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戦闘スキルは「無能」ですが、元公務員の知識で最果ての街を大改造します  作者: ある六芒星
第一部  瓦礫の街と、無能と呼ばれた新領主
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第四話 タウンマネジメントは終わらない

奇跡の「合同炊き出し」から一夜が明けた。

ガルガルドの街を包む空気は、昨日までとは明らかに変わっていた。人間と魔族が互いに睨み合っていた中央広場には、今や一つの大きなルールが定着しつつあった。

『飯を食いたければ、領主の計画に従え』

非常にシンプルで、そして強力なルールだ。空腹を満たし、スパイスのスープで体を温めた住民たちは、ナオトが提示した「冬越しタイムライン」の正しさを身をもって理解していた。

「よし、全員揃っているね。それじゃあ、朝のミーティングを始めよう」

領主館の執務室。ナオトの声に応えて、三人の少女たちが机を囲む。

黒髪ロングの魔族の美女マルタ、茶髪ショートの健気な人間の少女リーネ、そして昨日仲間に加わったばかりの犬耳獣人クロエだ。クロエはナオトの椅子のすぐ横に陣取り、ふさふさの尻尾を上機嫌でパタパタと揺らしている。

「ナオト、魔族側の物資の全量徴発は完了した。私の元部下たちも、昨日のスープの美味さに完全に胃袋を掴まれたようでな。文句を言う者は一人もいなかった」

マルタが誇らしげに、数枚の羊皮紙を差し出す。そこには、魔族たちが差し出した正確な物資のリストが並んでいた。

「ありがとう、マルタさん。これで街全体の正確なアセット(資産)が把握できたよ」

「あ、アセット……? 相変わらずお前の使う言葉は奇妙だが、褒められたのなら悪い気はしない」

マルタはふいっと顔を背けたが、その表情にはナオトへの深い信頼が滲んでいた。

続いて、リーネが少し緊張した面持ちで一歩前に出た。

「ナオト様、人間側のみんなも、湿気った小麦をすべて広場の仮設倉庫に運んでくれました。カビが生える前に、今日から全部すいとんの生地にして、ナオト様の【材質鑑定】で安全なものから使っていく手順になっています!」

「完璧だよ、リーネ。素晴らしい手際だ。君が現場をまとめてくれたおかげで、住民たちのパニックを防げた」

「へへ、お役に立てて嬉しいです!」

リーネは嬉しそうに顔をほころばせる。かつて勇者パーティで「無能」と罵られ続けた彼女にとって、ナオトから受ける「正当な評価」は、何よりも心地よい救いだった。

「お兄ちゃん! クロエは何をすればいいの? 今日も美味しいスープ、いっぱい食べる係?」

身を乗り出してくるクロエの頭を、ナオトは優しく撫でた。

「クロエにはね、この街の最大の弱点である『タンパク質(お肉)』の確保をお願いしたいんだ。今の備蓄だけだと、冬の後半にどうしても栄養が偏ってしまう。クロエの野生の勘と狩りの技術で、森の獲物を定期的に調達してほしいんだよ」

「おまかせあれー! クロエ、お肉を捕まえるの、すっごく得意だよ! 毎日山ほどイノシシ持って帰ってくるからね!」

クロエは胸をドンと叩き、元気よく執務室を飛び出していった。

彼女を見送った後、ナオトは再び長机の上の地図に目を落とした。

「さて、食糧の管理と分配の目処は立った。でも、これで終わりじゃない。大寒波が来るまで、あと二十九日。次に取り掛かるべきは――街のインフラ(基盤)の整備だ」


——


ナオトが次に向かったのは、街の北側にある崩壊した城壁のふもとだった。

そこでは、マルタの指示を受けた屈強なオークたちや、リーネが呼び集めた人間の男たちが、気まずそうに距離を保ちながらも、一緒に瓦礫の撤去作業を行っていた。

「全員、手を止めて集まってくれ」

ナオトが呼びかけると、荒くれ者たちがぞろぞろと集まってくる。

「領主様、城壁の修理なら俺たちオークの力に任せておけ。こんな瓦礫、すぐに積み直してやる」

一頭の大きなオークが鼻を鳴らすが、ナオトは首を振った。

「いや、ただ瓦礫を積み直すだけじゃダメだ。【測量】と【材質鑑定】で調べたけれど、この街の土や石のままだと、強風と冷気で数日以内に凍結膨張を起こし、内側から爆発するように崩れてしまう。大寒波の突風を防ぐには、現地の素材を組み合わせた『新しい建材』が必要なんだ」

「新しい建材……? 魔法でも使うのか?」

「いや、科学――いや、前世の知恵だ」

ナオトは【材質鑑定】で街の裏山にある特定の粘土と、魔鉱石の削りカス、そして炊き出しで出た灰の成分に注目していた。これらを特定の割合で混ぜ合わせ、水で練ることで、この世界の常識にはない「超高強度の即席コンクリート(セメント)」を再現できることを見抜いていたのだ。

「オークの皆さんは、力があるからこの粘土と石粉を力一杯混ぜ合わせてほしい。人間の皆さんは、手先が器用だから、木枠を作ってそこに練り上げた建材を流し込む作業を担当してくれ。種族ごとの得意分野を活かした『適材適所』のシネジーだ」

ナオトは【製図】スキルでその場で書き上げた、分かりやすいイラスト付きの「作業手順書」を全員に配った。

「人間と魔族が、それぞれの強みを活かして一つのものを作る。これこそが、この街が生き残るための唯一のインフラ改革だよ」

住民たちは、手渡された手順書を食い入るように見つめた。そこには、誰がどのタイミングで動けば最も効率的かが、分刻みのタイムラインで完璧に可視化されていた。

「……信じられん。こんな緻密な計画書、魔王軍の最高の参謀でも作れんぞ」

マルタが背後から感嘆の声を漏らす。

「前世の役所じゃ、これの十倍複雑な計画書を毎日作らされていたからね。これくらい朝飯前さ」

ナオトの指示のもと、作業が再開されると、現場の効率は劇的に跳ね上がった。

オークが凄まじい怪力で建材を練り上げ、人間の大工たちが完璧な木枠を組み、そこへ次々と強固な壁が形成されていく。互いに言葉は少なく、まだどこか照れくさそうではあったが、そこには確かに「一つの街を作る仲間」としての連帯感が生まれつつあった。

作業を見守るナオトの隣で、リーネが嬉しそうに呟く。

「ナオト様のおかげで、街がどんどん一つになっていきますね……」

「いや、これは始まりに過ぎないよ。冬を越した後は、農業の改革をして、下水道を通して、特産品を作って交易を始めなきゃいけない。やることが山積みだ」

ナオトはそう言って、少しだけ楽しそうに微笑んだ。

前世では、どれだけ激務をこなしても、それは組織の歯車としての仕事でしかなかった。しかし今、自分の知識と経験が、目の前にいる少女たちや、千人の住民の命をダイレクトに救い、街の形を変えていく。

それは、元公務員のナオトにとって、かつてないほどの充実感だった。

「さあ、みんな。壁の作成が終わったら、次は中央広場の排水路の詰まりを解消するよ! まだまだ残業(街づくり)は終わらないからね!」

領主ナオトの力強い号令が、最果ての街に響き渡る。

少女たちの笑顔と、活気に満ちた住民たちの声。かつてディストピアと呼ばれた最果ての街ガルガルドは、一人の文官のタウンマネジメントによって、世界で最も温かい「理想郷」へと向かって、力強く歩み始めたのだった。

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