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崩壊した世界で、僕の「女神」がヒトになるまで。〜最果ての楽園で、世界の謎に挑む!最強バディと仲間たちが紡ぐ、拠点防衛の群像劇〜  作者: タチバナ ナツメ
第一章:聖鐘奪還篇

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第十九話:王宮よりの使者と、母の覚悟

 砦の見晴らし台を後にしたヴァルたちは、騎士たちの休憩所を目指し、地階へと足を運ぶ。


 日没間もない時刻に差しかかった頃、待ちに待ったマリエルと二人の近衛騎士が到着していた。


「ラナ! ロナンさん! ザイオン兄さん!」


 休憩所を訪れてすぐ、艶やかな長い黒髪の少女が足早に駆け寄ってくるのが分かった。


「マリエル! 久しぶりね! 元気だった?」


「はい、もちろんですよ」


 マリエルと呼ばれた少女はラナの手を取ると、漆黒の瞳をキラキラと輝かせ、柔和な笑みを浮かべた。


「ロナンさん……仲間を集めてくださり、本当にありがとうございます」


「おいおい、何だよ改まって。こっちこそ、依頼を引き受けるのが随分遅くなっちまって、すまなかったな」


 深々と頭を下げたマリエルに向かって、居心地悪そうに頭を掻くロナン。


 そしてゆっくりとヴァルの方へ近付いてきたマリエルは、再び陽だまりのように温かな笑みを浮かべた。


「あなた方は――ヴァルさんとガラハッドさんですね。お話は伺っています。私は異形学者のマリエルと申します。ご協力、感謝いたします」


「あっ……え、えっと。初めまして」


 神々しささえおぼえるほどの眩しい笑顔に、思わず面食らうヴァル。


 相手が同じ年頃の女の子なのはすぐに分かったが、何故だかドキドキしてしまう。


 一方のガラハッドは「どうも」と愛想の欠片もない一言を呟いて、相手の出方を伺っているようだった。


 どことなく気まずさを感じたヴァルが、適当な話題を探し始めた、そのときのこと。


 マリエルのすぐ後ろに控えていた女騎士が、ヴァルに向かって深々と一礼するのが見えた。


「お初にお目にかかります。私はマリエル様の近衛を務めております、アンナと申します。以後お見知りおきを」


 アンナと名乗った近衛騎士は、朝霞のような薄紅色の髪を頭の後ろで美しく編み込んだ、落ち着いた風情の女性だった。


 年の頃で言えば、ヴァルよりもひと回りほど上だろうか。


「やあラナ、久しぶり。王宮勤めになってからは、すっかり顔を合わせる機会も減ったね」


 マリエルの後ろに控えていたもう一人の近衛は、若い――というより、まだ「子供」ではと思えるほど、幼い面立ちの騎士だった。


 透き通るほど色素の薄い金髪に、同じ色の睫毛がふさふさと生え揃った空色の瞳。白磁のように滑らかな肌が、ひときわ目を引く。


 服装だけを見れば男性寄りな気はするが、正直なところ、ヴァルには男女の判別がつかなかった。


 親しげにラナに声をかける姿を見て、ヴァルはこっそり彼女に確認してみようと近付く。


 しかし何故か、ラナは不機嫌そうに目元を細めており、ヴァルの気配には一向に気付いてくれなかった。


「ヴァル、ガラハッド。よろしく。僕はリュカだよ」


「よろしく、リュカ――あの、いきなり失礼だけど。君って、男の子だよね?」


 その名を聞く限り、おそらく彼は男性だろう。


 でも、万が一ってことも――


 猫亭でのテオとの出会いを思い返しながら、ヴァルは遠慮がちに尋ねてみた。


「ふふっ、そうだよ。女の子と間違われるのはしょっちゅうだから、気にしないで」


 ――よかった。全然気にしてなさそうだ。


 頬に落ちた金糸をさらりと耳に掛け、リュカはヴァルの問いかけを一笑に付した。


