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最強OL、羊に転生する。  作者: 月羽めい
雨の日の羊姫編
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第二十三話 旅立ちの準備

王都へ向かうことが決まってから数日後。


 パルネリック辺境伯家の屋敷は、いつになく慌ただしい空気に包まれていた。


 使用人たちは荷馬車へ荷物を積み込み、騎士たちは馬の装備を点検している。


 領地から王都までは、およそ五日間の道のり。


 安全のため、二十名ほどの護衛騎士が同行する予定だった。


 その様子を見ながら、アーマルは真剣な表情で旅の荷物を確認していた。


「着替えは……よし。」


「保存食もある。」


「薬も入ってる。」


 そこまではよかった。


 しかし次の瞬間、動きが止まる。


「……。」


(あれ?)


(私、お金って持ってない。)


 異世界へ転生してから、羊として暮らしていた期間が長かったため、当然ながら私物らしい私物がない。


 前世なら財布の中身を確認するところだが、この世界では硬貨一枚持っていなかった。


「どうしよう……。」


 真剣に悩んでいると、部屋の扉が軽くノックされた。


「アーマルさん。」


「はい!」


 入ってきたのはナザールだった。


 手には小さな革袋を持っている。


「旅の準備は順調ですか?」


「ええ、なんとか。」


 笑顔で答えたものの、少しぎこちない。


 そんな様子を見て、ナザールはすぐに気づいた。


「何か困り事ですか?」


「えっと、その……。」


 アーマルは少し恥ずかしそうに頭を掻く。


「実は、お金を持っていなくて……。」


「あ。」


 ナザールも納得したように頷いた。


「そうでしたね。」


 彼は革袋を差し出した。


「これは?」


「前に兄上と相談して決めたんです。」


 革袋の中には金貨や銀貨が入っていた。


「これはアーマルさんの初任給です。」


「えっ!?」


 アーマルは驚いて目を丸くする。


「でも、まだ働き始めたばかりなのに……。」


「もう十分働いていますよ。」


 ナザールは穏やかに笑った。


「兄上も『命を救われた恩を考えれば少ないくらいだ』と言っていました。」


 アーマルは革袋を両手で大切に抱えた。


 前世では給料日に喜んだこともあった。


 だが今回は少し違う。


 誰かに認められた証のようで、とても嬉しかった。


「ありがとうございます。」


「大切に使います。」


 ナザールはその笑顔を見て、ほっとしたように頷いた。



 その日の午後。


 屋敷の庭では、バーバラが旅に着ていく服を選んでいた。


「アーマルちゃん。」


「はい?」


「王都へ行くなら、新しい服も必要でしょう?」


 机の上には色とりどりのワンピースが並んでいる。


「えっ、こんなに!?」


「好きなのを選んでいいわよ。」


「ええぇ!?」


 前世でもここまで高そうな服を選んだことはない。


 アーマルは目を白黒させた。


「この白いのは?」


「似合うと思うわ。」


「こっちの青いのも素敵ね。」


「うーん……。」


 真剣に悩んでいる姿を見て、バーバラはくすっと笑う。


「まるで妹ができたみたい。」


 その言葉に、アーマルは少し照れながら微笑んだ。


「ありがとうございます。」


「じゃあ……。」


 白を基調に淡い水色の刺繍が入ったワンピースを手に取る。


「これにします。」


「やっぱり!」


 バーバラは満足そうに頷いた。


「ナザールも絶対喜ぶわ。」


「えっ!?」


「な、なんでナザール様が……。」


 真っ赤になるアーマル。


 その反応を見て、バーバラはますます笑みを深めた。


(本当に分かりやすい子。)



 翌朝。


 いよいよ王都へ向けて出発する日。


 門の前には荷馬車が並び、騎士たちが整列していた。


 エルオーニは全員を見渡す。


「王都まで長旅になる。」


「気を引き締めて行こう。」


「「はっ!」」


 ナザールは馬へ乗る前に、アーマルへ声をかけた。


「よろしくお願いします。」


「はい。」


 アーマルも笑顔で頷く。


「必ずお守りします。」


 その言葉には護衛としての決意だけではなく、大切な人を守るという強い想いも込められていた。


 馬車がゆっくりと動き始める。


 パルネリック辺境伯領を後にし、一行は王都への長い旅へと出発した。


 しかし、彼らはまだ知らない。


 街道のはるか先、小高い丘の上から、一行を静かに見下ろす者がいることを。


 黒い外套をまとった青年は、双眼鏡を下ろして小さく笑う。


「見つけた。」


 その視線の先には、白髪の少女――アーマルの姿。


 青年は懐から一枚の古びた肖像画を取り出した。


 そこに描かれていたのは、千年前に生きた銀髪の魔導師・リシェル。


 そして、その面影はアーマルによく似ていた。


「やはり……。」


「君こそが鍵なんだ。」


 そう呟くと、青年は静かに姿を消した。

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