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ACT:09  ついに認識!? スズキタロウ!

またいつの間にかお気に入り登録が増えてました。

ありがとうございます!


みなさん、こんな零細小説どこで見つけてくださるんでしょうかね?


とりあえずお待たせしました!

「おはよう!」

 実習の翌日、意気消沈したおれ達に降り注ぐように聞こえる挨拶を華麗にスル―する。

 ふっ。自分たちが挨拶されているかもしれないなどという淡い期待を含んだ勘違いは小学校二年の夏休み前にやめた。おれ達が挨拶を交わすのは、家族、そして「スズキタロウ」だけなのだから……。

「お・は・よ・う!!」

 どうやら一般ピィ~ポォ~達の日常とやらは、とことんおれ達に過酷な現実を突きつけるらしいとみえる……。仕方ないので誰が誰に挨拶をしているかくらいは確認してやろう(べ、べつに期待なんかしてないんだからねっ!)。

「ったく、みんな健やかな挨拶ご苦労……様?」

「朝の挨拶なんか廃れればいいの……に?」

「どれだけおれ達の希望を打ち砕けば気が済むんだ神様……は?」

 三者三様に振り向くとそこには、クラスメイトの女子、羽場下 叶が友人であろう二人の女子と並んで笑顔で立っている。……おれ達に向かって! おれ達に向かって!

「あ、やっとこっち向いた。おはよう!」

 やめて! そんな明るい笑顔と、ハスキーな耳通りの良い声で太陽も霞んでしまうような元気良い挨拶を、捻くれたおれ達に向けないで! 惚れてまうから!

『え、あ、うん。おはよう?』

 とりあえずローとキタちゃんと一緒に挨拶を返す。

「おはよう。というよりは初めまして、と言った方がいいかな?」

「お~。ちゃんと喋れるじゃん。おはよう!」

 続いてそう言ったのは羽場下の隣に並んでいた、隣のクラスの女子、上代 弥生と南野 夏海である。

 上代はキタちゃん曰く、あの白いオデコがまず堪らん。そして風に靡く、リボンで一纏めにした背中に垂れる黒髪が次に堪らん。キリッとした顔つき、一本芯の通ったような姿勢のスレンダーな体つきがまた堪らん。したがって堪らんらしい。

 南野はロー曰く、おれ達よりも低い身長が女子っぽくて良い。それでありながら起伏に富んだ、柔道で身についた女子特有の男子とは違うしなやかな体が良い。そしてリスを彷彿させるくりっとした茶色を帯びた瞳、ショートヘアーの丸顔がこれまた良い。したがってとても良いらしい。

 ついでなので、おれ監修の羽場下評もここに記しておこう。

 まずバスケ部所属を納得させる身長。そして肩ぐらいまでの黒髪を後頭部で一つにくくっている。白いうなじが眩しい。その立ち姿はスラリとはしているが波を描く輪郭から起伏に乏しいわけではないことを悟らせる。そして大人びた顔立ちが格好いい。

 え? ていうかなんで話しかけられてんの? おれ達……。スズキタロウ束の間フィーバーは昨日の実習で終わったはずでは?

「あ、そっか。鈴木君たちは弥生と夏海とは初対面だっけ?」

「い、いや知ってるから」

 知らぬはずがないでしょう。

「そう? とりあえず昨日の実習はありがとう。なんかシゲちゃんは私一人だけ評価しちゃったけれど、あのあと大丈夫だった?」

 うっ……。いま思い出したくない案件を……。なんとなくややこしくなりそうな気がするが、どうしようか。

 おれはローとキタちゃんに視線を向ける。

『……ここはあの問題をほじくり返すべきだろうか?』

『いやいや、待てタロー。いまも周りの生徒からいらん注目を浴びている。オレは緊張のあまり心臓が止まるかもしれない……。ここは無難に流して避難だろう』

『ロー……。お前のガラスのハートにはいつも驚かせられるな……。しかし避難するという結論に異論はない。なぜだか知らんが、悪寒しかしない……。見ろこのチキンスキンを……』

 鳥肌な。しかし奇遇だな。うまくいけばまともな評価を得られるチャンスだというのに、それ以上の厄介事が起きそうな予感がひしひしとするという点で、同意見だ……。

 折角のご対面だが、おれ達の目的は、無難に個人として認識されることであって、無駄に目立つことではない。いまのように注目を浴びすぎるとローが死んでしまう……。

『死なねぇよ』

 どっちだよ。とにかく、ここは一旦避難だという結論で三人とも間違いはないようなので、軽く返事をして教室に行こう。いくら急に転がり込んできたチャンスでも、おれ達の手に負えそうにはないのであしからず……。

