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文字サイズは、「極大」から、老眼に負けるもんか!  作者: 藤一


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14/59

消えた盆栽と、開かれた扉

スマホショップで鈴木店員から「本が追いついていない」という金言をもらい、佐藤はすっかり上機嫌で帰宅した。

(フン、やはり俺の端末は先端を行き過ぎているのだな)

渡辺書店員から買った『使いこなし大全』を机にドサリと置き、佐藤は老眼鏡をかけ直した。仕組みさえ分かれば恐れることはない。

そういえば、と佐藤は思い出した。

昨日、操作練習のために庭の鉢植えを何枚も撮影したのだ。同じような写真が何枚もあるはずだから、まずはそれを整理してみよう。佐藤は本の中の『写真の整理と削除』の章を開いた。

「どれどれ……『写真アプリを開き、不要な写真を選択します』か」

佐藤はスマホの画面をタップし、写真一覧を開いた。

「……む?」

文字サイズは「極大」にしてあるが、写真の一覧サムネイル(縮小画像)はデフォルトの中サイズでズラリと並んでいる。

佐藤の目には、どれも小さすぎて細かな違いがサッパリ分からない。

(この陰影の入り方が違うんだが……拡大して見たいな)

佐藤は一枚の写真をタップした。しかし、写真が大きく拡大されることはなく、写真の右上に「小さな○(チェックマーク)」がポツンと付くだけだった。

「ん? なんだこの○は。拡大しないぞ?」

佐藤は首をかしげ、確認しようと別の写真をタップした。すると今度はそっちの写真にも○がつく。

「おい、どうした? なぜ○が増える? キャンセルだ、キャンセル!」

焦った佐藤は画面をポンポンと連続でタップした。

トントン、トントン!

タップするたびに、画面中の写真へ次々と○が増えていく。画面はまるで「○のバーゲンセール」状態だ。

「ええい、なぜだ! どうすれば戻るんだ!」

画面上の文字は老眼鏡越しでも追いきれず、パニックに陥った佐藤の視界に、画面下部の「ゴミ箱アイコン」が飛び込んできた。

(これだ! 一旦この○(変なモード)をゴミ箱に捨てればリセットできる!)

佐藤は迷わずゴミ箱アイコンを勢いよくタップした。

すると突然、画面中央にポップアップメッセージが表示された。

『選択した12枚の項目を……』

「うおっ!? なんだこのメッセージは!」

読もうとした瞬間、画面いっぱいの巨大な文字のせいで「はい」「キャンセル」のボタンが画面の大半を占領し、メッセージの本文を押し出していた。

焦った佐藤の指は、吸い寄せられるように赤く強調されたボタンへと伸びた。

【はい】

シュッ——。

一瞬にして、画面から○のついた写真たちが綺麗さっぱり消え去った。

「………………あ」

静まり返る部屋。

佐藤はピキリと固まった。

(消えた……?)

画面に残ったのは、失敗作のブレた花の写真がポツンと一枚だけ。

消えた12枚の中には、佐藤が三十分かけてライティングを調整し、いずれSNSに投稿してやろうと意気込んで撮影した「渾身の盆栽(黒松)」の最高の一枚も含まれていた。

「しまっ……! 消してしまったぁぁぁ!!」

冷や汗が背中を吹き出す。我に返った佐藤の手は震えていた。

ついさっき「感謝する」と格好良く去ったばかりのスマホショップへ、また「写真を消しました」と駆け込むなど、定年間近のプライドが絶対に許さない。

「落ち着け……落ち着け佐藤。本だ。本を読むんだ!」

佐藤は縋るような思いで『使いこなし大全』を激しくめくった。ページを破らんばかりの勢いで探すこと数分、小さく書かれた注記に目が留まった。

『※削除された写真は、完全に消去される前に一時的に「ゴミ箱」フォルダに移動します。30日以内であれば復元が可能です』

(あ、あった……! ゴミ箱だ! 完全には消えていない!)

一縷の望みが繋がり、佐藤は歓喜した。

本には『画面下の「アルバム」タブから「ゴミ箱」を選択します』と書かれている。

佐藤は急いでスマホの画面を見た。

しかし——

「……ない」

画面下に並んでいるのは『写真』『検索』『おすすめ』の3つだけ。「ゴミ箱」などどこにも見当たらないのだ。

そう、佐藤のスマホは「極大文字モード」。

画面の幅が足りず、本来右端にあるはずの「アルバム」や「ゴミ箱」は、画面の隅に追いやられた『…(3点リーダー)』の中に隠れてしまっていたのだ。

本を見ても「ゴミ箱を押す」としか書いていない。

画面を見ても「ゴミ箱」が存在しない。

「……またか。また『本が追いついていない』のか……!?」

自力での限界を悟った佐藤は、静かにスマホを握りしめた。

数分後。

スマホショップの自動ドアが開き、本日二度目の佐藤が、少し肩を落としながら入ってきた。

カウンターの奥で、鈴木店員が目を丸くして立ち上がる。

「あ、佐藤様! どうされましたか?」

佐藤は深くため息をつくと、観念したようにスマホと『使いこなし大全』をカウンターの上に並べた。

「……鈴木くん。……ゴミ箱が、消えた」

神店員・鈴木との、本日二度目の戦いが幕を開けた。

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