タイムマシンの電池切れ
合言葉のタイムマシンを手に入れた佐藤は、自信満々で数日間の旅行へと出かけた。
旅行先のホテルで、ふと「電磁金庫の様子はどうなっているか」と思い立ち、証券アプリを起動した。認証アプリを開き、そこに表示された6桁の数字を打ち込む。
しかし、画面には無情にも赤い文字が表示された。
【認証コードが正しくありません】
「……む? 打ち間違いか?」
佐藤は老眼鏡を押し上げ、認証アプリの数字が切り替わるのをじっと待った。新しい数字が表示された瞬間、素早く正確に入力する。だが、結果は同じだった。
【認証コードが正しくありません】
「な……なぜだ!? タイムマシンが吐き出した最新の合言葉だぞ!?」
何度も何度も打ち直したが、全て弾かれる。佐藤の脳裏に嫌な予感がよぎった。
「ば、バカな……! タイムマシンが……時を超えられなくなっている!? 電池切れを起こしたというのか!?」
旅行から帰宅した翌朝、佐藤は手帳を握りしめ、吸い寄せられるように大手証券会社の店舗へ駆け込んだ。
「斎藤くん! 大変だ! タイムマシンが止まった! 合言葉を正しく打っても電磁金庫が開かんのだ!」
息を切らして駆け込んできた佐藤を、斎藤はいつもの穏やかで誠実な笑顔でブースへと案内した。
「佐藤様、落ち着いてください。旅行先で何かトラブルがございましたか?」
「トラブルなどない! ただ……飛行機に乗ったので、スマホを『機内モード』というやつにしたくらいだ!」
斎藤はメガネの奥の目をキラリと光らせ、深く頷いた。
「なるほど! 佐藤様、素晴らしいお気づきです。原因はまさにその『機内モード』にございます」
「なに……!? あのボタンか!?」
「はい! このタイムマシン認証は、スマホの内部時計と寸分違わず同期していないと動かない、非常に精密な仕組みなんです。機内モードの間、スマホの時計がほんのコンマ何秒かズレてしまったため、タイムマシンの時間が過去や未来へ少しだけズレてしまっていたんですよ」
佐藤はハッと息を呑んだ。
「と、時計のズレ……! 精密すぎるがゆえの誤作動か!」
「まさにその通りでございます。ですがご安心ください。本日は、もしまたタイムマシンが止まってしまった時のための『緊急脱出用の鍵』をお作りしましょう」
「緊急脱出用の鍵……!?」
斎藤は手際よく画面を操作し、10個のランダムな英数字を表示させた。
「これは『バックアップコード』といいまして、タイムマシンが止まった時に一回限りで使える、紙に書き残しておく特別解錠コードでございます」
佐藤は斎藤に渡されたペンを握り締め、極大文字で手帳の裏表紙に10個のコードを丁寧に書き写した。
「……できた。これを手帳に挟んでおけば、タイムマシンが止まっても俺は自力で金庫を開けられるわけだな」
「はい! これで佐藤様の電磁金庫は、いよいよ隙のない鉄壁の要塞となりました!」
斎藤の頼もしい言葉に、佐藤は誇らしげに胸を張った。
「ふっ……ありがとう、斎藤くん。タイムマシンに予備の脱出装置まで備わるとは、俺の金庫も大したものだな」
トラブルを一つ乗り越えるたびに、佐藤の「投資家としての理屈」と自信は、着実に深まっていくのだった。




