9 残熱
またいつの間にか寝ていたようで、額に冷たいものが当たった感触に目が覚めた。
ただ、熱が上がっているのか、視界がはっきりしない。
時計が示してるのは……23時、か?
「起こしちゃった?」
「……」
「私、そろそろ帰るけど、大丈夫そう?」
「……」
「お粥はお皿によそって冷蔵庫に入れてあるから、レンジで温めてから食べてね? お薬とお水はここに置いておくよ?」
「……」
美月が立ち去ろうとしている。
折角俺の側にいてくれてるのに、いなくなっちまう……
「じゃあね、ちゃんと安静にしてるんだよ?」
「……行くな」
「え?」
「ここにいろ……」
「……でも、私も寝ないとだから」
「ここで寝ればいい……どこにも行くな……側に、いてくれ……」
「うん……」
美月の袖を引っ張りながらそう言うと、美月は布団に入って来てくれた。
俺の事を優しく抱きしめて、頭を撫でてくれている……
「大丈夫だよ、ここにいるからね」
「あ、あぁ……」
落ち着く……
柔らかくて、心地いい……
頭が痛いのも和らいでいくようで……
……
ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ
……あ? 目覚ましか……ん?
ピピピッ、ピピピッ
いつものように、目覚ましを止める為に手を伸ばしたいのに、何か柔らかいものがあって伸ばせない。
なんだ? 何が邪魔を……?
「……は?」
ピピピッ、ピピピッ
俺は何を見ている? 何が見えている?
いや、見えているというか、何だこれ?
なんで俺、こんな抱きしめられてるんだ?
……美月に。
ピピピッ、ピピピッ
美月……だよな?
「え? は? ちょっ……」
「すー、すー」
「おい、起きろっ……」
「すー、すー」
ずっと規則正しい可愛い寝息を立てながら寝ていて、目覚ましがこんなに鳴っているというのに、起きる気配がない。
起こすのは可哀想だとも思うが、起きてくれないと身動きがとれない。
俺の力で強引に離れようとすれば、美月に怪我をさせてしまうかもしれないし、その……変なとこに触っちまうかも……
ピピピッ、ピピピッ
「おいっ! 起きろ美月っ!」
「……ん、んん……」
「起きろって!」
「……んー?」
美月って朝弱いのか?
意外というかなんというか……
いや、昨日遅くまで俺を看病していたせいか。
ってか、なんで美月がここで寝ているん……あ。
ピピピッ、ピピピッ
「起きてくれって……」
「うーん? あぁ……目覚まし、鳴ってるよ」
「だからお前が邪魔でスイッチが押せねぇんだよ」
「あ……」
カチッ
やっと起きてくれた美月は、なんでもないように俺から普通に離れたので、そのまま目覚ましを止めた。
別に、柔らかい温もりが離れた事に寂しさなんて感じてない。
「顔色、良くなったね」
「……おう」
「じゃあ私、帰るね」
「おう……」
段々と昨日事を鮮明に思い出してきて、恥ずかしさに死にそうになっている俺を全く気にする素振りもなく、美月は自分の鞄を持って玄関に向かって行った。
意識されていないのは当然にしても、男と一緒に寝ておいて、ここまで無反応な事あるか?
流石に……いや、今はそんな事を考えている場合じゃないな。
ちゃんと礼くらいは言わねぇと。
「その……悪かったな。ありがとう」
「うん。ゆっくり休んでね」
パタンッ…
美月は出ていった。
本当に、何事もなかったかのように……
しばらくの間、ただ玄関を見つめる事しか出来なかった。
部屋に戻ってきて、テーブルを確認する。
散らかっていたはずのゴミは綺麗に片付けられていた。
朧げな記憶では、ここで美月が勉強をしていたはずだ。
そんな痕跡はもうどこにもないけど……
とりあえずと体温を計ってみると、37.8℃。
まだ熱はある。
だが昨日よりかは体調も回復している。
このまま土日は安静に過ごして、月曜日にまた美月に改めて礼を……
美月は俺からの礼を聞いてくれるだろうか?
俺と話し、俺の看病をしてくれたのは、俺が病人だったからだ。
病人じゃなくなった俺は、美月にとって可燃ゴミのまま……
また無視されて、まるで美月の中に俺は存在しないみたいに扱われるんじゃ……
それなら、このまま熱が下がらなければ……って、バカか俺は!
「はぁ……」
熱のせいなのか、思考がネガティブになっていく。
こんな事を考えていたって、何も変わらないのは分かっているのに……
冷蔵庫を開けると、美月が作ってくれた鮭粥が入っていた。
冷凍庫には一度溶けきってしまった棒アイスが、変な形でまた固まった物体。
これの礼として、何かを渡せれば……
鮭粥をレンジで温めて食べる。
昨日も思ったが最高に旨い。
美月に言われた通りに風邪薬をちゃんと水で飲んで、もう一度布団に潜った。
あとはまた、寝続けよう。
早く回復して、美月に礼を渡すんだ。
無視されたとしても、ちゃんと謝って……受け取ってもらうんだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




