第三話 贅沢禁止令と「合同炊き出し」
中央広場への呼びかけが始まると、ガルガルドの街全体に、まるで嵐の前の静けさのような異様な緊張感が漂い始めた。
「おい、人間どもが何やら怪しい動きを見せているぞ」
「魔族の奴らが、手薄になったこちらの倉庫を襲いに来るんじゃないか?」
石造りの崩れかけた家々の影、あるいは泥にまみれた路地の辻から、住民たちが次々と姿を現す。
だが、誰も広場の中心には近づこうとしない。
遠巻きに、互いを、そして広場の中央を強い警戒と不信の目で見つめている。
気づけば、広場の右側にはボロ布を纏った人間の難民たちが約六百人、
左側には黒い肌や角を持つ魔族の残党たちが約四百人、綺麗に分かれて陣取っていた。
その境界線には、見えない国境線が存在するかのように、
ぽっかりと数十メートルの空白地帯が出来上がっている。
互いの視線が交錯するたび、パチパチと火花が散るような錯覚さえ覚える。
その緊迫した空気のど真ん中に、ぽつんと据え置かれたものがあった。
直径二メートルはあろうかという、黒々とした鉄製の巨大な軍用大鍋だ。
マルタが部下のオークたちに命じて、旧魔王軍の遺品から引っ張り出してきた代物である。
その下には、ナオトの指示で急ごしらえで作られた、頑丈な石竈が組まれていた。
ナオトは、その竈の前に立ち、寒風に吹かれながら静かに腕を組んでいた。
その背後には、指先を小さく震わせながらナオトの袖を掴むリーネと、
周囲の暴徒たちにいつでも反撃できるよう腰の剣に手をかけたマルタが、
それぞれの種族の陣営を睨みつけるように控えている。
「ナオト様……本当に、本当に大丈夫でしょうか。みんな、今にも武器を抜いて殺し合いを始めそうな顔をしています。私の知っている人たちも、みんな目が血走っていて……」
リーネの声は、今にも消え入りそうに震えていた。
勇者パーティに使い潰され、この街に捨てられた彼女にとって、大衆の悪意や殺気はトラウマそのものだった。
「大丈夫だよ、リーネ。心配いらない」
ナオトは振り返り、彼女の緊張を解きほぐすように、いつもと変わらない穏やかな微笑みを向けた。
「人間も魔族も、今はただ『見えない未来』に対して極限まで不安なだけなんだ。
前世でもそうだった。災害が起きて、物資が足りなくなると、人はまず他者を疑う。
こういう時に一番効果的なのは、感情論じゃない。
明確なルールと、目に見えるメリットを提示してあげることさ」
ナオトは一歩前へ出た。
その瞬間、千人近い群衆の視線が一斉に彼という一人の人間に突き刺さる。
常人であれば、その圧倒的な圧力に気圧されて声を失うところだろう。
しかし、ナオトの心は一ミリも動じなかった。
前世の役所時代、地域の利害関係が複雑に絡み合い、
お互いのエゴを剥き出しにして怒鳴り込んでくる住民協議会を、彼は嫌というほど経験してきた。
怒号、罵声、机を叩く音――それらを笑顔で受け流し、最終的に全員を納得させてきた実績が、彼にはあった。
ナオトは深く息を吸い込み、広場全体、そして街の隅々にまで届くような、よく通る文官の声で叫んだ。
「ガルガルドの住民の皆さん! 本日より、この街の新領主に着任したナオトだ!」
一瞬、広場のざわめきがピタリと止まった。
静寂のあと、前方にいた人間の難民の男が、唾を吐き捨てるように野次を飛ばした。
「新しい領主だと!? 王都の能無し貴族が、こんな死に損ないの街に何しに来やがった!」
「どうせお前も、俺たち難民を適当に間引きして、手柄だけ持って王都へ帰るつもりなんだろ! 俺たちのことなんか、見殺しにする気なんだ!」
それを皮切りに、人間側の陣営から怒号の嵐が巻き起こる。
「そうだ! 帰れ!」「俺たちに構うな!」
しかし、ナオトはその罵声の嵐を、完璧な「公務員スマイル」を維持したまま、ただじっと受け止めていた。
そして、声の波が少しだけ引いた瞬間を見計らい、手にした一枚の大きな羊皮紙を掲げた。
「皆さんの言い分はもっともだ! だが、一つだけ決定的な勘違いをしている!
