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最強OL、羊に転生する。  作者: 月羽めい
雨の日の羊姫編
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第三話 最強羊、盗賊を迎え撃つ

夜の帳がゆっくりと草原を包み始めていた。


降り続く雨は屋敷の屋根を静かに叩き、辺境伯家の広い庭園には雨音だけが響いている。


そんな静寂を切り裂くように、一人の少女が音もなく走っていた。


白銀の長い髪が雨風になびく。


桜色の瞳は獲物を狙う猛禽のように鋭く、細身の身体からは想像もできないほどの気迫が漂っていた。


アーマル――。


雨の日だけ人間へと姿を変える、不思議な羊。


しかしその正体は、前世で「霊長類最強」とまで呼ばれた格闘家、田辺ミオである。


屋敷の裏門近くまで来ると、彼女は木陰へ身を潜めた。


視線の先には黒い外套をまとった男たちが六人。


一人が錠前に細い針金を差し込み、器用に鍵を開けている。


「思ったより警備が甘いな。」


「辺境伯の屋敷って聞いて身構えてたが、大したことねぇ。」


「金庫を奪ったらすぐ逃げるぞ。」


男たちはひそひそと笑い合う。


その様子を見たアーマルは、小さくため息をついた。


(典型的な三流盗賊ね。)


足運びが雑。


周囲への警戒も甘い。


人数だけはいるものの、統率は取れていない。


前世なら、道場の初心者にも負けるような動きだった。


「でも……。」


アーマルは拳を軽く握る。


(ナザールを傷つけるなら話は別。)


その瞬間、地面を蹴った。


雨音に紛れ、白い影が盗賊たちの背後へ滑り込む。


「なっ……!?」


最後尾の男が振り向くより早く、アーマルの手刀が首筋へ吸い込まれた。


「がっ……!」


男は声を上げる間もなく崩れ落ちる。


「な、何だ!?」


仲間たちが慌てて振り返る。


しかし、そこには誰もいない。


「気のせいか?」


「いや、今……。」


戸惑う男たちの間を、白い影が風のように駆け抜ける。


ドンッ!


「ぐふっ!?」


腹部へ放たれた掌底。


男は数メートル吹き飛び、泥の中へ転がった。


「敵だ!」


「囲め!」


四人が一斉に剣を抜く。


その時、雨の中から一人の少女がゆっくり姿を現した。


「こんばんは。」


柔らかな笑み。


だが、その瞳だけは冷たい。


「この屋敷に何か御用ですか?」


盗賊たちは顔を見合わせた。


「誰だ、お前?」


「通りすがりです。」


「嘘をつけ!」


大柄な男が剣を振り上げる。


「死ねぇ!」


一直線に斬りかかる。


だが。


アーマルは半歩だけ身体をずらした。


剣は空を切る。


「え?」


男が驚いた瞬間だった。


アーマルの指先が男の手首へ軽く触れる。


次の瞬間。


「ぎゃあああっ!」


剣が宙を舞う。


続けざまに肩を掴み、身体を回転させる。


柔道の一本背負い。


百キロ近い大男が、軽々と宙を舞った。


ズドォン!


地面が揺れる。


「う、嘘だろ……。」


残る盗賊たちは顔を青ざめさせた。


細い少女が大男を投げ飛ばした。


理解が追いつかない。


「ば、化け物……!」


「失礼ですね。」


アーマルは頬を膨らませた。


「私はただの女の子ですよ?」


「どこがだぁぁ!」


三人が同時に飛びかかる。


アーマルは思わず苦笑する。


(連携も何もない……。)


右の男には回し蹴り。


左の男には肘打ち。


正面の男には掌底。


わずか三秒。


盗賊たちは全員地面へ転がっていた。


「ぐぅ……。」


「痛ぇ……。」


「うそだろ……。」


雨だけが静かに降り続ける。


アーマルは服についた泥を軽く払った。


「さて。」


その時だった。


「何の騒ぎだ!」


屋敷の中から使用人たちが飛び出してくる。


その後ろにはナザールの姿もあった。


「盗賊……!?」


目の前には倒れ伏す六人の男たち。


そして、その中心には雨に濡れた白髪の少女が立っていた。


ナザールは目を奪われる。


月明かりもない雨の夜。


それでも少女だけが淡く輝いて見えた。


(……綺麗だ。)


思わず息を呑む。


アーマルもナザールと目が合った。


胸が高鳴る。


(近くで見ると……もっと格好いい。)


だが、今は見つめ合っている場合ではない。


アーマルは小さく一礼した。


「間に合ってよかったです。」


ナザールは我に返り、慌てて少女へ駆け寄った。


「君が……助けてくれたのですか?」


その問いに、アーマルは少し照れくさそうに微笑む。


「たまたま通りかかっただけです。」


それが、羊のアルマと飼い主ナザールが、人間同士として初めて言葉を交わした瞬間だった。


そして二人はまだ知らない。


この偶然の出会いが、やがて互いの人生を大きく変えていく運命の始まりであることを。

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