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arcana  作者: 401
page.1
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 不意に核心を突かれて、言葉に詰まる。誤魔化す手段など見つかるわけもなく。

 こうなってしまえば、俺ができることなんて限られている。というか、ひとつしかない。

 

「良くは、ない」


 観念すること、それだけ。

 

「そっか」

 

 空漠の中、みなとくんは皿の出っ張りにポテトを並べている。背の順に整列していく揚げ物を前に、薄い唇がかすかに動いていた。なんだろう。なにを考えている?

 不意に、二本の指が中央の一本をつまみ上げる。口内が見えなくなり、咀嚼。

 

 飲み込んだところで、頬がふっと緩む。

 知ってる顔。みなとくんが何かするたび、それに紐づいた記憶が浮かんでくる。この表情は、確か——。


「いぶちゃんさ、うちおいでよ」

 

 ……そうだ。

 この人がこんな俗っぽい笑い方をする時は、大抵なにか悪戯を企んでいた。

 

「……遊びに?」

「それでもいいけど。でも、住んじゃえばって」

「はぁ、?」

 

 突拍子もない提案に間の抜けた声を出した、その瞬間。みなとくんが身を乗り出し、厳選した数本のポテトを俺の口へ突っ込んできた。

 むぐ、と喉を鳴らした俺を見て、みなとくんは愉しそうに笑う。

 塩気と油をどうにか片づけている間にも、みなとくんの提案は止まらない。

 返事を挟む隙もなく、畳みかけられるように、案が重ねられていく。

 

「だってさあ、部屋あけれるし、プライベートも最低限確保できるよ。家賃折半したら別にどってことない出費だし?どう、良くない?」

「よ、くない?って……、俺にとって良かったとしても、みなとくんに良いことなくないです、」

「あるある!」

 

 食い気味に、勢いよく断言されて上半身が反る。

 

「なにが……」

「全部!お前と住むとか絶対楽しいじゃん」

 

 やめて、眩しすぎる!

 情報量に耐えきれず、ぎゅっと目を閉じる。いったん全部を遮断して、頭の中に流れ込んできたものを整理したかった。

 それでも遅い。直射日光をまともに浴びた時みたいに白くちらついて、頭の奥がじりじりと灼けている。

 

 細く瞼を開く。混乱している俺をよそに、みなとくんは指を舐めながら、駄目かなー?と首を傾げていた。


「一旦、待って。現実かわかんないから、いろいろ」

 

 俺の懇願じみた制止に、みなとくんは素直に頷く。


「それはそうね」


 返すなり、テーブルに伏せられていたスマホを持ち上げ、たぷたぷと弄り始める。

 「はい」と差し出された画面には、SNSのQRコード。

 ポケットから機器を取り出して読み込み、“古谷湊(ふるやみなと)”のアカウントを表示させる。

 

 なんで初期アイコン?

 

 連絡先に追加して適当なスタンプを送ると、すぐに既読がついた。

 

「……ほんと、最初っからさ、こうしときゃ良かったのにね」

 

 双眸を隙間なく縁取る睫毛が、さっきより沈んでいる。


「ねむたい?」


 みなとくんは俺の問いに答えない。ただ、取り繕うように笑うだけだった。


 がらんとしていたはずの店内は、気づけばずいぶん賑やかになっていた。

 制服姿の学生や、小さな子どもを連れた家族。一人で遅い、もしくは早い食事をとる人。

 ドリンクバーに向かう客たちの隙間を縫うように、店員たちがトレーを抱えて、せわしなく行き交っている。


「帰ろっか」

 

 今日はもうおひらきにすることにした。連絡先を交換してるから、前みたいに長く別れることにはならないだろう。


「ま、でもさ、僕は割と本気だから。さっきの話」

 

 言いながら、すぽ、とサコッシュに頭を通す。内容とは裏腹に、声色はしなやかで優しい。


「うん」

 

 みなとくんは俺の返事を聞いてからゆるゆると立ち上がり、通路に膝を出す俺を見下ろしながら、なにかを呟いた。

 

「……えー?」

「なんでもないよー」

 

 うははと笑いながら伝票を攫って、悠々と出口へ歩いていく。


 囁きは低くて小さかった。何度反芻しても浮かび上がるのはノイズばかりだ。意味のあるフレーズは組み立てられない。

 腑に落ちないけど、それより先に考えたいことが山ほどある。

 

 また聞けばいい。今の俺たちには、“また” があるのだから。

 

 思考をリセットするように頭を振ってから、彼の背中を追った。

 自動ドアの先は、深い藍色に染まっている。

閲覧いただきありがとうございます!


次回更新は11/2(月)予定です。

時間も関係も、ちょっとずつ進んでいきます。


また覗きに来てくれると嬉しいです◎

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