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ACT:10  ターゲット・オブ・スズキタロウ

まさかの残業で更新が遅れました。


また未更新期間にお気に入り登録してくださった方、評価してくださった方、ありがとうございます!


最新話、どうそ! 作者もこの物語がどこに行きたいのか全く分かりませんっ……!

『……こちら、ロー。東校舎三階廊下、クリア。どうぞ』

『メーデー! メーデー! こちらキタちゃん。北高舎四階、二年七組前、敵に追撃されている! 応援を、応援を!』

『却下する。南校舎五階、タローより各員に通達。我らチームスズキタロウは引き続き単独で、南校舎一階にある購買にて食料を調達後、西校舎五階から屋上へ。……各員の健闘を祈る』

『タローー! メーーデーー! 敵の動きが怖い! ものすっごい統制取れてる!! つーかなんで六月なのにブレザー来てサングラス!? 常時追ってくるんじゃなくて、徘徊して見つけた瞬間追いかけっこかよ! なんか三世紀ほど前のテレビ番組で似たようなのなかった!? あっ!? ちょ! まっ……ブツッ』

『どうした? キタちゃん? キタちゃん!? キタちゃーーん!!』

 クエストカードからローの絶叫が響き渡る。

 サー、イエッサー! よく来たなウジ虫ども!! おれが貴様らの上官、鈴木 太郎だ!

 さて、ウジ虫ども。今回の任務内容を詳しく教えよう。

 まずは戦場を隅から隅までその腐った脳みそに詰め込め!

 今回主戦場となる霧ケ峰高校だが、建物は五階建て。形状は「ロ」の形で中央に中庭がある。全校生徒三千人オーバー、各学年三〇クラス以上を有する巨大な施設だ。そのうち五階は一年、四階は二年、三階は三年のテリトリーとなり、二階に職員室、指導室などを含む教職員などの、一階が食堂や図書室、各種特別教室、生徒会室などを含めた生徒向けの階層であるっ!

 西校舎より、渡り廊下を通じて体育館があるが、今回は作戦に直接関わることはないので度外視せよッ!

 さて……そろそろ我らの目的を明かそう。

 目的地は屋上。通じる経路は東西南北すべてにあるが、今回は「西」から突撃する。

 そこで、羽場下 叶、上代 弥生、南野 夏海と接触し、交わした約定を果たすことが今回の目的であるッ!

 しかし、いきなり目的地に到達することは許されない。我らはまず南校舎一階にある購買に於いて食料の調達が求められる! 各員まずは調達の成功を祈る。

 また今回の任務には「霧ケ峰高校紳士の会」と名乗る、敵対勢力の存在が確認されており、実際襲撃を受けている。戦力差が絶望的なため、隠密行動が求められることを忘れるなッ!

 では……連絡は最低限。死して屍拾う者なし。タイムリミットは昼休み終了五分間前である一二:五〇(ヒトフタゴーマル)。残り四五分である。

 各員、屋上で生きて会えることを、願っている。

 作戦名「運気うなぎ上り(フライ・アウェイ)」、開始する!

 健闘を、祈る。


 ●×●×●×●×


~東校舎三階廊下~

 何の変哲もない廊下には、通常ではあり得ないほどの男子が溢れている。先ほど教室の中を見たところ、人っ子一人いなかった。一体どれだけの人数でオレ達を追い回しているのか甚だ疑問である。

「……キタちゃんは無事だろうか。タローの奴も冷たいことを言いやがる……」

 いや、まぁオレ達三人だから増援も何もないんだが。

 しかし、オレ様見事な頭脳プレーだとつくづく思う。キタちゃんも普通に姿をみせて歩き回るから、ああいうことになる。


 東校舎三階廊下で、風景に溶け込むように段ボールが鎮座していた。


 どうだろう? 皆も素晴らしいと思わないだろうか? 皆が知ってる潜入のエキスパートがおすすめする、隠密行動のお供。

 最早、この鈴北 楼に死角なし……。我ながら恐ろしい。

「なぁ、なんでこんなところに段ボールなんかあるんだ?」

「さぁな。誰か持ってきたとか?」

「わざわざ学校にか? こんな大きいダンボールで持ってくる学校に必要な物って一体なんだよ?」

「……これさ、人一人くらいなら入れそうじゃね?」

「……」

「……」

 ちょ、ちょっと。ス〇ーク氏? 思いっきり怪しまれてるんですけれど……?

