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11/アネモネ

 少女の場所は移動させてあった。

 更に言えば、手足に枷をしてグルグル巻きにして牢屋に入れてある。

 牢屋は鉄格子を嵌めただけの簡易なものだが、素手で硬い岩盤を掘れる化物でなければ出られない。


 いや、ホント申し訳ない。

 だが立場上、人間の敵でいることを決めてしまったのだ。

 勝手にダンジョンから逃げられて言いふらされたり、暴れまわったりしてもらっては困るのである。


 殺したり、傷つけたりするつもりはない。

 それを彼女に説明するために、すぐに牢屋に来た。


 来たのだが……。


「がるるるるるるる!」


『マスター、助けて』


「なんだこれ」


 少女が檻に噛みついていた。


 両手足を縛られた状態でベッドから出て、鉄格子に齧りついている。

 なんていうか、非常にアグレッシブな光景だ。


「ここから出しなさいよ!」


『マスター。俺、この子、怖い』


「……ゴブリンは離れてて」


 見張りにおいていたゴブリンを下がらせて、牢屋の前へと行く。


 ウルフと僕に加え、念のためにオーガを呼んできていた。

 水晶は何かあったら大変なので留守番だ。

 と言っても、彼女は盗み聞きしている。同じ階層内であればどこでも声と耳が届くとのこと。どういう造りしてるんだろう。


「あ、お前!」


「……僕?」


「そうよ! お前よお前! お前さえいなければ、そこのオーガに負けなかったのに」


「……ごめんね」


 そうか、と少女は何かに気付いたように言う。


「お兄様から聞いたことがあるわ。人間の中にはモンスターに協力する不届き者がいるって!

 モンスターがいるのにお前を襲ってないのは、つまりそういうことね!」


「あー……」


「しかもこのモンスターの量と種類。おまけにオーガなんているんだから、ここはダンジョンよ! モンスターの巣なんかじゃないわ! 貴方、コアを見つけて悪用してる悪い人でしょ!」


「待ってくれ」


 話が勝手に進んで行く。


 綺麗な歯をガチンガチンと合わせながら、少女はこちらを威嚇していた。

 ふるしゃー! なんて擬音がする。獣か?


