合言葉のタイムマシン
無事に入金を済ませた佐藤だったが、翌日、本を読んでいて新たな謎の使命感に駆られていた。
『二段階認証を設定し、セキュリティを万全にしましょう』
「なるほど、電磁金庫の鍵を二重にするわけだな。よし、やってみよう」
本の手順に従い、スマホに認証アプリをダウンロードする。画面に表示された謎の6桁の数字を、証券アプリに入力してみる。
「よし、鍵がかかったぞ」
満足げに頷いた佐藤だったが、その日の夕方、再びログインしようとして画面の前で固まった。
「……あれ? 昼間の合言葉と、違うぞ?」
認証アプリを開くと、昼間メモした数字とはまったく異なる6桁の数字が表示されている。しかも、佐藤が老眼鏡越しに見つめている前で、数字の横の円状のメーターがグルリと回り、また別の数字へくるりと入れ替わった。
「なっ……!? 今、目の前で合言葉が変わったぞ!?」
佐藤の背筋に、冷たいものが走った。
「まさか……何者かが俺の合言葉をリアルタイムで書き換えているのか……!? 侵入されている!!」
震える指でスマホを握りしめ、佐藤はいつものスマホショップへと猛ダッシュした。
「す、鈴木くん! 大変だ! ハッキングだ! 何者かが俺の合言葉を、目の前でリアルタイムで書き換えているんだ!」
カウンターにすがりつく佐藤からスマホを受け取った鈴木店員は、認証アプリの画面をひと目見て、深く頷いた。
「……佐藤様! これは侵入ではありません。むしろ真逆でございます!」
「真逆……?」
「はい! この数字は、佐藤様専用の『合言葉のタイムマシン』なんです!」
「タ、タイムマシン……!?」
「はい! 30秒ごとに未来の合言葉へと自動で切り替わることで、世界中の誰も予測できない、佐藤様だけの最強の鍵になっているんです!」
「30秒ごとに……未来の鍵に……!?」
「そうです! 他人がこの数字を盗み見ても、次の瞬間には無効になります。佐藤様は今、世界で最も堅固な金庫をお持ちなんですよ!」
佐藤の顔から、みるみる緊張が解けていった。
「……ふっ、そうか。侵入されていたのではなく、俺の方が時間を味方につけていたというわけか」
「まさにその通りです、佐藤様!」
自分の鍵が「時を超えている」ことに大満足した佐藤は、誇らしげに胸を張り、ショップを後にするのだった。