『大丈夫だ、問題ない』

 お前は呼んでないよ、イー〇ック!

 くそう、一体どうすればこの状況を潜り抜けられるだろうか?

 今のオレの持ち物は……。

 クエストカード。

 財布。

 ポケットに入っていたボールペンとカッターナイフ。

『そんな装備で大丈夫か?』

 いきなりクエストカードから太郎の声。

『バカ! 驚かすなよ! 今段ボールで華麗に身を隠しているところなんだから、迂闊に声は出せないんだよ!』

 超・怪しい☆段ボールって評価になっちゃったがな!

『引っ越しでもするのか?』

『……お前はいつ、ビ〇グ・ボスになったんだ?』

 この野郎。わかっててネタ的な発言をしているな? そう、オレが太郎に対しマイナス評価を改めた時、オレを守護する隠密のお供が激しく振動する。

 うおっ!? 誰だ、思いっきり蹴りやがったのは!

「おい! このダンボール中になんかある、もしくは誰か入ってるぞ!」

 やばいやばい!

『……残念だ、ロー。お前の分まで昼休みは満喫してきてやるよ』

 そしてクエストカードの通話が切れる。

 生きて次に会ったら覚えていろよ、タロー。

 オレは段ボールに覆われた暗闇の中で己の所持品をもう一度確かめる。

 なんとしてでもこの窮地を潜り抜ける!



 しばらくして後方で段ボールを蹴る『バンッ』という音が鳴る。

 オレは段ボールで教室側の壁に接するように移動していたので、紳士どもが来るのは自然と外側になる。そこで持っていたカッターナイフで急ぎ段ボールを括り抜き脱出。一番近い教室へと逃げ込んだ。

 しかし長持ちはしないだろう。現に今も廊下側からは、

「……気のせいか?」

「……いや、見ろ! 穴が開いているぞ!」

「スズキタロウのどれかが、近くにいるぞ! 探せ!」

 どれか、じゃなくて誰かだろ。あと結局ターゲットの名前個別に認識してねぇのかよ……。

 匍匐前進で中庭方面へと移動する。

 あと五メートル。

 三メートル。

 一メートル。

 そこで不意に視界が暗くなった。

「……?」

 見上げるとそこには、すらりとした細く白い脚が頭上へと伸びスカートの中に吸い込まれて……。

「……白」

「天☆誅」

 綺麗な御身脚が振り上げられ脳天へと振り降ろされた。

 転がって回避! 

 そして素早く立ち上がる。

「チッ」

 怖いよ……。

「な、なぜ女子までもこの追いかけっこに参加している!?」

「〝貴公子〟様たちの心の安寧のためには、あなた達をまず捕獲するという結論に至ったわ」

「いや、意味わからん」

「あなた達を差し出せば、〝貴公子〟様たちも褒めてくれる……」

 うっとりと呟くが、どう考えても生贄はオレなんですけど。

「何それ、コワイ」

「彼らの邪魔は、私達の邪魔」

「出たよ、ジ〇イアン理論……」

 しかし、女子一人に後れを取るオレではな……い……。

 ぞろぞろと、中庭に面するベランダから女子が出てくる出てくる。

 彼女たちが持つのは、箒、竹刀、ロープ、その他にも色々と……。

「ぼ、暴力はんた~い……」

『聞く耳持たん!』

 ここまで大きな声で騒げば流石に気付かれたのだろう。廊下の紳士どもが騒ぎながら近づいてくるのが音でわかる。

 前門の女子。後門の男子。

 突如出現した大勢の女子のせいで、絶体絶命だ。

 その時一人の大人の声が響いた。

「何をやっとる! お前ら!」

 この声は、生徒指導の堂前か!

