1 孤高
××高校、2年C組。
殆どの生徒が出ていった夕時の教室では、今日も鈍い音が響いている。
ドゴッ……
「ごふっ……」
バサッ……
「げほっごほっ……」
「本当にザッコいなぁー?」
腹を殴られて地面に倒れ、苦しそうに咳をしている女は、花園美月。
成績は常に上位、先生からの信頼も厚い才色兼備な優等生だ。
対して今美月の腹を殴ったのは岡島。
筋肉自慢のバカで、女だろうがお構いなしで暴力を振るう脳筋だ。
「だいじょーぶぅー? みずきちゃーん?」
「これ、死んじゃったんじゃないかー? 返事しねぇし」
美月を馬鹿にしたように笑っているのは井浦と山内。
そして、
「おい、お前等はもういいぞ。帰れ。あとは俺が相手してやるから」
俺がこの3人に美月を痛めつけるように命令している、黒岩陽平だ。
「あとは陽平のお楽しみタイムか。じゃーなー」
「アイツ本当に軟弱だよなぁ!」
「いや、お前の拳が強いんじゃね?」
けらけらと笑いながら、3人は教室から出て行った。
残ったのは、ぐったりと地面に横たわる美月と、そんな美月を見下ろす俺だけ。
「なぁ、美月? そろそろ観念したらどうだ? もうお前だって、痛いのは嫌だろ?」
「……」
「俺だって心苦しいんだぜ? お前がこうやってボロ雑巾みたいに転がってるのを見るのはさぁ?」
「……」
「難しい事じゃないだろ? "ごめんなさい"、たったの6文字発するだけで、許してやるって言ってんだ」
「……」
美月は何も答えない。
いつもそうだ。
聞こえている癖に、俺の言葉に耳を貸さない。
切っ掛けは去年の3学期。
俺達とは違うクラスだった美月は、俺達が雨宮を玩具にして遊んでいるところにたまたま通りかかった。
そして、
「あなた達! 何をしているのっ! 止めなさいっ!」
と、優等生よろしく、当然のように注意してきた。
助けられたのに礼の1つも言わずに走って逃げた雨宮を庇う発言をし、俺に反抗してきた。
だからこそ、俺はターゲットを美月に変更した。
そして2年になった今、俺と美月と岡島は同じクラスになっている。
ズズ……
のっそりと起き上がると、ふらふらと歩いて、自分の席へと移動する。
そして鞄を持って、教室から出て行った。
「また無視かよー? おい、待てって」
「……」
「分かった、分かったよ。お前が頑固だって事はよぉーく分かった。だからいいよ、ごめんなさいは言わなくて。その代わり"助けて"って言えよ。たすけて、な? たったの4文字だぜ? それなら言えるだろ?」
「……」
「いつまでも意地張ってたってしょうがないだろ? お前が助けてって言えば、もうそれで終わりにしてやるよ。お前以外の奴にも手は出さない。な?」
「……」
美月に歩幅を合わせながら横から話しかけているというのに、美月は俺を見ようともしない。
まるで俺が美月の中には存在していないみたいに……
「ったく、だったら一生ボロ雑巾やってろ」
俺はそれだけ言って、よろよろ歩く美月を置いて帰った。
そして翌日、変わらず美月は学校に来る。
昨日の様子からしても、もう完全に絶望しているようにも思えるのに、それでもこうして来るんだ。
学校へ来たところで、美月の味方なんて1人もいないというのに。
「あ、美月じゃーん。おはよー」
今美月に声をかけているのは佐々木。
強気で派手な女で、美月を孤立させるように指示してある。
「ねぇ、新しいネイル。美月の爪で試させてよ?」
「興味ないからいい」
「そんなん言わずにさぁー、ほら手! まずは甘皮の処理だからっ!」
「んっ……」
今日はネイルでのアプローチをしているみたいだ。
以前の髪を無茶苦茶に切る行為は、俺が止めたからな。
かなり長かった美月の髪はバッサリと肩につく程度に切られたとはいえ、ガタガタな長さは翌日には美月が自分で整えてきたし、今の髪型もそう悪くはないと思う。
ただあれ以来、佐々木は特に何もしていないように見えた。
今日一番に動いたという事は、しっかりと孤立させてるのかを昨日確認したのが効いたんだろう。
孤立させたり、トイレで待ち構えたりしてはいるけど、美月がちっともトイレに来ないのだと言い訳ばかりしていたが、少しは頭を使ったらしい。
「全員席に着けー」
「あ、センセ来ちゃった。またね、美月」
担任が入ってきた事で、佐々木は美月から離れていった。
佐々木は美月の爪に何かしたようで、美月は手を少し押さえている。
「今日は席替えを行うぞー」
「やったー」
「うぇー、今の席気に入ってたのにぃー」
くじ引きによって行われた席替えで、俺は窓側の一番後ろの席になった。
美月は……廊下側の真ん中辺りの席か。
離れてはいるが、見やすい位置ではある。
そしてそんな美月の横の席になったのは、どういう訳か岡島だった。
美月は相当に運がないらしい。
「よう、花園! お前がそこか」
「はぁ、横がうるさい……」
「あぁ?」
「おい、そこ! 静かにしなさい」
「クソがっ、後で覚えてろよ……」
早速岡島が美月に絡んで、馬鹿にされていた。
……俺の事は無視する癖に、美月はいつも岡島の相手をする。
あれを見る限り、まだ絶望しきってはいないんだろう。
本当に、どうしてあんなにも強いんだ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




