気の迷い
リビングのカーペットの上でゴロゴロしている。そんな俺を少し離れた位置で椅子に座った啓吾が見ていた。
「んー、どうした啓吾」
「いや、魔法少女について考えていてな」
真剣な表情をしているから、くだらない話ではないだろう。何について考えているんだろうか?
「ちょっと聞いてみてもいいか?」
「構わないけどさ、何を聞くかを教えてくれよ。気になるじゃん」
啓吾はこめかみに手を添えて人差し指をポンポンとしている。こいつ、俺の話を無視して聞いてやがる! 俺の話を聞けよ啓吾!
ちょっとイラッとくるぞ。俺の事を思っての行動なのは分かってるけどさ。
「純平⋯⋯」
「なんだよ」
啓吾の顔でわかる。悪い知らせだ。良い知らせの時はもっと分かりやすい。
「悪い知らせがある」
「だろうな⋯⋯」
「オレはふと考えてな。オレが純平と同じように魔法少女になったら負担を減らせるんじゃないかって」
「やめろ!!!」
つい、大きな声が出てしまった。
啓吾が俺の事を思ってくれているのは分かる。俺を一人にしないように⋯⋯俺も一緒にって。それはダメだ。一緒に地獄に落ちようとしているのと同じだ。こんな目に合うのは俺だけでいい。
「分かってる、分かってるよ。純平なら怒るって⋯⋯だから言わなかったんだ」
「なら言うなよ」
「それは悪かった。謝るよ」
申し訳なさそうに啓吾が頭を下げた。
「でもさ、親友一人に全部丸投げはしたくねぇよ。オレだって純平の力になりたい」
「なら、他のやり方でいいだろ!魔法少女になったら⋯⋯なにもかも失うんだぞ!」
「そうだな⋯⋯二人とも全部失ったら支えてあげる事もできないか。早計な考えだったわ」
啓吾は俺のことを支えようと思ってくれている。それが嬉しいと思う反面、申し訳なさを感じてしまう。俺なんかのせいで、啓吾の人生を無駄にしてしまうんじゃないかって。
「いま、ネガティブなこと考えたろ」
「わかるのかよ」
「顔を見たら分かるさ。何年親友やってると思ってんだ」
「それもそうだな⋯⋯」
素直に自分の思ったことを伝えると啓吾に笑い飛ばされた。
「オレは純平と一緒にいたいからこうしているし、お前の負担を少しでも減らしたいから支えたいと思ってる。これはオレの我儘だ。だから申し訳なさなんて感じるなよ」
「分かった⋯⋯ありがとう」
「今日は純平にお礼を言われてばかりだな⋯⋯これは明日は雨か?」
イタズラっぽく啓吾が笑っている。冗談のつもりだと思うけど、明日の天気は雨だぞ。
「で、さっきの話に戻るけど⋯⋯オレの能力によるとこの世界に魔法少女になれる存在は今のところいないらしい」
「いない?」
「そうだ。一番の理想はオレが同じ立場になること。次点で啓吾の負担を減らせないかと思って聞いてみたんだ。啓吾以外に魔法少女がいたら、気持ち的にも楽だろ?」
「それはそうだな」
現状は魔法少女が俺しかいないのもあってワンオペみたいな状態だ。今は悪魔が一体ずつしか来ていないけど、次は同時に二体らしい。これが段々と増えていったら俺一人では対処が間に合わなくなるのは間違いない。
魔法少女もののアニメだったら仲間の一人や二人、いるんだけどな。残念ながら俺には今のところ、いないらしい。啓吾の能力で聞いたのならまず間違いはないな。
「マジカルパワーでどうにか、ならないかな?」
「どうにかって何を」
「例えばアニメとか漫画であるように分身とか」
「んー、俺の記憶にある知識だと分身とかないな。啓吾が思ってるほど万能じゃないんだよなこの力」
色々とできそうに見えてかなり戦闘に特化しているのがマジカルパワーだ。私生活が使えそうなのは浮遊くらいだぞ。
「マジカルパワーを使えば人には見えなくなるんだよな?⋯⋯それって認識阻害とかそういう系統じゃないのか?」
「俺を魔法少女にした妖精曰く、マジカルパワーで存在を妖精に近付けているだけらしい。ずっと人に見られないと不便だからONOFFの機能があるだけだってさ」
「んー、なるほど。その話はどうやら本当らしいな」
わざわざ能力を使ってまで確かめたのは、ミューに対する信頼がないからだな。啓吾から見てもミューは信用できない存在らしい。俺も同意する。