 助かった! 彼ならこの状況を治めてくれるだろう。これで問題なく昼飯を買って屋上へと行けるってもんだ。

 と、思っていると。

「〝審判〟として判断しよう。騒ぎを抑えるためには、スズキタロウ。お前さっさと捕まれ」

何故(なにゆえ)っ!? つーか〝審判〟ってなん……!」

 そこで人の群れにもみくちゃにされ、オレの意識は薄れていく。

 女子の体は柔らかかったとだけ、報告しておこう……。


 ●×●×●×●×


~北高舎四階廊下~

 走る~走る~俺~た~ち~。

 どうもみなさん、珠洲 喜太郎です。

 今、俺は北高舎四階を猛ダッシュしている。

 後方には廊下をすれ違う隙間もないくらいに、男子生徒が追ってくる。

「貴様みたいな碌に認識もされてない奴が、どうして女子と昼飯というイベントをゲット出来るんだ!」

「俺達は認識されているのに……。お前なんか今ここに居る誰も名前知らねぇんだぞ!?」

「やーいやーい、お前の認識〝スズキタロウ〟!」

「微妙に整った顔立ちで目立たないという、そのおかげで恩情を示してやればコレか」

「うるせぇよ! 畜生! 恨むなら整わなかった己の顔を恨め! あとなんだ、お前の認識スズタロウって!? いじめ!? いや、合ってるけどね!? 本名でも同じ響きだから合ってるけどね!? 過去から続くコンプレックスをほじくり返すなよ!」

 振り返り、そう言い返すと、「恨むなら整わなかった~」の件で、追手のスピードが急加速した。

 ……奴らの瞳に、「怨」「怒」「殺」の字がかわるがわる見えたような気がした。

『ぶっ殺!!』

 気のせいではなかった。

 しかし俺を甘く見てもらっては困る。

 俺の名字は「珠洲」。

 そう、俺は……。

「スズキとは違うのだよ! スズキとは!!」

 貴様ら、有象無象に見せてやろう!

 いかなる状況に於いても、個人として認識されなかったためにありとあらゆる授業で好き勝手に過ごし、身に付けた俺の一〇八の奥義を!

「過去の漫画を読み漁り、習得したこの奥義。貴様らに追い付けるかな……?」

 挑発的に言い放ち、そして……。

「現代の生きた天賦の剣才とは俺のことだ!」

 加速!

「縮地!!」

 加速加速!!

「縮……!!」

 つるっと、足が滑った。

 ……しまったぁ!

 俺は今、ヘッドスライディングをしている……。廊下で。このままいけば全身擦り傷だらけ、そして袋叩きだろう。

『馬鹿め! スズキタロウ、破れたり!』

「……こんな程度で終わると思ったか? 奥義とは簡単に破られんから奥義なんだよ!」

 地面に手を付きハンドスプリングの要領で、きれいな弧を描く俺。

 ……決まった。恐ろしいほど決まった。

 これが体操の競技であればオール十点だ……。

 そしてそのまま再開される追いかけっこ。

『お前、今の何の変哲もない全力疾走に、一体何の意味があったんだ……?』

「……」

 返す言葉もない。


 追いかけっこを続けることおよそ三分くらいだろうか。

 遂に追い詰められてしまった……。

「くくく、観念しな。……え~と、す、す……なんだっけ?」

「いつも通りスズキタロウでいいんじゃ?」

「それもそうだな。観念しな! スズキタロウ!」

 こいつら……(泣)。

「ふう……。仕方ない。これだけは、使いたくなかったんだが」

 俺の言葉に身構える、紳士諸君。

 そして俺は懐から「切り札」を取り出した。

『そ、それはっ……!?』

「そう、四月に行われた女子人気投票。その投票に用いるための美少女カタログ!」

「なぜ貴様がそれを……!?」

「それは女子人気投票管理委員が厳重に管理するため、如何なる紳士も個人所有できないはずだっ」

「禁を破れば、悪・即・斬。まさか貴様、管理委員!?」

「いや、一年からは選出されぬ掟だ……。貴様、どうやって入手した?」

「認識されぬ俺には容易いことよ……」

『お前、ソレ窃盗じゃねぇか!!』

 吠えるがいい。モテぬ、目立たぬ、報われずのスリーМを舐めるなよ……?

