第三十三話 王家に隠された秘密
魔導塔襲撃から一夜明けた。
王都アルディアはいつもと変わらぬ賑わいを見せていたが、王城の中は重苦しい空気に包まれていた。
アーマルたちは再び魔導塔へ呼ばれていた。
部屋には、王国最高魔導師オルフェウスと、国王レオニードの姿がある。
円卓を囲み、全員が席に着いた。
誰も口を開かない。
やがて国王が静かに話し始めた。
「昨夜の襲撃は、王城が築かれて以来でも極めて異例の事件だ。」
「それも狙いはナザール、お前だった。」
ナザールは静かに頷いた。
「はい。」
「ですが、私には理由が分かりません。」
国王はオルフェウスへ視線を向ける。
「話せる範囲で説明してやってくれ。」
老人はゆっくりと立ち上がった。
「承知しました。」
巨大な水晶へ杖を向ける。
淡い光が広がり、一枚の古い地図が宙へ映し出された。
「今から約二十五年前。」
「王都で『血染めの夜』と呼ばれる事件が起きた。」
全員が息をのむ。
「当時、王家の傍流にあたる一族が何者かに襲撃され、多くの命が失われた。」
「だが、その中で一人だけ、密かに逃された者がいた。」
「その人物の存在は記録ごと消され、王家の血筋は途絶えたことにされた。」
アーマルは真剣な表情で話を聞いていた。
オルフェウスは続ける。
「そして十九年前、その隠された血筋から一人の男児が生まれた。」
「その子は、表向きには別の家の子として育てられた。」
「だが血は嘘をつかない。」
ナザールは不思議そうに尋ねる。
「それが私と何か関係があるのですか?」
オルフェウスは静かに頷いた。
「昨夜、暗殺者が使った魔道具は『王家の血』にだけ反応する古代魔道具だった。」
「君だけが苦しんだ。」
部屋が静まり返る。
エルオーニが低い声で言った。
「つまり……。」
「ナザールは王家の血を引いている可能性がある、と?」
「可能性、ではない。」
オルフェウスはゆっくり首を振る。
「極めて高い。」
その言葉にナザールは顔を青ざめさせた。
「そんな……。」
「私は父上と母上の子です。」
「そう教えられて育ちました。」
エルオーニも頷く。
「私も同じだ。」
「父上も母上も、そのような話は一度もされなかった。」
オルフェウスは穏やかに答えた。
「だからこそ妙なのだ。」
「記録の一部が、何者かによって意図的に消されている。」
「まるで最初から存在しなかったかのように。」
国王も険しい表情になる。
「王城の資料室を調べても、二十五年前の記録だけが不自然に欠けている。」
「ナザールの出生に関わる記録も、そこに繋がっているはずだ。」
誰かが真実を隠している。
その事実だけは明らかだった。
話し合いを終えた帰り道。
ナザールは一人、中庭の噴水の前で立ち尽くしていた。
「……。」
自分が王家の血を引いている。
あまりにも突然の話だった。
「ナザール様。」
振り返ると、アーマルが立っていた。
「少し、お話ししてもいいですか?」
「もちろんです。」
二人は噴水の縁へ腰掛ける。
しばらく沈黙が続いた。
「怖いです。」
ナザールがぽつりと呟く。
「もし本当に私の出生が違っていたら……。」
「兄上との家族の思い出まで嘘になってしまう気がして。」
アーマルは静かに首を横へ振った。
「違います。」
「え?」
「たとえ血が繋がっていなくても。」
「一緒に笑って、一緒に暮らして、一緒に支え合ってきた時間は本物です。」
「エルオーニ様がお兄様であることは、絶対に変わりません。」
ナザールは目を丸くした。
その言葉は、不思議なくらい心へ染み込んだ。
「……ありがとうございます。」
「少し気持ちが楽になりました。」
アーマルは微笑む。
「一人で抱え込まないでください。」
「私は護衛です。」
「どんな秘密があっても、ナザール様を守ります。」
その笑顔に、ナザールは自然と笑みを返していた。
しかし二人は気づいていなかった。
王城の屋根の上から、一羽の黒いカラスが静かにこちらを見下ろしていることに。
その瞳は赤く妖しく輝いていた。
王都の地下深く。
ゼルヴァンは片膝をつき、玉座の人物へ報告していた。
「王国側も、ようやく真実へ近づき始めました。」
玉座の人物は静かに笑う。
「それでいい。」
「すべては計画どおり。」
「ナザールが真実を知った時――。」
「王国は大きく揺らぐ。」
その人物はゆっくり立ち上がる。
黄金色の瞳が闇の中で輝いた。
「そして、その時こそ。」
「羊姫にも、本当の運命を思い出してもらおう。」
王都に吹く風は穏やかだった。
だが、その裏では王国全体を巻き込む巨大な陰謀が、静かに動き始めていた。




