11 循環
俺が美月に食べて欲しくて買ったパウンドケーキは、美月が岡島に渡しちまった。
それは正直かなり腹が立ったが、だからといってここでまた俺が攻撃的になれば、美月はまた俺を無機物として扱うだろう。
それは分かっていたから、何とか耐えた。
耐えて次の日に今度はフィナンシェを渡してみた。
でも結果は、
「いらないよ」
だった。
そしてまた岡島に渡った。
その次に渡したブッセもマカロンもカヌレも、全て岡島に渡った。
ここまでくると最早、岡島が俺に向ける哀れみの目すらも気にならなくなってくる。
「……陽平。今日も、ダメだったな。ほら、カヌレ? 自分で食えよ」
「いい……お前が食え」
「こんな洒落こいた菓子ばっか、ここ最近ずっと食ってんだぞ? こっちの身にもなれよ」
「……そうだな。なぁ、そんなに俺から礼を受け取るのが嫌か? まぁ嫌だろうな……それは分かってんだ……ははっ」
美月も帰った放課後。
廊下で美月の事を考えていた俺のところに、岡島が今日の朝に俺が美月に渡したカヌレを返しにきた。
惨めな気分だったからか、つい弱音を吐いちまった。
こんな俺は俺らしくないのに……
岡島に俺を嘲笑している様子がないからだろうか?
「あのよぉ、陽平。多分だけど花園は、お前からの礼を受け取りたくない訳じゃないと思うぞ?」
「んだよ、慰めか?」
「ちょっと試したい事があんだけど」
「んあ?」
「明日も花園に菓子渡す気なんだろ? それ、俺から渡してもいいか?」
「はぁ?」
「いや、俺じゃなくてもいい。全然花園に危害を加えていない奴に渡してもらえばいい」
「……何が言いたい?」
「花園は、誰からかに関係なく、何も受け取らねぇんじゃねぇかって事だ」
誰からかに関係なく……?
散々美月を苦しめた俺からの贈り物だから受け取り拒否をしている訳じゃなく、そもそも誰からのものも受け取らないと?
でも確かにそうだな。
俺が孤立させようとしていたせいもあるが、美月が誰かから何かを受け取っているところなんて見たことがない。
「後藤に頼むか…」
「なんで後藤なんだ?」
「……もう止めたんだよ、グループチャット。だからあいつ等は動かせない。他の男子に頼みたくはねぇ。女子は声をかけただけで逃げる。となれば、後藤だろ?」
「ほーん、なるほどなぁ? やっぱお前頭いいよな!」
「うるせ」
とりあえず岡島と共に職員室に来た。
後藤は……いるな。
ガララララッ
「おい、後藤……話がある」
「えっ……お、お前達……」
「ちょっと来い」
「いや、その……」
「黒岩っ! 岡島っ! お前達、それが先生に対する態度か! 最近は大人しいと思っていたが……」
俺達にビビる後藤に、俺達を怒鳴りつけてきた教頭。
ただ美月に明日菓子を渡してくれって頼みにきただけなのに……
まぁこれも俺の日頃の行いって奴か。
「……すんませんでした」
「は?」
「ちょっと、後藤先生にお願いしたい事があったんです……」
「そ、そ、そうか……」
「後藤先生、いいっすか?」
「えっ、えっと……何かな?」
「明日、美月……花園になんか菓子を渡して欲しいんすけど」
「は、え?」
「お願いします……」
「そ、その……何故そんな事を?」
「誰が渡しても断るのかを見たくて……」
「あ、あぁ……いや、その、先生は特定の生徒を特別扱いする事は出来ないんだ。だから、申し訳ないけど、僕には出来ないよ……?」
「……そうすか。失礼しました」
仕方なしに職員室を出る……
ひそひそと、
「本当にあの黒岩か?」
という声が聞こえ、奇異の目を向けられはしたが、気にしないでおいた。
「上手くいかねぇな……」
「……陽平、お前本当に本気なんだな」
「もう今更だろ? 隠すつもりもねぇよ」
「そうかよ。で、どうすんだ?」
「……とりあえず、お前が渡せ。その様子が俺と同じなのかを見る。いらないとは言われるだろうが、無理矢理置いとけ。お前から貰ったもんをもう一度お前に渡すとは思えねぇ。ちょっとは違う反応が見られるはずだ」
「分かった」
翌日の朝。
岡島には俺が先にマドレーヌを渡しておいた。
それを岡島が美月に渡す……
その様子を自分の席から動かずに、ただ普通に見ていた。
「おう花園! いつもの礼に菓子持ってきてやったぞ」
「いらないよ」
「まぁそう言うなって。ここ置いとくから」
「いらないよ」
「……怒ってんのか?」
「ん? 怒ってないよ?」
「いらないんなら捨てとけよ」
「勿体ないよ」
俺に対する反応と同じ……
ただ淡々と、受け取り拒否をしている。
美月は誰からの物も受け取らないという、岡島の仮説が当たってるのかもしれねぇな。
岡島が美月の机の上に置きっぱなしにしたマドレーヌを、美月はじっと見ている。
渡す相手に困っているんだろう。
もうなんの指示もしていないとはいえ、美月と視線を合わせようとする奴なんて、このクラスにはいねぇから。
となればもう、持って帰るしかないはずだ。
岡島経由とはいえ、俺が買ったもんを美月に渡せた事に、少しの達成感を覚える。
これから誰かにあげたりする可能性は十分にあるが、それでもいつもよりは美月の関心を引けた事を嬉しく思う。
ただ、岡島が渡したもんだってのは、ちょっとモヤッと……
「ねぇ、これ。あげるね」
「……は?」
考えながら少し目を閉じていたら、その間に美月は俺の席に移動してきていたようで、俺の目の前で俺にマドレーヌを差し出していた。
「はい」
「……お、おう?」
俺の手に勝手に置くと、自分の席に戻って行った。
……美月から貰ったマドレーヌ。
って、いやいや、違う違う!
これは俺が買ったマドレーヌだ!
俺が買って、岡島に渡して、岡島が美月に渡して、美月が俺にくれた……
わざわざ離れた席まで歩いてきてくれて、直接俺にくれた……
「はぁぁぁぁー」
感情の整理が追いつかない……
本当に、深すぎるため息を吐いてしまった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




