ラスボスとその右腕
───日曜日。
土曜日と月曜日の間にある週の1日で日本では一般的に週末の休日とされ、多くのカレンダーでは週の始まりに位置づけられている。
そんな日曜日の概要はともかく、本日は日曜日。『アビリティ・ストライク』の原作イベントが起こる日だ。
俺や雲雀が住んでいる町には大型ショッピングモールはない。なので電車を乗り継いで少し離れた場所まで移動しなければいけない。
原作では雀の服を買い行くとかそんな理由で雲雀が連れ回されていたっけな? いつものような日常回、それが一変して戦闘へと変わる。
「こんな所になんの用ポヨ?」
「この世界にとって重要なことが起きるんだよ」
「ならボクも気を引きしめるポヨ!」
俺が恐れているのは原作が大きく乖離して、主人公である雲雀が本当に死んでしまうこと。彼がいなければラスボスを倒すことはできない。頼むから原作通りに進んで欲しいと願っている。
横を見るとショッピングモールの入口で立つ俺を見て不思議そうにミューが首を傾げていた。俺が事情を話せばグッと腕を持ち上げてやる気をアピールしている。
正直、ウザイ。
こいつ、俺とワンチャンを狙っているんだよな。それが分かったのは啓吾のお陰だ。
啓吾会った日に能力の限界まで色々と対策だったり、何か出来ることがないかを模索した。ひとまず啓吾の能力のお陰で直近一週間の悪魔のスケジュールは分かった。
一応、スマホで確認しておくか。火曜日に二体。木曜日に一体、でもって金曜日に三体の悪魔がこの世界に侵攻してくるのが分かっている。明らかにペースが上がっているな。
啓吾の能力曰く、世界樹が悪魔の手に落ちるのは今から二ヶ月後。その後、『人間界』への悪魔の本格的な侵攻が始まることが分かっている。
世界の壁自体は悪魔の王であるマジカルチンポッコがその気になれば簡単に壊される。今は世界樹さまにザーメンをぶっかけるのに忙しいから、手を回していないだけだ。
今、『人間界』へと侵攻している悪魔は斥候のようなもので、魔法少女の力を測るのが目的だ。俺を倒すことが出来たならそのまま侵攻を開始するつもりでいるらしい。
数を増やしたり、幹部を投入したりどのくらい悪魔が必要かを探られているようだ。啓吾のお陰で悪魔の王の弱点が分かったから、まだ希望は持てる。能力によれば俺一人でも悪魔たちに勝てる見込みはあるみたいだしな。
ちなみにマジカルチンポッコの弱点は金たまらしい。ゴールデンボールが弱点だ。
それはともかくして、啓吾は俺と別れた後も自分で気になる事を質問して、その解答を俺に共有してくれている。
親友として俺の傍にいるミューの存在が気になり、気を許していい存在か能力で聞いてくれた。結果はクロ。ダメって返ってきてた。
理由?俺とのワンチャンを狙ってるからだ。うん、俺の体を狙ってるんだよこのクマ畜生。妖精の癖にしっかりと性欲はあるらしく、仲を深めてワンチャン身体の関係に持ち込めないか企んでいるそうだ。
本当にクソみたいな存在だと思ったな、うん。
そんでもって啓吾っていう俺と親しい人間の登場に焦ったらしいクマ畜生は俺の好感度を得ようと必死だ。
家の中ではやたらと媚びを売ってくるし、魔法少女の相棒としてボクが支えるポヨって何度も言ってくる。うん、ウザイ。
正直、こいつはいてもいなくても一緒なんだよな。戦闘中は俺の傍でドラゴンボーイのヤンチャみたいに解説してるだけだし、転移魔法も自分にしか使えないときた。
理由はなんだったか?質量だったり、エネルギー的な問題だったと思う。俺が転移魔法によって移動すると、その物体が移動する際に起きる衝撃波で色んなものがぶっ壊れるとか。
転移魔法なんて銘を打っているがどちらかと言うと高速移動に近いらしい。転移魔法は俺は使えないって考えた方がいいな。
悪魔の侵攻を察知するレーダー的な役割はあったが、それも啓吾の能力で代わりはきく。なんだったら時間から場所まで分かるから完全上位互換だ。
ただ、こいつを殺すと魔法少女の力が使えなくなるのが分かったから余計にたちが悪い。
