第三十四話 王立魔法学院と白き少女
王都アルディア。
魔導塔襲撃から数日が経過した。
街には再びいつもの賑わいが戻り、人々は何事もなかったかのように日常を過ごしている。
しかし、パルネリック家の屋敷では緊張が続いていた。
「ナザール様の警護をこれまで以上に強化します。」
エルオーニは騎士団長へ告げる。
「敵の目的は、単なる暗殺ではない。」
「ナザールを連れ去ろうとしていた。」
その言葉に、ナザールは静かに目を伏せた。
「私が原因で、皆を危険に巻き込んでいますね。」
するとエルオーニは、すぐに首を横へ振った。
「違う。」
「お前が悪いわけではない。」
「家族を守るのは兄の役目だ。」
ナザールは少し驚いた顔をする。
幼い頃から身体が弱く、兄に守られてばかりだった。
だが、その言葉は昔と変わらない温かさを持っていた。
「……ありがとうございます、兄上。」
その日の午後。
アーマルは王城から届いた知らせを受け取っていた。
「王立魔法学院?」
手紙には、王国最高魔導師オルフェウスからの招待が書かれていた。
『マランナについて調べるため、学院の古代魔法研究室へ来てほしい』
という内容だった。
「魔法学院か……。」
アーマルは少し楽しそうに呟く。
「学院って、どんなところなんだろう。」
その様子を見ていたナザールが微笑む。
「興味がありますか?」
「はい!」
即答だった。
ナザールは思わず笑う。
「アーマルさんは本当に新しいものが好きですね。」
「だって、知らないことを知れるのは楽しいですから。」
その笑顔を見て、ナザールは自然と心が軽くなるのを感じていた。
王立魔法学院。
王国中から優秀な魔法使いや研究者が集まる場所。
巨大な塔と美しい庭園を持つその学院は、まるで別世界のようだった。
「すごい……。」
アーマルは目を輝かせる。
「本当に魔法の学校なんですね。」
案内役の研究員が笑う。
「珍しい反応ですね。」
「普通は魔力測定の方を気にする人が多いのですが。」
「魔力測定?」
その言葉にアーマルが首を傾げる。
研究員は小さな水晶を取り出した。
「学院では、入学時に魔力適性を調べます。」
「よろしければ試してみますか?」
「え?」
アーマルは困った顔をする。
「私は護衛で、魔法使いでは……。」
しかし水晶へ触れた瞬間。
――パァァァッ!
学院中に響くほどの強烈な光が発生した。
「なっ……!」
「これは……!」
研究員たちが言葉を失う。
水晶には、見たこともない紋様が浮かび上がっていた。
「全属性……?」
「いや……違う。」
「これは古代魔法適性……!」
騒ぎになる学院。
アーマルは慌てる。
「えっと……。」
「壊してませんよね?」
その言葉に、研究員たちは思わず沈黙する。
そして――。
「ふふ。」
後ろから笑い声が聞こえた。
振り返ると、オルフェウスが立っていた。
「やはり君らしい。」
「普通は自分の力より、物の心配をするものではないよ。」
アーマルは頬をかく。
「昔からそういう性格なので……。」
オルフェウスは優しく微笑んだ。
その頃。
王都の裏路地。
一人の少女が、黒い外套をまとって歩いていた。
「見つけた……。」
「白い髪の少女。」
「マランナの継承者。」
その少女の手には、ゼルヴァンと同じ黒い紋章が刻まれていた。
「でも……。」
「少し気になる。」
「なぜあの子は、あんなにもナザールを大切にするの?」
少女は遠くから学院を見つめる。
「まるで……。」
「昔の聖女と同じじゃない。」
夕方。
学院を出たアーマルは、空を見上げた。
「今日は楽しかったです。」
ナザールが微笑む。
「また来たいですか?」
「はい。」
即答するアーマル。
「でも、その前に。」
彼女はナザールを見る。
「ナザール様が安心して暮らせるように、もっと強くなります。」
その言葉に、ナザールは静かに笑った。
まだ彼は知らない。
目の前の少女が、自分が大切に育てている白い羊――アルマであることを。