私は皆さんを見殺しにするために来たのではない!
皆さんが、自分たちの愚かなやり方で勝手に自滅しようとしているのを、止めに来たんだ!」
その強い口調に、今度は魔族側の陣営から鋭い声が上がった。
「人間の若造が、偉そうに何を言うか!」
「脅しでも何でもない、これは純然たる事実、そして計算結果だ!」
ナオトは羊皮紙に描かれた真っ黒なグラフを全員に見せるように掲げ直した。
「あと三十日で、この地域には数十年に一度の『牙を剥く冬』――猛烈な大寒波がやってくる!
現在、皆さんが各自で抱え込んでいる食糧と薪の量を、私のスキルですべて計算させてもらった。
……結論を言おう。今のまま、人間と魔族が個別に物資を消費していけば、
冬の開始からわずか二週間で全ての薪が消え、三週間目には食糧が尽きる。
つまり、来月中に、この街の住民の九割が飢えか寒さで確実に死ぬ!」
直球すぎる、一切のオブラートに包まない「死の宣告」に、
広場全体がまるで冷水を浴びせられたかのように凍りついた。
誰もが、薄々気づいていた恐怖だった。
それを、新しく来た領主が明確な数字として突きつけてきたのだ。
「おい、ふざけるな! じゃあどうしろって言うんだ!」
動揺する群衆に向け、ナオトはさらに声を張り上げた。
「だからこそ、本日この瞬間をもって、ガルガルド全域に『緊急贅沢禁止令』を発令する!
同時に、街のすべての食糧と薪を領主権限で一括管理する『完全配給制』を導入する!
これより、皆さんがそれぞれの倉庫や自宅に隠し持っている物資を、すべて没収し、この広場に集める!」
その瞬間、広場は先ほどとは比べものにならないほどの、怒りと拒絶の濁流に飲み込まれた。
人間も魔族も関係なく、誰もが激しい怒りを露わにしてナオトへ詰め寄ろうとする。
「ふざけるな! 俺たちが血反吐を吐いて集めた食べ物を、なぜお前に渡さなきゃいけない!」
「人間に我らの貴重な物資を差し出すなど、死んでも断る! 奪えるものなら奪ってみろ!」
一歩間違えれば、千人の群衆が領主館を襲撃し、ナオトの命を奪いかねない暴動の一歩手前。
その時、ナオトの真横にいたマルタが、鋭い足取りで前へ踏み出した。
――ドンッ!!!
彼女が軍靴で地面を強く踏み鳴らした瞬間、広場の石畳が微かに震え、凄まじい衝撃音が響き渡った。
元魔王軍将校としての圧倒的な覇気と殺気が広場を圧し、魔族たちの怒号がピタリと止まる。
「静粛にせよ、我が同胞たちよ!」
マルタの凛とした、しかしどこか悲痛な叫びが広場に響く。
「私とて、人間の若造の命令に従うのは不本意極まりない!
腹立たしくてはらわたが煮えくり返る思いだ!
だがな……この男の持ってきた計算書を、私はこの目で見た。
旧補給部隊長としての誇りにかけて断言する。
この男の言う通り、今のまま個別に冬を迎えれば、私たちは全滅する!」
マルタは群衆の中にいる、かつての部下や、衰弱した魔族の子供たちを一人ずつ見つめた。
「私は、戦争を生き延びたお前たちを、こんな最果ての地で犬死にさせたくない。
一人も死なせたくないのだ! この男には武力も魔力もない。
だが、私たちを生かすための『知恵』がある。
私は、我が同胞の命のために、この領主にすべてを賭ける!
