3 蔑視
岡島が美月の腹部にバスケットボールをぶつけた件は、体育教師が見ていた事と、手当てを担当した保健教師の発言もあって、岡島は1週間の停学処分となった。
そして、今日も美月は変わらず学校に来る。
「よう、美月? 良かったな? 岡島が休みになって」
「……」
「これでお前も平和に過ごせるなぁ?」
「……」
「まぁ、たったの1週間だけだけどな?」
「……」
「おい」
「……」
俺を無視するのも相変わらず……
岡島がいないからといって、美月の味方がいる訳じゃない。
俺以外の誰も美月に話しかけはしないし、俺以外の誰も美月が見えていないかのように扱う。
それなのに美月は、俺が見えていないかのように振る舞う……
岡島のいない、美月の平和な1週間は、あっと言う間に過ぎていった。
遂に明日、岡島は戻ってくる。
どれだけ俺を無視していようと、美月が岡島の帰還を恐れている事は間違いない。
それなのに、結局今日も俺は無視され続けた……
放課後、いつもなら岡島に絡まれ、暴力を振るわれていた時間。
ここ1週間で言えば、すぐに帰っていた美月。
だが今日は何故か帰りの用意をせず、教室から出て行った。
気になったので、少し距離を保ちつつ、美月の後を追う。
美月が入っていったのは、会議室。
基本的には使われていない空き教室だ。
近づくと、会話が聞こえてきた。
「すまないな、花園……呼び出して」
「いえ、大丈夫ですよ」
声からして、担任の後藤だ。
後藤が美月を呼び出したようだが……?
「お前には、本当に申し訳ないと思ってる……僕が弱いばかりに、全く助けてやれない……」
「私は本当に大丈夫ですから、そんなに自分を責めないで下さい」
「すまない……」
声からして、後藤は泣いているようだ。
そんな後藤を美月が慰めている?
何もしねぇ教師がイジメられてる被害者に慰められてるだなんて、後藤の無能さには呆れるな。
どう考えても教師に向いてないだろ。
「明日から、岡島が帰ってきてしまう……また、お前に酷い事をたくさんするだろう……」
「はい、大丈夫です」
「大丈夫、大丈夫って……大丈夫な訳がないだろう? こんな、こんな怪我をして……」
「いえ、大丈夫ですよ」
「僕が庇ってあげるべきなのに、どうしても、怖くて……」
「先生だからって、生徒が怖くない訳はありません。1人で何人も相手にするのは、本当にとても大変な事だと思います。ましてや、力が強くて乱暴なんですから」
「……花園。お前は、怖くないのか?」
「怖くありませんよ」
「そうか……強いんだな」
全く助けようともしないで黙認している後藤に優しい声をかけ、励ましている美月。
その上怖くないだと?
あれだけ怖い思いをしているのに?
「……その、お前に聞きたかった事があるんだ」
「はい、なんでしょうか?」
「花園は……その、岡島を煽るような事を言う時があるだろう? 何故あんな事をする? あれをしなければ、岡島ももう少し大人しく……」
それは俺も思っていた。
後藤もいい事を聞く。
「先生? 猛獣というのは、同じ視点に立ってあげる事が大切ですよ?」
「……は? 猛獣?」
「あの子は悪い猛獣使いに操られているだけの、可哀想な猛獣です。まずは同じ視点に立って、何が正しいのかを教えてあげないといけません」
「お、おう……」
「最初は噛みついてくる事もあります。それでも、その恐ろしい牙を制する事が出来た時の達成感は、とても大きなものですよ?」
美月は岡島の事を獣だと言っていた。
つまり、岡島の牙を制する事を楽しみにしていると?
あれで御せると思っているのか?
「その、悪い猛獣使いというのは、黒岩のことか?」
「一番最低なのは、自分の手を汚さずに、影で人を操るような存在です」
「そうだよな……分かってはいるんだ、だが黒岩は常に実行犯ではないから……そういえば花園? お前は黒岩をずっと無視しているよな? あれは、何でだ?」
後藤……お前も使えるじゃねぇか。
そうだ、俺はそれが一番知りたかった。
何故美月は俺の事を無視し続けるのか……
「えっと……先生は、壁とお話しされるタイプの方ですか?」
「は?」
「私は無機物と会話しようとは思いません。ましてや可燃ゴミのような汚いものは、視界に入れたくもありません」
「無機物……可燃ゴミ……」
「はい」
「……花園、お前は本当に強いんだな」
……そうか。
要は俺は獣ですらなく、ただのゴミだと?
無機物と会話はしないし、汚いものは見たくないと?
は、ははっ……
言ってくれるじゃねぇか、おもしれぇ。
だったら俺がいかに無視出来ない強者であるのかを思い知らせてやる。
美月が制するのを楽しみにしているという猛獣から牙を抜き取り、面白みのない存在に変えてな。
俺は岡島を除くグループチャットにメッセージを送った。
"ターゲット変更、次のターゲットは岡島"と。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




