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第十七話 二度目の人生、今度は「武力」も予算(チート)規模です

ガルガルドを大陸随一の完全独立経済特区へと育て上げ、本国の最高会計監査院すら書類一枚で完全論破したあの日から、さらに数年。

人間、魔族、獣人が手を取り合い、どこよりも豊かで涼しい近代都市となったガルガルドの最高執務室で、ナオトは一人、静かにペンを置いた。

「――うん、これで向こう百年の財政計画と、全住民の年金・社会保障の書類マニュアルは完璧だね」

目の前には、一ミリの狂いもなく整理された数万冊の公文書。

リーネは今や立派な最高総理大臣となり、マルタは全種族を統べる最強の国防長官、クロエは大陸最大の酪農ギルドの総帥として、ナオトがいなくてもこの街を完璧に運営できるシステムが完成していた。

全てをやり遂げたという深い充実感。しかし同時に、ナオトの体に限界が訪れていた。

前世の役所時代から続く、彼の魂に刻まれた「仕事中毒(残業)」の業。どれだけ周りに休めと言われても、全住民の幸せのために頭脳をフル回転させ続けた結果、彼の二度目の寿命は、唐突にその灯火を消そうとしていた。

「ナオト様! 嘘、嘘ですよね!? 目を開けてください!」

「ナオト! 私の魔力を全てくれてやる! だから逝くな!」

「お兄ちゃん! 嫌だ、置いていかないで!」

薄れゆく意識の中、リーネたちの涙ながらの叫びが遠くで聞こえる。

(みんな、泣かないで。僕は最高に楽しかったよ。僕の作ったガルガルドを、これからもよろしくね――)

一人の偉大な文官(領主)が、二度目の過労死を迎えた瞬間だった。


____


「――おい、起きろ。いつまで寝ている、この『無能皇子』め」

冷たい床に体を打ち付けられた衝撃で、ナオトはバッと目を覚ました。

眼鏡の位置を直そうとするが、顔に眼鏡はない。それどころか、自分の手がひどく小さく、しかし内に秘めた生体エネルギーが、前世の貧弱な文官ボディとは比べ物にならないほど「満ち溢れている」ことに気づく。

周囲を見渡すと、そこは絢爛豪華ながらも、どこか血生臭い剣や盾が飾られた見知らぬ石造りの謁見の間だった。

ナオトを蹴り飛ばしたのは、巨大な大剣を背負い、冷酷な笑みを浮かべた鎧姿の男――この世界を統べる戦乱の大帝国『バルハイト帝国』の第一皇太子だった。

(……あれ? 僕はまた、転生したのか?)

ナオトの脳内に、この体の持ち主である第十四皇子『アレン』の記憶が濁流のように流れ込んでくる。

バルハイト帝国は、武力こそが全ての弱肉強食の国家。その中でアレンは、魔法も剣も使えない「最弱の無能」として、今日の夕方に敵国との最前線にある『落ち目の辺境都市』へ、事実上の厄介払い(追放)が決まったばかりの少年だった。

「ふん、死んだような顔をしおって。今すぐその汚い顔を片付け、最前線へ行って敵の剣の錆になるがいい」

第一皇太子は吐き捨てるように言い、数人の重装騎士を引き連れて去っていった。

謁見の間に一人残されたナオト――いや、アレンは、自身の手のひらを握り締め、フッと不敵な「公務員スマイル」を浮かべた。

「なるほどね。また追放からのスタートか。お役所の部署移動(左遷)だと思えば、なんてことはない。……それに」

アレンは自身のステータス画面を脳内で開いた。

前世のガルガルド時代、彼が動かした金額は、本国の国家予算すら遥かに凌駕する天文学的な数字だった。その「実績」が、三度目の転生において、神の手によって規格外のチートスキルへと変換されていたのだ。

