。

 そして南野は二の腕と腹を剥き出しにした、胸の部分だけを覆うタンクトップだろうか。下は全体的にゆったりとしたズボンを穿いて腰には布を巻いている。脛までを覆う脚甲。上代とはまた違うゲームキャラクターを彷彿させる。「汎用型」だ。

 汎用型は万能型ほどではないが活動の幅が広いタイプだ。戦闘はもちろん、探索、調査、なども適度にこなせるアバターを指す。南野のアバターはモンク系なので「波動システム」を内蔵したアバターだろう。味方のアバターを修繕できるという中々レアなアバターなのであれに至るまでにかなりの評価を得たのだろう。

 モンク系以外では魔術師系と言われる「音声干渉システム」を持つアバター、剣士系と言われる「補助線目視システム」を備えたもの、忍者・盗賊系に分類される「ステルスシステム」を実装したアバターなどがこれに当たる。

 他にも人型アバターについては多種多様が過ぎ、この分類には当てはまらない者が存在したりと思い出しきれないため、機会があればその都度記憶を検索することにして話を先に進めよう。

「このイベントでおれ達を捕えた集団よりも高評価を獲得できれば、今後の学校生活は何の憂いもなく過ごせるのだろうし、ここは真面目にやりますか」

『は~い! 皆さん、ただいま三時となりました! ここシャッテン海窟はこれより霧ケ峰高校に貸切で全校イベントを行います!

 ターゲット・オブ・スズキタロウという今回のイベント、学校内のそれぞれの派閥が主に私情で優勝を目指すものとなっております! 実況は私、立灯 怜がお送りいたします」

 放送部の案内がついにイベントの始まりを告げる旨を生徒たちに伝える。周りで話していた集団が、ぞろぞろと未開拓指定区域「シャッテン海窟」入り口に近づいてくるのが見える。

『今回の成績優秀者にはスズキタロウの扱いについての自由は特定の需要しか見込めないので、イベント名にも関わらずこちらはおまけとなりました』

 人の自由をおまけと言うな……。泣いちゃうぞ?

『そこでメインの特典といたしましては、食堂での一か月間フリーパスに加え地球外移民プロジェクトサポートセンター主催の第一八回勇者選抜試験の推薦をしてくれるそうで~す!』

 な、なんだと!?

 じつはプレイヤーの称号授与に関しては「勇者」と「魔王」では幾つかの違いがある。勇者が数多くの通称があることに対して、魔王は(頭や最後に形容詞などは付くが)一択なのもその一つである。

 そして授与方式も異なる。魔王はおれ達のようにある程度サポートセンターが認める活動をこなせば与えられるが、勇者は試験制だ。

 というのも人型アバターの数は魔物型アバターに比べると数が違いすぎるため同じように称号を与えてしまうと勇者認定プレイヤーが溢れてしまうのだ。なので惑星開拓にある程度貢献し、かつサポートセンターまたは他の勇者認定プレイヤー、公的機関などの推薦を貰ったプレイヤーがそこで初めて、称号を得るチャンスを掴める。

 この地球外移民プロジェクト、曲がりなりにも国際的な活動であるため称号というものは社会的に見てもかなり価値があるのだ。おれ達の魔王認定もニュースで報じられるあたり実はかなり名誉なことなんだが……誰も知らないですよね、ハイ。

