第二十九話 王都への道
翌朝。
レインベルの町は、朝日を浴びて活気に包まれていた。
旅支度を終えたパルネリック辺境伯家の一行は、王都への最後の行程へと出発する。
馬車の横では、新たな仲間となった黒狼・ノワールが大きく伸びをしていた。
「ワフッ!」
「今日も元気だね。」
アーマルが笑いながら頭を撫でると、ノワールは気持ちよさそうに目を細める。
その様子を見ていたナザールも優しく微笑んだ。
「昨日まで暴れていたとは思えませんね。」
「本当に賢い子です。」
「はい。」
アーマルも嬉しそうに頷く。
「きっと、もう誰も傷つけません。」
ノワールはまるでその言葉を理解したかのように、一度だけ力強く吠えた。
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一行は街道を進み、深い森へと入っていく。
木漏れ日が揺れ、小鳥たちのさえずりが聞こえる。
平和そのものの景色だった。
しかし、ノワールだけは何度も辺りを警戒していた。
「どうした?」
エルオーニが尋ねる。
ノワールは森の奥へ鼻を向け、小さく唸る。
「グルル……。」
騎士たちもすぐに周囲を警戒した。
「また敵でしょうか?」
ナザールが不安そうに呟く。
アーマルは静かに周囲へ視線を巡らせる。
(誰かに見られている……。)
そんな気配はある。
だが敵意は感じられない。
数分後、その気配はふっと消えた。
エルオーニは剣から手を離す。
「……様子を見る。」
「だが油断はするな。」
「はっ!」
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昼過ぎ、一行は小さな川辺で休憩を取ることになった。
使用人たちは昼食の準備を始め、騎士たちは馬に水を飲ませる。
アーマルは川辺で顔を洗い、大きく伸びをした。
「気持ちいい……。」
そこへナザールが二つの果実を持ってやって来た。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
一口かじると、甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がる。
「おいしい!」
「王都へ向かう街道の名物なんですよ。」
ナザールは嬉しそうに笑った。
「王都へ着いたら案内したい場所がたくさんあります。」
「本当ですか?」
「はい。」
「大きな図書館や市場、それから王都で一番人気のお菓子屋さんも。」
アーマルの瞳が輝く。
「お菓子屋さん!」
「そこですか。」
ナザールは思わず笑った。
「アーマルさんらしいですね。」
二人が笑い合っていると、少し離れた場所でエルオーニとバーバラがその様子を眺めていた。
「仲がいいな。」
「ええ。」
バーバラは微笑む。
「ナザールも昔よりずっと笑うようになりました。」
「アーマルちゃんのおかげね。」
エルオーニも静かに頷いた。
「彼女が来てから、屋敷の空気も明るくなった。」
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その日の夕方。
一行は高台へと差しかかる。
騎士の一人が前方を指差した。
「見えました!」
全員が顔を上げる。
地平線の向こう。
夕日に照らされて輝く巨大な白い城壁。
その中央には、天を突くようにそびえる王城の塔が見えた。
「王都アルディア……。」
ナザールが静かに呟く。
アーマルは思わず息をのむ。
「すごい……。」
今まで見たどんな町よりも大きく、美しかった。
その時だった。
左手にはめたマランナが、誰にも気づかれないほど淡く光る。
「……?」
アーマルは指輪を見つめる。
(何……?)
(王都から何かを感じる。)
胸が不思議と高鳴る。
懐かしいような、切ないような感覚。
まるで誰かが自分を呼んでいるようだった。
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一方その頃。
王都アルディア。
王城最上階にある魔導塔では、一人の老人が窓から西の空を眺めていた。
純白の法衣を身にまとい、長い銀髪を風になびかせている。
王国最高魔導師――オルフェウス。
彼の前には、一枚の古びた肖像画が置かれていた。
そこに描かれていたのは、白い髪と桃色の瞳を持つ、一人の少女。
「千年……。」
老人は静かに目を閉じる。
「ようやく、約束の時が来たか。」
その瞬間、魔導塔の巨大な水晶が淡い光を放った。
オルフェウスは微笑む。
「待っていたよ。」
「マランナに選ばれし羊姫。」
王都は、アーマルを待っていた。
そして彼女もまた、まだ知らない自らの運命へ、一歩ずつ近づいていた。




