第97話「夜明けの出立」
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夜明け前。
薄暗い紫色の空の下、広場に二十四の影が集結していた。
グラキウスを先頭に、オルランド以下六騎の騎士、そして従士十二名。全員が完全武装し、出陣の時を待っている。
私もカイルたちもそうだが、今回は全員が徒歩だ。
全員分の馬はあるが、激戦になることが容易に想像できる今回の戦場で、馬たちの身を気遣う余裕はとうていあるとは思えない。
完全装備なうえに、食料や野営用の装備もあるがすべて各自で手持ち。適切な判断だと思う。
私も長大な梓弓を肩に掛け、背には矢筒。腰の帯には、神具である太刀『小狐丸』を深く差している。純白の白衣に紫の袴、袖が邪魔にならないよう襷で十文字に掛けた姿。神主の正装は、そのまま怪異と戦うための戦の装束になる。そして、背嚢にはパンパンの荷物。
ゴルドが薄明の中に不安と祈りを込めて、広場の端に立っていた。
グラキウスはそのまま行こうとしていたが、村長としてせめて見送りくらいはという気持ちなのだろう。
「…行ってくる」
短く静かなグラキウスの一言。
「勝って帰ってこい。芋の煮物は、一番でかい鍋で仕込んでおく」
ゴルドの声に、震えは一切なかった。村を守る者たちを送り出す、力強い長の顔だった。
不意に、リーナがタタッと駆け寄ってきて、私の白衣の袖を強く引いた。
「ハルさん。絶対、絶対帰ってきてね」
「…起きてたのですか。帰ってきますよ。境内の掃除が残っていますから」
「掃除より大事なことがあるでしょ!」
「掃除より大事なことは、この世にあまりないんですよ」
リーナが、不満げに頬を膨らませた。だが、その大きな瞳は笑っていなかった。不安で、怖くて、それでも絶対に泣くまいと必死に涙を堪えている女の目だった。
「…リーナのためにも、必ず帰ってきます」
「うん。約束だからね」
夜明けを告げる風と共に、二十四名が東へと出立した。
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カイルたちの先導で一行は東に進み二日目の夜明け頃、問題の区域に差しかかり、空気が、劇的に変わったのがわかった。
結界の外に出たのとは比較にならない、粘りつくような重い瘴気。呼吸をするたびに、肺の奥がチリチリと焼けるような感覚に襲われる。周囲の木々の幹は毒々しい紫黒色に変色し、足元の土には得体の知れない粘液がこびりついている。純粋な穢れが極限まで凝縮された領域。かつて魔の森の深部で感じたものと同等の圧倒的な異常地帯だった。
ファルコが、鋭い鷹の目を前方の低地へと向けた。
「見えました。前方八百メートル。樹林帯が開けた低地に、異常な密度の魔物がひしめいています。数は…概算で千二百以上」
「千二百…!」
カイルが、大剣の柄を握りしめたまま低く唸った。
「カーム村の難民が通る予定の道が、完全に塞がっている。しかも、浄化の結界に追い立てられて、昨日よりもさらに密集度が増しているぞ」
グラキウスが、無言で片手を高く挙げ、歩みを止めた。
「ここで陣形を組む。作戦会議の予定通りだ」
二十四名が、一糸乱れぬ動きで速やかに配置についた。
中央最前列。巨漢のヴァレリオが人間ほどの大きさがある大盾を構え、鋼の壁となる。アレッシオが長槍を携えてその横に立ち、従士十二名がさらにその後方で二列の槍衾を展開した。
ファルコが中央後方の小高い岩の上に位置取り、戦場全体を俯瞰する。ジャコモがその隣で知恵袋として並ぶ。オルランドは中央の最前列で全体の指揮を執る。
右翼に、グラキウス。シルヴェストロが影のように三歩後ろに控えている。
左翼に、私。
後方に、カイル、セラ、ピート、ヨルンの四人。中央を抜けた個体を処理する最後の防衛線。
「ハル殿」
右翼から、グラキウスが嬉しそうに声をかけてきた。
「派手にやれ。一切の遠慮はいらんぞ」
「遠慮などするつもりはありませんよ。怪異祓いは、神主の神聖な務めですから」
「よし!いくぞ!」




