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崩壊した世界で、僕の「女神」がヒトになるまで。〜最果ての楽園で、世界の謎に挑む!最強バディと仲間たちが紡ぐ、拠点防衛の群像劇〜  作者: タチバナ ナツメ
第一章:聖鐘奪還篇

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第八話:ロナンの願いと、不穏な高笑い

「お前たちに協力してほしい依頼は、これだ」


 早速と、興味深げにロナンから羊皮紙を受け取るガラハッド。

 黒い皮手袋に覆われた手で、彼はするすると依頼書をテーブルに広げた。


「『忘れじの鐘』の調査――?」


 相棒が怪訝げにつぶやくと、すぐさまロナンは深く頷いてみせた。


「街から城壁を越えて北へ進んだところに、聖都のシンボルでもあった『忘れじの鐘』って鐘楼がある。そいつが災厄の直後から、見たことねえデカさのザハグに奪われちまっててな――」


 ロナンが指した羊皮紙の隅には、街の北部と思しき俯瞰図が描かれている。


 図の中の大きなバツ印が書き込まれた地点――おそらく、ロナンの話す「鐘楼」が建つ位置に違いない――は、「第一部隊拠点」と記されたところから、目と鼻の先にあるようだった。


「忘れじの鐘は『天籟鋼(てんらいこう)』と呼ばれる、王国内でしか採れない珍しい金属で作られてるんだ」


「ウルヴァシアを囲む城壁と同じ素材ね。天籟鋼には瘴気やザハグを退ける、聖なる力が宿ってるの」


 ロナンの説明に続き、テオがそれを補うように畳みかけてくる。


 ヴァルが「それで?」と続きを促すよりもやや早く、傍らの相棒が「すべて理解した」と言わんばかりに大きく頷くのが見えた。


「なるほど――その鐘楼を取り戻すことができれば、ザハグを退ける『音の結界』として機能させられるかもしれませんね」


「流石だな、ガラハッド。まさに、そういうことだ」


 その後、二人の間には深く考え込むような沈黙が流れた。


 鐘楼の鐘を取り戻すことは、ザハグの脅威を退ける以外にも、防衛策として有効ってこと――?


 ここまでの流れをようやっとヴァルが噛みしだいた頃合で、再びロナンが重々しく口を開いた。


「この図にある通り、フィアハさんのいる第一部隊の拠点は鐘楼のすぐ側だ――おそらくあのデカブツが元凶なんだろうが、毎日相当数のザハグが湧いて出て来てやがるらしい」


「ザハグたちの襲撃頻度は日増しに高くなってて、負傷者や犠牲者の数もかなり増えてるらしいわ……」


「そこで、兎にも角にもまずは調査から――というわけですか。依頼主は――王宮の『異形学者』?」


「そっか……その学者さんを守って、鐘楼の調査をするって依頼内容だね」


 ようやっと話の流れをつかめたヴァルは、小刻みに首を縦に振りながら、ロナンの目元を覗き込んだ。


 ヴァルと目を合わせたロナンは、にやりと不敵な笑みを浮かべる。


「ああ、最初はそのつもりだったが――俺はお前たちを見て確信した。お前たちの協力があれば、調査よりもっと上のことができるってな」


「まさか、あんた――!」


 その思惑に見当がついたのか、テオはひどく焦った様子で身を乗り出していた。


 しかしロナンは、テオの焦りなどどこ吹く風といった様子で、意気揚々と立ち上がる。

 そして大きな身振り手振りとともに、ヴァルたちに熱く語りかけていた。


「そのまさかだよ。俺たちで、あの鐘楼を奪還するんだ。そうすりゃフィアハさんたちの安全だって確保できるし、何よりこれだけデカいことをやり遂げりゃ、一発で王宮のお眼鏡に叶うことだってできるはずだろ?」


「ちょ、ちょっと待ちなさい――いくら何でも危ないわよ! ただでさえ危険な任務なのに、それ以上のことをやり遂げる必要なんてないわ」


 とうとうカウンターから飛び出し、鬼気迫る様相でロナンに詰め寄るテオ。

 しかし、ロナンは静かに首を振り、説き伏せるようにテオの華奢な双肩を優しく叩いた。


「いいや、やる必要はあるんだ。テオさんだってさっき言ってたろ。日に日に犠牲者が増えてるって」


「それはそうだけど……」


 泣きそうな目でロナンを見つめるテオは、おそらく心から彼の身を案じているのだろう。

 腰元のエプロンを掴む手が、小さく震えているのが見える。


「それに、あの鐘の音はな……この『聖都』の信仰の象徴でもある。つまり、街の人たちの希望そのものだったってことだ」


「一番残酷なのは、あの鐘楼が、街のどこからでも見えるくらい近くに建ってるってことなのよね……」


 ロナンの傍らに腰掛けたテオは、物憂げに頬杖をつき、エメラルドの瞳を曇らせていた。


「そうだな。街の人たちは、あの禍々しいものに自分の信仰が踏みにじられている光景を、嫌でも毎日目にしなきゃなんねえ。だから俺は、あのクソッタレを見上げるたびに、一刻も早く何とかできねえかって考え続けてた」


 吐き捨てるようにこぼしたロナンの双眸には、その髪色と同じように、燃え盛る赤い炎が宿っているように見えた。


「ウルヴァシアが『聖都』って呼ばれてるのは――大陸で最も『光の女神』を篤く崇拝する民の集まる国だから、だったっけ?」


 そこで唐突にヴァルは、旅の道すがらで、これから向かうウルヴァシアの地について、相棒に尋ねたことがあったのを思い出した。


「敬虔なウルヴァシアの人たちにとって、あの鐘の音は、女神の恵みそのものをあらわす、大切なものだったんだろうね」


「……そうだね、ヴァル。当事者の女神から見ても、民の信仰を踏みにじるザハグどもは、許されざる存在に違いないだろう」


 ガラハッドの言葉を聞いたヴァルは、瘴気の海に沈む鐘楼を思い描き、天井の向こうの景色に思いを馳せていた。


 ロナンはきっと、信じる人々の気持ちが踏みにじられるのを、放っておけないんだ――


 そう思った途端、ヴァルの胸に、熱い結晶がこみ上げてくるのを感じた。




「この案件の重要性については概ね理解できました。騎士を目指すための最短ルートを取れるかもしれない点で、一考の価値はあるかもしれません」


 相棒の落ち着いた声音が鼓膜を揺らしたことで、ヴァルははっと我に返っていた。

 こみ上げる熱に身を任せ、すっかり留守になっていた現実感が唐突に甦ったような気になる。


「ですが、あまりに無謀ですね。いくら何でも、僕たちだけでやるというのは――」


「くくく――はははは!」


 ――刹那。

 相棒の声をかき消すほどの、腹の底から響くような高笑いがこだましていた。


 驚きに目を丸くしたヴァルが、声の主を探して傍らに視線を寄せる。


「さっきから聞いていれば……取るに足らない世迷い事ばかり抜かしているではないか!」


 ふとカウンター席の端に、新しい顔ぶれが増えていることに気付く。


 そこでは、いかにも仕立ての良さそうな朱のマントを羽織った男が、端正な顔立ちを歪め、こちらを睨めつけていた――。

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