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陶器の英雄  作者: 猫人鳥


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5 変色

 翌日も当たり前に岡島は美月と話していた。


「お前、スゲェよ。ほんとに」

「そう? 別に凄くなんてないよ」

「俺、あんなことしたのに……お前は俺を笑わなかった」

「面白くないんだから、笑わないよ?」

「……あぁ、そうかよ」


 仲間がいなくなった岡島に、出来た味方が美月。

 自分を庇い、助けてくれる唯一の存在……

 美月にとっての俺になるはずだった構図……


 移動教室、理科室での科学の授業。

 美月と岡島はペアだった。


「ではフェノールフタレイン溶液による反応を記録していきましょう。ペアで分担して試薬を垂らし、反応の記録を開始して下さい」

「お? これをここにか?」

「うん」

「うわー、そんな初歩が分かんないとかヤバくない?」

「マジ使えねぇー」

「小学生でも聞かないよねー」


 無駄に声のデカい岡島の発言を拾った1人が馬鹿にし、そこからどんどん嘲笑が広がっていく。

 先生も呆れたように岡島を見ていて、岡島は段々と顔が赤くなり、恥ずかしそうに拳を強く握りしめていた。

 そんな中で、


「当たり前の事でも、確認って大事だよ? 分かってると思い込んで失敗しちゃうより、ずっと良い」


と、美月が岡島を庇った。


「お、おう!」

「そうですね、皆さんもちゃんと1つ1つ手順を確認して行って下さいね」


 嬉しそうな岡島に、さっきまで呆れていた癖に正論を言うかのように同調した先生。

 美月の正論と、静まり返ったこの空気に気圧され、教師としての体裁を取り繕ったんだろう。

 クラスの全員が、もう笑えなくなっていた。


「おい! 色、変わったぞ!」

「うん。アルカリ性だね」

「なんか、綺麗だな」

「こういう反応は、見ていて面白いね」

「面白い?」

「元々の色から全く別の色に変わる反応は、見ていて面白いよ」

「確かにな」


 他愛ない会話……

 気に留める必要もない雑談……

 そう思っているのに、何故か聞き流せない。

 耳の奥にこべりつくみたいに、美月の声が残っている。


ガシャンっ!


 実験も終わって片付けをしていた時、岡島が試験管を割った。


「っと、悪い……」

「大丈夫? 怪我してない?」

「お、おぉ……片付けるわ」

「ダメ、危ないから直接触らないで。箒と塵取り持って来て」

「わ、分かった」


 美月の指示に岡島は素直に従い、箒と塵取りを取りに行った。

 ばたばたと、まるで大型犬が飼い主に従うかのように……

 美月は大きな破片を手で拾っている。

 箒と塵取りを持ってきた岡島が、ぎこちなくも自分で残りの細かい破片を片付けていた。


「ほら、先生に謝ってきて」

「あぁ……すんませんした…」

「わ、わざとじゃないですからね。仕方ありません。今後は気をつけて下さい」

「はい……」

「皆さんも十分に注意して下さいね」


 あの岡島が美月の指示に従って動き、謝罪までしたんだ……

 そんな異様な光景を、美月以外の誰も受け入れられてはいなかった。


 昼休み。

 昨日同様に購買の食品は、岡島が買いに行く前に完売させておくようにと指示を出しておいた。

 だが岡島は教室から出ていく事はなかった。


「おい、見ろよ花園! 俺、自分で弁当作ってきたんだぜ!」

「自分で? 偉いね」

「おうっ!」


 岡島が美月に自慢気に見せたそれは、デカいタッパーに作られた弁当だった。

 半分以上が米で、その上には雑に焼かれた硬そうな焼き鮭が乗っている。

 黄色いドロドロはおそらくスクランブルエッグの成れの果て。

 ウインナーだけが既製品の安心感を放っている汚いもんだった。

 間違っても、いつも綺麗な弁当を作っている美月に、自慢出来るようなもんじゃない。


「米は炊飯器だから失敗のしようもないし、鮭はちょっと焦げたけど、まぁ食えるもんだ……って、うぇっ、あんま美味くねぇなぁ」

「発展途上なだけ。回数を重ねればいいよ。これからどんどん上手になる楽しみもあるよ」

「そうだよな! 俺、飲み込みの速いタイプだし!」

「野菜が全然入ってないから、バランス的にも入れた方がいいよ。ミニトマト1個とかでもいいから、ちゃんと野菜も食べてね」

「ん? おうっ!」


 美月と岡島の穏やかな昼食……

 クラス内の誰も茶化さなかったし、そもそも見ないようにと目を反らしている奴等ばかりだった。

 俺も見ていたい訳じゃないのに、何故か目が離せなくて……


「……なぁ?」

「ん?」

「……悪かったな。俺、前にお前の弁当、ひっくり返した事あったろ」

「うん」

「弁当作るのがこんな大変って、知らんかった……いや、それ以前の問題だけど……」

「うん」

「謝って、許されることじゃないのは分かってる……でも、その……俺は、どうしたらいい?」


 ぽつりぽつりと、岡島が美月に謝った……

 美月はなんでもないように聞いていたが、


「火の輪潜りを覚えるといいよ」


と、岡島に言った。


「……は? 火の輪潜り?」

「火が怖くなくなって、自分を魅せるものに変えられたら、可燃ゴミなんて怖くなくなる。可燃ゴミは火には勝てないから」

「……ちょっと、何言ってんのか分かんねぇんだけど、うん。火の輪潜りな。何か、頑張ってみるわ」

「うん」


 美月は後藤に、岡島は可哀想な猛獣だと言っていた。

 悪い猛獣使いに操られているだけだと。

 だから美月が正しい猛獣使いとして、岡島に火の輪潜りを覚えさすんだ。

 可燃ゴミである、俺を倒す為に……


 美月は多分、そういう事を言いたいんだろう。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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