悪質な契約にご注意を
改めて目の前の化け物を観察する。全長はおよそ10メートル。筋肉隆々の逞しい肉体とチ〇コを持ち、顔は暴れ牛。
鼻息が荒くフーフーってという音と共に煙まで出ている。一般的なミノタウロスと違うのは全裸である事と、やたら長い腕だな。
おっと!チ〇コにばかり目がいっていたが、よく見れば足は牛のものだ。上半身は人間で下半身は牛ってわけか。チ〇コも?
いや、そんな事はどうでもいいな。
「で、どうやって戦ったらいい」
魔法少女に変身して体の奥底から力が漲ってくるのを感じる。全能感に絶頂しそうなくらいだ。
「それはもちろんマジカルパワーポヨ!」
「それが何か教えてくれ」
俺の近くで浮いているクマが意味の分からない単語を口にする。思わず聞き返すとえ、お前そんな事も知らないの?みたい顔で俺の事を見てきた。握りつぶしてしまいたい。
「マジカルパワーは魔法少女に宿る不思議なパワーポヨ」
「いや、だからそれが何かを説明してくれ」
「不思議なパワーポヨ」
あー、はいはい。そういうものだと納得しろってことね。あるいはこのクマ畜生も分かっていないんだろうな。
「それより、くるポヨ!」
ミューの言葉と共にこれまで俺たちのやり取りを見ていた⋯⋯見守っていた化け物が体を丸めて突進してきた。
逃げるか? いや、受け止めればいい。
魔法少女になる前の俺だったら巨体が迫る迫力に逃げ出していただろうが、俺は逃げずに受け止める事を選んだ。
本当にどういう原理か分からないが、マジカルパワーという単語を聞いてからまるで思い出すように魔法少女の力の使い方が分かってきた。
体の中心にあるエネルギーを体全体に張り巡らせるように均等に動かす。これが基本となる『肉体強化』。
この肉体強化の性能は凄まじく、体格差で圧倒的に負けている俺がシャドウの突進を片手で受け止める事ができた。驚愕しているシャドウをそのまま力の限り殴り飛ばすと放物線を描いて遠くへと飛んでいく。
「やべ、建物が色々と壊れたな」
何も考えずに殴ってしまったせいで、シャドウが民家を踏み潰しているのを遠目に確認できた。やべぇ。
「大丈夫ポヨ!魔法少女とシャドウとの戦いで起きた損害は全て元通り戻るポヨ!」
「どういう原理だそれ」
「マジカルパワーポヨ」
───それで何でも解決できると思うなよ。
色々と言いたい事も追求したい事もあるが、今は戦闘に集中するべきか。負けたらヤラれる。そんなのはごめんだ。
「ブモオオオオォォォ!」
シャドウは見ての通り元気だ。チ〇コもしっかり勃起している。あの程度では倒すことも萎えさせる事も出来ないようだ。
なら、やはりここは必殺技で決めるのが1番だろうな。力の使い方が分かった時に、一番興奮したのはこの必殺技だ!
男ってのは単純で、必殺技って言葉にロマンを感じる。頭の中に思い浮かぶその必殺技は正に男のロマンそのもの。
両腕にマジカルパワーを集める。
「ブモオオオオォォォ」
シャドウが感情のままに怒号を上げ、チ〇コを振り回しながら俺の元へと向かってきている。
俺はそれを冷静に見据えながら、腰を落とし手で花の形を作り、そのまま両手をゆっくり脇の方まで引いていく。
シャドウが近付いてくる。
その距離は残り10メートル。9メートル。8メートル。あと、5メートル。
エネルギーが溜まった。
「っ───!!!」
両手にとてつもないエネルギーが溜まっている。後は手を前に押し出しながら放出するだけ!くらえ!
「マジカル波!!!!」
必殺技の技名と共に俺の両手からピンク色の光線が発射された。
前世で俺が読んでいた漫画ドラゴンボーイの主人公の必殺技によく似ているな。俺の手から放出された光線は瞬く間にシャドウを飲み込み、あとかたもなく消滅させた。
なんという威力だ。流石はドラゴンボーイの必殺技。
これで、満足か?と確認する為にミューの方を向くとドン引きしていた。
「え?⋯⋯今のなにポヨ?」
「マジカル波だが?」
マジカルパワーの使い方が分かった時に一緒に浮かび上がった必殺技だ。
魔法少女の必殺技ってこういうのではないのか?ミューの反応を見るとどうやら違うらしい。
記憶を思い返すと俺が見てきたアニメの主人公たちはもっと魔法使いのような戦いをしていたな。空を飛んだりステッキからビームを出したり⋯⋯。
「魔法少女マジカルの必殺技は『マジカルブラスター』ポヨ」
マジカルブラスターという単語を聞くと、忘れていたものを思い出すように俺が杖の先からビームを出す姿が浮かび上がった。
なるほど⋯⋯これがマジカルブラスターか。
あれ?って事はさっき俺が使った必殺技はアレか⋯⋯ドラゴンボーイの主人公の技とマジカルパワーがこんがらがった末に出た必殺技って事になるのか?
気のせいかマジカルブラスターより威力が高かった気がするな。それでミューがドン引きしていたのか。
「それで、魔法少女マジカルってのが俺が変身した姿の名前か?」
「そうポヨ!君は理解が早くて助かるポヨ!」
10代の女の子にしか名乗るのが許されない可愛らしい名前ではなくて良かった。男だから、そういうのはやっぱり気にしてしまうんだよな。
「⋯⋯町が元に戻っていく」
「マジカルパワーポヨ!」
まるで時が戻るように俺のビームによってえぐれた道路や、シャドウに押し潰された民家が元に戻っていく。
ミューが自信満々にマジカルパワーのお陰だって言ってはいるが、そもそもマジカルパワーが何かを丁寧に説明してくれ。わけの分からない力を使うのは正直怖いんだ。
「マジカルパワーはマジカルパワーポヨ!」
───本当に世の中クソだわ。
それで納得するのは小学生くらいだぞ、本当に。頭を掴んで力を込めても『マジカルパワー』としか言わないから、こいつは本当に何も知らないんだな。
「ま、マジカルパワーって事しか分からないポヨ」
「ふざけんな」
知らない力で魔法少女の契約をしようとするなよ。営業マンだって売る前に商材について勉強するぞ。
「まぁいいわ。変身はどうやって解いたらいい?」
「え?解けないボヨよ。1回変身したらずっとその姿のままポヨ」
───は?
理解し難い言葉に脳が処理し切れずにいる。
変身が解けない?
変身したらずっとこのまま?
魔法少女の姿のまま?
女の子のまま?
「⋯⋯⋯⋯」
ふつふつと込み上げてきた怒りのままにミューの頭を掴み力を込める。
「ふざけんな、腐れ害獣がぁぁぁあ!!」
「ポヨーーーー!!!!!!」
その日、俺は魔法少女になった。
そして───チ〇コを失った。




