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陶器の英雄  作者: 猫人鳥


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10/13

10 拒絶

 月曜日の朝。

 土日にしっかりと寝た事もあって、風邪は治った。

 完全復活だ。


 顔を洗って、髪型を整える。

 制服を着て……ん? なんで姿見に制服がかかってるんだ?

 俺が雑にかけたんだったか?

 ……まぁいいか。


 姿見で身だしなみの確認も終えて、早目に家を出た。

 早く出たのはコンビニに寄るためだ。

 俺の朝飯と、何か……美月に礼として渡せるようなものを……


 適当なパンとコーヒーを自分用にと持ち、美月に渡すものを考える。

 コーヒーをと思ったが、美月がコーヒーを飲んでいるところなんて見たことがない。

 基本的に美月はあまり飲み物を飲んでいないし、飲んでいてもお茶が多いからな。

 もしかしたらコーヒーは苦手かもしれない。


 やっぱりここは、誰でも絶対に好きな、万人受けするものの方がいいだろう。

 となると菓子……スナック菓子とかはちょっと子供っぽいか?

 馬鹿にしてるとか思われるか?

 プリンやゼリーは冷えてる方がいいし、美月がすぐに受け取って食べてくれるとは限らないんだから、止めた方がいいだろう。


 となると……

 コンビニ内をうろうろして、焼き菓子が並んでいる棚にきた。

 マドレーヌ、フィナンシェ、パウンドケーキ、マカロン、カヌレ、ブッセ……

 どれがいい? どれなら美月は喜ぶ?

 いや、でも美月が菓子を食べているところも見たことが……そんな事言ってたら、何も買えねぇな。


 棚を見ると、フルーツたくさんのパウンドケーキのところには、大人気! 売れてます! というポップがあった。

 大人気なら、美月が嫌いってこともよっぽどないだろう。

 俺は追加でパウンドケーキを1つ持って、レジに向かった。


 学校に着いて教室に入ると、一瞬だけ俺に視線が集まったが、全員すぐに視線を逸らした。

 金曜に休んでいた事や、いつもなら土日にも何かと指示を出す俺が何もしなかった事で、逆に気になっていたんだろう。

 誰も俺が風邪で寝込んでいたなんて知らないし、当然心配もしていないだろう。


「……ってかさー、あそこの害獣マジ目障りなんだけどぉ!」

「ははっ、違いねぇな!」


 俺が休みじゃないからと、俺へのご機嫌取りのつもりなのか、佐々木が岡島への嘲笑を始めた。

 それに乗っかってクスクスと笑い出すクラスの奴等……


「おい」

「え、陽平? 何?」

「……そういうの、もういい」

「……あ、うん」


 とりあえずは黙らせておく。

 もうこんな事に意味がないのは分かってるから。

 美月が来る前に片付けられて良かった。


「はぁ」

「んだよ、陽平。珍しくため息なんて吐いて」

「あ? あぁ、ちょっとな……」

「ん? お前、何かあったんか? 金曜も休んでたろ?」

「あぁ、まぁ、風邪」

「風邪っ!? うそだろ、おいっ! お前、陽平だろ?」

「俺だからなんだってんだよ。人間なんだから風邪くらい引くわ」

「まじかー」


 美月に礼を渡す為にと美月の席の近くまで来ると、岡島が声をかけてきた。

 あんな腹立つ事を言われた後だってのに、岡島と自然に喋れている事に違和感を覚えない。

 寧ろ、誰よりも話しやすいようにさえ思える。


「で? 風邪で大丈夫だったんか? お前、1人暮らしだろ?」

「あぁ、ちょっとやばかったけど、たまたま美月が……」


 そんな話をしていたところで、美月が教室に入ってきた。


「お、花園。来たな」

「うん」


 岡島がもう当然のように美月に声をかけ、美月もそれに応えて席に着く。

 俺は、俺は……


「み、美月……その、金曜はありがとな。助かった……」


 俺が美月にそう声をかけると、美月は顔を上げて俺を見てくれた。

 学校なのに、無視じゃない!

 相手をする価値のない、無機物の可燃ゴミだとは思われていない!


 岡島はもちろん、クラスの奴等も全員が俺に視線を向けていたが、そんな事は気にならなかった。

 美月が俺に向けてくれている視線の方が、他の奴等からの視線より何万倍も価値があったから。


「これ、礼だから」


 美月の机の上に、朝買ったパウンドケーキと、千円札を置く。

 これで少しは俺の誠意も伝わったらいいのに……と、思いながら立ち去ろうとしたが、


「いらないよ」


という、美月の拒否する言葉が聞こえてきた。

 無視じゃなく、返事をしてくれたのは嬉しいが、まさかの受け取り拒否。

 心臓に太い杭でも打ち込まれたような衝撃は感じたが、だからと言ってここで荒立てる訳にはいかない。

 落ち着いて、冷静に、冷静に……


「いや、まじで助かったからさ、受け取ってほしい」

「いらないよ」

「いらないんなら捨ててもいいから……」

「勿体ないよ」

「な、なんだ? パウンドケーキが苦手とかだったのか?」

「苦手じゃないけど、いらないよ」

「ぐっ……じゃあ金だけでも……」

「いらないよ」

「か、看病代……それにほら、棒アイスとかお粥とか……」

「病人の看病はして当たり前の事だよ。お粥もあなたの家の材料を使っただけ。棒アイスは……」

「な? なっ? 棒アイスの礼は必要だろ?」

「じゃあ100円でいいよ。千円もいらない」

「お、おう……」


 努力の交渉の末、100円を渡す事に成功した。

 成功なのか、失敗なのか、微妙なラインではあるが……


「これはもうお前のだから。いらないんなら捨ててくれ」


 俺がパウンドケーキを美月の机の上に置いて立ち去ると、


「これ、あげるね。私はいらないから」


と、美月は俺の置いたパウンドケーキを岡島に渡していた。


「お、おう……」


 困惑気味に美月からパウンドケーキを受け取った岡島は、チラッと俺の方を見てきた。

 朝飯として買ったパンがぐしゃっと潰れる……


 どうして美月は、ああも頑固なんだっ!

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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