俺だけ世界観がおかしい
普通、こういうのって女の子に声をかけるのが定番じゃないのか。なんで男の俺に声をかけた?
俺は別に中性的な顔をしている訳でも女性っぽい顔でもない。むしろ運動部に所属しているのでどちらかと言えば筋肉質の男だ。どう考えても魔法少女に向いていない。
というより、魔法少女ってなんだ。それよりもこのクマはなんなんだ!
「いや、魔法少女とかいったん置いておいて、何者なんだ、お前は?」
「ボクのことポヨか?」
ぬいぐるみのような体をしているので、現実のクマのような指がない。どう見ても不便な体だ。指というより腕で自分を指しながら、クマが首を傾げる。
自分の可愛さを分かっててやってる動作だ。腹が立つ。
「いきなり現れて、魔法少女になれって意味が分からない。順を追って話してくれ」
「わかったポヨ!ボクの名前はデア・アップファルって言うポヨ!」
「言いにくいな」
「ボクと親しい友達はデア・ミュルって呼ぶからそっちでもいいポヨよ」
この見た目で随分とゴツイ名前をしているな。子供に好かれそうな見た目なのに名前が終わってる。
「読みにくいからミューって呼ぶわ」
「それでもいいポヨ!」
デアの方がどっちも共通しているから、多分名前に当たる部分なんだろうけど⋯⋯この見た目にデアはあまりに似合わないので違和感がない呼び方をさせて貰う。
「それで、何者なんだ⋯⋯お前は」
「見ての通り!妖精ポヨ!夢の世界からはるばる君に会いに来たポヨ!」
俺の中の妖精の定義が壊れるなー。いや、深く考えるな⋯⋯アニメに出ててくるそういうキャラだと思え。
「分かった。その妖精がなんでわざわざこの世界に来て、俺に会いに来た?」
夢の世界やら、色々と追求したい事は多いがまずは今陥ってる状況の整理が最優先だ。
とにかく急いだ方がいい。俺の直感がそう告げている。アニメ的な展開ならこういう妖精が現れるのは決まって緊急事態だ。
「それは⋯⋯っ!まずいポヨ!」
ミューが突然、空を見上げて焦りだした。
あー、やっぱりこういう流れなのね。はいはい、分かってました。緊急事態だからろくに説明はできません。けど、ピンチなので変身して世界を護りましょう!みたいな展開だよな。
ミューが見上げた先の空にヒビが入り、バリンっという割れる音と共に大きな手がゆっくりと空間から生えてきた。人間の手ではないな。
肌は黒く、至る所に棘が生えている。それに何よりもデカイ。腕だけで5メートルくらいあるんじゃないか?
「なんだ、アレは⋯⋯」
あんなもの見た事がない。この世界の原作である『アビリティ・ストライク』にもあんなものは登場しない。
「アレはシャドウ、ポヨ」
「シャドウ?」
「そうだポヨ!ボクたちの世界『ドリームアイランド』を壊滅させた悪魔だポヨ!」
アニメでしか聞かないような単語がポロポロと出てくるな。ドリームアイランドだとか、悪魔だとか詳しく聞きたいところだが⋯⋯見たところあまり時間はないようだ。
空間が更に裂けてモグラが穴から顔を出すようにそれはニュッと空間から顔を出した。
「牛?」
牧場で見るような穏やかな牛さんではない、闘牛で戦う荒々しい顔つきをした牛だ。続いて筋肉隆々の逞しい肉体が空間が出てこようとしていた。