「見逃す、というのならこれをお前らにくれてやろう」

「っ!!」

 目に見えて動揺する紳士勢。ちょろいな。

「――三分間だけ待ってやろう」

 俺が、そう言ったそのときだった。

 後ろから肩を叩かれる。

 なんだ、いいところなのに。そして振り向いた俺の目に映ったのは、今の「霧ケ峰高校紳士の会」と「スズキタロウ」の追いかけっこには、一切関係ないであろう女子が一名。

 しかし、見覚えがある。名前は覚えていないが……。

 たしか、女子人気投票内「友達止まりランキング」でかなりの高位に位置していた女子だった筈だが……今、この時に、俺に一体なんの用だろう?

「お、お前は!?」

「な、なぜ今ここで介入をしてくる!? 〝霧ケ峰高校淑女の会〟!」

 ……モウヤダ。この高校。女子までそんな活動してんの? 俺達、青春できてないとか嘆いていたけど、案外マシだったんじゃね?

「あなた達だけの問題ではなくなったということよ。最早〝紳士〟だけではなく〝貴公子〟まで動き始めたとなれば、私達〝淑女〟も動かざるを得ない。〝貴公子〟を動かすほど注目されている女子がいるなんて……絶対に許さない」

 最後の一言だけものすっごい声だった。まさに地獄の底から響いてきたと言わんばかりだ。

 てゆうか、さっきから理解できない言葉ばかり出てきてるんですけど……。

「ま、待て! 〝貴公子〟が動いたならば〝令嬢〟だって〝審判〟ですら動きを見せる筈だ! 今ここで全てを巻き込んだ学校行事(ぜんめんせんそう)を起こすつもりか!?」

 紳士の一人が女子に慌てて言い募る。

 なんか副音声がおかしく聞こえるんだが……。

 あの~、俺もう行ってもいいですか?

「〝審判〟は〝魔法使い〟がいいようにコントロールするでしょう」

「!! ば、ばかな……。動いたというのか? 節制の体現者だぞ!?」

「いいえ、あなた達もわかっている筈よ。それは彼らの自己弁護。実際はある一定期間内に目的を達成できなかった悲しき敗者。誰だってその可能性を秘めている。

 それを避けるための〝紳士〟であり〝淑女〟。勝ち組である、または勝ちがいつでも掴める〝貴公子〟と〝令嬢〟のうち大半は、多分だけど……興味本位がほとんどだろうし、〝審判〟も彼らの延長線上の存在だからこの騒ぎ自体に個人的な目的は持っていない筈」

 ふわりと髪を掻き揚げる、女子生徒。いや、もう淑女と呼ぼう。さっきからそう言ってるし。とにかく早く去りたいんで肩の手を放してくれないかな?

「だけど〝魔法使い〟は違う。自分たちが達成できなかったことを、自分たちよりも年下である存在ができるかもしれないならば、全力で動くでしょうね。……嫉妬で」

「……否定できんな」

 嫉妬て! いきなりシリアスっぽくなったのにそんな理由なの!? しかも否定できないってどれだけ心狭いんだ。……いや、紳士も一緒じゃねぇか?

「だが……目先の目的は一致するということだな?」

「そう。とりあえずは三人の〝スズキタロウ〟の捕獲」

「え? 何でそうなんの? おかしくね!?」

 話の流れからして理解できん!