「……そのアイコンタクトは何か隠してるのかな?」

「弥生はいつもするどいなぁ。わたしはなーんにもわかんないのに」

 上代……。見かけに違わず鋭すぎます。

 南野はいつまでもそのまま和むあなたでいてください。

「……そうなの、鈴木君?」

 羽場下……。そんな顔をされると話すしか選択肢がなくなるんですけど……。

 今まで群体として、三人のみで完結したコミュニティであったおれ達は対人スキルが著しく低いため、昨日の経緯を羽場下たちに話すしかなくなったんだが、これがすべての始まりだったと言ってもいいだろう。

 のちに、おれ達群体の中で「ターゲット・オブ・スズキタロウ」と語られる事件の幕開けである……。


 ●×●×●×●×


 そして職員室。

 ワタシタチスズキタロウハ、カコキュウニオチイッテマス。

 いや、ごめん。とりあえずそれだけ緊張しちゃってるということをわかってくれればいいんだ。あのあと、昨日のおれ達の顛末を聞いた羽場下たち三人はおれ達の手を引いて職員室に直行という行動を起こした。それぞれ羽場下、上代、南野に、おれ、キタちゃん、ローの手はがっしりと掴まれ逃走すらできないという……。

上代さん、あなた本当に今日初めて会話しましたか? 全て見透かれてるんですけど……。

「お、お前ら朝からどうした?」

「シゲちゃん……。昨日の実習の評価について言いたいことがあるんだけど」

 クエストカードのメール画面、センターの各アバターの実績表示などおれ達が昨日ちゃんと活動していた証拠を提示したうえで、交渉に入る羽場下と上代。南野はいつの間にかローと指相撲してる。いや、お前も乗るなロー……。

「女って怖いな……」

「怒らせたらいけないことは、この短時間で学習出来たな……」

「でも、羽場下たちのこんな一面を知ってるのも、おれ達だけじゃね?」

「そうは言うがタロー。どうしてここまでしてくれるのか全くわからんというのは、恐怖以外の何物でもないんだが……」

 キタちゃんとそんなことを話しているうちにも交渉という名を借りた脅しは進行している。

「先生、生徒に対するここまで不当な扱いは外に漏れると凄い問題になると思いません?」

 超にっこり笑顔で上代。職員室の空気はすでに極寒である。六月だけど暖房が欲しい。

「い、いや、た、確かにこれはわたしが悪かった。ちゃ、ちゃんと評価はAを付け直す。……こ、これでいいだろう?」

「シゲちゃんわたし毎朝思ってたんだけど、出欠の確認の時も生徒によって格差があったんじゃないかと思って相談に来たんだ」

 しれっと言う羽場下。シゲちゃんだけではなくおれ、キタちゃん、指相撲中のローまでもビクッとした。

 差し出される名簿。

 そして始まる、職員室に居た先生全員を対象にした「スズキタロウ当て」。

 ちゃんとフルネームでおれ達をそれぞれ呼べるようになるまで、女子生徒に職員室に監禁される先生方という構図がそこにはあった……。


 ●×●×●×●×


 しかし流石、人にものを教える教職者といったところだろうか。今までの誰よりも、おれ達を間違いなく認識できるまでの時間が短かったのではないだろうか。

 それでも一時間掛かってるんだけどね……。

 そのため最初の授業は全クラス自習である。

 羽場下、恐ろしい子……!

 しかしどう見てもおれ達のためにしてくれたことのようなので礼は言っておかなければならない。

「あー、羽場下ありがとう。上代も南野も」

「えっ? いいの、いいの。鈴木君たちは覚えてるか知らないけど、四月に私たちが不良に絡まれたときに助けてくれたでしょ? それに昨日の実習でも助かっちゃったから、そのお礼だよ」

「そうそう、あの時はありがとね~」

「遅くなったけれど、すごく感謝してる。ありがとう」

 そう三人の女の子にお礼を言われて、おれ達も気づいた。四月のあの時か! 助けた女の子たちにまでハモって『スズキタロウ?』と疑問をぶつけられた悲しき救出劇。

 しかしちゃんと報われるとは……。「情けは人のためならず」とはよく言ったものである。神はまだおれ達を見捨ててはいなかったようだ。


神『……チッ』


 前言撤回。

「でも、いままでの評価とかも一部上乗せを認めさせるのはやりすぎじゃあ……」

 キタちゃんが不安をにじませて言う。

 そう。上代を軸に展開された交渉で、教師陣とおれ達スズキタロウの間で結ばれた条約(?)は以下のとおりである。


 一.先日の実習での不当な評価を改めること


 二.一度でも個人として判別できる呼び方をできなかった場合、先日の不当な扱いを含むすべての対応が明るみへ出される。名前を覚えることは教師としての最低限の行為であることを心せよ


