4 誤算
岡島の停学明け。
俺が教室に入った時には既に始まっていた。
岡島が置き勉していた教科書やノートは乱雑に破られ、教室の奥のロッカーの上に"害獣の落とし物"として置かれている。
呆然と突っ立っていた岡島は、やっと現状を理解出来たようで、慌てて周囲を見回していたが、誰も目を合わせようとはしなかった。
代わりに返ってくるのは、クスクスとした忍び笑いだけ。
顔面が一度蒼白になり、それから真っ赤に変わってロッカーへと向かった。
自分の名前が書かれた教科書やノートの無惨な姿。
そして"害獣の落とし物"と書かれた紙。
その紙をぐしゃっと丸めて握り潰している。
震える拳をどこに向けたらいいのかと、足りない脳をフル回転させて考えているんだろう。
そんなところに、美月は登校してきた。
「おいっ! これ! お前だろ花園っ!」
「ん? 何……」
「俺の教科書もノートもっ……ふざけやがって!」
岡島は教室に入って来てすぐの美月の胸ぐらを掴んで、怒鳴り散らした。
まだ来たばかりで状況が分からない美月は、少し驚いているみたいだ。
「うっわ、やっぱ害獣じゃん」
「な、あんなのもう人間じゃねぇよな」
「ホント野蛮野蛮」
クスクスと、教室中のあちこちから聞こえる岡島を嘲笑した声。
「クソがぁっ!」
「おい、岡島。止めろ」
岡島は美月を殴ろうと手を振り上げたが、俺の声に手を止めた。
不服そうではあったが、美月の胸ぐらを掴んでいた手も放した。
流石のバカでも、これが俺の指示だと分かっているんだろう。
そして美月も分かったはずだ。
俺が岡島を止め、美月への嫌がらせを止めさせた事も。
これで美月にも俺の強さが……
「教科書、一緒に見る?」
「「は?」」
美月の声に、俺と岡島の声が重なった。
今、何て言ったんだ?
「教科書ないんでしょ? 席隣なんだし、私のを一緒に見ればいいよ」
「おま……何、言って……クソっ!」
ガシャンッ!
岡島は美月の机を蹴り飛ばして、そのまま教室から出ていった。
「み、美月? 今の、本気?」
「……」
「岡島だぞ? あの岡島」
「……」
俺が声をかけているというのに、相変わらずの無視。
岡島に蹴られて倒れていた机を直し、いつもと変わらない様子で席についた。
それから少しだけ辺りを見渡して、
「汚くなった……」
と、呟いていた。
「なぁ、美月?」
「……」
「岡島に蹴られて汚れちゃったな?」
「……」
本当にただの呟きだったようで、俺の方を見もしない。
声も聞こえていないみたいだ。
岡島が潰れたっていうのに、何も変わらない……
1限、2限と何事もなく過ぎていき、放課後になった。
岡島の停学が明けても、岡島に何もされないという平和な時間を美月は謳歌したはずだ。
それなのに美月は……
翌日。
俺が教室に入った時、既に岡島は席に着いていた。
教室にいる奴等はクスクスと岡島への嘲笑を続けていたが、岡島はただ俯いて座っているだけだった。
そこに美月は入ってきた。
無言で自分の席に着く。
美月が隣に来たことに気付いたようで、岡島はむくっと顔を上げ、美月の方を見た。
「……なぁ?」
「ん?」
「昨日の、本気なんか?」
「何が?」
「……とぼけんなよ、その……教科書見せるとか……」
「あぁ、いいよ。一緒に見ようか」
「……まじか?」
「うん、机寄せるね」
「……おう」
ガタガタと机を寄せ、同じ教科書を美月と岡島の2人で見る構図になった……
「ウケる。キモ女と害獣でお似合いじゃん!」
「間違いねぇな!」
「あ? お前等今、何つった?」
「い、いや……その……」
ったく、何で俺が朝からこんな不快にならなきゃいけないんだ。
何で美月は……
1限から4限まで、美月と岡島はずっと近かった。
昼休み、いつものように岡島は購買にパンを買いに行ったが、俺が指示を出しておいたことにより、パンは全て売り切れ。
岡島の昼食はなくなった。
「おい、井浦、山内! お前等そんなにいらねぇだろ! 俺に譲れよ!」
「はぁ? 何言ってんの? これ、俺が買ったんだけど?」
「うわっ、カツアゲかよ! サイテー! おばちゃーん! コイツ俺達が買ったパン奪ってくるんですぅー」
「はぁ? あんた! デカい図体してなっさけないねぇ! ちゃんと自分で買いな!」
「くっ……」
あれだけ仲の良かった井浦達にも裏切られ、とぼとぼと教室に帰る岡島。
もう岡島の牙なんてもんはどこにも……
「どうしたの?」
「……昼飯、買えなかった」
「私のお弁当、分けてあげる」
「……いいのか?」
「うん。少ないかもだけど、ないよりいいでしょ?」
「まじで助かる! ありがとな!」
教室に帰ってきた岡島に、美月が自分の弁当を分けてやっていた……
「うまっ! なんだこの卵焼き!」
「結構上手く作れたから」
「お前が作ったんか!?」
「そうだよ?」
「ホントすげぇな! お前、何でも出来るんだな!」
……俺は、何を見せつけられているんだ?
何で岡島が笑って美月の手作り弁当を食べている?
何で美月は岡島に優しくする?
散々自分を痛めつけてきた奴じゃねぇか。
大人しく、牙もなくなったただのデカブツに……
何でこうも、俺に不快な事ばかりが起きるんだ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