「今なら見逃してあげるわ! 私をここから出しなさい!」


「えぇ……」


『草十郎、こいつ自分の立場が分かってないぞ』


「はんっ! 悪者になんて負けないわ! 自分で出ることだってできるんだから……〈ウィンドカッター〉!」


「……」


「え!? 魔法が出ない!? なんで!?」


 虎の子の魔法が使えないと知って焦ったのだろう。

 彼女は慌ただしく狼狽(うろた)えている。


 ……頭が痛くなってきた。

 結構な心の準備をしてきたのに、ぽきりと折れてしまっているのが分かる。


 見れば、彼女は幼い。

 僕と同じぐらいの背丈だが、このぐらいの女性は男性に比べて肉体の成長が早い。多分、僕よりも年齢は下だろう。


 つまり子供。

 それも感情がかなり先行するタイプの、暴走やんちゃガールである。


「無駄だよ。その手枷と足枷には、魔法を封じる効果がある」


 魔法について、僕は何も知らない。

 そのため、何が使われても大丈夫なように封魔の魔道具を購入しておいた。

 割とビックリなお値段がしたため財布はすっからかんである。


「……出しなさい」


「……出す気はない。出してほしかったら、僕と話を」


「嫌よ。誰が魔物の言葉なんて信じるものですか!」


 イモムシのようになりながら、ドタバタと少女は暴れまわる。

 手足を縛られ魔法を封じられた今の彼女は、年相応の女の子に過ぎない。


「出しなさいよぉぉぉおおお!」


『草十郎、どうする?』


「……」


 およそ話し合いの出来る状態でないことは分かった。

 こちらの話を聞く気がない。敵意というか反骨精神に溢れている。

 きっとこちらが何を言ったとしても、出してくれとしか返してこないだろう。


 ならば、やる事は一つ。


「放置しよう。お腹が減れば大人しくなるでしょ」


『ま、それがいいな』


「出してぇええええええ!!!!!」


 ガンガンガンと頭を打ち付けて、離れていく僕らに抗議する少女。

 物凄い光景だ。美人が台無しである。


「出せーーーーーーーーーーーーー! ばかーーーーーーー!!!」


 終いには罵倒まで始まったのを聞き届け、そっと部屋を抜ける。


 が、何しろこのダンジョン、今まで扉というものを作ってこなかった。

 当たり前だ。プライバシーなんて一切気にする必要がない。モンスターたちは好き勝手に居住エリアの部屋の一部を寝床にしているし、僕も大広間の一角で寝起きをしている。


「あほーーーーーーーーー!」


 つまり、死ぬほどうるさい。

 部屋を超えても彼女の声は響き渡り、ダンジョン内に反響してくる。


「取り合えず……」


『うむ……』


『……』


 ウルフとオーガと僕。

 三人揃えて、げんなりとした顔で頷き合う。


 防音設備、買わないと……。



 ダンジョンメイカー14日目。

 防衛は成功、帰還する。


 めちゃくちゃ疲れた。傷だらけだ。

 体中のあちこちが痛い。特に腕がへなへなである。


 僕の直剣には、だいたい1kgの重さがある。

 軽いダンベルを持っているのと同じ。それを振り回したり、持ったまま走り回っているのだ。疲れない方がおかしかった。


『はは……今日も今日とて腕が震えているな』


「ちょっと……笑うなよ」


『いやいや、褒めているのだ。決して無様な姿を面白がっているわけではない』


 嘘だ。ウルフはこちらを見て、楽しそうに笑っている。

 くそう……今に見てろ。いつの日か筋肉ラリアット喰らわせてやる。


『はーい夕飯ですよ。草十郎は粉も使っておいてくださいね。食後は模擬戦です』


 戻り際、フェアリーが粉の入った袋を一つ、渡してくれる。


 回復効果のある〈妖精の粉〉だが、実は鎮痛効果がある。

 患部に塗り込めば治癒促進のみだが、口から服用すると痛みに鈍くなる。飲めばまるで痛みが消えるかのように晴れるので、模擬戦の前には必ず使うことにしていた。

 ダンジョン防衛ですら体がへとへとになるのだ。薬がなければ満足に動くことすら出来ない。


 ……そこはかとなくヤバいことをしているとは知っている。

 実際、フェアリーは弓と各種魔法と、そして麻痺効果を持つ粉などを用いて戦闘をする。いわば〈妖精の粉〉はその効果を少し受け継いだ副産物だ。


 消えた痛みが一体どこに行っているのか。

 麻痺した痛覚はどうなっているのか。


 ……そして僕は、考えるのをやめた。

 世の中には知らない方が良いこともある。


 無心で袋から粉を出し、水と一緒に飲み下す。


『お薬ドーピングですねぇ』


「言うな。僕は今必死で考えないようにしている」


