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崩壊した世界で、僕の「女神」がヒトになるまで。〜最果ての楽園で、世界の謎に挑む!最強バディと仲間たちが紡ぐ、拠点防衛の群像劇〜  作者: タチバナ ナツメ
第一章:聖鐘奪還篇

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第十六話:忠義の兄と、じゃじゃ馬な妹

 ジュストの訪問によって、第一部隊の砦には、見えない糸がピンと張られたような、微かな緊張感が生まれていた。


 お気楽に笑い合っていた騎士たちが、ジュストの姿を見るや否や、慌てて背筋を伸ばし、恭しく頭を垂れている。


 そんな重々しい空気をひしひしと感じたヴァルは、思わずごくりと喉を鳴らしていた。


「ジュスト……お前は本当にお節介な奴だな。人手不足はどこの部隊も一緒だ。お前の第二部隊だって、大して余裕がある訳じゃねえだろ」


 突然の訪問者を迎えたフェルガルは、悩ましげに前髪を掻き上げ、再び静かに息を吐いていた。

 隊の皆とは違い、フェルガルはいつもの調子を崩していないようだ。


「構わん。俺の部隊は次なる作戦に向けて、上からの号令を待っている状態だ。お前の部隊と比べれば遥かに余裕はある」


 湿った風が吹き抜け、ジュストの風変わりな衣装がたなびいている。


 幅広い平面の布をそのまま体に巻きつけたような、曲線的な絞りのない装束。

 彼の服装は、騎士団の面々が揃って着用している立襟の軍衣とは、全てにおいて違うものだった。


 あれは確か、東方の島国から持ち込まれた装束だと聞いたことがあるような――?

 朧げな知識を手繰り寄せながら、ヴァルは興味津々でジュストのいでたちを見つめ続けた。


「だからって、遺存者(レムナント)のお前までわざわざここに出向く必要はねえだろ」


 すると、フェルガルとの立ち話を交わす中、ジュストがキョロキョロと落ち着きなく周囲を見渡していることに気付く。


 ヴァルとも一瞬目が合ったものの、ジュストは依然として何かを探し続けているようだった。


「ああ、そういうことか――」


 同じくジュストの様子に気付いたらしいフェルガルが、納得したように頷いた。

 ゆっくりとこちらを振り返ったフェルガルは、不敵に口端を持ち上げ、その名を叫ぶ。


「おい、ラナ! さっさと出てこいよ。大事な兄貴が、わざわざお前の様子を見に来てくれてんだぜ」


「フェルガル! なんでそれを――!」


 皮肉たっぷりのフェルガルのセリフを聞くや否や、反射的に大声をあげたラナ。

 すぐにはっと目を見開いて再びロナンの後ろに隠れたが、そんな子供だましは通用しなかったようだ。


「ラナ……聞いたぞ。お前、ロナンとともに王宮からの依頼を引き受けたんだってな? 俺に一言も相談がないのは、どういうことだ」


 苦々しく口元を引き結んだジュストが、鷹のように鋭い瞳でロナンの背後を見つめている。


「ロナン! お兄ちゃんにバラしたの!?」


「い、いや! 俺じゃねえよ!」


 エメラルドの大きな瞳をツンツン尖らせ、怒声を張り上げるラナ。

 すぐさまロナンは「とんでもない冤罪だ」とばかりに全力で首を振っていた。


「……ジュストさんに報告したのはオレだよ」


 押し問答する二人の間に割って入ったのは、後方で暇そうに煙草を吹かし、ずっと城壁の外を眺めていたザイオンだった。


「ザイオン……なんで!?」


 ポケットから取り出した小瓶に吸い殻を投げ込んだザイオンは、気だるげに姿勢を傾け、鎖骨のあたりをボリボリと掻きながら応えた。


「ラナ……君はこの重要な依頼に、本当に向き合う気があるの?」


「は? 何言ってるのよ! そんなの当たり前じゃない!」


 終始呟くような声量で話すザイオンに、猛然たる勢いで食ってかかるラナ。


 しかし、怯む様子は少しも見せず、静かにラナを見下ろしたザイオンは、諭すように問いかけ続けた。


「じゃあ……どうして唯一血の繋がった肉親であるジュストさんに、ちゃんと報告しないの?」


「それは……」


「フェルガルの部隊がこれだけ被害を受けてるのを見れば、命懸けの任務だってことは分かるでしょ」


「そりゃそうだけど……」


「君の助力は確かに必要だけど、ジュストさんの許しを得ないままなら、君を連れては行けないよ」


「そ、そんな……!?」


 ザイオンがぼそりと口を開くたび、煮え立つようだったラナの勢いが、どんどん弱々しくなっていく。


 またしてもヴァルは、ザイオンの意外な一面を見せつけられたような気がした。

 思わず感嘆の声が漏れそうになるのを、両手で押さえる。


「ねえ、ロナン! ロナンも何とか言ってよ!」


 たまらず傍らのロナンに縋りついたラナは、そのたくましい腕を懸命に揺さぶっていた。


「ラナ……ザイオンの言う通りだぜ。俺にも妹が居たから、ジュストさんの気持ちはよく分かる」


 しかし、ロナンの表情はどんよりと曇ったままである。

 ラナの言い分をきっぱりと否定したロナンは、ゆっくりと首を横に振った。


 誰の加勢も得られないと悟ったラナは、覚悟を決めたようにぎゅっと拳を握り、つかつかと早足で兄の前に歩み出た。


 一触即発の気配を感じ取り、ヴァルは暗澹たる思いに胸を押さえる。


「お兄ちゃんは、私がみんなみたいにザハグと戦えるのかが心配なんでしょ? みんなと違って、私に魔術の才能がないから――」


「ラナ、それは違う。そんなことは――」


「嘘……そんなの絶対嘘に決まってるわ! 私だってみんなの役に立ちたくて、ずっと努力してきたのに――!」


 嫌な予感は的中し、ついに口論が始まってしまった。


 これから巻き起こるであろう一波乱を予感し、ヴァルがずっしりと重くなった胃を抱え込んだ――その瞬間のことである。


「あの、すみません。少し話を変えても良いですか」


 ザハグとの戦闘が落ち着いて以来、ずっと沈黙していたガラハッドが、とんでもないタイミングで闖入してくるのを見て、ヴァルは言葉を失っていた。


「な、なに……?」


 これには渦中の二人も大いに驚いたようで、ぴたりと口論をやめ、珍獣を見るかのような目遣いで、ガラハッドを凝視している。


「ラナさん、あなたは魔術が苦手だと仰ってましたね。でもそれは『苦手』なのではなく、少し面倒な『軌道修正』が必要なだけかもしれませんよ」


「ど、どういうこと……?」


 相棒の意外すぎる切り口に、唖然を通り越し呆然とする一同。


 言葉を失ったラナに、彼は尚も理路整然と語り続けた――。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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