「……なるほど。これだけの人数が集まるわけだね」

「カナもついでに試験の推薦狙ってるんじゃないの?」

「弥生は真面目っぽく言うから冗談に聞こえないよ~? 叶っちはそんなこと知らなかっただろうし。まぁ貰えるなら貰っとくけどね」

 と、羽場下たちも納得するように、たかが突発的な学校行事の褒賞としては破格のものである。

「この行事の主催者が誰だかわからないが、よくここまで奮発したもんだ……。おれたちの騒動を利用してなんか企んでんのか?」

 まぁ場所が場所だからこの褒賞自体は考えられないこともないが。

「え? 鈴木君はどうしてそう思うの?」

 羽場下は特に疑問に思っていないようなので、少しおれの考えを伝えておこう。

「いや、だっておれ達を襲撃した校内の集団はどこまで行ってもおれ達と同じ学生だぜ? あいつらに勇者認定試験の推薦なんかできるはずないだろ?」

「あ」

 どうやら気づいたらしい。南野が丸っこい目を更に丸くしてこちらに呟く。

「じゃあ誰が推薦なんかできるのさ?」

 当然の疑問だが学校行事と言うのだから責任者も決まっているだろう。ローとキタちゃんもそこまで感づいていたらしく、ローが答える。

「教師陣だろう。学校も公共の場ということに間違いないから、サポートセンターに推薦状を書くことはできる」

「でもこんなバカ騒ぎに先生たちまで参加するかな?」

 上代の言葉はごく普通の学生なら誰だって抱くものだが、忘れるなかれ。おれ達の在籍する学校を……。キタちゃんがローの言葉を引き継ぐ形で説明を続ける。

「昼休みの放送は聞いていたんだろ? その中にまだ俺達が遭遇していない集団が一つだけあるんだ……」

 〝紳士〟に始まり〝淑女〟が続いた騒動の中で〝審判〟のジャッジによりローが捕獲され、逃亡中の遣り取りで〝魔法使い〟とやらが不穏な動きを見せていることをキタちゃんが掴み、おれが〝貴公子〟と〝令嬢〟の参戦を直接身を以て知っている。

「この中で俺達三人ともが遭遇していない集団は……」

「……魔法使い、ね」

 上代がそう呟いた瞬間、再び放送部による実況が響いた。

 内容を聞くに、このイベント参加者の中でも有力候補を紹介するようだ。

『ではでは! 今回のピックアップ参加者達をご紹介しましょう! まずはこの方! 霧ケ峰高校最大派閥〝紳士の会〟会長!』

 シャッテン海窟の入り口横にいつの間にか「放送席」と銘打たれたブースが出現しており、その前方にちょっとしたお立ち台的なものが設置されている。

 その上におれ達も見覚えのある顔が……。どうでもいいけどこれ学校行事だよね? 妙に手慣れた進行なんだけれども。

『人呼んで〝マスター・オブ・ジェントルマン〟! 氷室(ひ~むろ~) 礼志(れ~い~じ~)!!』

 入り口近くに人垣を形作っている参加者達から「うおおおお!」という雄叫びが聞こえる。これまたどうでもいいけど、妙にノリがいいな……。妙に手慣れた合いの手なんだが。おれ達の感覚のほうがおかしいのか?

『続きましては、霧ケ峰高校女子の半数以上を束ねる、この女傑! 〝淑女の会〟第十一代目会長!! 〝オン・ザ・ボーダーライン〟! 中山津(なかや~まづ~) 紫穂(し~ほ~)!!』

 この実況、頭に「続きまして赤コーナー……」とか付きそうな煽り方だ……。

『三人目は今回もやはり登場! 全ての女子の頂点にして究極! 〝令嬢茶会〟取り纏め役のこのお方! 〝リミットブレイク・ビューティフル〟!! 鬼怒川(きぬがわ~) (あ~か~ね~)!!』

 やはりランキング一位は伊達じゃないのか、野太い歓声がエウロパに響き渡る。でも皆前屈み。女子の蔑みの視線がひどく目立つ……。

『女子の頂点が出るならば、男子の頂点だってもちろん出ます! 〝貴公子連合〟統領! あらゆる男子の恨みもなんのその!! レディファーストが己の美学!! 〝ナチュラル・ボーン・ナイスガイ〟!! 元川(もと~かわ~) 輝樹(て~るき~)!!』

