一株のオーナー
気合十分で三井の店舗へ駆け込んだ佐藤は、ブースに座るやいなや斎藤に宣言した。
「斎藤くん! 俺は『優待』と『配当』を手に入れるぞ! 画面の数字を待つだけの男はもう卒業だ。俺の意志で企業を選び、確実な実利を受け取る『株主』になる!」
斎藤はいつものように几帳面なお辞儀をし、深く頷いた。
「素晴らしいお気づきです、佐藤様! 画面上の評価額だけでなく、企業からの『配当』や『優待』という実利に着目されるのは、非常に地に足のついた素晴らしい投資方針でございます!」
「うむ! だが斎藤くん、何千株も買うような大金はないぞ? 一株からでも買えるのかね?」
「もちろんでございます! 弊社では『かぶミニ(単元未満株取引)』という制度がございますので、お好きな企業の株を『一株単位』からご購入いただけますよ」
「なに、一株から……! それなら俺の小遣いでも十分に手が届くじゃないか!」
佐藤はスマホの極大画面と格闘しながら、自分が愛用している園芸用品メーカーの検索画面を開いた。
「よし……この会社だ。俺の黒松を支えてくれているハサミの会社に、俺の意思で出資する!」
斎藤のサポートを受けながら、慎重に、だが力強く指で画面をタップする。
【買い注文が完了しました:1株】
画面に表示された文字を見つめ、佐藤は深く息を吐いた。
「……買ったぞ」
「おめでとうございます、佐藤様! これで佐藤様は、今日からこの企業の立派な『オーナー(株主)の一員』でございます!」
「オーナー……! そうか、俺はこの会社の事業を支える一員になったのだな!」
単にアプリの数字を眺めるだけだった日々から一転、自分の意志で企業を選び、応援する手応え。
佐藤の胸には、これまでにない誇らしさと「本物の投資家になった」という確かな実感が満ち溢れていた。
「ふっ……次に家に届く郵便物が、今から楽しみでならんよ」
鼻の下を伸びやかに伸ばした佐藤は、颯爽と店舗を後にするのだった。