 三.こちらが不当な扱いなどを黙秘する見返りとして、今までの評価を含むこれからの評価も多少上乗せして優遇すること。彼らが浮かばれない(生きてます)


 四.こちらが不当な扱いなどを黙秘する見返りとして、こちらの要望にはできる限り応えること


 五.こちらの要望が教師及び他の生徒にとって度が過ぎる場合、教師陣が即時退学等の対応をとることを認める


 六.以上のすべてはあくまで「スズキタロウ」がごく普通の学校生活を送るための支援としてのものであり、生徒及び教師間に優劣をつけるものではない。「スズキタロウ」に一生徒として接することを心せよ。彼らは決して群体ではない(わざと言ってる?)


 まぁ他にも細かいことはあるんだろうけど、おれ達が把握しているのはこれくらいである。

 最早、普通の学園生活が送れない気がするのはおれだけだろうか……。

「いいのよ。学校もマスコミに不祥事だと騒がれる可能性がある出来事を、黙ってくれるというならある程度は目を瞑ってくれるでしょうし。証拠などは全てこちらが抑えてるんだから」

「それに君ら、今まで相当不当な扱いだったんでしょ~? だったら高校のちょっとの期間くらい、他よりいい思いをしてもいいと思うよ?」

 上代と南野がそう言っていると向こうから女子生徒が一人、走ってくるのが見えた。

「あれ? 沙知?」

「あっ叶! なんか学校中で話題になってるよ! 叶達三人がいかにもモブな人たちを連れて職員室に入っていったって!」

 妹よ。兄を目の前にしていかにもモブという評価はひどいんじゃないだろうか?

 とりあえず羽場下が沙知に今までの経緯を話すのを横で見ているおれ達。

「……聞いたか、タロー? 学校中で話題だとよ。どう考えても厄介事しか起こらない前兆だよな……」

 全くもってローの言うとおりである。羽場下たちは学校の中でも目立つ存在なので、いきなりおれ達とそれなりに親しそうに振る舞えば、あらゆるとばっちりが今まで認識すらされていなかったおれ達に降り注ぐことは目に見えていたのだ。

 などと今後の心配をしているうちに羽場下が沙知に説明を終えたようである。

「お兄ちゃん……。そんなにできるんだったらちゃんと周りにも打ち明けなよ……」

「ばか、お前。見た目がいかにもモブな奴が自分よりできると知った人間の嫉妬はシャレにならんということを知らんな?」

「そうだぜ、沙知ちゃん。ただでさえ今まで認識していなかった奴らが初めて認識されるのが負の感情というのは、その評価を覆すことはほとんど不可能なのさ……」

「まぁそもそも、打ち明けるために認識されているという前提条件が、無理なんだけど……」

「……どこまでマイナス思考しかできないの、お兄ちゃんたちは……」

 とにかく沙知には聞きたいことがあるので、羽場下たちには先に行ってもらうことにしよう。そう伝えると彼女たちから帰ってきた答えは、予想の斜め上を行くものだった……。

「じゃあさ。お昼ごはん一緒に食べない?」

「……ごめん。ちょっと難聴になったようで、もう一回言ってもらえる?」

「わたしと、カナと弥生とキミたちで一緒にご飯を食べようって言ったんだよ」

「カナから聞いた話で、キミたちはなんとなく面白そうだから、親しくしてみたいと思ってね」

 マジっすか。いまの発言でこの廊下の空気が凍ったことを認識できていませんね? マドモアゼルたちは……。間違いなく教室の中からこちらを窺っていた男子勢が緊張した証拠だろう。

 正直に言えばいきなり自分たちの待遇が上昇し始めているのでうれしいのだが、それがあまりにも急上昇すぎるため、周りが付いていけていない。とりあえず昼ご飯を屋上で集合という形で約束してから、羽場下たちを見送る。

 そして案の定沙知に確認をとってみると、由々しき問題が明らかになった。

「あー……。叶達は人気あるからねぇ……。はっきり言ってものすごい勢いで男子勢から敵視されてるよ。なんか法律とか書いてある本を皆で頭付き合わせて読んでいる男子たちから、どう襲えば犯罪にならないんだとか呟きが聞こえたし……」

 何それ、怖い。既に命の危険まで発展してるんですけど。

「おい! お前ら!」

 そんなときに後ろから大声で叫ばれたので、冗談抜きで驚いた。誰だ、ショック殺人という結論に至った人間は……?