「思っていたより夢がない力だな、マジカルパワー」
「だろ?」
「アニメや漫画みたいにさ、色々な魔法が使えるなら純平も社会復帰が可能じゃないかって思ったんだけど⋯⋯引くくらい攻撃系の魔法しかないんだな」
「うん」
戦闘に特化しているから悪魔と戦う場合は大いに活躍する。けど、それだけだ。日常生活にはクソほど役に立たない。
「それよりさ、悪魔があとどれくらいいるか分かるか啓吾?」
「なるほど⋯⋯まずは敵を知ることからか」
俺が倒した悪魔はまだ三体しかいない。これが全体の何割に当たるかで気持ちの持ちようが変わる。
「うわ⋯⋯」
「あー、うん。言わなくていいわ。良くない結果だろ?」
「500だってさ」
「⋯⋯あー、なるほど」
思っていたよりは多かったが、まだ絶望するほどの数ではない。千とか一万とか超えていたら諦めていたけど、まだ何とかなるんじゃないかって思える。
あくまでも、今みたいに一体や二体くらいの数でこの世界に侵攻してきた場合だ。同時に百体とかで来たら、詰みだな。
「きっついなこれ⋯⋯」
「思ったよりハードモードだったな。負けるわけにはいかないけど⋯⋯気持ちが落ちる」
「何かいい案がないか聞いてみるわ」
「頼んだ」
知らない方が良かった気もするな。具体的な数を知ってしまったから絶望感がすごいわ。負けたら凌辱されるし、この世界は終わるしで⋯⋯やってられるかよ。
「純平、一つ朗報がある」
「お、いいことだな」
「魔法少女を強化する方法がないか、聞いてみたんだ」
「俺を強化?」
どういうことだ?
「今のところ純平以外の魔法少女が増える可能性はない。悪魔に対しても受け身になってるこの状態がまずいのはよくわかるな?」
「あっちがその気になった時⋯⋯『夢の世界』みたいに一気に攻められる可能性がある」
「そうだ。そこで悪魔に対抗出来る方法はないか聞いたら、魔法少女を強化するのはどうかって返ってきた」
なるほど。俺自信が強くなって悪魔の一体や二体、歯牙にもかけないくらいに強くなればいい。それこそ無双ゲームの主人公のように悪魔をなぎ倒せれば!
そこまで強くなれるかは疑問だがな。
「で、どういう方法だ?」
「返ってきた答えは魔法少女が幸福を感じたらいいって」
「幸福?」
「そう。マジカルパワーは元を辿ると人の幸福の感情エネルギーらしいぞ。だから魔法少女は自身が幸せを感じれば感じるほど強くなるってさ」
幸せを感じたら、強くなる?
どうやって?この絶望的な状況でどうやって幸せを感じろ、と?
ふざけてんのか。
「どうやって幸福を感じるんだよ⋯⋯」
「よくあるのは美味しいものを食べたり、心が休めるくらいゆっくりできている時とかだよな」
「食べるのは好きだけど⋯⋯それで強化されるくらい幸福を感じるか?」
好きな物を食べて美味しいって感じるけど、『幸せ!!』とは一度も思ったことはないんだよな。
GWとか夏休みとか、大型連休の時は学校に行かなくていいから幸せってちょっとだけ感じるけど、結局暇になってるもどかしくなるんだ。
楽しいとか、そういう感情は啓吾と遊んでると簡単に感じるけど⋯⋯幸せってなると難しいな。
「他は⋯⋯うん、純平には言いにくいけど」
「なんだよ⋯⋯」
「好きな人と⋯⋯愛し合ったり、とか?」
「は?」
そんなの⋯⋯いるわけ⋯⋯。
いやいやいやいやいやいや。ないないない。
一瞬自分の中に浮かんだ考えを否定する。
「どうした?」
「なんでもない!」
急に恥ずかしくなって啓吾の顔が見れず顔を逸らす。なんで動揺してんだよ、バカかよ。
深呼吸をして心を落ち着かせる。
「というか俺に好きな人がいないの知ってるだろ」
「それもそうか⋯⋯」
この世界は『アビリティ・ストライク』の世界だから推しキャラはいるけど、付き合いとか愛し合いとか、そういう想いはない。
推しキャラも女の子だし、上手くいく気がしないんだよな。原作通りなら雲雀に好意を抱いている様子だったから、同性には興味ないだろうし。
「他の方法、考えるか」
「だな!」
さっきの考えは気の迷いだ。一瞬でも啓吾と、って考えた自分をぶっ飛ばしてやりたかった。