お前たちも、私を信じるなら、今すぐ倉庫の鍵を差し出せ!」
その言葉には、血を吐くような覚悟が宿っていた。
魔族の荒くれ者たちが顔を見合わせ、その目に明らかな動揺と迷いが走り始める。
彼らにとって、マルタの言葉は絶対だったからだ。
間髪入れずに、今度はリーネが人間たちの前に飛び出した。
「人間のみんなも、私の言葉を聞いて!」
彼女は小さな手を大きく広げ、難民たちに向かって必死に訴えかけた。
「ナオト様はね、私たちの倉庫にある小麦が、
湿気で数日以内にカビて全滅してしまうことまで見抜いてくれたの!
もし今、私たちが魔族と戦って、食糧を奪い合ったとしても、
冬が来たらみんなで一緒に凍えて死ぬだけなんだよ!
そんなの悲しすぎるよ! お願い、私を信じて、ナオト様を信じて、一度だけ力を貸して!」
二人のヒロインが、自らの種族の壁を越えて必死に群衆を説得する。
その姿に、さっきまで暴動寸前だった住民たちの怒号が、徐々に困惑と戸惑いへと変わっていった。
それを見計らい、ナオトは静かに腰を落とし、石竈の下に積まれた薪に火をつけた。
パチパチ、と乾燥した薪が爆ぜる小気味良い音が響き、巨大な大鍋の底がじんわりと熱を帯び始める。
「言葉だけで信じろと言うほど、私は傲慢ではない」
ナオトは、火の粉を見つめながら静かに、しかし確固たる意志を込めて言った。
「まずは、今この場で証明しよう。
皆さんが個別に持っている、傷みかけた干し肉や、カビが生えかけた根菜。
そんなもの、個別に調理すればただの不味いゴミだ。
だが、一つの大きな鍋に集め、適切な処理を施せばどうなるか。
……今日これからの食事は、すべて領主館が責任を持って無料で支給する。
腹が減っているなら、まずは私の作ったものを食べてから、文句を言ってくれ」
大鍋にたっぷりと張られた井戸水が、少しずつ温まり、微かな湯気を上げ始める。
ナオトはすぐに頭を切り替え、【材質鑑定】のスキルをフル稼働させた。
「マルタさん、そっちの倉庫から持ってきた魔族の干し肉、そのまま入れると塩分が強すぎるし、獣臭さが残る。 一度、沸騰したお湯にさっと潜らせて、余分な塩分とアクを抜いてくれ」
「わ、わかった。おい、オークども! 火力を絶やすな、薪をくべろ!」
「リーネ、君は人間側から集めた小麦粉に、少量の水を混ぜて、
耳たぶくらいの硬さになるまでしっかり練ってくれ。
それを小さくちぎって、後ですいとんのように鍋に投入する」
「はい、ナオト様! お任せください!」
人間と魔族の美少女二人が、一人の人間の男の指示のもとで、完璧な連携を持ってテキパキと動き出す。
その信じられないような光景を、広場の住民たちは言葉を失って凝視していた。
——
調理が進むにつれ、大鍋からは真っ白な湯気が勢いよく立ち上り、広場全体へと広がっていった。
ナオトは鍋の中の様子をじっと観察していた。
干し肉から出た旨味の混じった脂がスープの表面に広がり、
リーネが練り上げた小麦の塊が、心地よい音を立ててグツグツと煮立っている。
だが、これだけではただの「味の薄い肉スープ」に過ぎない。
人間と魔族の間に横たわる、冷え切った心の壁を溶かすには、もう一押し、決定的なカタルシスが必要だった。
「さて……仕上げといこうか」
ナオトは懐から、今朝早くに街の裏山で採取してきたばかりの、奇妙な赤い葉の束を取り出した。
それを見たマルタが、血相を変えてナオトの手首を掴んだ。
「待て、ナオト! お前、何を狂ったことをしている! それは裏山に自生している『血炎草』だろう!
触るだけで肌がピリピリとし、家畜が食べれば胃を焼いて死ぬという、この土地の悪名高い毒草だぞ!