「羽場下さんたちだけでなく、鈴木さんとまで仲良くしやがってうらやま……けしからん! 全校男子を敵に回したと知れ!」

 そこに立っていたのはガタイのいい、いかにも格闘技やってますというような先輩を筆頭とした男子勢がいた。超怖い。いつからこの学校は無法地帯になってしまったんだろうか……。

「てゆーか、本音漏れてるよね……」

「しかも仲良くも何も、あっちから話しかけてきたんだから、人として冷たく扱えんだろう……」

「沙知ちゃんに至ってはタローの妹だしな……」

「つーか全校男子が敵とか、シャレんなってないんですけど……」

 うんざりとした顔でつぶやくおれ達を尻目にヒートアップしていく先輩たち。

「会長! 奴ら羽場下嬢たちと昼食の約束まで取り付けていました!」

「な、なにぃ!? これはおれ達〝霧ケ峰高校紳士の会〟への挑戦状と見た!」

 そんな会が存在すんのか、この高校……。

「貴様ら、生きて昼飯を食えると思うなよ?」

 指を突きつけてくる会長とやら。

「とりあえず、死んで昼食は食えねぇよ……」

「お前らのことは覚えたぞ! モブ木 太郎! モブ北 モブ! モブ モブ郎!」

 覚えてねぇじゃねぇか! ワザと言ってるとしか思えん!

 そして厳つい肩を揺らして去っていく会長と男子勢たち。

『解せぬ』

 そのおれ達の呟きは、何も悪いことはしていないのに恨まれる現状と、どうしてもまともに認識されない自分たちの人生についての感想である……。

「……馬鹿なこと言ってないで、次の授業が始まっちゃうよ?」

 ごもっとも。


 ●×●×●×●×


 とか、あったくせに何も起こらず昼休み。

 しかし、いつもより妙に静かな雰囲気なような気がする……。こころなしか背中が汗で湿った気がするのは気のせいだろうか……?

「タロー……。羽場下はもう先に行ったみたいだぞ」

「一緒に行くと余計目立つからな。購買で昼飯を買ってからになるから、まずは一階まで行かなきゃな……」

「急ごうぜ……。なんか嫌な予感が膨れ上がる一方なんだけど……」

 そして教室のドアを開く。


 目の前に会長を筆頭に廊下にびっしりと男子勢がいた。


「……やあ、覚悟はいいかい?」

 さわやかな声、般若もかくやといった表情という矛盾した様子の会長を無視して無言で静かに戸を閉める。

「……」

「……」

「……」

 そして恐ろしいことに今更だが気づいてしまった。


 今、このクラスには、女子がいない……!


 恐る恐る振り向くと、


 俯き加減に立ったクラスメイトが、


 こちらに向かって立ち上がっている姿が……!


 悲鳴を出さなかったことを褒めてやりたい……。一体なんのホラーだ。認識されたいとは言ったが、個人として普通に扱ってほしいわけで、こんな風に目の敵にされたいわけじゃない……。

『〝霧ケ峰高校紳士の会〟の敵はいねぇが~?』

「おいおい……冗談じゃねぇよ……」

「オレ達がいつ悪いことをしたよ?」

「……生まれ変わるなら、次は整形でもして真っ先に認識された方がいいかな?」

 最早涙目のおれ達だが状況はとてもよくなることはなく、悪くなる一方である。ガラリと背後でドアの開いた音がした瞬間、中庭に面したベランダから脱出するおれ達。

 そして、全校男子とおれ達スズキタロウの追いかけっこが始まった……。

 霧ケ峰高校史上において「ターゲット・オブ・スズキタロウ」と記されることになる、女子も先生も巻き込んでいく、男子たちの狂乱騒ぎが幕を開ける……。

 命からがら逃げだして、その手に明るい未来を掴むためおれ達は走る……。


 昼休み 明るい昼食 猛ダッシュ(猛奪取) 詠み人 スズキタロウ

次回予告「ターゲット・オブ・スズキタロウ」


誤字報告含む感想など待っています。

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