牛の顔に人の身体。ギリシャ神話に登場するミノタウロスみたいな外見だ。
「なぁ、出てこようとしてるぞ。まずいんじゃないか?」
どう見ても人の手に負えない怪物だ。少なくとも生身で戦えるような相手ではない。戦車や戦闘機による爆撃じゃないと無理だろ、これ。
「まずいポヨ!あのままシャドウが出てきたら⋯⋯この世界はボクたちのドリームアイランドのように蹂躙されてしまうポヨ」
「どうしたらいい?」
前世において俺はしっかりとオタクだった。
だから、『アビリティ・ストライク』以外の作品も幅広く見てきたつもりだ。その中には魔法少女ものの作品もある。
なので、展開が分かってしまう。
もうこれは⋯⋯断れない流れだ。
俺が断ったらこの世界は滅ぶとか、そんな感じのやつだ。
「君が魔法少女に変身して、やつを───シャドウを倒すしかないポヨ!」
うん、知ってた。
「俺が?俺以外にはいないのか?」
「世界樹さまがこの世界とボクたちの世界を救えるのは君しかいないって」
微塵も嬉しくないが、どうやら俺は所謂魔法少女ものの主人公ポジションにいるらしい。
この世界の主人公に会って、確かに特別になりたいとは思ったさ。
けど、こういうのではないんだよなー。
「そうか⋯⋯。俺が戦わないとこの世界はどうなる?」
「さっきも言ったとおりシャドウに蹂躙されるポヨ。この世界にシャドウと戦える人間は君しかいないポヨ」
なんともまぁ、ありきたりな展開だ。
けど、やるしかないよな。
俺の大好きなアビリティ・ストライクをあんな化け物に壊させるわけにはいかない!!
「分かった⋯⋯戦うよ。俺があの化け物を倒す!」
「ありがとうポヨ!」
「それで、どうしたらいい?」
「まずはボクと契約するポヨ。ボクの右手に君の手を添えて欲しいポヨ」
契約って言葉がなんか嫌だな。魔法少女ものの作品に出てくる契約はたいていの場合ろくでもないものだ。
「契約しないといけないのか?」
「しないと魔法少女に変身できないポヨ」
こうやって言いきられると、契約せざるを得ないよな。なら、せめて契約したらどうなるかを説明して欲しい。
「なぁ、契約って⋯⋯」
「まずいポヨ!急がないと間に合わないポヨ!早くボクの手に!」
ミューが焦ったかと思えば、シャドウとかいう化け物の上半身が空間から完全に出てきている。腕を使ってそのまま抜け出ようとしているのが分かる。
あー、そういう流れね。聞けないやつね。
仕方ないとため息を吐いて、ミューの右手に手を添える。
「それじゃあ契約するポヨ」
俺の上にミューの左手が置かれる。ミューの手によって俺の手が挟まれている形だ。
「デア・アップファルの名のもとに汝に力を授けるポヨ!さぁ、君の名前を叫ぶポヨ!」
「五十嵐 純平だ!」
俺が自分の名前を叫ぶと共にミューの両手に光が宿る。その光はゆっくりと俺の腕を伝って身体の中へと入ってきた。
痛みはない。代わりに体の奥底から力が溢れ出てくるような感覚がある。これが⋯⋯契約か。
「契約は完了ポヨ!後は変身してあいつを倒すだけポヨ!」
俺から手を離したミューがシャドウを指さす?