『まぁ心配ないですよ。薬が元で痛覚が鈍ったり、体が麻痺してもらっては困りますからね。副作用に気を付けて、量はしっかり計算しています』


「……なら安心だ。水晶が管理してくれてるなら大丈夫だ」


『ただ、先ほどフェアリーたちが「頑張ってたくさん粉を作らないと!」って張り切ってましたよ。もしかしたらこっそり量が増えてるかもしれません』


「急に不安になってきた」


 しっかり管理してくれ。


 薬は多ければ多いほど良いってものじゃない。適量が大切だ。

 フェアリーたちの応援は嬉しいのだが、無用の親切なのであった。


 薬が効いてきたのか、節々の痛みが(やわ)らいでいく。

 魔法の白い粉である。乱用したら廃人になっちゃいそう。


 精神的な疲労の回復にと、夕食を購入していく。

 ちなみに僕のご飯は購入品ではない。水晶監修、ゴブリンお手製の特別製である。やったぁ……うれしい……。勿論ささみだ。


 ささみサラダにスープと、野菜ジュース。

 肉を食べたい。この肉まがいの栄養食ではなく、火を通したレアステーキが食べたい。


 そんなことを考えながら、もっしゃもっしゃと大量の野菜を詰め込みつつ。

 そう言えばと思い出す。


「あの女の子は? 朝見た時は寝てたけど、防衛中に何か変わったこととか起きてない?」


『鉄格子が一本折れました』


「……本気で言ってる?」


『凶器は歯です。あの女、歯で脱獄しようとしたんですよ』


「嘘だろ……」


『まぁすぐに新しいものを生成したら、大人しくなったんですけどね。一本折るのに相当疲れたみたいです』


 いや、普通は折れないんだって。

 歯で鉄を噛み切るとかもうビックリ人間ショーである。脱獄を主題にした逸話は幾つかあるものの、彼女なら余裕でその名を刻めるだろう。


 パンの皿を持って、彼女のいる檻の方へと向かう。

 わざわざ取り付けた防音魔道具を切って檻の中を見ると、ベッドの上に空腹に耐えかねたイモムシがいた。


 彼女が起きていることを確認してから、手元のパンをこれ見よがしに見せつける。


「お腹、空いたでしょ」


「……よこしなさい」


 数えてみれば、彼女はもう丸一週間は食事をしていない。

 水は与えているし、ポーションには少なくない満腹感があるものの、軽い絶食状態に近い。成長期の少女にとっては非常に辛いはず。

 事実、彼女は昨日の威勢が嘘のように、大人しく横になっていた。


 が、目が飢えている。

 爛々と光るそれは強い意志を持っていた。枷と檻がなければ噛みつかれていただろう。胃を空にされようと、敵意は溢れ出るばかりだ。


 参った。

 もう少し弱ってもらわないと、話が通じそうにない。


 ……こんな拷問みたいなことはしたくなかったのだが、仕方がない。


 彼女のために持ってきていたパンを、食べた。

 目の前で、出来る限り美味しそうに食事をする。


「あ……」


「おいしいなぁ。おいしいなぁ」


「うぅぅぅぅぅ……」


 食レポに自信がないので淡々とおいしいを連呼してみたが、それだけでも相当(こた)えたようだ。

 少女は恨めしそうにこちらを見ている。


 ……流石に可哀そうになってきたな。


 が、駄目だ。何かあってからじゃ遅すぎる。

 相手は弱っている状態でも歯で鉄格子を折る怪物だ。このまま元気になられると、本当にプリズンブレイクされてしまう。


 彼女に食事を与えるのは、意思疎通が終わってからだった。


「食事が欲しかったら話を聞いてほしい」


「聞くわ……聞くからパンをちょうだい……」


「……食事を貰ったら、すぐに逃げ出すつもりでしょ?僕は君と会話がしたいんだ。訓練が終わったらまたここに来るから、その時までに決めておいてほしい」


 パンを食べきり、牢屋から離れる。


 そうだな、訓練場所は牢屋のある部屋がいい。

 訓練で僕がボコボコにされているのを見れば、僕がモンスターを操っているだけじゃないと考えてくれるかもしれない。

 それに水晶やウルフとは会話が出来るし、モンスターがただの害獣でないとも分かってくれるはず。


「水晶、始めようか」


『はーい。順に呼んできますね』


 軽い柔軟をし、意識を切り替える。


 今日も地獄のような戦闘訓練が始まった。



 三時間が経った。


 時刻はだいたい夜十時。

 これで今日は終了だ。プロテインを摂取したり訓練の怪我の手当てをして、シャワーを浴びてから、体を休めるための時間だ。


 しかし、プロテインも窓で買えるのには驚きだった。

 流石に筋トレマシーンは売っていないが、ダンベルも売っている。サッカーボールや野球のグラブも売っているので中々に品ぞろえが良い。クリケットのバットまで売っているのはもはや意味不明である。買わなきゃいけないのかこれ……?