今度こいつの対処法を啓吾に聞いておこう。エロゲみたいな世界観だったから、何となく嫌な予感はしていたがやっぱり害獣だったな。
魔法少女の相棒ポジのマスコット⋯⋯じゃなくて、普通に竿役ポジに収まろうとしている。啓吾曰く、上下関係が染み付いているから今のところは大丈夫らしい。
俺の心が弱ってたりした時が危ないから気をつけろだってさ。ショックを受けている女の子に近付くヤリチンみたいな存在だな、本当に。
「そろそろだな」
スマホで時間を確認すると、原作イベントがもう間もなく始まることが分かる。俺もショッピングモールの中に入るとしよう。
ちなみに今の俺は魔法少女としてこの場にはいない。ラスボスも雲雀と同じように生まれた時から目が良い。同じように視える可能性がある。
ならあんな目立つ格好をするのは悪手だ。木を隠すなら森の中、人を隠すなら群衆の中だ。そんな訳で外行き格好で出掛けている。俺らしくない女の子らしい服装だ。
「いた⋯⋯」
ショッピングモールの中を歩くこと5分弱。100メートルほど離れた位置に目当ての人物を確認。後ろ姿しか見えていないが、まず間違いはないな。
注視して視線でバレないように気をつけながら、一定の距離感を保って後を追う。
靴屋の前で立ち止まったな。
そうなんだよな。雲雀と雀がラスボスと遭遇するのは、雲雀たちを狙ってわざわざ襲ってきたからじゃない。靴を買い来ていたラスボスとたまたま出くわしてしまったからだ。
だからラスボス(笑)って扱われるんだよ。
商品棚に置かれた靴に興味があるるしく体勢が変わったので顔を確認出来た。間違いないな。
『Los Lobos』のボスにして作中最強のラスボス───漆原 ロウだ。
黒の白の二つ色が入り交じる髪をオールバックにし、額にオシャレ用のサングラスを乗っけている。
赤い瞳に笑うと見える犬歯。⋯⋯なんで、靴をみて笑ってるんだあいつ。欲しかった靴でもあったのだろうか?
服装は黒のスーツ、靴も革靴だ。ぶっちゃけガラが悪くてサラリーマンには見えない⋯⋯完全にヤのつく自営業の人だ。やってる事はそれ以上にたちが悪いけどな。
顔は不良っぽいけどイケメンではある。それもあってそれなりに女性人気はあったな。
で、ラスボスである漆原がいるなら⋯⋯お前もいるよなって事で、その後ろに控える長身の男に視線を向ける。
『Los Lobos』のNo.2。漆原の右腕───若 鬼。
髪型は短く切り添えた髪を綺麗に7対3で分けた所謂七三分け。目は糸目で普段は閉じているようにしか見えない。原作通りなら青い瞳をしている筈だ。開眼したシーンがカッコよかった覚えがある。
服装は漆原と揃えたのか黒のスーツと革靴。漆原の後ろに控えて、嬉しそうなボスを見て自分も嬉しいのか口元が緩んでいる。
『アビリティ・ストライク』に登場する悪の組織のボスとその片腕とは思えないほど、和やかなやり取りをしている。
原作の設定だと漆原が24歳、若鬼が31歳だったか?歳は離れているが漆原の幼少からの付き合いで親友に近い仲だった筈だ。
この二人の関係性が好きだったファンも多かったな。割と原作で非道な事をしているんだが、なんだかんだ憎めないキャラなんだよな、こいつら。
おっ、見ていた靴を買う気らしいな。若鬼に笑いかけてから靴を持って漆原がカウンターに向かっている。
この時点だとまだ世間には『Los Lobos』の存在は知られていないから、二人とも堂々としている。
で、このタイミングで運悪く出くわすわけか。
「若鬼!!!!」
靴を買いに離れた漆原を待っている若鬼の前に私服姿の雀が立ち、怒りのままその名前を叫んでいた。
ほんの数分前までは原作通りに雲雀と一緒に買い物を楽しんでいた筈だ。その最中に母親の仇である若鬼を見つけ、感情のままに対面した。
後を追ってきた雲雀も雀から若鬼の事を聞いていたのもあり、険しい顔で睨みつけている。
対して若鬼もさっきまでの楽しい時間を台無しにされて不機嫌なのか、額に青筋を浮かべている。さて、ここから原作イベント。
「私の事は覚えているな若鬼!!母さんの仇!!」
「好吵啊」
ラスボスとその右腕との遭遇戦だ。