住民を皆殺しにする気か!」
人間側の難民たちからも、「やっぱり毒を盛る気だ!」と悲鳴が上がる。
しかし、ナオトはマルタの手を優しく解きながら、不敵に笑った。
「大丈夫だよ、マルタさん。【材質鑑定】の結果を見てごらん。
この植物はね、そのまま大量に生で食べれば確かに毒だけど、乾燥させて細かく刻み、
スープの隠し味として適量を入れるだけで、劇的な効果を発揮するんだ。
成分名はカプサイシン。強い殺菌効果があり、何より、食べた人間の体温を芯から上昇させる、
最高の発汗・保温スパイスなんだよ」
「スパイス……? 聞いたこともない言葉だな」
マルタが不審そうに眉をひそめる。
「百聞は一見に如かず、さ」
ナオトは手際よく包丁を動かし、赤い葉を細かく刻んで大鍋の中に一気に投入した。
――その瞬間だった。
ジワリ、と鍋の中の色がほんのりと赤みを帯び、そこから立ち上った湯気が、広場全体に拡散していった。
これまでガルガルドの住民が誰も嗅いだことのない、
暴力的とも言えるほどに香ばしく、鼻腔を心地よく刺激し、
胃袋の奥底を激しく揺さぶるような、芳醇でスパイシーな香りが一気に広がったのだ。
「っ……!? な、なんだ、この匂いは……!?」
マルタが思わず自分の鼻を抑え、目を丸くした。
彼女の口内に、じわりと大量の唾液が溢れ出てくる。
「すごい……すごく美味しそうな匂い……。お腹が、勝手に鳴っちゃいそうです……」
リーネも自分の下腹部を押さえ、顔を赤くしながら鍋を見つめていた。
それは、広場に集まっていた千人の住民全員が同じだった。
誰もが、寒さと飢えで麻痺していた嗅覚を完全に叩き起こされ、
ごくり、と大きな生唾を飲み込む音が、あちこちから聞こえ始めた。
その時、広場の端にある、枯れ草の茂みがガサガサと激しく揺れ動いた。
「クンクン……クンクンクン!!! な、なになに!? すっごく、すっごくいい匂いがするのー!!!」
突如として上がった元気な黄色い声。
茂みを突き破って飛び出してきたのは、頭の上に茶色い犬のような耳をピンと立て、
お尻の後ろでふさふさの尻尾をちぎれんばかりに激しく振り回している、一人の獣人の少女だった。
彼女は、人間や魔族の警戒網など完全に無視し、
四足歩行に近い猛スピードで、一直線に大鍋へと向かって突っ込んできた。
「危ない!」
リーネが叫ぶが、少女は竈の直前で綺麗に反転し、ナオトの目の前でピタリと止まった。
「お兄ちゃん! それ、なに!? 何を作ってるの!?
クロエ、お腹がペコペコで死にそうだったんだけど、この匂いを嗅いだら、足が勝手に動いちゃったの!」
彼女こそが、ガルガルドの周囲の森で飢えに苦しんでいた野生の獣人、クロエであった。
彼女の目は、完全に大鍋の中の赤いスープに釘付けになっており、口元からは今にもヨダレが垂れそうだった。
「新しくここに来た領主のナオトだよ。これはね、みんなで食べるための特製スパイススープさ」
ナオトは微笑みながら、手元にあった木製のお椀に、
たっぷりと具沢山のスープを注ぎ、クロエの前に差し出した。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
「わーい! いただきまーす!」
クロエはお椀をひったくるように受け取ると、
フーフーと大雑把に息を吹きかけ、思い切りスープを口に含んだ。
「クロエ、待て! それには毒草が――」
マルタが止めようとしたが、時すでに遅し。
クロエは一瞬、動きを止めた。その大きな犬耳がピクピクと震え、丸い瞳がさらに大きく見開かれる。
「……っ!!!」
「おい、やっぱり毒だったんじゃないか!?」
周囲の住民たちがざわつき、武器に手をかけようとしたその瞬間、
「う、う、うみゃあああああーーーい!!!!!」
クロエが天を仰いで大絶叫した。
その尻尾の振り幅は、もはや残像が見えるほどの速度に達している。
「なにこれ!? お肉がすっごく柔らかくて、お口の中でとろけるの!
それに、この白いモチモチした塊、噛むとジュワってスープの味が染み出して最高!
あと、あとね……なんか、体がすっごくポカポカしてきたの! 寒くないの!