 野太い大ブーイングと黄色い大歓声が喧しい。さわやかスマイルの男子人気ランキング第一位まで参加ですか、そうですか。

「事故ってのはイベントには付き物だよな、ロー……?」

「何を当たり前なことを言っているんだ、タロー? いつどこでだって事故は起こるんだぜ……? なぁ、キタちゃん」

「そうだ。事故ってのは何の前兆もなく起こるから恐ろしい……」

「……キミ達の会話だとどう捉えても事故じゃなく、事件になりそうだけど?」

 止めてくれるな、上代すぁん。イケメンは罪です。イケメンは、罪なんです。

「鈴木君たちだって結構ポイント高いと思うけど……」

 ぼそりと羽場下が呟いていたがまだ周りが騒いでいたためよく聞こえなかった。

 おれ達が〝貴公子連合闇討ち作戦〟を急ピッチで練り上げているところだったがまだ注目の参加者とやらが居たようで、実況の拡大されたよく通る声が幾度目か耳を打つ。

『そしてついにベールを脱いだのは、校内でも噂としてしか確認されなかった彼ら〝魔法使いの夜会〟! 実在した彼らの正体は私達もよく知る人たち……! 所属条件は三〇歳以上且つ、あることが未遂であること! 

そんな彼らの中でも更に別格! 御年五八歳! 我らが学長! 〝人生常時賢者時間〟!! 霧ケ峰 是光っ!!』

 おいおいおいおい……! 〝魔法使い〟ってそういうことかよ! 全校イベントでセクハラじゃねぇか、これ?

「……どんな条件なんだろうね? 未遂ってことは遅刻とか無断欠勤?」

「さぁ? でも三〇歳以上が条件で学長が代表ってことは、メンバーも教師陣だってことだと思うよ?」

「ふ~ん。なんかエリートっぽいねぇ」

 羽場下たちの交わす会話は薄汚れた耳に痛い。……いつまでも初心なあなた達でいてください。お願いします。

 とにかくこの行事の特典を用意したのは〝魔法使いの夜会〟に間違いないのだろうと思う。一体どんな目的があってここまで大がかりな行事に発展するようなことをしたのかまではわからないが……。

 というか、ギャラリーどもは「ダン〇ルドア! ダン〇ルドア!」とものすごく騒いでいる。その霧ケ峰高校のダン〇ルドアコールはやめろ。ベストセラー作品に謝りなさい。

 その後も何人かの注目プレイヤーの紹介が続いていく。

「でさ、このシャッテン洞窟ってのはどういったところなの? ロー君は知ってる?」

 ……ロー君? おれとキタちゃんが驚愕の表情で顔を見合わせている隣で南野とローの会話が続く。

「え? あ、オレ!?」

 いつの間にそこまでの親密度を築き上げたのかと思ったが、ローにとっても予想外であり不意打ちだったようだ。

「え、え~とシャッテン海窟は放送部の方からも聞いていると思うけれど最近発見されたばかりで最深部までの探索が済んでいない場所なんだ。

 で、エウロパは周りを見てわかるとおり水がほとんどの惑星だから当然海窟の中も水で満ちていると考えられていたんだけど……」

「そう言うってことは違ったってことかな?」

 上代も話に加わる。そこで実況席の方で海窟探査にスタートする順番を決めるくじを行う旨が告げられたので、パーティーで探索する者はパーティーのメンバーを報告に行かなければならない。

「話しながら行こっか?」

 羽場下の提案通りローの説明を皆で聞きながら実況ブースへと向かうおれ達。シャッテン海窟についてはおれとキタちゃんも、ローと同じ程度には知っているのでおれ達はローがここで好みの南野にいいところをアピールできるように祈ろう。

