通知と、水やりの呪縛
過去の記録を整えた佐藤は、今度は未来に向けた設定に取り掛かった。本には『水やりのタイミングをアプリに任せて、忘れずに管理しましょう』とある。
「なるほど、これは便利そうだ」
几帳面な佐藤は、朝と夕方だけでなく、念のためにと、日中にも何度も通知が来るよう、細かく細かく設定してしまった。
その日の午後。
――ポーン! ポーン! ポーン!
立て続けに鳴り続ける通知音に、佐藤は仕事も手につかなくなった。
「……なんだ、これは。まるで小言をひっきりなしに言われているようじゃないか」
夕方までに、通知は実に八回。佐藤はさすがに苛立ち、スマホを机に置くと、ため息交じりに呟いた。
「機械に急かされて水をやる盆栽なんて、盆栽とは呼べんだろう」
翌日、いつもの駆け込み寺へ持ち込んだ佐藤に、鈴木店員は苦笑しながら説明した。
「佐藤様、これは通知の間隔を、少し丁寧に設定しすぎてしまったんですね」
「丁寧に、というより、うるさすぎる」
「はい。水やりは、実は一日一回の通知で十分なんです。むしろ大切なのは、通知の回数ではなく、佐藤様ご自身の『これくらいの土の乾き具合なら大丈夫』という、長年の勘の方なんです」
佐藤は、はっとした。
「……そうか。俺は、機械に言われずとも、水をやる頃合いくらい分かっていたはずだったな」
通知の設定を、朝の一回だけに絞り直す。それからというもの、佐藤はアプリの通知よりも先に、自分の指で土に触れ、乾き具合を確かめる習慣を続けた。アプリは、あくまで記録のための道具に過ぎない。そのことに、佐藤は静かに気がついていった。




