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崩壊した世界で、僕の「女神」がヒトになるまで。〜最果ての楽園で、世界の謎に挑む!最強バディと仲間たちが紡ぐ、拠点防衛の群像劇〜  作者: タチバナ ナツメ
第一章:聖鐘奪還篇

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第十八話:怒りの鉄拳と、フェルガルの約束

「またあの人だ……オスカーさんだっけ?」


 そう呟いてから、ヴァルは自らがひどく深い溜息をこぼし、どんよりと気持ちを沈ませていることに気付いていた。


 オスカーの背後には、昨日も見かけた巻き髪の少女と、甲冑に身を包んだ大男が立っている。


 巻き髪の少女は、主と同等の迫力で高笑いを響かせていたが、傍らの中年男は、いかにも居心地が悪そうに顔つきを強張らせていた。


「どうやら暇なのは本当らしいね……」


 暗紫の瞳を据わらせた相棒は、やってられないとばかりに肩をすくめ、不意の闖入者から冷ややかに視線を逸らした。


「ロシュフォール伯爵家のバカ息子……! 一体何しにきたのよ!?」


「ほほう……誰かと思えば、エルネスト侯爵家の落ちこぼれではないか! 貴様までこの無謀な集団に加わっていたとはな!」


 互いを蔑むように冷淡な視線をぶつけ合う二人の間には、強固な壁が立ちはだかっているかのようだった。


 どうやら貴族出身の二人の間には、ひとかたならぬ因縁があるらしい。


「見れば見るほど疑問しか残らないのですが……あの方はなぜ『遺存者(レムナント)』に?」


 もっともな疑問だ――こればかりはヴァルも、相棒の毒舌をたしなめる気になれない。


 フェルガルやジュストといった、これまで出会ってきた遺存者たちは、その立ち居振る舞いを見るだけで、周囲からの信頼の篤さを窺い知れる人物ばかりだった。


 先ほどラナとの舌戦を繰り広げていたオスカーに関しては、残念ながら誰かに評価されているところを見たことがない。


 そんな折、首を捻るヴァルとガラハッドに、ザイオンがそっと顔を近付けてくる。

 いつもの気だるげな低いトーンをさらに落とし、ザイオンはヴァルたちに囁きかけていた。


「オスカーさんは白魔術士でね……防御魔術の達人なんだよ。ザハグはおろか、外部からのあらゆる干渉を異空間へと受け流す、究極の防御魔術を習得してて」


 すると、低い囁きが終わるか終わらないかのうちに、ガラハッドが半ば怒りすら滲む顔つきで、ザイオンに詰め寄っていた。


「それは、白魔術において最も習得者の少ない『次元』の魔術を体得しているということですか? あの残念な御仁が?」


「聞こえているぞ、ガキ! 貴様、さっきもこの私を侮辱していたな!」


 喧騒に包まれた猫亭でも披露していた「地獄耳」を、再び余すところなく披露してみせるオスカー。


 しかし怒声をあげながらも、ほんのり得意げに口端を緩めているあたりが何とも憎たらしい。


「ええっ……じゃあオスカーさんはやっぱりすごいってことなの?」


 腑に落ちない思いが先に立ち、思わず疑念を口にしたヴァルだったが――


「いや……それが、そうでもないんだよね」


 すぐさまパサついた髪をふるふると揺らし、ザイオンがそれを否定していた。


「あいつ、本当にその防御魔術ひとつだけしか魔術を習得してないの。あたしと同じように簡単な治癒の魔術も使えないし、武術の腕前も、からきしダメだった気がするわ」


「ほう……それは随分、稀有なケースですね」


 滅多に感情を表に出すことのないガラハッドが、興味深げに両眼をしばたたかせている。


 相棒の興味の行く先を追おうとしたヴァルだったが、すぐさま飛んできたオスカーの怨言が、それを阻んでいた。


「ふん……小娘、それは負け惜しみのつもりか? 偉そうな口は、たったひとつでも魔術を習得してみせてからほざくんだな!」


「その通りですわよ、小娘! 究極の魔術を体得した天才に向かって、何を偉そうに!」


 ラナの辛口にも堪えた様子を見せず、余裕の面持ちで前髪を掻き上げたオスカーは、下劣な嘲笑を浮かべていた。

 巻き髪の少女のさらなる高笑いも相まって、場の空気は最悪の様相を呈している。


「くっ……」


 俯いて歯を食いしばり、言葉に詰まるラナを見て、ヴァルは下腹のあたりにドロドロとした何かがこみ上げてくるのを感じていた。


「くそっ……あいつら、言わせておけば……!」


 同じく腹に据えかねた様子のロナンが、拳を固めて身を乗り出そうとしている。


「待ってください、ロナンさん。いま不用意に揉め事を起こすべきではない。周りから何を言われようと、僕らはただやるべきことをやれば良いんです」


 相棒の冷静な一言を耳にして、ヴァルははっと我に返っていた。

 喉まで出かかった衝動を、どうにかぐっと堪えて呑み込む。


 落ち着かなきゃ――。


 肩の力を抜き、大きく息をつく。

 僅かに眉間に力を込めたヴァルは、オスカーの姿をまっすぐ捉え、語りかけた。


「そんなにすごい防御魔術を使えるなら、フェルガルさんの部隊に手を貸してあげたらどうですか? あなたが協力してくれれば、ここの部隊の人たちは傷付かずに済むはずです」


