表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強OL、羊に転生する。  作者: 月羽めい
雨の日の羊姫編
PR
15/37

第十四話 森に眠る魔道具

パルネリック辺境伯領の南西には、『霧深き森』と呼ばれる広大な森林が広がっていた。


 昼間でも木々が陽光を遮るため薄暗く、奥地には古代魔導文明の遺跡が点在していると言われている。


 そのため、領民たちは決して森の奥へ近づこうとはしなかった。


 魔物が棲むという噂もあり、古くから「神々の眠る森」と恐れられている場所だった。


 その森の最深部――。


 崩れかけた石造りの神殿で、一人の老人が静かに石碑の前へ跪いていた。


 全身を黒いローブで包み、その顔は深く被ったフードに隠れて見えない。


 老人は土の中から銀色の指輪を拾い上げると、懐かしそうに目を細めた。


「三百年……。」


 掠れた声が神殿に響く。


「ようやく見つけたぞ……マランナ。」


 指輪の中央に埋め込まれた乳白色の宝石は、老人の手に触れた瞬間、淡く光を放った。


 まるで持ち主を探しているかのような優しい光だった。


 しかし老人は眉をひそめる。


「まだ目覚めてはおらぬか。」


 そのまま指輪を指にはめようとする。


 だが――。


 パチッ!


 青白い火花が散り、老人の手が弾かれた。


「ぐっ……!」


 老人は数歩後ろへよろめく。


 指輪は石畳へ転がり、再び静かに光を失った。


「選ばれし者でなければ触れることすら許されぬか……。」


 老人は悔しそうに拳を握る。


 それでも口元には不敵な笑みが浮かんでいた。


「構わぬ。」


「器となる者を見つければいいだけの話だ。」


 その瞳には、どこか狂気にも似た執念が宿っていた。



 一方その頃、パルネリック辺境伯家では。


「アルマ、今日も元気だね。」


 ナザールが羊小屋でブラシを動かしていた。


 アルマは気持ちよさそうに目を細めながらも、頭の中では昨日聞いた話を繰り返している。


(マランナ……。)


 姿を自由に変えられる魔道具。


 もし本当に存在するなら。


 もし自分がその指輪を手に入れられたなら。


 晴れの日でもナザールの隣に立てる。


 護衛として働ける。


 そして――。


(恋人にも……なれるのかな。)


 そこまで考えてしまい、アルマは慌てて首を振った。


「メェッ!」


「どうしたの?」


 ナザールが心配そうに顔を覗き込む。


「メェ……。」


 アルマは誤魔化すように頬をすり寄せた。


 ナザールは優しく笑う。


「君は本当に甘えん坊だね。」


(あなただからだよ。)


 心の中で呟く。


 その言葉が届かないことが、少しだけ切なかった。


 そこへ、エルオーニが羊小屋へ姿を見せた。


「ナザール。」


「兄上。」


「少し話がある。」


 兄の表情はいつになく真剣だった。


「昨夜、森の見回りをしていた兵士から報告があった。」


「何かあったのですか?」


「霧深き森の奥で、人の足跡が見つかった。」


 ナザールは驚いた。


「あの森に?」


「ああ。」


 エルオーニは頷く。


「しかも一人や二人ではない。」


「誰かが遺跡を探しているようだ。」


 その言葉に、アルマの耳がぴくりと動く。


(遺跡……。)


 胸がざわついた。


 昨日聞いたマランナの伝説。


 そして今日の遺跡の話。


 偶然とは思えなかった。


「調査隊を出そうと思う。」


 エルオーニは続ける。


「私も行きます。」


 ナザールが即座に答えた。


 しかしエルオーニは首を横に振る。


「駄目だ。」


「兄上。」


「お前が狙われている可能性はまだ消えていない。」


「危険すぎる。」


 ナザールは悔しそうに唇を噛む。


 何もできない自分が歯がゆかった。


 その様子を見たアルマは、静かに決意を固める。


(私が行く。)


 まだ護衛として正式に働けてはいない。


 それでも、誰よりも強い自信があった。


 森の調査なら、自分が必ず役に立てる。


 そのためにも――。


(早く雨が降って。)


 空を見上げる。


 青空はどこまでも高く、雨雲一つ見当たらない。


 アルマは少しだけ肩を落とした。


 しかしその時、遠くの空に小さな黒い影が現れる。


 一羽のカラスだった。


 カラスは屋敷の上空を旋回すると、何かを見つけたように森の方角へ飛び去っていく。


 その足には、小さな銀色の羽根飾りが結ばれていた。


 それは、盗賊たちが使っていたものと同じ印だった。


 誰かが、この屋敷を監視している。


 その事実に気づいている者は、まだ誰もいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