お兄ちゃん、これ、悪魔の食べ物なの!?」
クロエは一心不乱にスープをかき込み、あっという間にお椀を空にして、ナオトの前に突き出した。
「おかわり! おかわりちょうだい!」
その野生児のあまりにも素直で、そして幸福そうな食べっぷりに、
広場を包んでいた緊迫感は完全に霧散していた。
人間も魔族も、もはや互いを睨みつける余裕などなかった。
誰もが、自分の胃袋の限界を訴える悲鳴に耐えかねていたのだ。
「……マルタさん、リーネ。皆にお椀を配って、順番に並ぶよう指示を出してくれ」
ナオトが静かに告げると、二人は力強く頷いた。
「……わかった。おい、魔族の者たち! 秩序を守って列を作れ! 割り込みは私が許さん!」
「人間の皆さんも、慌てないで順番に並んでください! ナオト様が、全員分のスープを用意してくれています!」
最初は躊躇していた住民たちだったが、一人が列に並び、
スープを受け取って「うまい……!」と涙を流した瞬間、その流れは決定的となった。
広場には、何十個もの小さな焚き火が用意され、そこを囲むようにして住民たちが座り込んでいく。
最初は、人間の焚き火と魔族の焚き火に綺麗に分かれていた。
しかし、あまりのスープの熱さと美味さに、誰もが夢中になって食事を進めるうちに、自然と言葉が漏れ始めた。
「……おい、そっちの魔族。そのスープ、美味いか?」
「……ああ。
人間の作ったものだからと侮っていたが……信じられんほど美味い。
それに、本当に体が熱くなってきた。この寒さの中で、こんなに汗をかくなんて」
「俺たちの小麦も、無駄にならなくてよかったよ。
お前らオーク、力があるんだろ? 明日、街の崩れた壁の補修、手伝ってくれないか?
この領主様なら、明日も美味い飯を食わせてくれそうだ」
「……ふん。スープの量を増やしてくれるなら、考えてやってもいい」
温かい食事は、凍りついていた人間の理性を呼び覚ます。
お腹がいっぱいになり、体が温まれば、他者を攻撃する理由の半分は消失するのだ。
気づけば、いくつかの焚き火では、人間と魔族が肩を寄せ合い、
同じ鍋の飯を食いながら、これからの冬をどう生き延びるかという、前向きな話を始めていた。
ナオトは、空になった大鍋の横に腰掛け、その光景を満足そうに眺めていた。
前世の避難所でも同じだった。
人は、温かい汁物を一杯飲むだけで、驚くほど優しくなれるし、前を向くことができる。
「ナオト、お前という人間は……本当に底が知れないな」
マルタがお椀を片手に、ナオトの隣に腰を下ろした。
彼女の頬は、スパイスの効果か、あるいは別の理由からか、ほんのりと赤く染まっている。
「武力もなく、魔力もない。
お役所仕事しかできない無能だと聞いていたが
……お前は、剣を使わずに、この街の千人の戦いを止めてみせた。見事だ、領主ナオト」
「僕はただ、自分の仕事をこなしただけだよ。管理と分配――それが文官の戦い方だからね」
ナオトが微笑むと、反対側からリーネが、嬉しそうに抱きついてきた。
「ナオト様! 住民の皆さん、みんなナオト様に感謝しています!
私、この街に来て、初めて『明日が来るのが怖くない』って思えました!」
「お兄ちゃん! クロエも、お兄ちゃんのこと大好きになったの! 明日も美味しいもの作ってね!」
クロエもナオトの背中に飛びつき、ふさふさの尻尾を彼の顔にパタパタと打ち付ける。
人間、魔族、獣人。
それぞれの種族を代表するような美少女たちに囲まれながら、ナオトは夜空を見上げた。
最果ての夜空には、息を呑むほどに美しい星々が輝いていた。
「さて、第一段階(冬越しミッション)はクリアだ。
でも、本当のタウンマネジメントは、ここからが本番だからね。
みんな、明日からも残業(街づくり)に付き合ってもらうよ」
ナオトの言葉に、女の子たちは顔を見合わせ、それぞれの未来に胸を膨らませながら、
温かい笑顔で頷くのだった。




