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崩壊した世界で、僕の「女神」がヒトになるまで。〜最果ての楽園で、世界の謎に挑む!最強バディと仲間たちが紡ぐ、拠点防衛の群像劇〜  作者: タチバナ ナツメ
第一章:聖鐘奪還篇

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第二話:強者の痛みと、勘違いの代償

 相棒への感謝もそこそこに、ヴァルは城壁の側で立ち尽くしている男のもとへ駆け寄った。


「ねえ、君は大丈夫?」


 あまりの出来事に理解が及ばない様子で、彼は口をあけたまま呆然としている。


 ヴァルが鼻先でひらひらと手を振ると、男はようやく我に返っていた。


「え……? あ、ああ」


 彼は先ほど、薄情な検問官に不平を吐き散らしていた、体格の良い男だ。


「い、いや……ははは。あんたがあまりにもあっさり、ザハグどもを片付けちまったから……」


「ご、ごめんね。驚かせちゃったかな?」


「いやいや、いいんだ。助けてくれてありがとな。あんたがいなきゃ、俺はやられてたかもしんねえ……」


 初めこそ強張った面持ちでいたものの、男はすぐさま首を振り、ヴァルに苦笑いを向けていた。


 ――また、やってしまったのかもしれない。


 忘れていたはずの苦悩が脳裏に渦巻き、ヴァルはうなだれていた。

 この聖都へ辿り着くまでの道すがらでも、同じようなことがあったのを思い出したのだ。


『ひぃぃ――こ、こっちへ来るな! 来ないでくれ!』


 命がけで救おうとした人々の中には、恐怖に満ちた表情で、ヴァルのもとから逃げ去る者も多かった。


 初めこそ、どうしてなのかと不思議に思うだけだった。


 しかし、それが何度も続くうちに、嫌でも気付いてしまったのだ。


 ――彼らがボクを見る目は、ザハグに怯えるあの目と、同じ色をしている。


 その日以来、身に染みるほど痛感してきたつもりだったのだ――自身が振るうこの力は、他人から見れば恐ろしいものでしかないのだと。


 後悔を噛みしめたヴァルが、静かに男のもとを去ろうと目を伏せた。その瞬間のことである。


「あんた、ほんとに強えんだな! すげえよ!」


 男の無骨な手が、ヴァルの両肩を力強く叩いていた。

 

 日に焼けた男――確か先ほど「ロナン」と名乗っていた――の体躯には、隆々とした筋骨が詰まっている。


 ちっぽけな大工道具などではなく、まともな武器さえ持っていたなら、きっと彼も充分戦えたのではないだろうか。


「あんなに大勢のザハグどもを、一瞬で倒しちまうなんてな! まるで王都の『蒼角騎士団(アズール・エクラ)』を見てるみてえだった!」


「え、えっと……」


 興奮冷めやらぬ様子で、ヴァルの両肩を叩き続けるロナン。

 そのすさまじい衝撃たるや、まるで地面に打ち込まれる杭にでもなったような気分だった。


 ――どうやら、彼は自分を恐れているわけではないらしい。


 体のどこかがこそばゆくなるような、奇妙な感覚をおぼえる。


「いやぁ……それほどでも」


 敬意のこもった眼差しを向けられることに、悪い気はしなかった。


「見惚れたぞ、ヴァル!」


 続けざま、マントの女も駆け寄ってくる。

 彼女の去った後には、散り散りになって城門へと駆けてゆく、他の漂流者たちの姿も見えていた。


「あの人たち、無事だったんだ――良かった」




「お前はまさか、あの異形どもの急所が視えているのか? お前の太刀筋は、ザハグの『(コア)』だけを的確に狙っているように見えたが」


 切れ長の美しい目を見開いて、こちらを見下ろす女。


「えへへ……実はボク、視えるんだ」


 ヴァルは照れ笑いを隠さず、頬を掻いて応えた。身振り手振りを添え、得意満面で答え合わせにかかる。


「何ていうか、こう――とにかく『視る』ことに集中するとね、ザハグの体の一部が星みたいにキラキラし始めて――」


「あー、おしゃべりはその辺にしておきましょうか。ヴァルも僕も、長旅で疲れていますので」


 しかし、相棒の無機質な声音が割り込んできたのに気が付くと、ヴァルは慌てて口元を覆い隠していた。


 そうだ、いけない。

 

「この『力』のことは、気軽に人前で話すべきではない」と、日頃からガラハッドにも口酸っぱく言われているのだ。


 他人(ひと)にない力をひけらかせば、必ずそれを私欲のために利用しようとする者が現れる――。


 それは、猜疑心の強い相棒が、いつも口にしている言葉だった。

 その上、また以前のように、無用に周囲を怖がらせる要因にもなりかねない。


 ――話しすぎるな。


 静かに首を振った相棒の暗紫の瞳が、ヴァルにきつく語りかけている。

 緊張に口元を歪ませたヴァルは、生唾とともに言葉を飲み込んでいた。




「あんたは、ヴァルの仲間かい? 見たところ、魔術士みてえだが」


 不意にロナンが、傍らの相棒に目をやったのを見て、ヴァルもそれに倣う。


 ――が、ガラハッドの眼差しが重たく据わっていることに気が付き、ヴァルは再びゴクリと喉を鳴らした。


 どうしたんだろう……ものすごく機嫌が悪そうだ。


 相棒のまとう空気は、瘴気のそれと見まがうほどに暗く淀んでいる。

 しかし、どうやらその原因を作ったのは、ヴァルではなかったようだ。


 ヴァルの真横を通り過ぎたガラハッドは、ロナンとヴァルとの間に、黒手袋に包まれた手を静かに差し入れた。


「あの――いい加減にヴァルから手を離してもらえませんか?」


「ん……? あー悪い悪い、女みてえな可愛いツラして、すげえ立ち回りだったから、ついつい感動しちまって――」


「感動……?」


 そのまま虫を払うような手つきでガラハッドに追い払われ、ロナンは露骨にたじろいでいた。


 間を置かず、ひと回り以上も体格差のあるロナンに、相棒は静かに詰め寄っていく。


「ついつい感動してしまったから、年頃の『女の子』にベタベタ触ってしまった――と。あなたはそう仰っているんですか?」


「は? 年頃の……女の子?」


 ロナンが腑抜けた声をあげてすぐ、耳鳴りの聞こえてくるような沈黙が訪れていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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