第三十話 王都アルディア
翌朝。
朝霧が晴れ始める頃、一行はついにダザール王国の王都・アルディアの正門へ到着した。
巨大な白い城壁は朝日に照らされて輝き、何本もの塔が空高くそびえ立っている。
「これが……王都。」
アーマルは思わず立ち止まった。
目の前には、人で埋め尽くされた大通り。
商人が威勢よく客を呼び込み、旅芸人が大道芸を披露し、露店には見たこともない料理や果物が並んでいる。
「すごい……。」
「辺境伯領とは全然違います。」
ナザールは微笑んだ。
「初めて来た人は、みんな同じ反応をします。」
「少し時間ができたら案内しますね。」
「本当ですか!」
アーマルの表情がぱっと明るくなる。
「ぜひお願いします!」
二人の楽しそうな様子を見て、エルオーニは苦笑した。
「まずは屋敷だ。」
「観光はその後にしてくれ。」
「はい。」
二人は声をそろえて返事をした。
その息の合った様子に、バーバラは思わず笑みをこぼす。
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王都の大通りを馬車が進んでいく。
すると、道行く人々がざわめき始めた。
「あれはパルネリック辺境伯様だ!」
「北の英雄がお帰りになったぞ!」
「隣にいる金髪の方がナザール様ね。」
「相変わらず素敵……。」
若い女性たちの歓声に、ナザールは困ったように苦笑する。
「毎回こうなんです。」
「人気者なんですね。」
「身体が弱くて剣も振れないのに、不思議です。」
アーマルは首を横に振る。
「違います。」
「ナザール様は優しいから、みんなに慕われているんです。」
その一言に、ナザールは少し照れたように笑った。
「ありがとうございます。」
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やがて一行は、王都にあるパルネリック家の屋敷へ到着した。
白い石造りの大きな屋敷に、整えられた美しい庭園。
使用人たちが一斉に頭を下げる。
「お帰りなさいませ。」
荷物を運び終え、一息ついたその時だった。
「辺境伯エルオーニ・パルネリック様。」
一人の王国騎士が訪れる。
「国王陛下より書状を預かっております。」
エルオーニは封を開き、内容を読む。
「……なるほど。」
ナザールが尋ねる。
「兄上?」
「明日の午前、王城へ登城せよとのことだ。」
「陛下が今回の襲撃事件について直接話を聞きたいらしい。」
「やはり王都にも情報が届いていましたか。」
ナザールは静かに頷く。
騎士はさらに続けた。
「もう一つございます。」
「王国最高魔導師オルフェウス様が、アーマル殿との面会を希望されています。」
「私と……?」
突然名前を呼ばれたアーマルは目を丸くした。
「私は普通の護衛ですよ?」
「理由は聞かされておりません。」
騎士も首を横に振る。
その瞬間だった。
アーマルの左手にはめられたマランナが、淡く白く輝く。
誰にも気づかれないほど小さな光。
しかし、その温もりは確かに彼女へ語りかけていた。
(この指輪……。)
(オルフェウスという人を知っているの?)
答えは返ってこない。
それでも胸の鼓動だけが少しずつ速くなっていく。
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その夜。
王城の最上階、魔導塔。
銀髪の老人――王国最高魔導師オルフェウスは、水晶へ映るアーマルの姿を静かに見つめていた。
「前世の魂。」
「羊姫。」
「そして……マランナ。」
老人は穏やかに微笑む。
「運命の歯車が、ようやく動き始めた。」
一方その頃、王都の地下深く。
暗闇の中でゼルヴァンが片膝をついていた。
「羊姫は王都へ入りました。」
玉座に座る人物は静かに口を開く。
「ご苦労。」
「計画は予定どおり進める。」
「まずは――ナザール・パルネリックを孤立させろ。」
「羊姫は必ず彼を助けに現れる。」
ゼルヴァンは不敵な笑みを浮かべる。
「承知しました。」
闇の中で二つの黄金色の瞳だけが妖しく光っていた。
王都で、新たな陰謀が静かに動き始める。




