2 不屈
「お前、随分と調子乗ってんなぁ? 謝れよ。動画にして晒してやるからよぉ!」
移動教室前の短い休み。
岡島は美月を怒鳴りつけていた。
「恫喝でしか自分の強さを誇示出来ないの?」
「あ? もう1回いってみろ!」
岡島は美月の胸ぐらを掴んでいる。
クラスの大半は既に教室から出ていっており、残っていた奴等も関わりたくない様子でそそくさと移動教室に向かって行った。
誰1人として美月の味方になる奴はいない。
「暴力にしか頼れないなら、人間やめたら? あぁ、もうやめてるね。知能の低い、よく吠える獣でしかない」
「ふざけんなっ!」
岡島が拳を振り上げ、美月の顔面を殴ろうとした。
ガッ……
「おい、岡島。顔は止めろつったよな?」
「お、おぉ……陽平、わりぃ……」
俺が岡島の後ろから肩を掴んで止めると、岡島はビクッと少し震えて、美月から手を離した。
美月は何事もなかったかのように教科書とノート、筆箱を持って教室から出て行った。
助けてやったのに、俺の方を見もしなかった……
それから授業を終え、教室へと帰ってきた。
美月よりも先に帰って来ていた岡島は、横である美月の机に足を伸ばしている。
「邪魔だよ」
「あ?」
「机に足を上げたらダメって教わらなかった? 幼稚園からやり直そうね?」
「てめぇっ!」
ドガッ、ガシャンッ!
岡島は美月の机を蹴り飛ばした。
壁に当たった机はひっくり返っている。
「これは学校の備品。壊したら弁償だよ」
「うるせぇんだよ。お前の席なんだからお前が弁償しろや」
「壊した人が弁償するのが当たり前でしょ? 常識と法律、学んだら? あ、獣には無理か」
「本当に腹の立つヤローだな……」
また岡島が美月に手をあげようとしていたところで、
「はーい、授業を始めまーす。って、え? 花園さん? 大丈夫? 机が……」
と、先生が入ってきた。
美月はなんでもないように、
「大丈夫です」
と、机を起こして、席を元通りにしていた。
ここで先生にチクる事だって出来るのに、それもしないで。
「じゃ、じゃあ授業を始めますね……?」
こんな事はこれまでにも何度もあった。
だから当然、先生達だって美月がクラス内でどんな扱いを受けているのかを知っているはずだ。
それなのに誰も美月を助けない。
結局は大人だろうと、厄介事には関わりたくないもんなんだ。
4限、体育の授業になった。
男女別ではあるが、共に体育館でバスケットボール。
孤立している美月は、端の方で1人ポツンと立っていた。
そんな美月目掛けて、
「おりゃっ!」
「ぐっ……」
バタンッ……
岡島はバスケットボールを思いっきり投げつけた。
ボールが横腹に当たった美月は、勢いのままに倒れた。
「花園ー! 大丈夫か! 岡島っ!」
「すんませーん、パス練習してたら、飛んでっちゃってー」
「とにかく保健室だ! 誰か……」
誰も目を合わせようとしなかった。
「俺は花園を保健室に連れていく。すぐに戻ってくるから、お前達はそれまでパス練習を続けていろ!」
体育教師が美月を支えながら体育館を出ていく。
「ははっ、これでちょっとは大人しくなんだろ!」
「ずっと生意気だったもんなー」
「それねー」
岡島も佐々木も、他の奴等もけらけらと笑いあっている。
俺ならこの嘲笑も止められるが、今これを止めても、美月が見ていないんだから意味がない。
ただただ、不快なだけの笑い声が響いていた。
体育の授業中に美月が戻ってくる事はなかった。
だが昼休みが終わり、5限が始まるまでの短い休み時間に、美月は覚束ない足取りで教室に入ってきた。
「なんだ、戻って来たのかよ。お前、さっき誰にも支えてもらえなかったなぁ? かわいそ」
「暴力でしか自己表明出来ないんだね、かわいそ」
「あぁん!? お前っ、まだっ!」
「岡島、うるさい」
「お、おう……」
俺の一言で岡島は静かになった。
それは美月だって分かっているはずだ。
俺が唯一岡島を止めて美月を助けられる存在だと。
それなのに何故美月は俺を見ない?
何故岡島を挑発する?
「相当痛かったろ? 大丈夫か?」
「……」
「おい、心配して聞いてやってんだから、何か言えよ」
「……」
「ったく……」
あれだけ岡島とは話しておいて、俺には一切口を開かない。
まるで俺の声だけが常に聞こえていないかのように、教科書とノートを用意し始めた。
制服からのぞく綺麗な白い肌は、ところどころ赤みや黒みを帯びている。
制服の下で隠れている腹部は、もっと内出血だらけだろう。
相当痛いはずなのに、なんで……なんで、俺に助けを求めない……?
……本当に、理解出来ない女だ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




