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文字サイズは、「極大」から、老眼に負けるもんか!  作者: 藤一


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無料の罠と、消えた電波

株主優待の到着を楽しみに待つ間、佐藤は自宅で新たな文明の利器に出会っていた。

きっかけは、テレビのコマーシャルだった。ボタン一つで映画やドラマが見放題になるという動画配信サービス——Amazonプライム・ビデオ。しかも「30日間無料体験」という魅惑的な文字が躍っていた。

「ほう……無料体験とな! 観たかった昭和の映画が見放題とは、素晴らしい時代になったものだ」

さっそくスマホにアプリを入れ、無料体験の手続きを済ませた。極大文字の画面にズラリと並ぶ映画のタイトル。佐藤は夢中になり、居間はもちろん、庭の黒松を剪定しながらもスマホで映画を流し続けた。

しかし、佐藤は重大な罠に陥っていた。

極大文字表示に集中するあまり、画面の最上部にある小さな「Wi-Fiアイコン」が消え、いつの間にかアンテナマーク(モバイル通信)に切り替わっていることにまったく気づいていなかったのだ。庭の隅では自宅のWi-Fi電波が届かず、スマホは膨大な動画データを直接キャリアの電波で食べまくっていたのである。

そして、二日後の午後。

映画のクライマックスで、突如画面がくるくると回転し始め、ブラックアウトした。

さらに画面の上部に不吉な通知が表示された。

【通信速度が制限されました。データの購入またはWi-Fiへの接続を行ってください】

何度画面を指で突っついても、映画どころか、あの証券アプリすらくるくると読み込みマークが回るだけで一向に開かない。

「な……なんということだ……!? 画面が動かん! 電磁金庫どころか、スマホ全体が麻痺しているぞ! 無料体験と言っておきながら、怪しいウイルスでも送り込まれたか!?」

顔を青くした佐藤は、スマホを握りしめていつものスマホショップへと猛ダッシュした。

「す、鈴木くん! 大変だ! スマホが死んだ! 金庫も映画も、すべてが繋がらんようになったのだ!」

カウンターへ滑り込んできた佐藤からスマホを受け取り、鈴木店員は画面の上部と通信量データを確認すると、申し訳なさそうに、しかし優しく苦笑した。

「……佐藤様、ご安心ください。ハッキングや故障ではございません」

「故障ではない!? ではなぜ何も映らんのだ!?」

「これはですね、佐藤様が動画をたくさんご覧になったことで、今月の『パケット(データの容量)』をすべて使い切ってしまった状態なんです」

「パケット……? データを食べ尽くしただと?」

「はい! 動画というのは、巨大な荷物のようなものなんです。自宅のWi-Fiという専用の高速道路を使っていれば良かったのですが、Wi-Fiが届かないお庭などでご覧になったため、スマホの通信容量が一気に空っぽになってしまったんですよ」

佐藤はハッと息を呑んだ。

「なに……! 庭で黒松を見ながら映画を観ていたのが原因か!」

「はい。ですが佐藤様、今日は幸いなことに『二十九日』……つまり月末でございます!」

「む? 月末だと何が良いのだ?」

「通信制限は、来月の一日……あと二日待てば、自動的にリセットされて元のスピードに戻りますよ!」

「おおお……! あと二日の我慢で済むのか! 無料体験の呪いではなかったのだな!」

胸を撫で下ろした佐藤だったが、鈴木店員が思い出したように付け加えた言葉に、再び凍りついた。

「あ、そういえば佐藤様。この動画サービスですが、無料体験期間が終わると、自動的に月額料金が発生する仕組みになっております」

「な、なんだと……!? 自動で有料になるだと!?」

「はい。解約手続きをされないと、来月からお金がかかってしまいますが……」

「今すぐ解約だ!!」

佐藤は目を見開き、大声で叫んだ。

「無料だと言っておいて自動で金を奪っていくとは、なんと恐ろしい仕組みだ! 鈴木くん、今すぐその解約の仕方を教えてくれ! 一刻も早く解約するのだ!」

「は、はい! 今すぐお手伝いします!」

結局、鈴木店員のサポートのもと、佐藤はその場で速やかに無料体験を解約した。

「ふう……危ないところだった。無料の裏には必ずカラクリがあるのだな。やはり俺には、じっくり届くのを待つ『株主優待』の方が性に合っている」

通信制限のかかったスマホをポケットに押し込み、佐藤は「あと二日の辛抱だ」とつぶやきながら、安堵と少しの反省を胸に帰路につくのだった。

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