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arcana  作者: 401
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7

▼


 作り話みたいな再会から、数日。


 どちらからともなく始まったメッセージのやり取りは、途切れないままダラダラと続いている。文字だけでは終わらず、そのまま通話に移ることもあったりして。


 話してみれば、やっぱり心地良い。

 応酬のテンポも、相槌のトーンも、沈黙の間合いも。

 

 積もった年月などものともせず、彼はするりと俺の中に入り込んできて、そのまま居座ってしまう。

 

「みなとくんって人たらしだよね。根っからの」

「……いや、そんなつもりないけどー?」

 

 伸びた語尾には、不服が滲んでいる。

 唇を尖らせているところまで簡単に想像できるくらい、わかりやすく。

 スピーカー越しに、薄いノイズだけが乗っかる。しかし、その静けさは長く続かなかった。

 微かなざらつきの中で、ふっと笑う声が浮かんだから。

 

「まあでも、お前には特別入れ込んでるからね、僕」

 

 ほら。

 こういうことサラっと言っちゃうの。悪い人!

 きっと色んな人を泣かせてきたんだろうな。女の人とかさ。

 今は特定の人、いないらしいけど。

 まあ、そうだろうね。そんな人がいたら、俺なんかと時間潰してないだろうし。


 雑談の継ぎ目に、大学時代の話もさわりだけ教えてもらった。

 

「御名答」

 

 当時は演劇サークルに所属していて、脚本を書いたり、舞台監督をやったりしていたらしい。

 この前見かけた二人とは今も付き合いが続いていて、仕事で一緒になることもあるんだって。


 俺の知らない八年のあいだにも、みなとくんはちゃんと人生を続けていた。

 なんだか嬉しかった。生きてたんだなーって。


「そういえば、見た。みなとくんの経歴。調べて」

「えー?ありがとう。恥ず」

「作品ってネットにないよね、やっぱ。視聴できるの」

「あー、映像で?」


 気の抜けた返事と共に、椅子がぎしりと鳴る。

 

「公演はディスクに焼いたやつしかないな。どこやったか……」

 

 みなとくんはぶつぶつ言いながら、おそらく机を漁り始めた。

 がさがさと何かを掻き分ける音が続き、不意に止まる。


「あ、あったわ」


 そんな雑多なところにしまってんだ。自分の仕事。

 いや、それはいい、そんなことより。

 

「……どっかで、観に行っても?」

「勿論」

 

 あっさりと承諾されてしまった。

 いいんだ、この温度感で。


「これ、うちね。いつ来る?」


 そんで位置情報を送ってきたと思ったら、もう日程の話をしている。ずっと早いな、この人。


 いくつか候補を出して、あっという間に日取りまで決まった。ようやくこっちの気持ちも追いついて、これでひと段落——とはならない。

 みなとくんがまた軽い調子で口を開く。

 

「僕も調べよっかなー。いぶちゃんの作品」

「やめて!」


 俺の作品は、名義まで辿ればネットで簡単に見つかる。別に完全に隠しているわけでもない。

 ただ、リアルタイムで邂逅されるのは嫌だ。

 居た堪れない。気まずすぎる。


「なんで?読みたいんだけど。今のお前が作るもの」


 読んでほしくないわけじゃなくて……。

 

 脚本って書いたことないけどさ。仕上げたところで終わるものじゃないでしょ、きっと。

 複数の人の手に渡って、演出を経て、声や身体を与えられて、ようやく舞台の上に立つ。

 自分の書いたものを他人に託して、それぞれの解釈まで受け入れながら、ひとつの作品にしていく。

 みなとくんがそういう世界の住人だとしたら、俺の世界は、もう少し閉じている。

 名義をひとつ挟んで、知らないところで勝手に見つけてもらって、知らないうちに読まれる。

 

 そのくらいがちょうどいいの。

 だから。

 

「調べるのはいいけど、こっそり見て……」

「こっそりならいーんだ」

 

 了解、と。

 これまたあっさり許してもらった。

 

 それからも、何往復か話題を投げ合っていた。

 会話がひと段落した頃には、さっきまで何を話していたのかも曖昧になっている。


 へんなの。

本日も閲覧ありがとうございます。


次回は11/7(土)更新予定です。

朝夕の2回更新を、やってみようかな、と、考えております♡

連日色々好き放題、欲張りセット!ですが、page.2からは全て固定しますので…もうしばらくお付き合いいただけると嬉しいです…!


土曜日もお会いできますように◎

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