 運動後の栄養を取り終わり、軽い柔軟を済ませる。


 この後いつもなら皆と話すところだが、今日は別。

 放置していた少女の様子を見に、牢屋の前へと戻ってくる。


「起きてる?」


「……起きてます」


 尋ねると返事があった。


 少女はさっきと変わらない体勢でそこにいた。

 もう抵抗する気力もないようだ。明らかに衰弱し切っており、目から感じる力も弱まっていた。


 ようやく会話が出来そうな状態になった。

 さて、何て話そうかと考えていると、少女が弱々しく喋り出す。


「ごめんなさい、私が悪かったです……。もう逃げたりしないので、パンが欲しいです。パンをください。お腹と背中がくっついて、とてもひもじいです……」


「…………」


 多大な罪悪感を感じる。

 うしろめたい気持ちに駆られ、すぐに用意してきたパンを鉄格子に通した。


 彼女はベッドから緩慢な動きでのそのそ降りてくると、ちびりちびりと齧り出す。


「おいしいよぉぉ……」


「……」


 申し訳ない……。

 一口ごとに涙を流しながら食事をする光景は、あの戦いをしていた戦士とは思えないほどに憐れみを誘う姿だった。

 尊厳もへったくれもない。人は食事が出来ないとこうまで弱り果ててしまう。


 一秒ごとに自分を嫌いになりそうだが、必死に心を鬼にする。

 彼女の食事を抜くと決めたのは僕だ。


 ならば、目的を果たすべきだろう。


「その……食べながらでいいから、質問に答えてほしいんだ。答えてくれたら、もっとおいしいご飯をあげるから」


「はい……答えます……」


「ええと……僕は草十郎って名前なんだ。君はなんて名前?」


「アネモネといいます。九歳です。夢は四大庭園家の人に恩返しをすることです……」


「……アネモネちゃんはどこから来たの?」


「ソルトムリクから一人で来ました。他に仲間はいません……。本当です」


 もう一つパンを取り出して、渡す。

 少女――――アネモネは「ありがとうございます」と丁寧に礼を言って、またもそもそと食べだした。


 ……胃が痛い!

 もう無理だ! 僕にはこれ以上、この子と会話することなんて出来ない!


 水晶助けてくれ!


『はぁ……半端者ですねぇ』


「……誰、ですか」


『こんにちはアネモネ。私はダンジョンコアの水晶といいます』


「コア? コアってあの、ダンジョンの奥にある石のこと?」


『はい。声が聞こえて驚いているかもしれませんが、私たちには意識があるんですよ。こうやって、遠くから貴方とお喋りすることもできるんです』


 アネモネは少し驚いていた。


 なんだろう。彼女はゴーレムの壁を壊した時、ダンジョンコアがあると口にした。存在自体は知っていたはずなのに、何を驚くことがあるのだろうか。

 それとも、彼女の知っているダンジョンコアと水晶は、違うのか? 他のコアは喋れなかったりするとか?


『アネモネ。貴方の目の前にいる男こそ、私の(あるじ)です。私たちはこの洞窟で、見ての通りモンスターと一緒に暮らしています。信じられないかもしれませんが、私たちは貴方の思っているような悪人ではありません。このモンスターたちはダンジョンの外に出ないし、人を襲ったりもしていない。ただ偶然、私たちはここに迷い込んでしまい、暮らしていかざるを得ない状況に置かれているだけなのです』


「……私を食べたり、しないんですか」


『食べませんし殺しません。逃げられると困るから拘束は解きませんが……それ以上に嫌なことをするつもりはないのです。食事もこれからはちゃんと提供しますし、シャワーも浴びれるようにします』


 アネモネはこちらを疑っている。

 当然だろう。戦闘をした上に飯抜きだ。警戒されてなきゃおかしい。


 だが、思うところはあったようで。

 食事をしながらじっと、僕たちの話を聞いていた。


『私たちは今後一切、人類を害さない。ここにいるモンスターは皆、モンスターとのみ戦います。自衛用の戦力でしかありません。貴方と戦ったのも正当防衛です。敵対しないのであれば、絶対にこちらからは攻撃をしません』