 咄嗟に逃げようと思うが、状況が悪かった。

 もともと追い詰められており、更に肩を掴まれている。淑女から頭に袋を被せられ、紳士勢が俺の体を力づくで取り押さえる。

 視界が暗くなり、抵抗すらままならないの俺は、袋に何かの薬品を染み込ませてあったのか意識が沈み込んでいく……。

 同じ学生がこんなことやるのかという驚愕が最後の思考だった。


 ●×●×●×●×


~南校舎一階廊下、二階へ続く階段前~

 さて、おれは何とか南校舎一階にまで辿り着いた。

 ローとキタちゃんも順調に進んでいるだろうか? まぁ、大丈夫だろう。なんだかんだと今まで結構苦労性だっただけあって、突発的なトラブルに滅法強いのだ、おれ達は。

 とにかく昼飯の確保に向かおう。

 おれは降りてきた階段に潜みながら廊下を窺う。

 購買部はその先五メートルほどにある。

 人影。クリア。

 物音。クリア。

 財布の中のお金。クリア。

 よし。では行こ……。

「――っ!」

 不意に廊下の反対側からイケメンが現れた。え? なんで人じゃなくてイケメンという表現かって? イケメンは罪です……。

「……そこにいるのはわかっているんだ、スズキタロウ君」

 ……なぜ、昼飯を買う場面で、普通なら人生でも言われることのないであろうセリフを言われるのだろうか?

 とりあえずここはその空気に乗っておこう。

「何奴?」

 おれがそう尋ねるとそのイケメンは「ふっ」と笑い、髪を「さらっ」と掻き揚げ名乗り上げる。イラッときた。

「霧ケ峰高校貴公子第二三席、加賀谷(かがや) 敏明(としあき)。ここで、キミを捕える者の名だ。憶えておくといい」

 全く知らん単語が出てきて「はぁ? 何言ってんの、こいつ?」と思ったが、一つ看過できないことをのたまいやがったイケメンに言い返す。

「ほう? たかがイケメンがこの鈴木 太郎を捕まえる、だと? 貴様、霧ケ峰高校女子が地下で行った男子人気投票の二三位だったな? 今回のこの騒動、大分読めてきたぞ。〝貴公子〟とやらはそのランキング、おそらく百位までのイケメンの集団だろう。

 そう考えれば〝紳士の会〟とやらがおれ達の昼飯阻止(フラグブレイク)に動いたのも頷ける。……〝紳士〟とは、もてない男たちの集まり。違うか?」

 拍手する加賀谷とかいう貴公子。

「よくわかったね。更に言うなら、女子にも同じように〝淑女の会〟と〝令嬢〟と呼ばれる派閥がある。今回キミ達〝スズキタロウ〟が遭遇した事態はこの霧ケ峰高校のどの派閥にとっても静観をやめざるを得なかった。……何故だかわかるかい?」

「羽場下たち三人もランキング十番台という高順位だが、色恋について目立った話は聞かない。そこにおれ達と一緒に昼飯という話だ。お前たち〝貴公子〟とやらの中にも羽場下たちに想いを寄せている奴が居た、とかいう話だろ? どうせ。

 それで色めきたったお前らを見て衝撃を受けた〝淑女〟がその動揺の元であるおれ達を排除にかかる。ついでに羽場下たちへの嫌がらせも開始するんじゃないか、想像だが。〝紳士〟は言わずもがなだが……〝令嬢〟についてはわからんな」

「……驚いた。キミ達は、僕ら学校内の派閥については知らないと聞いていたのに、よくそこまでわかったね?」

 貴公子はホントに驚いているようだったので、心底馬鹿にしたように大仰に鼻で笑ってやることにした。

「ハッ! 馬鹿か。今まで個人として認識されずに、特にどうでもいい存在として認識されていたおれ達が、何故ここまで追われるのか、原因を考えればすぐにわかる。

 ……羽場下たちは間違いなく美少女だからな」

 そう。だからここまで動くのは皆嫉妬で動いている。〝紳士〟は純粋に女子と関われる者たちに対する嫉妬。〝貴公子〟は自分たちですら見向きもされていなかったターゲットに突如昼食に誘われたおれ達の境遇に対する嫉妬。〝淑女〟はイケメンたちが悔しがる、その羨望の眼差しをイケメン達から向けられるおれ達という状況を造り上げた、羽場下達に対する嫉妬。

 しかし、さっきも言ったが〝令嬢〟が動く理由が思いつかん。同じく〝貴公子〟の中に思い人でもいたのか? しかし美男美女同士、大抵はカッポゥになっている筈。もし叶わぬ恋だったとしても、自分たちに自信を持つ勝ち組。すぐに新しい恋へと向かいそうなものだが……。