「それはいいんだが、一つ確認していいか?」
「何ポヨ?」
「魔法少女に変身って具体的にどういう感じだ?まさか⋯⋯俺の身体がそのままに衣装だけ変わるとかじゃないよな?」
もし、そうならとんでもない尊厳破壊だ。普通に死ねる。
「魔法、少女ポヨ!変身と共に肉体は作り替えられるポヨ!」
「そうか。なら、良かった」
最悪は回避できたと、思っていいな。
「それで、変身するにはどうしたらいい?」
「こうやってクルって回転してから『魔法の変身・メイクアップ』!って叫んだらいいポヨ!」
見本を見せるようにミューが空中でクルリと一回転する。
意外と簡単で良かったな。それじゃあ、やるか。
「あ、注意事項として変身って叫ぶ時に可愛いポーズをしてなかったらやり直しポヨ!」
前言撤回。
どうしてもこいつらは俺の尊厳というものを破壊したくて仕方ないらしい。
頭の中でアニメに出てくる魔法少女の変身シーンを思い浮かべる。その動きをトレースしろ。
ミューが言った通りにクルリとその場に一回転、そして魔法少女のように可愛いポーズをして⋯⋯。
「魔法の変身!メイクアップ!」
「うわ⋯⋯」
俺の体をピンク色の光が包む直前に俺を見てミューがこぼした言葉は決して忘れない。事が片付いたら絶対殴る。
そう心に決めた。
「ん?」
───変身はアニメのように一瞬ではなかった。
俺の全身を光が包み、俺自身どうなっているか分からない状態が約一分ほど続いていたと思う。一秒一秒カウントしたわけではないから、体感一分だ。
俺の身体を包んでいた光が消えると、ようやく自分の中に違和感が押し寄せてきた。
見ている景色がいつもより低い? 多分、身体が魔法少女のものに作り替えられて身長が低くなったからだな。
視点を下ろせば男の時にはなかった、お山がある。思わず手で触るととても柔らかかった。そして、そのまま手を下に持っていく。
やはり───いなかった。生まれた時から一緒にいた大切な相棒がそこにはいない。
ミューの言葉通りに肉体は作り替えられ、魔法少女に変身したのだろう。
この場に姿を映す鏡はないが、アニメの魔法少女のような可愛らしい服を自分が着ているのはよく分かった。
「間に合ったポヨね」
ミューの声に反応して空を見上げると、まるで俺の変身が終わるのを待っていたかのようなタイミングで、シャドウが割れた空間から飛び出てきた。
ドンッと!大きな音を立てながら二足歩行の足で大地に降り立つと、シャドウは『ブモオオオオ!!!』と俺たちを見て雄叫びをあげた。
「やる気満々ポヨね」
それはどっちの意味だ?
先程までは下半身は割れた空間の下にあった為、視界に映る事はなかった。
そして、満を持して登場したシャドウは衣服を身に纏っていない。
裸だ。
すっぽんぽんだ。
何が言いたいかと言うと。
チ〇コが出てもうてますやん。
それはもう、イキリ勃ってますやん。
変なテンションになってしまったが、とどのつまりそういう事だ。地上波では決して放送できない姿をシャドウは晒している。
「なんで⋯⋯チ〇コ勃ってんだ、あの化け物」
「⋯⋯シャドウは欲望に忠実な悪魔ポヨ。つまり、性欲が強いポヨ」
「そうか⋯⋯」
シャドウから舐め回すような視線を感じた。
「特に強い雌を屈服させる事を好んでいるポヨ」
「なるほど⋯⋯」
「君は今、この世界で唯一シャドウに対抗出来る人間ポヨ⋯⋯つまり」
シャドウにとって最高の獲物ってわけか。
道理でチ〇コはギンギンだし、目は血走っているわけだ。カモーン!とでも言えば某怪盗のように飛び込んでくるだろう。
どう考えてもあんな巨大なチ〇コがこの身体に入るわけがないが⋯⋯エロゲーとかだと、そういうシチュエーション結構あるんだよな。
「ちなみに、俺がシャドウに負けたらどうなると思う?」
「世界が滅ぶのは前提として⋯⋯負けた直後はめちゃくちゃに犯されると思うポヨ」
シャドウに視線を向けると嫌でも勃起したチ〇コが目に入る。負ければエロゲーのような陵辱が待っているわけか⋯⋯。
「ふぅ⋯⋯」
おかしいよな。
この世界は俺が大好きだった世界の筈だ。
週刊誌における『友情』『努力』『勝利』を体現したような作品だった筈だ。なのにどうして、俺の目の前には巨大なチ〇コがあるのだろうか?
───俺だけ、世界観がおかしい。
『デア・ミュル』─── ドイツ語でゴミ。




