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不意に核心を突かれて、言葉に詰まる。誤魔化す手段など見つかるわけもなく。
こうなってしまえば、俺ができることなんて限られている。というか、ひとつしかない。
「良くは、ない」
観念すること、それだけ。
「そっか」
空漠の中、みなとくんは皿の出っ張りにポテトを並べている。背の順に整列していく揚げ物を前に、薄い唇がかすかに動いていた。なんだろう。なにを考えている?
不意に、二本の指が中央の一本をつまみ上げる。口内が見えなくなり、咀嚼。
飲み込んだところで、頬がふっと緩む。
知ってる顔。みなとくんが何かするたび、それに紐づいた記憶が浮かんでくる。この表情は、確か——。
「いぶちゃんさ、うちおいでよ」
……そうだ。
この人がこんな俗っぽい笑い方をする時は、大抵なにか悪戯を企んでいた。
「……遊びに?」
「それでもいいけど。でも、住んじゃえばって」
「はぁ、?」
突拍子もない提案に間の抜けた声を出した、その瞬間。みなとくんが身を乗り出し、厳選した数本のポテトを俺の口へ突っ込んできた。
むぐ、と喉を鳴らした俺を見て、みなとくんは愉しそうに笑う。
塩気と油をどうにか片づけている間にも、みなとくんの提案は止まらない。
返事を挟む隙もなく、畳みかけられるように、案が重ねられていく。
「だってさあ、部屋あけれるし、プライベートも最低限確保できるよ。家賃折半したら別にどってことない出費だし?どう、良くない?」
「よ、くない?って……、俺にとって良かったとしても、みなとくんに良いことなくないです、」
「あるある!」
食い気味に、勢いよく断言されて上半身が反る。
「なにが……」
「全部!お前と住むとか絶対楽しいじゃん」
やめて、眩しすぎる!
情報量に耐えきれず、ぎゅっと目を閉じる。いったん全部を遮断して、頭の中に流れ込んできたものを整理したかった。
それでも遅い。直射日光をまともに浴びた時みたいに白くちらついて、頭の奥がじりじりと灼けている。
細く瞼を開く。混乱している俺をよそに、みなとくんは指を舐めながら、駄目かなー?と首を傾げていた。
「一旦、待って。現実かわかんないから、いろいろ」
俺の懇願じみた制止に、みなとくんは素直に頷く。
「それはそうね」
返すなり、テーブルに伏せられていたスマホを持ち上げ、たぷたぷと弄り始める。
「はい」と差し出された画面には、SNSのQRコード。
ポケットから機器を取り出して読み込み、“古谷湊”のアカウントを表示させる。
なんで初期アイコン?
連絡先に追加して適当なスタンプを送ると、すぐに既読がついた。
「……ほんと、最初っからさ、こうしときゃ良かったのにね」
双眸を隙間なく縁取る睫毛が、さっきより沈んでいる。
「ねむたい?」
みなとくんは俺の問いに答えない。ただ、取り繕うように笑うだけだった。
がらんとしていたはずの店内は、気づけばずいぶん賑やかになっていた。
制服姿の学生や、小さな子どもを連れた家族。一人で遅い、もしくは早い食事をとる人。
ドリンクバーに向かう客たちの隙間を縫うように、店員たちがトレーを抱えて、せわしなく行き交っている。
「帰ろっか」
今日はもうおひらきにすることにした。連絡先を交換してるから、前みたいに長く別れることにはならないだろう。
「ま、でもさ、僕は割と本気だから。さっきの話」
言いながら、すぽ、とサコッシュに頭を通す。内容とは裏腹に、声色はしなやかで優しい。
「うん」
みなとくんは俺の返事を聞いてからゆるゆると立ち上がり、通路に膝を出す俺を見下ろしながら、なにかを呟いた。
「……えー?」
「なんでもないよー」
うははと笑いながら伝票を攫って、悠々と出口へ歩いていく。
囁きは低くて小さかった。何度反芻しても浮かび上がるのはノイズばかりだ。意味のあるフレーズは組み立てられない。
腑に落ちないけど、それより先に考えたいことが山ほどある。
また聞けばいい。今の俺たちには、“また” があるのだから。
思考をリセットするように頭を振ってから、彼の背中を追った。
自動ドアの先は、深い藍色に染まっている。
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次回更新は11/2(月)予定です。
時間も関係も、ちょっとずつ進んでいきます。
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