「……」


『私たちは、人間と協力したい。他のモンスターたちとは違うのです』


 三個目のパンを取り出して、牢屋の中に差し入れる。


 今日はこのあたりで終わりにしておこう。


「君も僕も、知りたいこと、聞きたいことが山ほどあるはずだ。明日になったらまた来るから、色々考えておいてほしい」


「……分かり、ました」


「……あと、敬語じゃなくていいからね。僕らは対等だ。戦闘の結果として今はこうなっているけれど、気を使う必要はない。何があっても僕らは君を傷つけたりしない」


「……」


「おやすみ」


 広間の明かりを消して、部屋を後にする。


 ある程度警戒を解いてくれるといいのだが。


『それにしても草十郎? 情けないとは思わないのですか?』


「悪かったよ……」


『はぁ……まだ人間気分が抜けてないですねぇ。いたいけな女の子を弱らせて洗脳するぐらい、素面(しらふ)でやってもらわないと困ります』


「言い方」


 悪意ない言葉で言うならば、説得。

 説得でアネモネを味方にしてしまうのが、僕の出した結論だった。


 アネモネを殺すことは出来ない。

 かといって、今のまま逃がせば必ず次の脅威となってこのダンジョンが襲われる。

 ならば、ダンジョンの中で僕らについて知ってもらうのが一番だと考えた。


 やがて必ず人は来る。

 たかが九歳の子供に見つけられたのだ。このダンジョンの入口は、そう難しくない場所に位置してしまっている。

 それに、既にアネモネ一人が行方不明の状態である。子供がいなくなったと知れば、誰かが探しに来る可能性は非常に高い。


 だから、アネモネには僕らと人間とを繋ぐ橋になってもらう。

 彼女を味方にして無事に返すことで、こちらの話を聞いてもらう他ないのだ。


 ……子供を騙しているようで、頭が痛いが。

 

 いや、騙してるんじゃない。

 嘘はつかないし、虚飾(きょしょく)もしない。

 ただ僕らが普通に暮らしている姿を見せて、考えを話すだけだ。


『拉致監禁して、弱ったところに刷り込みしてるだけですけどね』


「言葉を捻じ曲げるな。悪意ある偏向報道だそれは」


『ま、女の子を痛めつけて何も気にしない草十郎なんて、草十郎じゃないですからね。

 いいですよ。どうせ檻から出さないので、大した手間にもなりませんし』


 アネモネと仲良くなるのはいわば保証だ。

 最悪の場合には、僕は彼女を人質にとって、身の安全を確保すると決めている。そうはしたくない。したくないから、アネモネには味方になってもらって、他の人の警戒を解くための希望になってほしかった。


「となると、話術が必要だね」


『アネモネはともかく、他の人間相手に私が喋るのは良くないですからね。見た目が普通の人間である草十郎が身の潔白を証明してこそ、信じられる余地が生まれるでしょうから』


「責任重大だぁ」


『説得が失敗した場合、戦闘になっても勝てるようになってくださいね? 勝てば言うことを聞かせられますから』


「そうもなってほしくないんだけどね」


 だが、力を持たなければならないのは理解している。

 アネモネと会話出来ているのも勝ったからだ。最低限の武力もなしには、対話は望めないだろう。


 説得力と戦闘力。

 二つのものが、可及的速やかに必要であった。


『草十郎やダンジョンの強化は任せるとして……。明日の座学は話術も含めましょうか』


「助かるよ」


『大丈夫ですよ草十郎。平気な顔して嘘をつける人間に育ててあげますからね』


「大丈夫な要素あった?」


『そしてゆくゆくは、顔色一つ変えずに首を切れる立派な悪人に……』


「もう話術関係なくなってるぞ……」


 また水晶が夢を追いかけだしたので、話を終わりにする。


 僕も明かりを消し、ベッドへと潜り込む。

 忘れていた疲れが体の芯から昇ってきて、それは眠気となって頭を支配する。


『きっかり五時間で起こしてあげますからね』


「あぁ……おやすみ」


『はい草十郎、おやすみなさい』

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