第93話「交易路の東側」
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教会という巨大な嵐が去って、三日。
ルーテ村には、嘘のように穏やかな日常が戻っていた。
ただし、その日常の風景は、三日前とは少々異なっている。
広場の東側に、整然と六つの真新しい天幕が張られ、その前には屈強な重装の軍馬が十八頭、ずらりと並んで鼻を鳴らしている。毎朝、従士たちが馬に飼い葉を与え、金属の鎧を丹念に磨き上げる甲高い音が、鶏の鳴き声に混じって村の朝を告げるようになった。
辺境伯がグラキウスにつけてくれた精鋭たちが、ルーテ村の新たな「盾」として常駐し始めていたのだ。
六騎の騎士たちは、驚くべき早さで村の空気に馴染んでいた。
リーダーのオルランドは、白髪交じりの短髪に古い刀傷を持つ歴戦の猛者だが、態度はどこまでも謙虚だった。ゴルドに対しても「我々は辺境伯閣下の剣ですが、この地の采配は村長殿のものです」と一貫して敬意を払っている。
リーナに「おじさん、顔のその大きな傷はどうしたの?」と無邪気に聞かれた際、「昔、少し気性の荒い猫に引っかかれましてね」と、顔の筋肉一つ動かさずに大真面目に答えていた。絶対に嘘だろう。
ファルコは、自ら進んで村の外縁部の巡回を引き受けた。鷹のように鋭い視力で遠くの森の微かな異変を察知する能力は、本職の冒険者であるカイルたちも舌を巻くほどだ。
ただし、冗談という概念が彼の中には存在しない。ダリオが「今日は風が強いですね、俺の髪が飛んでいきそうです」と笑いかけたら、「あなたの毛根は十分に頭皮に固定されています。この程度の風速で飛散する物理的根拠はありません」と真顔で返され、ダリオは二度と彼に話しかけなくなった。
巨漢のヴァレリオは、その規格外の体格を活かして、なんと建設現場を手伝い始めていた。極太の丸太を一人で軽々と担ぎ上げ、太い杭を大木槌でドスン、ドスンと軽快に打ち込んでいく。ブルーノの弟子たちが「あの騎士様、本当に人間ですか」と引きつった顔で囁き合っている。本人は「体を動かさないと鈍るからな!」と豪快に笑っていたが、単純に人助けが好きな気の良い男なのだろう。
アレッシオは、予想通り村人たちと最も早く打ち解けた。十二名の従士たちを実質的に束ねる兄貴分であり、持ち前の人懐っこさで、たった三日でカイルたちの巡回ルートと騎士団の警備体制の連携を滑らかに整えてしまった。ペドロの隊商が来た時のための交易路の監視体制まで提案している。
最年長のジャコモは、すっかり社殿の縁側を定位置にし、ヨルンと魔物の生態についてマニアックな議論を戦わせていた。「東の山脈にはかつてドラゴンの亜種が棲息していたという古い記録がありましてな」「極めて興味深い。その飛翔能力と骨格の比重を力学的に考察すると…」。延々と終わらない。二人とも分厚い眼鏡を中指で押し上げる仕草まで似てきた。
そして、シルヴェストロは、ほとんど喋らなかった。常にグラキウスの死角に立ち、影のように音もなく寄り添っている。グラキウスが広場を歩けばその三歩後ろを歩き、座れば柱の陰に立つ。ゴルドが「あの無口な騎士は何者だ」と尋ねた際、オルランドが「六人の中で、最も剣の腕が立ちます」とだけ答えた。
新しい住人が十八人も増えた村は、かつてないほどの活気と安心感に満ち溢れていた。
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三日目の午後。ゴルドが、私とカイルを迎賓館のテラスに呼んだ。
「二つ、重要な話がある」
ゴルドの顔は、先日の教会の重圧に耐えていた時とは打って変わって、力強く引き締まっていた。嵐を乗り越え、村の長としての次の大仕事に取りかかる男の顔だ。
「まず一つ目。カーム村のベルデから、秘密裏に伝令が来た。八十人の領民の移動を開始したそうだ。女子供と年寄りが大半だから、夜陰に紛れて少しずつ進むしかない。到着まで、一ヶ月ほどかかるだろう」
「南東の方角から来るのですか」
「ああ。グランヴェルを通る南回りの街道は、完全にアルトワ侯爵の監視下にある。使えん。東の山脈の麓を大きく迂回して、この村に続く古い交易路の東側から入ってくる形になる」
なるほど。侯爵の過酷な搾取から逃れる決死の逃避行だ。追手の目をごまかすため、あえて険しい東回りの迂回ルートを取るしかない。
「二つ目だ。その東側の交易路が問題でな。西側はペドロたちが往復しているから道の状態も危険箇所も分かっている。だが東側は、二十年間、ほとんど足を踏み入れられていなかった場所だ。道が崩落していないか、途中に危険がないか、全く分からん。カーム村の連中が年寄りと子供を連れて安全に通れるかどうか、事前に確認しておきたい」
カイルが、真剣な顔で深く頷いた。
「調査を請け負おう。東の交易路を、村から山脈の麓まで歩いて確認する。道の崩落箇所、橋の状態、魔物の有無。全て調べて地図に起こす」
「頼めるか」
「元々ギルドへの報告は後回しにしている。それくらいの時間はある。…それに、教会の連中がまた来る前に、この村に一つでも多く貢献しておきたい」
カイルの声に、まだあのギルドへの報告書に対する微かな自責の色が残っていた。だが、その上に、行動で村を守ろうとする冒険者としての強い意志が重なっている。
「ありがとうございます、カイルさん。充分に気をつけてください」
「任せろ。未知の道を歩くのは、冒険者の本分だ」
傍らで聞いていたピートが、嬉しそうに背中の弓を跳ねさせた。
「冒険だ! 久しぶりの本業ですね! 最近、村の警備ばっかりでしたから!」
「浮かれるな。東の森の奥に何が溜まっているか分からんぞ」
セラの氷のように冷たい一言に、ピートが「うっ」と少し萎んだ。ヨルンは眼鏡を押し上げながら「東の森林帯の魔物分布について、ジャコモ殿から極めて有益な情報を得ました。実地検証が楽しみです」と、完全に仕事モードに入っていた。