「――私が、手を貸すだと? この部隊に?」


 三白眼をぎょろりと動かし、オスカーが初めてヴァルと視線を交わした。

 瞳の動きだけでヴァルの頭の先から爪先までを一見したオスカーは、呆れたように深く息をこぼす。


「馬鹿め。お前はこの世界の状況をまるで分かっていないのか? ザハグどもが襲ってくるのは、この砦だけに限ったことではないのだぞ」


 そして再びラナを横目に捉えたオスカーは、大げさに肩をすくめ、いびつな笑みを浮かべていた。


「他部隊の苦境にかまけて、自軍の守りを手薄にするなどもってのほかだ。どこかの馴れ合い好きな偽善者侯爵殿と一緒にされては困る!」


 ――刹那。

 ずしんと腹に響くような振動と破裂音が響き渡っていた。


 驚いたヴァルが脇を振り返ると、ラナの拳がすぐ側の石壁にめり込み、細い煙をあげているのが見える。


「あんた……今、お兄ちゃんの悪口を言ったわね?」


 めり込んだ拳を無造作に引き上げ、バキバキと関節を鳴らしたラナは、静かに口を開く。


 その変貌ぶりに、ヴァルは全身の皮膚が粟立つのを感じた。


 ラナの表情からは、すべての色が消え去っている。宝石のように輝いていた瞳は光を失い、どす黒く淀んでいた。


「ま、待て……ラナ! 一旦落ち着け!」


 ラナの前に立ちはだかったロナンは脂汗を滲ませ、顔色を蒼白に染めている。


「わ、若……! いくらなんでも言葉が過ぎます!」


 ロナンとほぼ同じタイミングでオスカーの眼前に飛び出した甲冑の男も、とんでもなく慌てふためいているようだ。


「さすがオスカー様! 格上相手でも物怖じしない、鋼の精神(メンタル)をお持ちなのですわ!」


 それでも尚、オスカーへの薄っぺらな賛辞を止めようとしない巻き髪の少女。


「バカかお前は! これ以上煽るんじゃない!」


 苛立ちを滲ませた甲冑男が一喝するも、少女は高飛車に笑い続けている。


「お勤めもまだ残ってるんですから、もう戻りますよ! 全くもう、何をしに来てんだか――」


 覚悟を決めたように目元を硬くした甲冑男は、オスカーと少女の首根っこを強引に掴み、悪態をつきながら円形砦の中へと二人を引きずり込んでいった。


――ほどなくして、拠点に静けさが戻る。




「何だったんだろう、あの人たち……」


 唖然と立ち尽くしていたヴァルには、もはやその一言を絞り出すだけで精一杯だった。


「大方、騒がしいのが気になって見物に来たってとこだろ。オスカーの拠点は第一部隊(うち)の隣だからな」


 我関せずの姿勢を貫いていたフェルガルも、ようやっと口を開く気になったらしい。


 彼の話しぶりに苛立ちや怒りの感情は一切なく、まるで「慣れっこだ」と割り切っているかのような、諦めの境地を感じた。


「それならそれで、用が済んだら黙って帰ればいいものを……」


 長溜息を漏らしたガラハッドは、心底呆れ返っているようだ。


「そんなことよりラナの奴は、兄貴を馬鹿にされて随分キレてやがったなぁ」


 石壁に刻まれたラナの功績をまじまじと見つめながら、フェルガルはニヤニヤと白い歯を見せている。


「ラナはやっぱり、ジュストさんのことが好きなんだね」


「本人がいる前だったら、きっと喜んだだろうになあ……」


 ザイオンとロナンの二人も、まるで子供の成長を認めた親のような、ほっこりと和んだ表情でラナを見つめている。


「は!? 何言ってんのよ、そんな訳ないじゃない! 一発ぶん殴ったらおとなしくなると思っただけだし!」


 そんな兄目線の仲間二人を睨んだラナは、いつも通りの大声をあげ、もどかしそうに地面を蹴りつけている。


 色白の肌が真っ赤に染まっているところを見ると、案外図星なのかもしれないとヴァルは思った。




「そういや、随分話が逸れちまったが――鐘楼を取り返すための策は、本当にしっかり組み立ててあるんだろうな?」


 唐突に切り出されたフェルガルの真面目な台詞に、ヴァルはひどく面食らっていた。

 闖入者の個性があまりに強烈すぎたせいか、ここへ来た目的すら忘れかけていたかもしれない。


「もちろんだぜ、フェルガルさん。作戦を周知するのは、王宮のメンバーが合流してからになるが……」


「言っておきますが、まだ確実に作戦を実行すると決めたわけではありません。もし無理があると判断した場合は、本来の調査依頼に移行します」


「なるほどな――」


 腕を組んだフェルガルは、いつになく真剣な表情で、一同を順繰りに見渡している。

 しばしの長考のあと、彼は納得したように深く頷いた。


「よし、良いだろう。お前らがこの作戦をやり遂げた暁には、俺からのお墨付きをくれてやる――つっても、ヴァルとガラハッドに関しては元々そのつもりだったけどな」


「え、それホントなの? フェルガル!」


「ああ。王宮に掛け合って、お前たちを正式な騎士として迎え入れるよう動いてやるよ」


「フェルガルさん……ありがとう!」


 ヴァルとラナが揃ってフェルガルに飛び付くと、彼は自信に満ちた笑みを浮かべた。


「俺たち第一部隊は、既に手痛い損害を受けていて、今回の作戦に協力はできねえが――確実にやれると踏んだら、迷わず動け。お前らならきっとやれる」


 ほどなくして最後の仲間たちが砦に現れた頃には、既に夕暮れを過ぎていた――。

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