『固有スキル:【国家予算アセット・コンバート】』

『効果:前世ガルガルドで稼ぎ出した総資産を、そのまま物理的な魔力・破壊力・防御力に変換する。現在の保有魔力:【測定不能(無限)】』

「頭脳(内政知識)だけでも最強だったのに、今度は『世界を滅ぼせる物理的な武力』まで手に入っちゃったか。……よし、三度目の人生のタウンマネジメント(残業)を始めようか!」


____


その日の夕方。アレンが追放された最前線の辺境都市『ロストガルド』。

そこは、隣国の精鋭騎馬軍団による包囲網の真っ只中であり、街の防衛兵たちは完全に戦意を喪失していた。

「おい、本国から来た新しい領主って、あの子供(無能皇子)かよ!?」

「終わりだ、今すぐ門を開けて降伏しよう!」

絶望する兵士たちの向こうから、地鳴りのような足音と共に、数千人の敵国重騎士団が牙を剥いて突撃してくる。敵の将軍が、アレンの姿を見て大声で笑った。

「バルハイト帝国も焼きが回ったな! そんなガキを最前線に送るとは! 一瞬で踏み潰して、この街の富を強奪してやる!」

猛烈な突撃。風を切り裂き、迫り来る鉄の嵐。

だが、アレンは街の門の前に一人で立ち、全く動じることなく、ポケットから一本の安価な羽ペンを取り出した。それを、まるで指揮棒のように敵軍へと向ける。

「我が街の公共財産(富)を不当に強奪する、か。お役所のルールに則って言わせてもらえば――それは一発で『即時強制執行(物理)』の対象だよ」

アレンが静かに、固有スキルを発動させた。

「【予算執行デフィシット・バスター】。――出費(威力)は、金貨一億枚相当で」

ドン、と世界の法則が書き換わるような重低音が響いた。

次の瞬間、アレンの羽ペンの先から、かつて異世界の誰も見たことがないような、極大の『純金の魔力濁流』が解き放たれた。それは大魔法などという生易しいものではない。前世でナオトが動かした「天文学的な国家予算」が、そのまま物質的な質量と破壊力に変換された、光の暴風だった。

「なぁっ――!? なんだ、あの光の壁はぁぁぁ!?」

突撃してきた数千の敵国重騎士団は、その圧倒的な金の魔力光に触れた瞬間、悲鳴を上げる暇さえなく、武器も鎧もろとも一瞬で『消滅(完全デリート)』させられた。

後に残ったのは、綺麗に整地された、障害物一つない広大な一本の大街道だけだった。

「……よし、道路の拡幅工事(障害物の撤去)も一瞬で完了だね。これで次の貿易ルートの確保もスムーズだ」

アレン(ナオト)は平然と羽ペンをポケットに収め、眼鏡のない目を細めて微笑んだ。


____


背後で見ていたロストガルドの防衛兵たちは、あまりの次元の違う武力チートを前に、腰を抜かして誰も言葉を発することができなかった。

「ひ、一撃で……敵の総軍を消滅させただと……? あの御方が、無能皇子……?」

「いや、あれは……『魔導皇帝』だ……!!」

兵士たちが恐怖と、それ以上の圧倒的な狂信の目を向けてアレンの前に平伏する。

「さて、みんな。安全保障(防衛線)の確保は100%終わったよ」

アレンはかつての手帳の代わりに、新しいバルハイト帝国の広域地図を広げ、不敵な笑みを浮かべた。

「明日からは、この街の税制改革、下水道インフラの整備、そして僕を追放した本国の兄上たちに対する『経済的・物理的な完全制圧(お仕置き)』の計画を始める。最強の武力(予算)と前世の内政知識があれば、この世界を丸ごと一つの『理想的な超巨大都市』に改造するのも簡単だからね!」

頭脳だけでも世界を揺るがした元公務員が、今度は「絶対に誰も勝てない最強の武力」を引っ提げて、戦乱の大帝国を根底からひっくり返す。

三度目の人生、大野直人の『限界突破の内政&武力無双ストーリー』が、今ここにド派手に幕を開けるのだった。

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