「こんなに若い方が近衛をされているとは意外ですね。重ね重ね無礼ではありますが、あなたはまだ士官学生くらいの年齢では?」


「ははは、そうなんだよねえ。どうも騎士の中だと僕、一番年齢が若いみたいで」


 やや驚いたような面持ちで、帽子の鍔を引き上げたガラハッドが、まじまじとリュカを見ている。


 それでもリュカは、軽く受け流すような調子を崩さず、困ったように笑ってみせた。


 褒められ慣れた余裕を見せつけたいのだろうが、得意げに緩んだ口元からは、透け透けの自尊心が見え隠れしているような気がする。


 彼の内面はまだまだ年相応の子供のようで、ヴァルには少し微笑ましく思えた。


「いつ見てもイヤミなやつ……」


 しかし、リュカに真っ先に声を掛けられていたラナは、いかにも面倒くさそうに顔をしかめ、ぼそぼそと文句を垂れている。


「リュカはラナよりも年下だが、騎士団に入団したのは『災厄』よりも少し前でな――黒魔術の腕前は相当なもんだぜ」


「リュカ殿は『アランデル伯爵家』のご出身です。ジュスト様たちエルンスト侯爵家とも並ぶほどの、名門騎士のお家柄なのですよ」


「へえぇ……みんなすごい人たちばっかりなんだね……」


 ロナンとアンナの誇らしげな補足を聞いて、ヴァルは思わず感嘆を漏らす。


 するとリュカは、またも「そんなことない」などと畏まりながら、満面の笑みとともに自尊心をこぼしてみせた。


「いや、ヴァルだって充分すごいだろ? この中で戦う力に一番長けてんのは、間違いなくお前だ」


「そうよ、ヴァル。さっきザハグと戦ったとき、本当に強かったもんね!」


「そうなのですね――! 頼りにしています、ヴァルさん!」


「う、うん……頑張るよ」


 畳みかけるように熱い声援を浴びせられ、ヴァルは嬉しさの反面、隠しようのない不安と緊張が込み上げてくるのを感じた。


 果たして自分は、この大きな期待に応えられるのだろうか――と。


「マリエル、よく時間を作れたね。王宮での仕事は相当忙しいんじゃないの?」


 ひと呼吸おいてから、王宮メンバーの自己紹介が落ち着くのを待っていたかのようなタイミングで、マリエルに声をかけたのはザイオンだ。


「はい、それはそうですが――とてもやりがいのある仕事ばかりです。でも、どれだけ必死に勉強しても、なかなか追いつかなくて」


「君は本当に勉強熱心だなあ。もう少し肩の力を抜いた方がいいよ」


「そ、そうでしょうか」


 そういえば、二人は兄妹弟子なんだってラナが言ってたっけ――


 ザイオンの声音はいつも通りのほほんとしていたが、マリエルを相手にしているときだけは、どことなく親しい距離を取っているように感じられた。


 それは日ごろあまり人の顔をよく見て話さない彼が、まっすぐに視線を注いで話していたせいかもしれない。


「ザイオン兄さん――やはり、王宮には来てくださらないのですか? 兄さんが来てくだされば、王宮の皆も助かるはずです」


 しばしの逡巡のあと、マリエルが真剣な面持ちでザイオンに問いかけていた。


「……オレには、王宮お抱えの身分は合わないよ。集団生活は苦手だし」


 そんなマリエルの直視をのらくらと受け流し、ザイオンは虚ろな目遣いで天井を見上げる。


「せいぜい騎士団に所属しているくらいがちょうどいい。オレは、慣れ親しんだこの街が好きだからね」


 薄い笑みを浮かべたザイオンを見つめるマリエルの面持ちは、悲しみ以上の何かが満ちているように思えた。


 そのまま憂いに任せ、ヴァルはじっと二人の様子を眺めていたのだが――


 唐突に相棒から肩を叩かれ、ヴァルは強引に現実へと引き戻されていた。


「積もる話もあろうかとは思いますが……そろそろ、今回の作戦について話し合いましょうか」