『タロー、キタちゃん。オレいまちょっと人生上向き?』

『前の実習の時はおればかりだったからな。ここがお前のアタックチャ~ンス!』

『いや、アタックは速ぇよ……。とりあえず気さくに話せるような関係にはなっておけば今後の学校生活は楽しいものになるだろうぜ。頑張るがいい』

 全力でお前を恨も……祝福しようじゃないか、ロー君。

「どこまで話したっけ? え~そうそう。海窟の中は全く水は無かった。入り口は垂直だけど高さ二メートルも降りればすぐに坂道に変わってあとはひたすら地下に向かっての下り坂が曲がりくねった道になっていたり分かれ道になってたりすると聞いてる。

 生息する地球外生命体は主に小型の爬虫類系統と哺乳類系統の中でも蝙蝠に類似した生物が確認されている」

「小型の生物しかいないのに探索は順調じゃないんだね」

「さっきも言ったけれど海窟の中は入り組んでいること、そしてその地球外生物群がとても凶暴なものばかりでそれなりに腕のあるプレイヤーじゃないと進めないんだ」

 探索を主に行う人型のプレイヤーがサポートセンターから評価を得ると「勇者」という称号を与えられる理由はここにある。

 いくらアバターが生身ではないとは言え、未知の世界を、未知の生物と触れ合うということはゲームや漫画のように期待溢れるものではない。自然現象が、野生動物が自分たちに襲い掛かる恐怖というものがそこには厳然と存在する。

 命の安全は確保されていると言っても、五感をリンクし、それらと真正面から立ち向かい惑星を切り拓いていく彼らの勇気を讃える称号なのだ。

「そして探索が進まない最大の理由は……」

 ローがそこまで言った時、不意に轟音と大きな衝撃がシャッテン海窟の入り口より響き渡った。小さな小石が爆音の発する振動で「カタカタ」と鳴るくらいの音だ。

「な、なに……?」

 当然参加者たちもざわついている。この反応を見る感じでは参加者のおよそ六割はシャッテン海窟の「本当の難易度」を知らなかったらしいな……。

『おぉ~っと!? どうやらイベントがスタートする前に一発目が鳴ってしまったようですね、堂前先生!? あ、ご紹介が遅れました。今回の〝第一回ターゲット・オブ・スズキタロウ〟に解説者として〝審判の眼〟を代表してお越しくださいました。生徒指導を預る堂前先生です。

 堂前先生、お願いします』

『こちらこそ、お願いします。公正なジャッジとともに解説も行っていきますので、是非今回のイベントに活かしてください』

 なんか、始まったぞ……。あと第一回とかとても不吉な言葉が聞こえた気がするんだが……嘘だよね?

『さて、堂前先生。いま物凄い轟音が入り口から聞こえましたが、これは一体……?』

 嘘だっ! 実況、お前さっき一発目が鳴りましたとか言ってたじゃねぇか! 完全にこの海窟の情報を把握してるだろ、お前!!

『はい。これがこのシャッテン海窟の探索を阻む最大の壁なんですね。わたし達人類の科学の粋を集めたアバターですら、かなりのチューンナップされたものでないと一発で破損に追い込まれるという破壊の爆音――〝星鳴り〟です』

 堂前の解説を聞いた瞬間、シャッテン海窟前の蒼い海を見渡せる広場は狂乱の様相を呈してきた。なぜならこの海窟の深度が恐ろしく深いということが皆もようやく分かったからである。

『星鳴り? いまのが、ですか?』

『ええ。皆さんも名前くらいは聞いたことがあるでしょう。私達が生きているように惑星も生きています。星鳴りとは言わば惑星の鼓動です。本来ならば惑星の中心部付近でしか観測されないものですが……』

『これがシャッテン海窟の入り口から聞こえてくるということは、つまり……』

『ええ。この海窟は中心部近くにまで続いているという、今までの記録上稀に見ないほどの長大さを誇るのではないかと考えられています』

 そう。だと言うのに、未だにたったの十三メートル。これが今までの最大到達深度だ。はっきり言って異常である。

『それでは中に入ってもいくらか進まないうちに星鳴りによってアバターが壊れるということですか? これでは評価を競うという勝負が成り立ちませんけれど……』

『私達人もただやられっぱなしだったわけではありません。このような特殊な条件が見られる区域にはサポートセンターからプロテクトツールが配布されますが、つい先日このシャッテン海窟のプロテクトツールが完成したところです。

