育成データと、黒松の未来予測
ある夜、佐藤はアプリの中に、これまで気づいていなかった機能を見つけた。【この木の未来を予測する】というボタンだった。
「……未来を、予測?」
タップしてみると、これまで記録してきた成長のデータをもとに、数年後、数十年後の樹形のシミュレーション画像が、ゆっくりと画面に浮かび上がってきた。
「……これは……」
そこに描かれていたのは、今よりもさらに枝ぶりが力強くなり、堂々とした佇まいを見せる、未来の黒松の姿だった。
佐藤は、しばらく言葉を失ったまま、画面を見つめていた。
三十年かけて育ててきた木が、この先何十年もかけて、さらにどう育っていくのか。自分がその全てを見届けられるとは限らない。それでも、こうして「この先」が形として見えることに、佐藤は不思議な安堵を覚えた。
ふと、机の上に置いていた証券アプリの積立の画面と、この盆栽の未来予測が、佐藤の頭の中で静かに重なった。
どちらも、今すぐに結果が出るものではない。地道に、こつこつと時間をかけ、遠い未来のために今日を積み重ねていく。それだけのことだった。
「……時間をかけるというのは、案外、悪くない生き方だったんだな」
誰に言うでもなく、佐藤はそう呟くと、画面の中の未来の黒松に、そっと指を添えた。