*****


「ま、待ってください……この依頼の名目は『調査』ではなかったのですか!? 鐘楼の奪還を目指すなんて、私は聞いていません!」


 マリエルの口から作戦の概要が告げられた瞬間、唐突に素っ頓狂な声をあげたのはアンナだった。


「聞いてないって……昨日僕が、マリエルからの手紙をこっそりアンナに渡しておいたでしょ? 君の制服のポケットに放り込んだはずだけど」


「手紙……ああっ! あれ……ランタンの種火にしてしまいました……」


 溜息とともにリュカが説いてみせると、アンナはすぐさま顔色を真っ青に染め、へなへなとその場にへたり込んでしまった。


「あの、大丈夫ですか……この方」


 見るも無残に慌てふためくアンナを見下ろし、ガラハッドが露骨に眉をひそめている。


「アンナさんは、信じられねえほどドジなんだが……剣の腕前は一流なんだ。俺なんかよりずっと腕が立つはずだぜ」


 苦笑いを浮かべながら、ロナンはどうにか彼女の援護を試みているようなのだが――


 正直なところ今のアンナは、ヴァルの目から見ても、一流と評するにはほど遠く感じられた。


 困惑する一同をよそに、マリエルがアンナの前にしずしずと歩み寄ってくる。


 おもむろに腰を折ると、彼女は狼狽するアンナをなだめるように、穏やかに語りかけていた。


「アンナさん、あなたには娘さんがいらっしゃいますよね。この作戦が危険だと感じるなら、お子さんの為にも手を引いて頂いた方が良いかもしれません」


「そ、そんな……マリエル様……」


 両手で顔を覆ったアンナは、肩を震わせ、掠れた声を絞り出している。


 そんなアンナを目の当たりにしても、マリエルは僅かほども笑顔を崩さず、静かに首を振ってみせた。


「大丈夫。あなたが一人娘のリリちゃんを命より大事に思っておられることは分かっています。ここで手を引いても、咎めるつもりは一切ありません」


 マリエルの言葉を聞いた直後。


 アンナは、まるで冷水を被ったかのように身を強張らせていた。顔を覆っていた手の先に、ぎゅっと力が込められる。


 己の弱さを呪うような痛々しい沈黙のあと、彼女は弾かれたように両手を膝に振り下ろした。


「いえ……マリエル様! 私は確かにリリの母親でもありますが、同時にあなたの近衛でもあります。ここで手を引いては、リリにも――夫にも顔向けが出来なくなります」


 露わになったアンナの表情には、強い後悔と羞恥が入り混じっているようだった。


 しかし、マリエルを見つめるその視線だけは、取り乱していた先ほどとは打って変わって、射抜くような強さを帯びている。


「此度の作戦、私にも参加させてください。傷ひとつ付けぬよう、あなたをお守り致します」


 生気を取り戻したアンナの言葉を聞いた一同は、揃って大きく息をこぼした。


 たった一人、渋面を崩していないガラハッドだけは、あまり納得していないようだったが――


「よかった……もう、しっかりしてよアンナ。頼りにしてるんだからね」


 立ち上がろうとしたアンナに手を貸したリュカが、苦々しく笑みをこぼしている。


「す、すすすすみません……」


 またも情けない声色で、あたふたとし始めるアンナ。


 頼りないところはあるものの、それでもひたむきに前を向こうとする彼女の実直さには、好感が持てる。


 目が合ったマリエルと小さく笑いを交わし合った後、ヴァルはゆっくりと頷いた。


「――では、改めて作戦会議を始めましょう。まずはあの鐘楼に巣食うザハグについて、私が知っていることをすべてお伝えします」

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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