 しかしここで問題が一つ。星鳴りを防ぐというプログラムため探索に必要な情報も一緒に防いでしまうのです』

 アバターは周囲の環境からいろいろな情報を収集する機能を備えている。やはり高いだけあるのだ。基本的には温度や湿度、時間に始まり果ては確認済みの地球外生物の生態や踏破済みの地形の地図までをネットワークにより展開されたものを収集している。

 しかし今回の星鳴りのようにその過敏さが裏目に出ることもある。そこでサポートセンターのプログラマーが開発する一種の防御システムが〝プロテクトツール〟というわけだが、どうしてもアバターの情報収集能力も一緒に封じてしまうのである。……世の中はままならぬ。

「……じゃあ最大の理由が星鳴りで、プロテクトツールを使用するってことはシャッテン海窟に入る条件が明らかになるよね」

 南野もこのイベントの難易度がおぼろげながらにわかってきたようだ。勇者認定試験の推薦が貰えるのだから、簡単なはずがなかったのだ。

『ではアバターの機能の代わりに海窟の中を案内できるガイドが必要になるかもしれないですね? もちろん星鳴りの前兆を感じることが出来、同時に対策も持つという原住民が』

『必要でしょう。彼らの環境に適応した進化こそが我々のアバターすらも凌ぐこの星に最も適した存在なのですから。単独で潜ることも認められていますがまずお勧めはしません』

 はぁ……。これは長丁場のイベントになりそうだ。

「えっと、どうするの鈴木君?」

「エウロパに原住民の知り合いがいるからガイドを頼もう」

「タローいいのか?」

 キタちゃんが指差す先には、ガイドなしで受付を済ませ入り口へと入っていく参加者がいくらか居た。

「ここは安全を優先しよう。なんかね、嫌な予感がね、するんだよね……?」

 こう、背中がぞわぁ……とさ。

「まじか……。お前の嫌な予感ってほとんど予知のレベルじゃん。そりゃあ安全を優先した方がいいな」

 わかってくれるか、ローよ。とにかくおれ達の方針は決まった。

「で、羽場下たちはどうするの?」

「え? どういうこと?」

 顔を見合すおれ達スズキタロウ。

「え? だって羽場下たちは三人でパーティーなんでしょ?」

 そう言った瞬間、羽場下の眼がスッと据わり、上代の笑顔が冷気を放ち始め、南野が頬を膨らませた。

 あれ? なんかおかしいことを言ったか? 偶々入り口付近で一緒になっただけだと思ったけれど……。

「鈴木君。私達がどうしてこのイベントに参加しているのか、わからない?」

「え、え~と……勇者認定試験の推薦のため、かなぁ~……」

「それはつい先ほど新しく付け加えられたものでしょう?」

 言われてみるとそうですね。

「全く。キミ達はどこまでプラスに考えられないのかな? 私達はキミ達が心配だからこのイベントに参加して、キミ達の助けになろうとしてるの」

「そうだよ~? こんなにかわいい女の子三人が話しかけてくれてるんだから、もう少し都合よく考えてみたほうが普通の高校生っぽいんだぞ?」

 ヤバイ。感動とあまりの幸福感に涙が出そう。本当にここ最近のスズキタロウはどうしたことでしょう。人生がとても輝いてきました。

 とにかくおれ達は六人パーティ+ガイドでシャッテン海窟に臨むことが決まった。

 まずはガイドとなる原住民の知り合いと接触しなければなるまい。そのためにおれ達はシャッテン海窟にひとまず背を向けて歩き出すのだった。


思ったよりもこのイベント長くなりそう……。


ではまた次回!

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