「〝令嬢〟も普通の女の子さ。当然〝淑女〟と同じ理由で動いている子もいる。だけど今キミが考えている通り、それは少数。何故、彼女たちまでが動いたのかというと……」


「結構。そこから先は私が直接言いましょう」


 突如背後から女の声が聞こえたので、おれは咄嗟に廊下へと飛び出した。

「霧ケ峰高校令嬢筆頭、鬼怒川(きぬがわ) 茜。以後お見知りおきを。〝スズキタロウ〟」

 おれの目の前に現れたのは超弩級の美少女。

 背中に垂れる髪はどこまでも見通せぬ闇のような漆黒なのに、艶がある。

 対照的にその肌は日光を反射し煌めく銀世界の雪のように、純白。

 その唇は血色の良い桃色で、そこから出てくる音はどんな猛獣でも静めてしまいそうな、風鈴のように大きくはないが弱々しくもなくよく通る声。

 おれを見つめる瞳はそこに星空を封じ込めたのかと言いたくなるような輝きで、対象の心と動きを奪う。

 バランスの良い小顔にスッと通った鼻梁。そして女性として豊かな肉付き……!

 こいつは……! こいつは!!

 女子人気ランキング、第一位じゃねぇか!

「わたし達が動いたのは……〝スズキタロウ〟。あなた達を誰にも渡さないためです」

「へっ?」

 口を金魚のようにパクパクしながら呆けたおれは間抜けな声しか返せない。

「あなた達は確かに認識されにくいですが、一度認識してしまえば女性なら誰もが気づくのです。自分たちが抱くある想いに。あなた達、今までも細々と活動していましたがその中で困っている人たちに手助けをしたことは数えきれないほどあるでしょう?」

 確かに、認識されたいから我武者羅に手伝いなどをした覚えはある。結果は何も変わらなかったが……。

「そして何も報われない。でもその次も、またその次もめげずにいるあなた達を見ているわたし達〝令嬢〟はある感想を持ちました。

 ああ、なんていじらしいのでしょう……! これはわたし達の誰もが独占はしてならない、共有の財産……!」

 いや、違うよ!

 人ですよ! 個人の意思を尊重してください!

 てか、見てたなら手を差し伸べてくれてもよくね!?

「なのに、それを独占して昼食だと言うではないですか! わたし達〝令嬢〟に参加する誘いを拒んだ三人が! あなた達共有の財産を独占させないためにわたし達が腰を上げたのです」

 くそう、もうどこから突っ込みを入れればいいのか全く分からん……。

 とにかく挟み撃ちのような構図の、この状況を脱したいのだがそれも出来ない。

 彼女、鬼怒川 茜がどれ程の美少女かというと……。


 すれ違う男の十中八九は「前屈み」になるっ……!!


 どんなフェロモンだ! くそう、動けん。

(たばか)ったな……。加賀谷とやら……」

「……同じ男として、心底同情しよう」

「男の子はわたしの前だと皆顔を赤くしたり、前屈みになるんですけれどどうしてかしら」

 人気があることは自覚しているのに、己の美貌が及ぼす効果についてまでは把握してないよ、この人!

 見ると、加賀谷の顔も赤い。

「共有の財産としてあなた達を愛でているわたし達は、どういった人物であろうと、如何なる理由であろうとあなた達の独占は認めませんっ!」

 バードウォッチングならぬスズキタロウウォッチングかよ。

「因みにあなた達の意見も却下します」

「横暴だ!!」

 基本的人権の保障を要求する!

「というわけで……」

 手に持ったなにかのスプレーをシャカシャカ振りながら近づいてくる、鬼怒川。後ろからも加賀谷が同じスプレーを以て近づいてくる。

 そして一噴き。

「ぷしゅっとな♪」

「Oh……」

 おれは一瞬で眠った。


 ●×●×●×●×


~西校舎屋上~

「遅いね~彼ら」

「夏海、まだ昼休憩が始まって十分ほどよ。彼らも購買にでも昼食を買いに行くなどという都合があるのかもしれないでしょう?」

「私は弥生ほど我慢強くないも~ん」

「でも確かにそろそろ来てもいいころだよね、鈴木君たち……」

 私がそう呟いたとき、校内放送が始まる。

『あ~、あ~マイクテス、マイクテス。

 全校の皆さんに、放送委員、立灯(たちあかり) (れい)からお知らせをお送りしますっ。

 本日放課後、午後三時より木星第二衛星、エウロパにて全校参加型のイベントの開催が決定しました。参加に関しては自由です。場所はエウロパで最近発見された〝シャッテン海窟〟。そこを各パーティで探査し、サポートセンターに、より大きな評価を貰うことで優劣を競います。トップの特権は……〝スズキタロウに関する諸々の自由〟!』

『ブッ!』

 飲み物を飲んでいた私は、そこで弥生と夏海と一緒に吹いてしまった。

「一体、何がどうなってこうなってるんだ……?」

 弥生の呟きは尤もだ。

『現在参加が表明されているのは、〝紳士の会〟〝淑女の会〟〝貴公子連合〟〝令嬢茶会〟の四派閥! 更に〝群体スズキタロウ〟も強制参加されるとの見通しです。

……あ~ちょうど彼らから声明が届きました。自由は自分達の手で掴み取る、だそうです。更にまた参加表明した派閥がありますねぇ。なになに? ……お、おぉ~と!? まさか彼らが動くとは、誰が予想したでしょう!? 〝魔法使いの夜会〟が参加ですっ!

 安全に関しては〝審判団〟が保証、当イベントの実況はわたくしがさせていただきます。参加する方は本日午後三時、エウロパ〝シャッテン海窟〟までお越しください! 多数の参加をお待ちしています! 当イベント、「ターゲット・オブ・スズキタロウ」はエウロパにて午後三時より開催です! ではではっ!!』

 そこで放送は終わった。

「……」

「……カナ」

「何? 弥生」

「あの参加表明していた派閥って、校内で起こるバカ騒ぎの際、中心になる集団だよね?」

「うん。どうやら巻き込まれて来れないようだね。しかも自由意志までもぎ取られようとしているわ……」

「で、叶っちは行くの~?」

「行くわ。どうして昼食を彼らが邪魔されなきゃならないのか理解できない」

 この放送だけでわかってしまった。

 自分たちは望んだわけでもないが、女子人気投票で高順位になっている。今更だが、少し軽率に動きすぎたのかもしれない。

 この学校、非常に悪ノリが多いので、彼らに嫉妬した男子や、私達にかつて告白してきた男子、ひいてはその男子に好意を寄せている女子などの思惑全てが絡まってこんなことになってしまったのだろう。

 また、過去に〝令嬢〟とやらの誘いを断ったことも関係しているのかもしれないが。

「鈴木君たちは特に誰かを害するようなことはしていないし、私達がどこで、誰と昼食をとろうとも自由だわ。なのにそれを含めて、彼らのプライベートまで賞品にするのは、許せない」

 今回、彼らを誘ったのは自分たちが彼らに興味があったことも確かだけれど、何より普段報われない彼らに、私達だけでも少しは報いてあげようと思い誘ったのだ。

 頑張る彼らに、少しでも楽しい時間を提供できれば、いいな、と。

「う~ん。叶っちは珍しく本気で怒ってるね」

「まぁ確かに、彼らにとっては理不尽ではあるわよね。じゃあ私たちは彼らの手助け、もしくはトップになって彼らの自由を保証、ということかな?」

「そうだね~」

「弥生……。夏海……。一緒に来てくれるの?」

「あははは。今更だよ、叶っち! 友達でしょ!」

「それに私たち自身も、彼らに助けてもらったお礼はまだでしょう? 言葉では返したけれど……」

「行動で示してもいいじゃないか、ってね! 私らも彼らには興味もあるし、叶っちと思いはおんなじ!」

 これで、私達も放課後にエウロパへとコネクト・インすることが決まった。

 待っていてね、鈴木君たち!

「じゃあ行くよ。午後三時に〝シャッテン海窟〟へ!」


因みにミッション「フライ・アウェイ」は失敗です。


次回も引き続き「ターゲット・オブ・スズキタロウ その2」です。

霧ヶ峰高校によるバカ騒ぎ、お楽しみいただけるように頑張って書きます。

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